折々再々

ハコニワ

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最初Ⅰ

第40話 語り

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 国に見つかり強制的に国に連行された。この闇夜に染まった世界で、蛇が彷徨く世界で太陽国がやすやすと動けるわけがない。
 連行される間、それを一人の兵士に訊ねたら兵士は嘲笑った。
「そんな迷信信じているのは国家に従うあなた達だけですよ」
 そいつは今までよく働いてくれた兵士の一人だった。遠征のときも共にした。よく喋るし相談にも乗る気さくな少年だった、のに、初めてみる醜い表情はこれが本当の素顔なんじゃないかと思うほど様になっていた。
「迷信だと? そんなはずない。現に今までも消失者がいる。闇の中歩いていたら蛇を見たと証言もある」
「それは全部我々がでっち上げたからくりですよ。王子……いや馬鹿王子ですな」
 途端にドッとアハハハと嘲笑う声に包まる。カァとなった。自分のことを嘲笑う兵士たちにふつふつと怒りがわく。同時に太陽国に従う兵士があろうことか、民を傷つけていたなんて、それにも気づかなかった俺にも責任がある。
「それは父……国王は知ってのことか⁉ 民を傷つけるなんて、一国の兵士の愚行だ!」
「国王様も知っていますよ。知らないのはあなただけ。本当にこの世のこと何も知らないのに国を出て、可哀想でお馬鹿な人だ」
 開いた口が塞がらなかった。

 国王もジィジも、みんな知って知らないのは自分だけ。蛇は夜人を食うことはでっち上げだが、蛇の伝説は本当のこと。知らないのは偶々ではない。
 俺も姫も知らなかった。
 それは、選ばれたからだ。神に、三柱たちからも。前のその前の三柱たちが予言をしていた。この国に空から神に選ばれた子が産み落ちると。それが我々だ。だから俺たちは何者からも守られ、時にはハブられ、そして真実から意図的に覆い隠される。

 絶望に目の前が暗くなる。冷たい地面に叩き落とされた気分でどこまでも仄暗い感情が尾を引く。息がまともにできない。思考が停止して何もかも考えられずに呆然とする。そうしているうちに国へ、故郷へ帰ってきた。
 こんな感じで帰ってくるとは思わなかった。
 国を覆う高い壁をこうして国外から見るとやはり、この国は疎外していると感じた。

 サーカスもない、食事文化もない、ただ神の存在を信じる熱狂的な故郷へ足を踏み入れる。足取りが重い。両手両足を重りで繋がられてるからだろうか。いいや、違う。この先に行くな、と頭の中で警報が鳴るから。
 昼間だというのに活気に満ちた声が届かない。閑静な空間。屋根も壁も剥がれ落ち、生き倒れている人間がゴロゴロと転がっている。みな、皮膚は剥がれて黒くなり、骨が浮き出るほど痩せていた。子供も、女も。

 これがお前の捨てた国の末路だ、と言わんばかりの光景だ。

 街の中央、アルトの首が以前晒されていた場所に目を疑うものがある。高い丈夫そうな木に磔にされた幼い子供。全身焼かれて誰が誰なのか判別できないほど黒く炭になってその場で晒されている。
「あなたの妹様です」
 言われたとき、耳を疑った。耳鳴りがして兵士がまだ何か言っている言葉をよく聞き取れない。膝から崩れ落ちる。妹は、フミは外に出たのがバレた。そしてこの異常な気象、餓死により勝手な思い込みで「あいつのせいだ」と指を差され残虐に殺された。フミを庇ったルークも大人数名がかりで殺された。
「なんてことを!」
 カッとなって掴みにかかろうと立ち上がったらガンと頭に石が直撃した。再び膝をつく。ポタポタと赤黒い血が滴り落ちる。石を投げたのは国民だった。
 その1石が始まりのように次から次に罵倒と石、ゴミを投げられ続ける。

 その間、姫は高く暗い湿った塔へ幽閉される。フミと同じように磔にされ、狙う的のように石と罵倒が一斉集中した。雨のように降り注ぐそれを浴び、俺たちの生まれた意味は何だったのかと天を睨みつける――サーカスの営業していたおじさんの言葉を思い出す。

〝自分の信じるものに一途な人間はそれを否定する人間には暴虐だからな〟

 俺たちは舞台の操り人形だった。ひたすら客の為に滑稽にくるくると踊り、微笑んでいた。愚かな。天をそのまま睨みつけ息絶えたのは3日。空腹により痩せ民から削がれた遺体はそのまま一週間晒されていた。同じようにして月国は他国から侵略された。太陽国と同盟も切られたようなもの、誰も救いの手は差し伸べずただただ月国の民は月姫を恨んだ。同盟の為に差し出したのに役に立たなかったから、そして国が消滅した事、王子が死んだことを幽閉された場で聞かされた姫は飢えと寒さと孤独により死んだ。最後は舌を何度も噛みきった原因だ。
 



「この国も終わりだ。要約」
「うん。王子様と姫様は可哀想だけど、信じる事、に疲れるでしょう」
 天空と大地は人知れず手を繋ぎ残りの余生を過ごす。国滅べば三柱もなくなる。
「生まれ変わったらまた愛してくれる?」 
「勿論。今度こそ、普通の人間になろう」
 二人は餓死して死んだ。
 錆びれた鉄の部屋で手を繋ぎあって。微笑みながら。空間はそれをじっと眺めてる。「バカだな。三柱はなくならないよ。また生まれ落ちるんだ」そのままその部屋を後にした。


 太陽国は体制を整えずそれから、1年余りで消滅した。餓死、暴動により著しく国力が下がり、自滅。生き残った人々は世界各地に散らばる。
「――それで、姫様はそれはそれは麗しいお人で王子様は一目惚れ! 早く帰ってきてほしいと王子様から姫様を迎えに行くのです」
「イレインセンセー! お姫様にあったことあるのぉ?」
「勿論あるさ。すごい美人だったぜ」
 生き残ったイレインは後世に物語を書き綴る。 



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