39 / 78
最初Ⅰ
第39話 普通の生活
しおりを挟む
故郷を出てあれから1ヶ月がたった。
宿を転々と続けるとお金の底がつくと気づいた俺たちはこの街を出て、もっと閑静な2人ぼっちでいられる場所へもう一度旅し、辿り着いた。
一面花畑。
野の花が咲き、ピンクや赤など綺麗な花が咲き誇る場所に一軒の木造住宅を見つけた。戸を叩くと誰もいない。空き家だ。蜘蛛の巣が天井から壁までびっしり貼ってあり、プンとカビ臭い臭いがして窓を開けようとするも鉄が腐って開けれなかった。
虫たちの住処といって過言ではない空き家を開拓するのは苦労したが、一面の花に囲まれた素敵な場所で姫と一緒にいられるのなら、作業時間もそうそう苦ではない。
「姫、隣いいか?」
日向ぼっこしている姫の隣に座る。
「ええ。温かいですよ」
姫はふふふと笑う。
今日の陽は格段に温かいな。隣に寄り添い花畑を見つめる。どんなに見渡しても綺麗な景色だ。
「俺の言い出したことに、不服を立てているか?」
「何を今更。あなたにずっとついていきます」
2人ぼっちの時間は甘くてずっとこのまま続けばいいのに、と永遠を願う。
姫の愛おしい瞼に手を寄せる。
最初慣れない環境下で苦労して目にクマを作っていた。だが今は薄れているが綺麗な顔にまだ残っている。
「苦労をかけたな」
「王子もでしょう」
姫はその手を取って床に伏せる。
手と手が合う。お互いの体温を感じて、世界で二人ぼっちにいるみたい。
最初のころは苦労した。寝るところも、食べることも、着る服も全て使用人が用意してくれてた。でも一歩外に出ればそんな面倒を見てくれる人間はいなくなった。しかも、自分たちは恵まれた環境で育てられていた。
寝るところも食べるものも、着る服も全て使用人たちが管理していて歩かされている道だって、
それがあまりにも家畜のようだと知ったときは絶望した。
風が心地良い。青空から囁いてくるような優しい風。肌にしっとり靡く風に2人は揺られながら目をつぶる。
「フミはどうしているだろうか?」
ふと呟いたそれは今の今まで置いてきたものを語らなかった自分たちは、夢のような世界から一変、ピシャリと現実に戻された。
呟いたのは俺だった。
この一言は今の今まで言わなかった。敢えて。それは、置いてきたものから目をそらし外の世界をいつまでも堪能したかったからだ。
でもそうはいくまい。だって考えずにはいられなかったからだ。
自分たちのために置いてきたものは姫を除くたくさんのものだ。国民、家族、それ等を置いて自分たちはここにいる。神様から受けた使命も今となれば、天罰も下さらない。
いったい今まで使命とやらに従順だったのを返してほしい。
「きっと大丈夫ですよ」
姫は同じようにポツリと呟いた。
一面野の花が咲き誇る場所。この場所へ着いてから姫以外と交流していない。もっと様々な景色を見たほうがいいのかもしれないが、それには自分たちの知っている常識がキャパオーバーし、パニックになる。様々な人々との交流よりも二人で一緒に見る光景のほうを優先させた。
「王子、ご覧になって」
姫が指差したのは二匹の蝶が一輪の花にヒラヒラ舞っていた。
色の違う二匹の蝶が一輪の花の周りにヒラヒラと戯れてまるで、自分たちのようだ。花の蜜を吸うわけもなくただただ、二匹は相手を確かめるように接触したり離れたり。
風が冷たくなった。
心地良い風が急に態度を変えるように一変する。
「日が傾いてきたな。中に入ろう」
「ええ」
日が傾くのは早い。山に囲まれた場所でかつ、夜になると辺りには光もない。人な住んでいない場所は二人きりにはうってつけなのだが、問題は静寂が包まる夜がやってくる、ということ。
幼い頃から夜は蛇が夜な夜な徘徊し、人を喰らうと言い伝えられていた。故に国を出ても夜が恐ろしい。
「今晩はシチューにしてみました」
「姫の手料理か、旨そうだ」
「唯一習った一品です」
鍋の美味しい香りが室内を包んでいた。
腹の虫がぐるぐる鳴るほど美味しい匂い。姫はふふふと笑った。握っていた手と違う反対の手は傷だらけをかばう姿は健気。
「ありがとう」
「食事のことでお礼を言われる程ではありませんわ」
さ、食事にしましょう。
小さな机にガタガタなる椅子。
二人分の温かいシチューを飲む。夜の冷たい風が隙間からヒューヒュー吹いてくる。
「今夜は冷えるな」
「季節の変わり身ですからね」
ガタガタと揺れる窓。割れるんじゃないかとビクビクする。姫と同じ布団の中に入ると温もりを感じて温かい。ひだまりのようだ。
すぅ、と深い眠りに落ちていく。窓が揺れる音も風の音も今となっては耳障りじゃなくなった。むしろもう、慣れてる。
あの頃の生活と打って変わってひもじい生活。それでも不思議と不幸だと思わなかった。この生活がいつまでも続くと思っていた矢先――その永遠はずっと続かないのだと突然壊される。深夜、寝静まっている時間、この闇に染まった世界で、突然、ガンと扉が荒く壊された。
大きな音に飛び跳ねて起き上がり、侵入してきた奴らに見下される。太陽国の兵士たち。
たった1ヶ月の姫との生活はこうして終焉を迎えたが同時に自身に降り注ぐ刃がこれから続くのだと。
宿を転々と続けるとお金の底がつくと気づいた俺たちはこの街を出て、もっと閑静な2人ぼっちでいられる場所へもう一度旅し、辿り着いた。
一面花畑。
野の花が咲き、ピンクや赤など綺麗な花が咲き誇る場所に一軒の木造住宅を見つけた。戸を叩くと誰もいない。空き家だ。蜘蛛の巣が天井から壁までびっしり貼ってあり、プンとカビ臭い臭いがして窓を開けようとするも鉄が腐って開けれなかった。
虫たちの住処といって過言ではない空き家を開拓するのは苦労したが、一面の花に囲まれた素敵な場所で姫と一緒にいられるのなら、作業時間もそうそう苦ではない。
「姫、隣いいか?」
日向ぼっこしている姫の隣に座る。
「ええ。温かいですよ」
姫はふふふと笑う。
今日の陽は格段に温かいな。隣に寄り添い花畑を見つめる。どんなに見渡しても綺麗な景色だ。
「俺の言い出したことに、不服を立てているか?」
「何を今更。あなたにずっとついていきます」
2人ぼっちの時間は甘くてずっとこのまま続けばいいのに、と永遠を願う。
姫の愛おしい瞼に手を寄せる。
最初慣れない環境下で苦労して目にクマを作っていた。だが今は薄れているが綺麗な顔にまだ残っている。
「苦労をかけたな」
「王子もでしょう」
姫はその手を取って床に伏せる。
手と手が合う。お互いの体温を感じて、世界で二人ぼっちにいるみたい。
最初のころは苦労した。寝るところも、食べることも、着る服も全て使用人が用意してくれてた。でも一歩外に出ればそんな面倒を見てくれる人間はいなくなった。しかも、自分たちは恵まれた環境で育てられていた。
寝るところも食べるものも、着る服も全て使用人たちが管理していて歩かされている道だって、
それがあまりにも家畜のようだと知ったときは絶望した。
風が心地良い。青空から囁いてくるような優しい風。肌にしっとり靡く風に2人は揺られながら目をつぶる。
「フミはどうしているだろうか?」
ふと呟いたそれは今の今まで置いてきたものを語らなかった自分たちは、夢のような世界から一変、ピシャリと現実に戻された。
呟いたのは俺だった。
この一言は今の今まで言わなかった。敢えて。それは、置いてきたものから目をそらし外の世界をいつまでも堪能したかったからだ。
でもそうはいくまい。だって考えずにはいられなかったからだ。
自分たちのために置いてきたものは姫を除くたくさんのものだ。国民、家族、それ等を置いて自分たちはここにいる。神様から受けた使命も今となれば、天罰も下さらない。
いったい今まで使命とやらに従順だったのを返してほしい。
「きっと大丈夫ですよ」
姫は同じようにポツリと呟いた。
一面野の花が咲き誇る場所。この場所へ着いてから姫以外と交流していない。もっと様々な景色を見たほうがいいのかもしれないが、それには自分たちの知っている常識がキャパオーバーし、パニックになる。様々な人々との交流よりも二人で一緒に見る光景のほうを優先させた。
「王子、ご覧になって」
姫が指差したのは二匹の蝶が一輪の花にヒラヒラ舞っていた。
色の違う二匹の蝶が一輪の花の周りにヒラヒラと戯れてまるで、自分たちのようだ。花の蜜を吸うわけもなくただただ、二匹は相手を確かめるように接触したり離れたり。
風が冷たくなった。
心地良い風が急に態度を変えるように一変する。
「日が傾いてきたな。中に入ろう」
「ええ」
日が傾くのは早い。山に囲まれた場所でかつ、夜になると辺りには光もない。人な住んでいない場所は二人きりにはうってつけなのだが、問題は静寂が包まる夜がやってくる、ということ。
幼い頃から夜は蛇が夜な夜な徘徊し、人を喰らうと言い伝えられていた。故に国を出ても夜が恐ろしい。
「今晩はシチューにしてみました」
「姫の手料理か、旨そうだ」
「唯一習った一品です」
鍋の美味しい香りが室内を包んでいた。
腹の虫がぐるぐる鳴るほど美味しい匂い。姫はふふふと笑った。握っていた手と違う反対の手は傷だらけをかばう姿は健気。
「ありがとう」
「食事のことでお礼を言われる程ではありませんわ」
さ、食事にしましょう。
小さな机にガタガタなる椅子。
二人分の温かいシチューを飲む。夜の冷たい風が隙間からヒューヒュー吹いてくる。
「今夜は冷えるな」
「季節の変わり身ですからね」
ガタガタと揺れる窓。割れるんじゃないかとビクビクする。姫と同じ布団の中に入ると温もりを感じて温かい。ひだまりのようだ。
すぅ、と深い眠りに落ちていく。窓が揺れる音も風の音も今となっては耳障りじゃなくなった。むしろもう、慣れてる。
あの頃の生活と打って変わってひもじい生活。それでも不思議と不幸だと思わなかった。この生活がいつまでも続くと思っていた矢先――その永遠はずっと続かないのだと突然壊される。深夜、寝静まっている時間、この闇に染まった世界で、突然、ガンと扉が荒く壊された。
大きな音に飛び跳ねて起き上がり、侵入してきた奴らに見下される。太陽国の兵士たち。
たった1ヶ月の姫との生活はこうして終焉を迎えたが同時に自身に降り注ぐ刃がこれから続くのだと。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
独身寮のふるさとごはん まかないさんの美味しい献立
水縞しま
ライト文芸
旧題:独身寮のまかないさん ~おいしい故郷の味こしらえます~
第7回ライト文芸大賞【料理・グルメ賞】作品です。
◇◇◇◇
飛騨高山に本社を置く株式会社ワカミヤの独身寮『杉野館』。まかない担当として働く有村千影(ありむらちかげ)は、決まった予算の中で献立を考え、食材を調達し、調理してと日々奮闘していた。そんなある日、社員のひとりが失恋して落ち込んでしまう。食欲もないらしい。千影は彼の出身地、富山の郷土料理「ほたるいかの酢味噌和え」をこしらえて励まそうとする。
仕事に追われる社員には、熱々がおいしい「味噌煮込みうどん(愛知)」。
退職しようか思い悩む社員には、じんわりと出汁が沁みる「聖護院かぶと鯛の煮物(京都)」。
他にも飛騨高山の「赤かぶ漬け」「みだらしだんご」、大阪の「モダン焼き」など、故郷の味が盛りだくさん。
おいしい故郷の味に励まされたり、癒されたり、背中を押されたりするお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる