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最初Ⅰ
第35話 殺害
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式を終え順風満帆の日々を送る中、ある情報が国中に雷のように落ちてきた。
三柱兵士であるアルトが処刑されたと。そしてその亡骸は街中に晒されている。そんなわけない。信じたくない。だって彼は昨日顔を出したのだから。
イレインとも仲が良かった。なのに、どうして。
街へ下りてみると一番目のつく場所に首が飾られてた。一番高い棒に飾られて悲しそうに目を伏せているた。最期に何を見たのか。住民はその首の周りに群がりヒソヒソ話す。
「こいつは兵士で悪いし噂を垂れ流してたからこうなった」「俺見たことある。こいつ、王子を唆していたぞ」「滅多にないものだ。何かよからぬことが起きるぞ」「こんなところに見せしめなんて、よっぽど悪いことしたんだよ、こいつ」
見せしめにされた首にわらわらと群がり、あれよあれよと良からぬ噂話を持ち上げる。あんなところにいつまでも首をぶら下げるわけにはいかん。すぐに首を下ろす命令をくだした。
首だけ。胴体はどこなのか分からない、一刻も早く別々になった胴体を探す。首を教会でちゃんと清め埋葬してくれた。
なぜ、どこで、誰に、疑問が濁流のように押し寄せてくる。王政でさえその意図は知らなかった。平和で順風満帆だったこの国をガラリと変えた。これは一国の大きな事態だ。
総出でアルトを殺害した人間と胴体の居場所を探す。
そして、漸く一つの情報を手に取った。
同じ三柱の兵士からの目撃情報。
アルトが『時空』様に何かを訴えていた。肩を掴んでゆさぶり、それは必死な形相だったという。何を訴えていたのか途切れ途切れの会話だったらしいが『お前は俺の弟なんだ!』『ここから逃げよう。兄ちゃんがなんとかしてやる!』と。
それで殺されたのか。
三柱では人としてではなく、神として座らせている。人である記憶を呼び覚ますようなことを起こせば、それはたちまち、機関として邪魔な存在。
アルトは口封じに消されたのだ。
アルトを殺害したのは、三柱兵士の中の最も上の位。
その者たちをどうするか、アルトのやったことは一つの組織を壊すやり方だった。輪を乱すものを消さただけで、咎めることは何もない。
せめて、胴の居場所だけを教えてくれ。
アルトの胴体は骨も焼かれて灰になっていた。首の方を先に埋葬したのは本当によかった。アルトも浮かばれないだろう。もっとも、浮かばれないのは弟より先に死んでしまったことだが。
兵士にアルトの最期の顔はどうだった、と訊いた。兵士は俺の目をしっかり見てこう告げた。
「命乞いすることもなく我々が見守る中、クビを斬りました」
そうか。と素っ気なく返した。
言葉にならない喪失感がおしよせて、目眩がする。とてつもない大きな穴が心臓に開けられ、風穴から風が、それも冷たい風が吹いてくる。いつも威厳を保ったままにしてるのに、それができない。足が震えて、おぼつかない。
「王子、こちらで横になってください」
姫がそっと支えてくれる。
ジィジも兵士たちも、使用人でさえも出払い姫と二人きり。寝かしつけるように姫は俺の頭を撫でる。この年でそのような扱いは恥ずかしいゆえ、怒るところだが、優しくされると妙に落ち着く。
「朝から忙しかったもの。少し、体を休憩させましょう」
「あぁ」
撫でられて心地いい。だんだんと睡魔が襲ってきた。瞼が重い。ぼんやりした意識。ベットの底へ引っ張られるようにして体も意識も沈んでいく。
「寝てもいいのですよ」
「だめだ。やらなきゃならないことがある」
「こちらがやっておきます。だから王子は休んでください」
優しい声、優しい眼差し、赤子を撫でる手つき。何もかも睡魔を襲わせた。そして甘えるようにして熟睡した。
その間、起きたことなど知るはずもない。このあと、国も俺たちも何もかもどうなるか知るよしもない。
§
殺された兵士の言葉が頭をよぎる。何度も何度も頭をかち割ってくる。『お前は俺の弟なんだ!』『お前が五歳のときまで一緒にいたんだ。あのとき、お前に留守を任せて本当に悪かった。兄ちゃんの家族はもうお前だけだ』
すがりつくように体を揺さぶられ、嗚咽しながら泣いたあの人。名前は――知らない。
「テメェ大丈夫か」
『大地』が珍しく話しかけてくれたのにうまく、頭の中で処理できなくて思考が追いつけない。足が震えてその場で蹲る。涙ではない別の液体がポタポタと垂れていく。
「私たち、結局は人だった」
『天空』が空へ手を伸ばす。
1羽の鳥が飛んできて指先に止まった。珍しい青い鳥だ。止まった鳥は首を何度も傾げてキョロキョロしている。仲間を探しているのかもう1羽が空を飛んでいるとその後を追って羽ばたいて行った。
「本名を言わなかった。だからまだ解放されない」
「本名……僕の名前は……」
何て言ってたけ。何か言ってたはずなのに。ザザッと頭の中に荒波がたち、その奥に見えないように鍵している光景が浮かぶ。
黒い波があってそれが何なのか分からない。
僕は一体何者なのか。僕は『時空』としてこの世に生まれた。本名も家族もない。だと思ってたのに僕は本当は何がしたかったんだ。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
三柱兵士であるアルトが処刑されたと。そしてその亡骸は街中に晒されている。そんなわけない。信じたくない。だって彼は昨日顔を出したのだから。
イレインとも仲が良かった。なのに、どうして。
街へ下りてみると一番目のつく場所に首が飾られてた。一番高い棒に飾られて悲しそうに目を伏せているた。最期に何を見たのか。住民はその首の周りに群がりヒソヒソ話す。
「こいつは兵士で悪いし噂を垂れ流してたからこうなった」「俺見たことある。こいつ、王子を唆していたぞ」「滅多にないものだ。何かよからぬことが起きるぞ」「こんなところに見せしめなんて、よっぽど悪いことしたんだよ、こいつ」
見せしめにされた首にわらわらと群がり、あれよあれよと良からぬ噂話を持ち上げる。あんなところにいつまでも首をぶら下げるわけにはいかん。すぐに首を下ろす命令をくだした。
首だけ。胴体はどこなのか分からない、一刻も早く別々になった胴体を探す。首を教会でちゃんと清め埋葬してくれた。
なぜ、どこで、誰に、疑問が濁流のように押し寄せてくる。王政でさえその意図は知らなかった。平和で順風満帆だったこの国をガラリと変えた。これは一国の大きな事態だ。
総出でアルトを殺害した人間と胴体の居場所を探す。
そして、漸く一つの情報を手に取った。
同じ三柱の兵士からの目撃情報。
アルトが『時空』様に何かを訴えていた。肩を掴んでゆさぶり、それは必死な形相だったという。何を訴えていたのか途切れ途切れの会話だったらしいが『お前は俺の弟なんだ!』『ここから逃げよう。兄ちゃんがなんとかしてやる!』と。
それで殺されたのか。
三柱では人としてではなく、神として座らせている。人である記憶を呼び覚ますようなことを起こせば、それはたちまち、機関として邪魔な存在。
アルトは口封じに消されたのだ。
アルトを殺害したのは、三柱兵士の中の最も上の位。
その者たちをどうするか、アルトのやったことは一つの組織を壊すやり方だった。輪を乱すものを消さただけで、咎めることは何もない。
せめて、胴の居場所だけを教えてくれ。
アルトの胴体は骨も焼かれて灰になっていた。首の方を先に埋葬したのは本当によかった。アルトも浮かばれないだろう。もっとも、浮かばれないのは弟より先に死んでしまったことだが。
兵士にアルトの最期の顔はどうだった、と訊いた。兵士は俺の目をしっかり見てこう告げた。
「命乞いすることもなく我々が見守る中、クビを斬りました」
そうか。と素っ気なく返した。
言葉にならない喪失感がおしよせて、目眩がする。とてつもない大きな穴が心臓に開けられ、風穴から風が、それも冷たい風が吹いてくる。いつも威厳を保ったままにしてるのに、それができない。足が震えて、おぼつかない。
「王子、こちらで横になってください」
姫がそっと支えてくれる。
ジィジも兵士たちも、使用人でさえも出払い姫と二人きり。寝かしつけるように姫は俺の頭を撫でる。この年でそのような扱いは恥ずかしいゆえ、怒るところだが、優しくされると妙に落ち着く。
「朝から忙しかったもの。少し、体を休憩させましょう」
「あぁ」
撫でられて心地いい。だんだんと睡魔が襲ってきた。瞼が重い。ぼんやりした意識。ベットの底へ引っ張られるようにして体も意識も沈んでいく。
「寝てもいいのですよ」
「だめだ。やらなきゃならないことがある」
「こちらがやっておきます。だから王子は休んでください」
優しい声、優しい眼差し、赤子を撫でる手つき。何もかも睡魔を襲わせた。そして甘えるようにして熟睡した。
その間、起きたことなど知るはずもない。このあと、国も俺たちも何もかもどうなるか知るよしもない。
§
殺された兵士の言葉が頭をよぎる。何度も何度も頭をかち割ってくる。『お前は俺の弟なんだ!』『お前が五歳のときまで一緒にいたんだ。あのとき、お前に留守を任せて本当に悪かった。兄ちゃんの家族はもうお前だけだ』
すがりつくように体を揺さぶられ、嗚咽しながら泣いたあの人。名前は――知らない。
「テメェ大丈夫か」
『大地』が珍しく話しかけてくれたのにうまく、頭の中で処理できなくて思考が追いつけない。足が震えてその場で蹲る。涙ではない別の液体がポタポタと垂れていく。
「私たち、結局は人だった」
『天空』が空へ手を伸ばす。
1羽の鳥が飛んできて指先に止まった。珍しい青い鳥だ。止まった鳥は首を何度も傾げてキョロキョロしている。仲間を探しているのかもう1羽が空を飛んでいるとその後を追って羽ばたいて行った。
「本名を言わなかった。だからまだ解放されない」
「本名……僕の名前は……」
何て言ってたけ。何か言ってたはずなのに。ザザッと頭の中に荒波がたち、その奥に見えないように鍵している光景が浮かぶ。
黒い波があってそれが何なのか分からない。
僕は一体何者なのか。僕は『時空』としてこの世に生まれた。本名も家族もない。だと思ってたのに僕は本当は何がしたかったんだ。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
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