折々再々

ハコニワ

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最初Ⅰ

第32話 石の読み

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 古来の先祖が石で彫り文字を後世に残した。
 一石は先祖たちの墓の在り処。そして今読み上げているのはもう一つ、我々の成り立ち。
「『神はまず宇宙を創造し、数多の神を誕生させた。やがて空から蛇が降り死を撒き散らした。ある空からは神が降り生を与えた。蛇に対抗は光である。太陽と月、大地と天空と時空』」
 石に掘られている文字はここまで。
 姫は眉を釣り上げて考える。暫く口を閉じ、石に彫られた言葉の意味を探る。

 鳥も川の音もしない空間。二人ぼっちの空間。静かで時間だけが進んでいく。だんだんと川の流れで下流にまで流されていく。沈黙を破ったのは俺だった。
「神は最初、宇宙を創造しそれから太陽と月を創造した。後に大地、天空、時空を。これは三柱。三柱も俺たちも決して神ではない。人としての器だ。俺たちはただ、この国に生まれて太陽と月のシンボルを掲げているのではないか? ただ敷かれたレールに歩かされてるのではないか?」
 俺は大空に飛び回る鳥を何度も飽きるほど目にして、何度も自由になりたい、と願ったことか。三柱の運命はきっと、俺たちも同じだ。
 姫は終始上目遣いで黙っていた。
 何か言いたそうな、でも言えない。

 姫は口を曲げて黙っていた。言葉を考えたのか口を開いた姫の口調はどこか、平然といつもの態度だったが低い声で低姿勢は緊張を隠しきれていない。
「なるほど。王子が主張したいのは、自分たちもただの器なのかもしれない、という事ですね? ではその器を決めているのは誰でしょう?」
「王だ」
「いいえ、三柱の候補を決めるのは王には決定権はありません。三柱の器を決めているのは?」
「前任の三柱だ」
「そうですね。三柱がただの拉致された子供となれば、自分と同じように拉致し記憶を消し三柱として教養させる。前任も同じであればこれはループしないのでは?」
「確かに」
 姫は小さなためいきついた。
「王子、考えすぎです。兵士の言葉に耳を傾けるのは良い事ですが、あまり信用すると天が何と怒りますか」
「そうだな……」
 俺はしょんぼりして肩をすくめた。
 姫は石を見てポツリと語った。
「誰かに敷かれたレールを歩かされている、とは最もです。わたくしたちは会っていない会話もしたことない男女です。背中を押されるようにして、わたくしは国を出、今、ここにいます。誰も目にできない何かで動いている。わたくしたちもただの駒なのかもしれません」
 姫は悲しそうに目を伏せた。
 俺は姫の手を取り帰ろうと踵を返す。もうここに来ることはない。久々の訪問者だと喜ぶファラオたちを背にそう誓った。


 地下から出たときはどっぷり空が暗かった。地下と同じように静寂に包まれた空間。明るい松明だけが城を照らしている。
「まぁ、こんなに暗い」
「ジィジたちが心配してるかもしれんな」
 俺たちは手を繋ぎあって笑っていると城の者に見つかり再び説教へ。夜食を済ませて部屋へ移動していると廊下の端にあるものが目に止まり歩を止めた。


 目を凝らして見てみると意外な人物だった。
 頭までずっぷり被っている白装束に金を施したスカーフ。この衣装を身にまとえる身分は3人しかいない。しかもそこにいたのは、その中の2人だ。
「夜分遅くどちらで?」
 こちらから声を掛けると相手はびっくりして振り向いた。
「これは王子、お声をかけてくださるとは光栄です」
 三柱の一人『大地』が胸に手をおいた。
 頭までずっぷり被っている白装束を脱ぎ、顔を見せたのだ。式のときには一切顔見せなかったのが。『時空』と同じ年頃の少年で目袋にホクロがあり、白い肌、異様に目立つ赤い目。笑っているのに声は個性を感じない。

 隣にいたのは女の子だった。
 月が照らすと銀髪に輝く髪に白い肌、赤い目、『大地』の少年に隠れるように身を寄せている。朝から噂してた三柱だ。
「なぜこんなところに? 何をしてたんだ?」
 2人は暗闇の中、身を寄せ合い何やら話してた。会話は聞こえなかったが、その光景は睦まじかった。仲が良いのだな。
「星を見てました。夜も暗くなってきた。陛下もお戻りで。我々もここで」
 そそくさとその場を早足で去っていた。
 年頃の少年少女たちだ。 
 その地位がなければ、町中でみかけても気づかない。アルトの言葉がよぎりまた、悩ませる。



 部屋に戻るとふわりと髪の毛がなびいた。
 ベランダへ移ると姫はじっと夜空を見上げてた。こちらの気配に気づいていない様子。姫はもしかしたら夢中になると気づかないタイプなのだな。かわいい。
 あまり驚かせては姫の心臓に悪い。ベランダの戸を2回ほど叩くと姫はくるりと振り向いた。
 こちらの顔を見るとほっと安堵したような顔を浮かべ、微笑んだ。
「星を見てたのか?」
「ええ。今夜は綺麗です」
「そうだな。満天の星空だ」
 姫の隣で同じ景色を見上げる。
 肩が触れる。
「冷たい。ずっとここにいたのか?」
 触れた肩の温度が冷たくてこちらがびっくりした。
「えぇ……王子が来るまで待ってました」
「すまない。さぁ中に入ろう」
 俺は冷たくなっている体を温めようと肩に手を置くと姫の指先がそっと添える。
「ふふ。あなたのほうが温かいのですよ」
 姫はニッコリと笑った。
 色々あったが、この笑顔が一番好きだ。取り戻してよかった。

 満天の星空で夜は始まったばかり。まだまだ暗くなるだろう。
 
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