折々再々

ハコニワ

文字の大きさ
上 下
31 / 78
最初Ⅰ

第31話 アルト

しおりを挟む
 アルトに妹の存在はくれぐれも内密にしてくれと頼んだ。するとアルトは目を見開き「三柱護衛兵アルト、内なるものは隠しとおす主義です」と敬礼した。
「アルトお兄ちゃんも誰か探してるんでしょ?」
 イレインが間に入ってきた。
「だってこんなところたまたま通るものじゃないもーん。もしかしてお兄ちゃんも誰かとかくれんぼしてんの? 僕も混ぜて!」
「そうなのか」
 俺はふむと頷く。  
 姫は「かくれんぼしてたのですか?」と首を傾げる。アルトは顔色を変えてあたふた。
「わたくしはただ兵士として見回りを!」
 アルトは顔色を青くさせてやがて、しらを切るのは無理だと判断してぽつりと語った。 
「わたくしには弟がおります。殿下もしっているお方です。三柱という構成は世界中から神の血を持っている者が成る器。ですが、実際は神の器にされたただの人間です。何処からか子供を拉致し無理やり教養させ、器にさせる。しかも、その子らは親や兄弟の記憶を消され新たな人間にさせている。そんなのが五年前からあったと、確かな証拠があります。わたくしの弟はある日選ばれ拉致され、今三柱として立っています」
 アルトは怒り、悲しみ、憎悪の表情を浮かべ、雰囲気がおどろおどろしい。


 姫が口に手を持って身を固めた。
「それは本当か?」
 俺が疑問に問いかける。
「本当です。この顔をよく見れば分かります」
 アルトは顔を上げた。
 黒い短髪の髪の毛、血のように真っ赤な赤い瞳。その風貌は式で文を読み上げた少年の顔とそっくり。
「式で文を読み上げたのは三柱『時空様』です。元はヴッカという名前でわたくしの弟です」
 アルトは真剣に、睨みつけに近い顔となる。


 にわかに信じられないものであり、受け入れるのには時間がかかる。だが、アルトの真剣な面持ちは嘘をついていない表情だ。初対面ではなくても会話はこのときが初めてだ。故に彼がどんな人間なのかまだはっきりと理解していない。こんな大きな話をあんな真剣な表情でするのは道化師くらいだ。
「他の三柱もそうなのか?」
「はい。そうです。ここより南から、さらに東側から拉致して三柱という構成はそれを二十年前からやっております」  
 俺は絶句した。
 なんということだ。ある一つの統一となる組織が悪巧みをしていたなんて。これは大事だ。直ちに組織を解体せねば。
「お待ちになってください」
 そんなときに姫が待ったをかけた。
「あなたは三柱の下の兵士、そのような方が上位であるものの悪い噂を垂れ流し、まして、王子を動かそうなど断固同断。軽率な行動です。恥を知り即刻立ち去りなさい。そのような話は根拠もないです」
 姫の刃のような鋭い言葉が空気を冷たくさせる。風も冷たくなったのもたまたまではない。姫は切れ長の目で彼を睨みつけ立ち去りなさい、と再び警告した。

 アルトは酷く怯えて礼をしてから立ち去った。
 姫は立ち去ったアルトの背を横目で流しため息ついた。今まで貯めていた空気を吐き出したように重い。
「帰りましょう」
「あぁ」
「もう帰るの?」
 イレインが寂しそうに肩をおろした。
「大丈夫です。また来ます」
 姫がさっきまでの顔をガラリと変えて和やかに微笑んだ。イレインはそれでも納得できない顔でいると俺はすかさず「よし遊ぶか!」と誘った。
 イレインはさらに笑った。

 姫も加わり石蹴りだったり、棒投げだったり一時間くらい遊んでいると心配になった城の者が俺たちを嗅ぎわけて強制帰還された。
 締りのない最後だったがイレインは、笑って両手を振ってくれた。兵士に周りを囲まれても臆しないあの子はきっと、大物になるだろう。太陽国の宝だ。

 城に帰ってジィジのお説教。もう子供ではないのに迷惑ばかりかけないでいただきたい、という切実な願いとお説教交え右耳から左耳へと垂れ流し頭の中ではアルトの申した言葉がよぎっている。それしか考えられない。
 説教を終えて自室にこもる前に立ち寄らねばならぬ場所がある。姫を誘って。
「ここはどこですか?」
「ここは国きっての書籍あるところだ」
 我が国が管理している城の地下にある書籍室。
 管理している書籍には我が国の歴史や文化、王の戸籍まで。我が国の歴史はそれほど長くなく、たったの二石を管理し置いている。たったの二石を地下で厳重にして守られるには理由がある。


 管理しているのは書籍だけじゃないからだ。
 ここには太陽国初めの、我々の先祖が眠っている。大男だ。我々の大地で眠り、我々を見守っているのだ。
 金属のような手厚い桶に入っている腐敗している肉を見て姫は顔をしかめた。それが我々の先祖だと一瞬で判断するや、深く頭を下げた。
「なぜここに?」
 姫が再び問いた。
「アルトの言葉が離れられないんだ。あの境遇は三柱だけじゃないかもしれない」
「それは?」
 俺は二石ある本の中の一石に手を伸ばした。
 古びて埃が被っている灰色。石にかかれた文字。読み解くには時間がかかる。これは限られた人間にしか見られないもの。故に地下にある。
 砂や埃を手で払い、文字を読む。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※4話は2/25~投稿予定です。間が空いてしまってすみません…! 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...