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最初Ⅰ
第31話 アルト
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アルトに妹の存在はくれぐれも内密にしてくれと頼んだ。するとアルトは目を見開き「三柱護衛兵アルト、内なるものは隠しとおす主義です」と敬礼した。
「アルトお兄ちゃんも誰か探してるんでしょ?」
イレインが間に入ってきた。
「だってこんなところたまたま通るものじゃないもーん。もしかしてお兄ちゃんも誰かとかくれんぼしてんの? 僕も混ぜて!」
「そうなのか」
俺はふむと頷く。
姫は「かくれんぼしてたのですか?」と首を傾げる。アルトは顔色を変えてあたふた。
「わたくしはただ兵士として見回りを!」
アルトは顔色を青くさせてやがて、しらを切るのは無理だと判断してぽつりと語った。
「わたくしには弟がおります。殿下もしっているお方です。三柱という構成は世界中から神の血を持っている者が成る器。ですが、実際は神の器にされたただの人間です。何処からか子供を拉致し無理やり教養させ、器にさせる。しかも、その子らは親や兄弟の記憶を消され新たな人間にさせている。そんなのが五年前からあったと、確かな証拠があります。わたくしの弟はある日選ばれ拉致され、今三柱として立っています」
アルトは怒り、悲しみ、憎悪の表情を浮かべ、雰囲気がおどろおどろしい。
姫が口に手を持って身を固めた。
「それは本当か?」
俺が疑問に問いかける。
「本当です。この顔をよく見れば分かります」
アルトは顔を上げた。
黒い短髪の髪の毛、血のように真っ赤な赤い瞳。その風貌は式で文を読み上げた少年の顔とそっくり。
「式で文を読み上げたのは三柱『時空様』です。元はヴッカという名前でわたくしの弟です」
アルトは真剣に、睨みつけに近い顔となる。
にわかに信じられないものであり、受け入れるのには時間がかかる。だが、アルトの真剣な面持ちは嘘をついていない表情だ。初対面ではなくても会話はこのときが初めてだ。故に彼がどんな人間なのかまだはっきりと理解していない。こんな大きな話をあんな真剣な表情でするのは道化師くらいだ。
「他の三柱もそうなのか?」
「はい。そうです。ここより南から、さらに東側から拉致して三柱という構成はそれを二十年前からやっております」
俺は絶句した。
なんということだ。ある一つの統一となる組織が悪巧みをしていたなんて。これは大事だ。直ちに組織を解体せねば。
「お待ちになってください」
そんなときに姫が待ったをかけた。
「あなたは三柱の下の兵士、そのような方が上位であるものの悪い噂を垂れ流し、まして、王子を動かそうなど断固同断。軽率な行動です。恥を知り即刻立ち去りなさい。そのような話は根拠もないです」
姫の刃のような鋭い言葉が空気を冷たくさせる。風も冷たくなったのもたまたまではない。姫は切れ長の目で彼を睨みつけ立ち去りなさい、と再び警告した。
アルトは酷く怯えて礼をしてから立ち去った。
姫は立ち去ったアルトの背を横目で流しため息ついた。今まで貯めていた空気を吐き出したように重い。
「帰りましょう」
「あぁ」
「もう帰るの?」
イレインが寂しそうに肩をおろした。
「大丈夫です。また来ます」
姫がさっきまでの顔をガラリと変えて和やかに微笑んだ。イレインはそれでも納得できない顔でいると俺はすかさず「よし遊ぶか!」と誘った。
イレインはさらに笑った。
姫も加わり石蹴りだったり、棒投げだったり一時間くらい遊んでいると心配になった城の者が俺たちを嗅ぎわけて強制帰還された。
締りのない最後だったがイレインは、笑って両手を振ってくれた。兵士に周りを囲まれても臆しないあの子はきっと、大物になるだろう。太陽国の宝だ。
城に帰ってジィジのお説教。もう子供ではないのに迷惑ばかりかけないでいただきたい、という切実な願いとお説教交え右耳から左耳へと垂れ流し頭の中ではアルトの申した言葉がよぎっている。それしか考えられない。
説教を終えて自室にこもる前に立ち寄らねばならぬ場所がある。姫を誘って。
「ここはどこですか?」
「ここは国きっての書籍あるところだ」
我が国が管理している城の地下にある書籍室。
管理している書籍には我が国の歴史や文化、王の戸籍まで。我が国の歴史はそれほど長くなく、たったの二石を管理し置いている。たったの二石を地下で厳重にして守られるには理由がある。
管理しているのは書籍だけじゃないからだ。
ここには太陽国初めの、我々の先祖が眠っている。大男だ。我々の大地で眠り、我々を見守っているのだ。
金属のような手厚い桶に入っている腐敗している肉を見て姫は顔をしかめた。それが我々の先祖だと一瞬で判断するや、深く頭を下げた。
「なぜここに?」
姫が再び問いた。
「アルトの言葉が離れられないんだ。あの境遇は三柱だけじゃないかもしれない」
「それは?」
俺は二石ある本の中の一石に手を伸ばした。
古びて埃が被っている灰色。石にかかれた文字。読み解くには時間がかかる。これは限られた人間にしか見られないもの。故に地下にある。
砂や埃を手で払い、文字を読む。
「アルトお兄ちゃんも誰か探してるんでしょ?」
イレインが間に入ってきた。
「だってこんなところたまたま通るものじゃないもーん。もしかしてお兄ちゃんも誰かとかくれんぼしてんの? 僕も混ぜて!」
「そうなのか」
俺はふむと頷く。
姫は「かくれんぼしてたのですか?」と首を傾げる。アルトは顔色を変えてあたふた。
「わたくしはただ兵士として見回りを!」
アルトは顔色を青くさせてやがて、しらを切るのは無理だと判断してぽつりと語った。
「わたくしには弟がおります。殿下もしっているお方です。三柱という構成は世界中から神の血を持っている者が成る器。ですが、実際は神の器にされたただの人間です。何処からか子供を拉致し無理やり教養させ、器にさせる。しかも、その子らは親や兄弟の記憶を消され新たな人間にさせている。そんなのが五年前からあったと、確かな証拠があります。わたくしの弟はある日選ばれ拉致され、今三柱として立っています」
アルトは怒り、悲しみ、憎悪の表情を浮かべ、雰囲気がおどろおどろしい。
姫が口に手を持って身を固めた。
「それは本当か?」
俺が疑問に問いかける。
「本当です。この顔をよく見れば分かります」
アルトは顔を上げた。
黒い短髪の髪の毛、血のように真っ赤な赤い瞳。その風貌は式で文を読み上げた少年の顔とそっくり。
「式で文を読み上げたのは三柱『時空様』です。元はヴッカという名前でわたくしの弟です」
アルトは真剣に、睨みつけに近い顔となる。
にわかに信じられないものであり、受け入れるのには時間がかかる。だが、アルトの真剣な面持ちは嘘をついていない表情だ。初対面ではなくても会話はこのときが初めてだ。故に彼がどんな人間なのかまだはっきりと理解していない。こんな大きな話をあんな真剣な表情でするのは道化師くらいだ。
「他の三柱もそうなのか?」
「はい。そうです。ここより南から、さらに東側から拉致して三柱という構成はそれを二十年前からやっております」
俺は絶句した。
なんということだ。ある一つの統一となる組織が悪巧みをしていたなんて。これは大事だ。直ちに組織を解体せねば。
「お待ちになってください」
そんなときに姫が待ったをかけた。
「あなたは三柱の下の兵士、そのような方が上位であるものの悪い噂を垂れ流し、まして、王子を動かそうなど断固同断。軽率な行動です。恥を知り即刻立ち去りなさい。そのような話は根拠もないです」
姫の刃のような鋭い言葉が空気を冷たくさせる。風も冷たくなったのもたまたまではない。姫は切れ長の目で彼を睨みつけ立ち去りなさい、と再び警告した。
アルトは酷く怯えて礼をしてから立ち去った。
姫は立ち去ったアルトの背を横目で流しため息ついた。今まで貯めていた空気を吐き出したように重い。
「帰りましょう」
「あぁ」
「もう帰るの?」
イレインが寂しそうに肩をおろした。
「大丈夫です。また来ます」
姫がさっきまでの顔をガラリと変えて和やかに微笑んだ。イレインはそれでも納得できない顔でいると俺はすかさず「よし遊ぶか!」と誘った。
イレインはさらに笑った。
姫も加わり石蹴りだったり、棒投げだったり一時間くらい遊んでいると心配になった城の者が俺たちを嗅ぎわけて強制帰還された。
締りのない最後だったがイレインは、笑って両手を振ってくれた。兵士に周りを囲まれても臆しないあの子はきっと、大物になるだろう。太陽国の宝だ。
城に帰ってジィジのお説教。もう子供ではないのに迷惑ばかりかけないでいただきたい、という切実な願いとお説教交え右耳から左耳へと垂れ流し頭の中ではアルトの申した言葉がよぎっている。それしか考えられない。
説教を終えて自室にこもる前に立ち寄らねばならぬ場所がある。姫を誘って。
「ここはどこですか?」
「ここは国きっての書籍あるところだ」
我が国が管理している城の地下にある書籍室。
管理している書籍には我が国の歴史や文化、王の戸籍まで。我が国の歴史はそれほど長くなく、たったの二石を管理し置いている。たったの二石を地下で厳重にして守られるには理由がある。
管理しているのは書籍だけじゃないからだ。
ここには太陽国初めの、我々の先祖が眠っている。大男だ。我々の大地で眠り、我々を見守っているのだ。
金属のような手厚い桶に入っている腐敗している肉を見て姫は顔をしかめた。それが我々の先祖だと一瞬で判断するや、深く頭を下げた。
「なぜここに?」
姫が再び問いた。
「アルトの言葉が離れられないんだ。あの境遇は三柱だけじゃないかもしれない」
「それは?」
俺は二石ある本の中の一石に手を伸ばした。
古びて埃が被っている灰色。石にかかれた文字。読み解くには時間がかかる。これは限られた人間にしか見られないもの。故に地下にある。
砂や埃を手で払い、文字を読む。
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