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最初Ⅰ
第29話 一夜
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結婚式を終えた俺たちは新たな敷居を用意された。同じベット、同じ部屋。部屋に一緒にいるだけで目眩がする。だが、四六時中一緒にいるのはなんとも幸せな時間だ。
月の者は姫を置いて国に帰った。姫は別れの際涙をこらえていた。月国の従者から姫のことを任された。
その夜――
同じベットで眠る。姫の黒い髪が同じシーツの上で広がっていい匂いがしてなかなか寝付けない。どうやったら眠れるんだ。ジィジに相談しとけばよかった。
「王子、起きてますか」
背中越しに聞こえた声。
ひんやりした空気に響く。
びくりと震えた。
恐る恐る後ろを振り向くと姫がこちらを見つめていた。こちらと同じように寝付けないのか、不安な顔。差し伸べるように頬に手を添えた。
「どうしたんだ?」
一緒にいるんだ、そんな顔しないでほしい。
「あの、眠れなくてもっと、くっついてもよろしいでしょうか?」
「……あぁ」
あぁ、じゃない。自分。
何容認したんだ。自分だって余裕ないのに。余裕ぶりやがって。くっついたら心臓の音ばれるのに、なにしているんだ。心の中でジタバタと暴走している。姫には知られていない。
姫は俺が容認してくれると無邪気にふふふ、と笑った。俺の胸の中へするすると潜り込んできた。ドクン、と大きく心臓が高鳴る。顔が一気に赤くなって汗がダラダラ出る。姫に知られてはいけないと懸命に平然ぶる。
「ふふ、温かいです」
姫は猫のようにすりよってきた。
形のいいつむじが見えて思わずキスしたくなってきた。無防備すぎる姿にキュンキュン心臓がうるさい。
「わたくしの故郷の話、まだしておりませんでしたね」
姫は思い浮かべるように話題を持ち出してきた。
「わたくしの故郷は砂漠しかありません。あの大きな川を渡るのに三日もかかったんですよ」
「本当に苦労してきたんだな」
「ええ、一人で帰るには無理な話です。あ、帰りませんからそのようなお顔はやめてください」
どんな顔してたんだ。でも姫が慌てるようだからきっとすごい寂しい表情してたんだな。姫はまた話を続ける。どんな顔しているのか分からない。
「街で見かけたキラキラした硝子細工は我が国にありません。わたくしたちがこうして一つの国になれば金・銀が全て揃うでしょうね。民がもう苦しむことはない」
彼女はだんだんボソボソと話すようになった。
「ここに来たのは自国の為、一国の者としての勤めだと思って強気で振る舞っていたけれど、いざ一人になると寂しいなんて、笑えますよね」
「笑わないさ」
俺は、姫の強気な態度だろうとそれが見栄っ張りなものでもそれは姫の、心配させたくない心から来る想いだから俺は、笑わない。
姫は暫く固まって頭をさらに体に押し付けた。沈黙が続いている。見下ろすと姫は穏やかな顔で眠っていた。
まじか。この距離で眠るのか。俺はまだ眠れないのだが。こんな距離で朝まで保つのは不可能だ。起こさないようにせめて態勢を整えよう。心臓がうるさい。姫にまで聞かれるくらい自分の心臓の音がうるさい。どうか起きませんように、その神に祈り少しずつずれていく。
でも意識とは反対に行動できない。
なんせ、この体を少しでも触れてみたいと思ってしまった。結婚もしたがそんな……密着するなんて早まるな俺! でもジィジは今夜俺たちを二人きりでしかも、護衛がいない。それはつまり、初夜を迎えようとしている。
確かに女と一晩共にして何も触れてないのはおかしすぎるし、触れていないとジィジから病気を疑われるし、男としてすたる。だがな、手を出さなかったとすれば姫は俺をさらに信用してくれるのでは。
「男の人って本当に野蛮で、でもあなたは違うわ!」「ふっ、姫よ。俺はそこら辺の男と一緒にするな」
「あなたって本当に素敵!」
なんてことも……。
ムフフと邪な考えを思考に。
そして夜が明けた。
俺は当然一睡もできなかった。姫の体温と匂いに包まれてて我慢しぱなし。だが、姫は俺を当然信用しさらに身を寄せてくるだろう。ムフフ。
だが、現実は一変した。
姫は起きてきてから朝食を整え、散策している今――目も話もしてくれない。
おかしい。なぜだ。姫は俺から避けるように距離をおいている。一言も会話もしてないとはこんなのおかしいだろ。
「姫よ、今日は良い天気だな」
「……」
やっぱり無視されてる。体ごとそっぽ向かれている。
これはもしかして愛想を尽かされたのか。いつ、どこで、なぜ、俺は姫に危害を加えたことない。姫に嫌われることなど、一切していないはずだ。
悶々と考えていると、険悪な空気に耐えかねたのか姫がすっと席を立った。慌ててその背を追うが姫に鬼の如く睨まれた。
「ひ、姫……俺は何かしたか?」
雀のごとく縮こまり自分でもびっくりするほどの弱々しい声が出た。姫はようやく体ごとこちらに向き大きなため息をつかれた。
「気づいていらっしゃらないのですね」
呆れたように睨まれる。
この怒り、どこで買ったのかさえも謎だ。あんなに謙虚だった人がこうも態度に出てくるとは。
「わ、分からない。教えてくれ」
縋りつくように呟いた。
「はぁ、なんて呆れた人。昨夜のこと思い浮かべてください」
「昨夜……? 何もしていない」
「そう。あなたは何もしなかった。わたくしが隣で寝てても手を出してくれなかった。こんな、こんなこと、言わせるなんてあんまりですわ!」
姫は顔を真っ赤にさせながらバタバタと去っていく。これにはもう追えなくなってしまいジィジに頼った。ジィジの回答は俺の思っていた今までの常識を覆す。
「王子、それは姫様に無礼でしてよ。姫様はあなたと初夜を迎えるために一緒に床に入ったもの。ですがあなたはそれを頑なにせず、あまつさえその指摘を姫様に言わせた。とんでもない姫様に屈辱を味あわせたのですぞ。王子、ここはわたくし共一同姫様に謝りに行きましょう」
「待てジィジ、俺が行く。皆まで言うな、これは俺の責任だ。俺が果たす」
俺は間違っていた。
姫の覚悟も知らないで姫と触れ合うのを自分から逃していた。
月の者は姫を置いて国に帰った。姫は別れの際涙をこらえていた。月国の従者から姫のことを任された。
その夜――
同じベットで眠る。姫の黒い髪が同じシーツの上で広がっていい匂いがしてなかなか寝付けない。どうやったら眠れるんだ。ジィジに相談しとけばよかった。
「王子、起きてますか」
背中越しに聞こえた声。
ひんやりした空気に響く。
びくりと震えた。
恐る恐る後ろを振り向くと姫がこちらを見つめていた。こちらと同じように寝付けないのか、不安な顔。差し伸べるように頬に手を添えた。
「どうしたんだ?」
一緒にいるんだ、そんな顔しないでほしい。
「あの、眠れなくてもっと、くっついてもよろしいでしょうか?」
「……あぁ」
あぁ、じゃない。自分。
何容認したんだ。自分だって余裕ないのに。余裕ぶりやがって。くっついたら心臓の音ばれるのに、なにしているんだ。心の中でジタバタと暴走している。姫には知られていない。
姫は俺が容認してくれると無邪気にふふふ、と笑った。俺の胸の中へするすると潜り込んできた。ドクン、と大きく心臓が高鳴る。顔が一気に赤くなって汗がダラダラ出る。姫に知られてはいけないと懸命に平然ぶる。
「ふふ、温かいです」
姫は猫のようにすりよってきた。
形のいいつむじが見えて思わずキスしたくなってきた。無防備すぎる姿にキュンキュン心臓がうるさい。
「わたくしの故郷の話、まだしておりませんでしたね」
姫は思い浮かべるように話題を持ち出してきた。
「わたくしの故郷は砂漠しかありません。あの大きな川を渡るのに三日もかかったんですよ」
「本当に苦労してきたんだな」
「ええ、一人で帰るには無理な話です。あ、帰りませんからそのようなお顔はやめてください」
どんな顔してたんだ。でも姫が慌てるようだからきっとすごい寂しい表情してたんだな。姫はまた話を続ける。どんな顔しているのか分からない。
「街で見かけたキラキラした硝子細工は我が国にありません。わたくしたちがこうして一つの国になれば金・銀が全て揃うでしょうね。民がもう苦しむことはない」
彼女はだんだんボソボソと話すようになった。
「ここに来たのは自国の為、一国の者としての勤めだと思って強気で振る舞っていたけれど、いざ一人になると寂しいなんて、笑えますよね」
「笑わないさ」
俺は、姫の強気な態度だろうとそれが見栄っ張りなものでもそれは姫の、心配させたくない心から来る想いだから俺は、笑わない。
姫は暫く固まって頭をさらに体に押し付けた。沈黙が続いている。見下ろすと姫は穏やかな顔で眠っていた。
まじか。この距離で眠るのか。俺はまだ眠れないのだが。こんな距離で朝まで保つのは不可能だ。起こさないようにせめて態勢を整えよう。心臓がうるさい。姫にまで聞かれるくらい自分の心臓の音がうるさい。どうか起きませんように、その神に祈り少しずつずれていく。
でも意識とは反対に行動できない。
なんせ、この体を少しでも触れてみたいと思ってしまった。結婚もしたがそんな……密着するなんて早まるな俺! でもジィジは今夜俺たちを二人きりでしかも、護衛がいない。それはつまり、初夜を迎えようとしている。
確かに女と一晩共にして何も触れてないのはおかしすぎるし、触れていないとジィジから病気を疑われるし、男としてすたる。だがな、手を出さなかったとすれば姫は俺をさらに信用してくれるのでは。
「男の人って本当に野蛮で、でもあなたは違うわ!」「ふっ、姫よ。俺はそこら辺の男と一緒にするな」
「あなたって本当に素敵!」
なんてことも……。
ムフフと邪な考えを思考に。
そして夜が明けた。
俺は当然一睡もできなかった。姫の体温と匂いに包まれてて我慢しぱなし。だが、姫は俺を当然信用しさらに身を寄せてくるだろう。ムフフ。
だが、現実は一変した。
姫は起きてきてから朝食を整え、散策している今――目も話もしてくれない。
おかしい。なぜだ。姫は俺から避けるように距離をおいている。一言も会話もしてないとはこんなのおかしいだろ。
「姫よ、今日は良い天気だな」
「……」
やっぱり無視されてる。体ごとそっぽ向かれている。
これはもしかして愛想を尽かされたのか。いつ、どこで、なぜ、俺は姫に危害を加えたことない。姫に嫌われることなど、一切していないはずだ。
悶々と考えていると、険悪な空気に耐えかねたのか姫がすっと席を立った。慌ててその背を追うが姫に鬼の如く睨まれた。
「ひ、姫……俺は何かしたか?」
雀のごとく縮こまり自分でもびっくりするほどの弱々しい声が出た。姫はようやく体ごとこちらに向き大きなため息をつかれた。
「気づいていらっしゃらないのですね」
呆れたように睨まれる。
この怒り、どこで買ったのかさえも謎だ。あんなに謙虚だった人がこうも態度に出てくるとは。
「わ、分からない。教えてくれ」
縋りつくように呟いた。
「はぁ、なんて呆れた人。昨夜のこと思い浮かべてください」
「昨夜……? 何もしていない」
「そう。あなたは何もしなかった。わたくしが隣で寝てても手を出してくれなかった。こんな、こんなこと、言わせるなんてあんまりですわ!」
姫は顔を真っ赤にさせながらバタバタと去っていく。これにはもう追えなくなってしまいジィジに頼った。ジィジの回答は俺の思っていた今までの常識を覆す。
「王子、それは姫様に無礼でしてよ。姫様はあなたと初夜を迎えるために一緒に床に入ったもの。ですがあなたはそれを頑なにせず、あまつさえその指摘を姫様に言わせた。とんでもない姫様に屈辱を味あわせたのですぞ。王子、ここはわたくし共一同姫様に謝りに行きましょう」
「待てジィジ、俺が行く。皆まで言うな、これは俺の責任だ。俺が果たす」
俺は間違っていた。
姫の覚悟も知らないで姫と触れ合うのを自分から逃していた。
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