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最初Ⅰ
第22話 月の姫
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薄いピンクのカーテンをシャと開けた。
中にいた女の子がびっくりした表情で固まっていた。髪の毛は漆黒でこの世のものとは思えない色白の肌、頭から爪先まで装飾品が飾られている。白い肌に目立つ誘うかのような真っ赤な熟した口紅。大きな敷居の真ん中に行儀よく座って、俺が無断で入ってきたことに怒りを滲ませ睨みつけてきた。
「あ、悪い」
一瞬見惚れてた。彼女の美しさに。
「でも喋ってんだから無視はないだろ」
正論を吐く。女性の寝室とも同じである敷居を跨がうのは信頼している使用人であってもあってはならない。良くて親族。婚約後した男性なら。彼女は立ち上がって俺の肩を強めに叩いて追い出した。
追い出して再びカーテンを閉めた。
「わ、悪かったその……」
話しかけてもガン無視。悪いのは自分だ。
空気は更に悪くなった。一回この部屋から出て外の空気を吸う。外で待機していたジイジにそのことを話すと当たり前だと説教された。
「嫌われただろうか」
「それだと困ります。王子、男としての意地を魅せないと」
ジイジは考え込んだ。そしてポンと手を叩く。
「王子、いいことを思いつきました」
「なんだ」
ジイジはにやりと笑う。子供が悪戯しかける顔だ。「わたくしどもが協力しますので姫様の前でいいところを見せましょう。例えば今から街に出かけます。悪党者をわたくしどもが演じますので姫様の前で漢を見せてください。そしたら姫様も王子のカッコよさに惚れるでしょう」
ジイジは自分で考えたアイデアを自画自賛し恍惚に笑った。俺はその提案に乗る気になれなかった。すぐに断った。
「そんなのだめだ」
「なぜです?」
ジイジが怪訝な顔する。
「お前たちが悪者になれば民が不安がるし、それに姫のついている付人も恐らく強いはずだろうから、お前たちはコテンパにされる。そんなのみたくないんだ」
「王子……わたくしの考えが浅はかでした。申し訳ございません」
ジイジは一歩下がり頭を下げる。俺は気にしてないと告げるとジイジは頭をゆっくりあげてさらに考え込んだ。
「でしたら王子、やはり王子が少しずつ姫の心を溶かさないといけません」
ジイジは力になれず申し訳ございませんと何度も言う。ジイジが俺たちのためにこんなにも頭を捻っていることに俺の心は和らいだ。少なくとも数分前より幾分か心が晴れている。
「ジイジ、お前に話して良かった。心が晴れている。大丈夫さ! 俺がなんとかしてみせる!」
にっと笑いかけジイジは「さすが王子!」と賛美。
はてさて、王子は月の姫を振り向かせることができるか――――。
月の姫と二人きりで散歩デートが行われた。厳密には側近がいるので二人きりとは言わないが。後ろから「王子頑張って下さい」という視線の応援だけがひしひしと感じる。隣で歩いていても無言。彼女は顔を見られないようにかそれともこの日差しで顔を焼けないためにか厚めの黒いロングベールを被っていた。帽子も黒。白い肌と美しい顔が見れないのはまことに残念だ。
手が触れられる距離にいても触れられない。女性の手を引いて誘導するなどできなかった。単に臆病者さ。歩き続けて無言が続いている。これでは皆の応援が無駄になる。ここは王子として頑張らなきれば――。
「ひ、姫は何がお好きで――?」
振り向いた直後、ドンと足元に何かがぶつかって危うく姫の胸に倒れそうになった。子供の歓声な声が。振り向くとそこにいたのはルークとイレイン。目をキラキラさせて月姫をじっと見てた。
「わぁ‼ 姫様だ! 間近で見た!」
「姫様と歩いて何してたの⁉」
「お前たち……恥ずかしいからやめなさい」
ルークとイレインは姫の周りをぐるぐる回っていると月国の軍の者が子供たちを引っ叩いた。ゾウや動物を躾ける為の専用の鞭で。
カッとなった。
目の前で自分の民が子供が、傷つけられて黙っている人間なんていない――月の国の同盟、平和……でもそれでも、考えるより先に体が動いた。
「何してんだ」
鞭で引っ叩いた軍人の腕を止めた。
「こいつらは姫様の前に泥をかけたからです」
「泥?」
姫の服を見ると泥なんてかかってない。黒い服だし、そんなもの「かかってないだろう」低い声で牽制する。それでも軍人は「姫に危害を加えようとしたので排除したまでです」と一向に自分の行いを正当化する。
街の人やジイジたちが不安にかられる。ざわざわと民の者が不安でこちらを窺うヒソヒソ声と2人の泣きじゃくる声も聞こえて、胸が締め付けられた。
月の国とはこれからも仲良くするため、こんな形で犬猿になりたくない。これ以上民を不安にさせるな、だがこの男から一言謝罪がほしい。モヤモヤが胸に渦巻きながらも一歩も引かない。
「おやめなさい!」
その声は水を打ったかのように周りを静寂にさせた。
声の主は月姫だ。黒い帽子で顔を隠しているから顔が分からない。
中にいた女の子がびっくりした表情で固まっていた。髪の毛は漆黒でこの世のものとは思えない色白の肌、頭から爪先まで装飾品が飾られている。白い肌に目立つ誘うかのような真っ赤な熟した口紅。大きな敷居の真ん中に行儀よく座って、俺が無断で入ってきたことに怒りを滲ませ睨みつけてきた。
「あ、悪い」
一瞬見惚れてた。彼女の美しさに。
「でも喋ってんだから無視はないだろ」
正論を吐く。女性の寝室とも同じである敷居を跨がうのは信頼している使用人であってもあってはならない。良くて親族。婚約後した男性なら。彼女は立ち上がって俺の肩を強めに叩いて追い出した。
追い出して再びカーテンを閉めた。
「わ、悪かったその……」
話しかけてもガン無視。悪いのは自分だ。
空気は更に悪くなった。一回この部屋から出て外の空気を吸う。外で待機していたジイジにそのことを話すと当たり前だと説教された。
「嫌われただろうか」
「それだと困ります。王子、男としての意地を魅せないと」
ジイジは考え込んだ。そしてポンと手を叩く。
「王子、いいことを思いつきました」
「なんだ」
ジイジはにやりと笑う。子供が悪戯しかける顔だ。「わたくしどもが協力しますので姫様の前でいいところを見せましょう。例えば今から街に出かけます。悪党者をわたくしどもが演じますので姫様の前で漢を見せてください。そしたら姫様も王子のカッコよさに惚れるでしょう」
ジイジは自分で考えたアイデアを自画自賛し恍惚に笑った。俺はその提案に乗る気になれなかった。すぐに断った。
「そんなのだめだ」
「なぜです?」
ジイジが怪訝な顔する。
「お前たちが悪者になれば民が不安がるし、それに姫のついている付人も恐らく強いはずだろうから、お前たちはコテンパにされる。そんなのみたくないんだ」
「王子……わたくしの考えが浅はかでした。申し訳ございません」
ジイジは一歩下がり頭を下げる。俺は気にしてないと告げるとジイジは頭をゆっくりあげてさらに考え込んだ。
「でしたら王子、やはり王子が少しずつ姫の心を溶かさないといけません」
ジイジは力になれず申し訳ございませんと何度も言う。ジイジが俺たちのためにこんなにも頭を捻っていることに俺の心は和らいだ。少なくとも数分前より幾分か心が晴れている。
「ジイジ、お前に話して良かった。心が晴れている。大丈夫さ! 俺がなんとかしてみせる!」
にっと笑いかけジイジは「さすが王子!」と賛美。
はてさて、王子は月の姫を振り向かせることができるか――――。
月の姫と二人きりで散歩デートが行われた。厳密には側近がいるので二人きりとは言わないが。後ろから「王子頑張って下さい」という視線の応援だけがひしひしと感じる。隣で歩いていても無言。彼女は顔を見られないようにかそれともこの日差しで顔を焼けないためにか厚めの黒いロングベールを被っていた。帽子も黒。白い肌と美しい顔が見れないのはまことに残念だ。
手が触れられる距離にいても触れられない。女性の手を引いて誘導するなどできなかった。単に臆病者さ。歩き続けて無言が続いている。これでは皆の応援が無駄になる。ここは王子として頑張らなきれば――。
「ひ、姫は何がお好きで――?」
振り向いた直後、ドンと足元に何かがぶつかって危うく姫の胸に倒れそうになった。子供の歓声な声が。振り向くとそこにいたのはルークとイレイン。目をキラキラさせて月姫をじっと見てた。
「わぁ‼ 姫様だ! 間近で見た!」
「姫様と歩いて何してたの⁉」
「お前たち……恥ずかしいからやめなさい」
ルークとイレインは姫の周りをぐるぐる回っていると月国の軍の者が子供たちを引っ叩いた。ゾウや動物を躾ける為の専用の鞭で。
カッとなった。
目の前で自分の民が子供が、傷つけられて黙っている人間なんていない――月の国の同盟、平和……でもそれでも、考えるより先に体が動いた。
「何してんだ」
鞭で引っ叩いた軍人の腕を止めた。
「こいつらは姫様の前に泥をかけたからです」
「泥?」
姫の服を見ると泥なんてかかってない。黒い服だし、そんなもの「かかってないだろう」低い声で牽制する。それでも軍人は「姫に危害を加えようとしたので排除したまでです」と一向に自分の行いを正当化する。
街の人やジイジたちが不安にかられる。ざわざわと民の者が不安でこちらを窺うヒソヒソ声と2人の泣きじゃくる声も聞こえて、胸が締め付けられた。
月の国とはこれからも仲良くするため、こんな形で犬猿になりたくない。これ以上民を不安にさせるな、だがこの男から一言謝罪がほしい。モヤモヤが胸に渦巻きながらも一歩も引かない。
「おやめなさい!」
その声は水を打ったかのように周りを静寂にさせた。
声の主は月姫だ。黒い帽子で顔を隠しているから顔が分からない。
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