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創造Ⅱ
第16話 再び
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地上に再び人間を産み落とす準備期間に入った。心臓、知恵、生命、意思を型に入れる。
「なんの用だい?」
月の女神がそれらの作業を書物に書き綴っている。その背後からヤミが近寄ってきた。ここは月の女神が普段立ち位置している図書館。宇宙の始まりから人間、神、動物など生命があるものならばここの図書館の書物に詰まっている。天井近くある棚。左右見渡しても本棚ばかり。大量にある書物。それでも掃除は行き渡っているのかホコリ臭くもしない。
「あのさ、それに黒いもの入れてみね?」
「黒いものとは?」
月の女神は怪訝に顔を上げた。書き綴っている手を止める。ヤミの顔は真っ黒で炭のようにプスプスしている。普段は輪郭があるのが分かるのにそれさえも分からないほど黒く染まっている。月の女神もその異変に気が付き、ヤミの提案に乗ることはなかった。
「変なものじゃないさ。善と悪、光と闇、対になるものがあってもいいんじゃねぇか? その心に光だけじゃなく闇もあれば、前みたいなことにならず強く生きていけるんじゃねぇかな?」
ヤミは警戒心むき出しの月の女神に優しく言った。月の女神は少し考えて、他の神々の意見も聞いてヤミの提案を引き受けた。型の中に光だけじゃない。闇も添えて。
闇というのは、ヤミの体から一部をもぎ取り小さく小分けして入れられた。人間の誕生はいつか、楽しみだとヤミは一人笑った。
それから間もなくして人間が誕生した。神々がたくさんのモノを詰めて誕生した期待のもの。人間は善と悪を知っている知恵、男女が交われば生命が宿ること、神々のまさに予想した期待の誕生だった。光がなくても夜道を歩ける。以前の彼らと違う。しかし彼らはまた争った。
何故か。
善と悪を知ってもなお、人を傷つけ貶め、虐げ、人の形を模ってもそれは形だけで、その腹の中は醜悪そのもの。
神々は再び世界を絶滅させるか、存命させるか会議を行った。
「まず、何がいけなかったのか詮索しましょう」
これもまた大地の女神が仕切った。
彼女は十二神の中の一柱である。対の相手は天空の男神。
「俺から言っていいか?」
手を挙げて口を開いたのは雷神。対になるものは風神だが同じ男神であるが、雷神と風神だけは他の神々に都合により、対にさせた。この二柱は少しクセがあって、絡みたくないのが理由だ。
「まず、人間だけが悪いみたいな言い方してっけど、あんたらも悪いぜ」
「天候や災害、病、そういった〝有り得なかった〟ものをわざわざ吹っ掛けて人間をおもちゃにしている。〝なかった〟ものをわざわざ意図的に〝あるもの〟に引き起こせられると、人間ストレス半端ないんだわこれが」
風神が頭を抱えて言った。雷神は隣でゴロンと転がり「そうそう」と首がもげるほど頷いている。風神と雷神は神界に殆どいない。人間界に少し近い場所で暮らしているから人間のそういった負の感情を読みやすい。
「心外な。ワシらは人間をおもちゃにしているのではない」
「ただ気晴らしに数回しただけだ」
「あれを創造したのは神であるワシらだ。使う権限はこちらだろう」
そうだそうだ、と自分たちはまるで何も悪くない、という講義。責任転嫁にも程がある。
「なんの用だい?」
月の女神がそれらの作業を書物に書き綴っている。その背後からヤミが近寄ってきた。ここは月の女神が普段立ち位置している図書館。宇宙の始まりから人間、神、動物など生命があるものならばここの図書館の書物に詰まっている。天井近くある棚。左右見渡しても本棚ばかり。大量にある書物。それでも掃除は行き渡っているのかホコリ臭くもしない。
「あのさ、それに黒いもの入れてみね?」
「黒いものとは?」
月の女神は怪訝に顔を上げた。書き綴っている手を止める。ヤミの顔は真っ黒で炭のようにプスプスしている。普段は輪郭があるのが分かるのにそれさえも分からないほど黒く染まっている。月の女神もその異変に気が付き、ヤミの提案に乗ることはなかった。
「変なものじゃないさ。善と悪、光と闇、対になるものがあってもいいんじゃねぇか? その心に光だけじゃなく闇もあれば、前みたいなことにならず強く生きていけるんじゃねぇかな?」
ヤミは警戒心むき出しの月の女神に優しく言った。月の女神は少し考えて、他の神々の意見も聞いてヤミの提案を引き受けた。型の中に光だけじゃない。闇も添えて。
闇というのは、ヤミの体から一部をもぎ取り小さく小分けして入れられた。人間の誕生はいつか、楽しみだとヤミは一人笑った。
それから間もなくして人間が誕生した。神々がたくさんのモノを詰めて誕生した期待のもの。人間は善と悪を知っている知恵、男女が交われば生命が宿ること、神々のまさに予想した期待の誕生だった。光がなくても夜道を歩ける。以前の彼らと違う。しかし彼らはまた争った。
何故か。
善と悪を知ってもなお、人を傷つけ貶め、虐げ、人の形を模ってもそれは形だけで、その腹の中は醜悪そのもの。
神々は再び世界を絶滅させるか、存命させるか会議を行った。
「まず、何がいけなかったのか詮索しましょう」
これもまた大地の女神が仕切った。
彼女は十二神の中の一柱である。対の相手は天空の男神。
「俺から言っていいか?」
手を挙げて口を開いたのは雷神。対になるものは風神だが同じ男神であるが、雷神と風神だけは他の神々に都合により、対にさせた。この二柱は少しクセがあって、絡みたくないのが理由だ。
「まず、人間だけが悪いみたいな言い方してっけど、あんたらも悪いぜ」
「天候や災害、病、そういった〝有り得なかった〟ものをわざわざ吹っ掛けて人間をおもちゃにしている。〝なかった〟ものをわざわざ意図的に〝あるもの〟に引き起こせられると、人間ストレス半端ないんだわこれが」
風神が頭を抱えて言った。雷神は隣でゴロンと転がり「そうそう」と首がもげるほど頷いている。風神と雷神は神界に殆どいない。人間界に少し近い場所で暮らしているから人間のそういった負の感情を読みやすい。
「心外な。ワシらは人間をおもちゃにしているのではない」
「ただ気晴らしに数回しただけだ」
「あれを創造したのは神であるワシらだ。使う権限はこちらだろう」
そうだそうだ、と自分たちはまるで何も悪くない、という講義。責任転嫁にも程がある。
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