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2 直也
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12月。風が冷たい深夜。窓が全て開いてる室内。手が凍るほどの寒さだった。
「う……寒ぃ」
倒れた机を起こして、その上にのって横になる赤井。が、その机はキンキンに冷えて冷たい。氷の上を横になっているのと同じ。赤井はその冷たさに耐えきれなくて床に座る。
――ガンガン!
ドアを無理やりこじ開ける音が、異常な事態に堕ちた僕らの耳にやけに響いた。直也がドアをこじ開けようと体当たりしているんだ。
「くっそ!! 開かねぇ!」
ガンガンと扉を蹴破る。
直也はこう見えても、柔道三段を持っている。大きな体に強い力を持ってしても、頑なに開かない扉。
だんだん、その音が大きくなるにつれ、赤井が苛立ってきた。
「さっきからうるさい! 寝れやしない」
すると、直也は蹴るのをやめ赤井を睨みつけた。その表情は、頭に血が昇り、完全に周りが見えなくなった獰猛な獣。
「お前は、よくこんなときに落ち着いてられるな! 閉じ込められたんだぞ! あれから何時間も経ってるのに救助が来ない! 誰が落ち着けるか!」
直也の言いたいことは分かる。
僕も正直、困惑してるし怖い。情報が全く分からない状況、そして、扉も窓からも脱出できない場所にいる。今自分たちは世界から置いてけぼりにされたような暗い感覚に堕ちた。
科学室は三階。カーテンを外してつなぎ合わせても地上から若干遠い。扉はなにかの重さにふさぎこんで開かない。
絶対絶命。その言葉が脳裏に浮かんだ。直也はじっとすることに不信感を抱き、行動するがおもにそれは、体力が削るだけ。実際、もう息が切れていた。この真冬、この状況で一番最悪なのは体力だ。
赤井が温存しようと声をかけたのは何分前か――。
「とりあえず、体力の消耗になる。やめとけ」
「うるせっー! クソクソクソ!!」
直也は逆上して、扉を力任せに蹴破る。赤井は言っても無駄だ、とお手上げのポーズをして再び、目をつぶった。それから、直也は獰猛の獣のように壁や扉を蹴破った。
苛々している。ひしひしと僕らにも分かった。その矛先は夏木ゆきに理不尽に向かう。
夏木ゆきはそれまで、黙って死体の近くでしゃがんでいた。痛々しい死体を間近で見ても表情も態度も変わらない。ただ、眼鏡の奥から見える黒い瞳は、生気を失った真っ黒闇だった。
直也は夏木ゆきのボサボサの髪の毛を掴んで、窓のほうへと引っ張った。まだ、破片がチリチリに残る枠に頭を押し付ける。
「こいつのせいだ! こいつのせいで俺らはこんなとこに閉じ込められたんだ! こいつのせいでこいつのせいでっ!」
「う……あぅ…やめて」
首筋にツゥと線が入った。それから丸い血の玉が顔をだす。直也はそれでもグイグイと頭を押しつけた。その顔は完全に怒りに満ちている。誰も止められない。いいや、これはいつものことだ。いつもいつも、直也が怒ったとき夏木ゆきが理不尽な目に合うことなど日常茶飯事。だから、誰も止めない。
利根川はネイルアートを施した爪を綺麗に磨いて、真澄は倒れた机や椅子をなおして自分だけの領域をつくっている。僕もいつもの通り見てみぬふりをした。簡単だ。耳をおさえて聞こえなくすれば全て、そんなの目の当たりにしない。
でも、今回は違った。赤井がそれを止めたのだ。死ぬぞ、とたった一言。僕ももちろん、夏木ゆきも腰を抜かすほど驚いたはずだ。だって、今の今さら心配されるなんて思ってもみなかった。それに、地震が起きる前、僕らは処刑遊戯をしていた。夏木ゆきのあの首に縄をくくろうとしていたのに、それが今さら死ぬぞ、なんて笑いのへったくりもない。
直也は赤井を睨みつけた。充血したように赤い目玉。
「今……なんつった?」
「死・ぬ・ぞ、て言ったの。もうそんな奴ほっといて体力温存のためにゆっくりしよう」
非常に不穏な空気になった。
今にでも飛びかかりそうな直也。目を疑うほど冷静な赤井。両者の間では亀裂が交えた。まさに、見えない火花が目からバチバチと散っている。
直也は夏木ゆきを離して、一直線に赤井のもとにズカズカ歩みよった。夏木ゆきはバタンと倒れるように腰をおろし、即座に手で首元を覆い被した。
直也は赤井に寄り、胸グラを掴む。
「お前、さっきから何なんだ? 何様だ? この俺さまを置いて何発言してんだよ!」
牙を剥き出しの野生の獣の姿だ。傍から見ていても背筋が凍るほど怖い。あんな表情で近くに来たらと思うと、身の毛もよだつ。対して、赤井の奴は冷めた目で直也のことを見下ろしていた。目の前の獣の姿に、まったく動じていない。
「直也、少し冷静になれよ。今揉めあっても仕方がないだろう? みんな不安なんだ。引っ張ってくれる頼もしいお前がそんなんじゃ心許ないだろ?」
落ち着いた口調で、やんわり煽てる口調でそう言う赤井。直也はその言葉にパッと腕を離し表情が少し楽になった。
「そうだな。あぁ、そうだ! 俺がしっかりしないとお前ら全然だめだな。まったく。早くそう言えよ」
直也の機嫌が一瞬でなおった。
赤井はフッと笑って直也の肩をポンポンと叩く。それから、くるりと後ろを返すとさっきまでの表情を一転させ、生真面目な表情となった。荒々しく捕まれた胸グラを程よくなおす。
それから時は流れた。
時間は一秒一秒過ぎていく。けど、その時間は重みだった。時間は流れているのに現状は変わらない。目を開けて何度も見る非日常。平和だった現実から薄離れた景色が頭をガンガンとうちつける。
腕につけている時計を見下ろしてみた。午後十二時五十二分で止まっている。
「お腹、すいた」
利根川がお腹をおさえてつぶやいた。
「やめて」
真澄が強くその言葉を覆い被す。
「ハンバーガー食べたいなぁ」
「ステーキとかな」
利根川続いて直也も口走る。
「二人ともやめて」
真澄が今までより強く言う。
地震が起きた十二時五十二分から、明らかに夜明けに近い時間帯に二人は食べ物の話しを交した。真澄は赤井と同じように自分のテリトリーをそこら辺の机とかで用いて、横になっている。僕らに背を向けて。
利根川たちがこんな話しを交わす前、意外なほど静かだった。深夜の夜に相応しい静寂。たぶん、寝てたやつもいただろう。けど実際寝れてないよな。目をつぶるたび、まつ毛に霜が張り付いて痛い。だから、容易に寝れるやつなんていないさ。
「いいじゃん。言うだけ」
「言ったら、ますます食べたくなるでしょ」
背を見せながら会話が続く。と、すると直也が何やら不気味な笑みを宿した。目の奥の眼光が鋭く光っている。
内ポケットから何やらいかがわしい玩具を取り出した。色は灰色に近くて、先端は男性用の亀頭をモチーフとされた大きなシリコン製。アメリカでも巨根と支持され、有名なアダルトグッズ製品だ。それを横になっている真澄のお尻に近づけた。バイブ音で気づいたのか、跳ねるように真澄は起き上がた。
直也の持っているソレを凝視して、一歩仰け反る。
「なにやってんの? 悪ふざけは大概にしてよね」
強気に言うが微かに震えている。直也はニヤニヤ気色悪い笑みしてジリジリと真澄に寄る。
「冗談じゃないさ。前からお前のことが気になってたんだ」
「うそー! それ、この前あたしにも言ってた台詞!」
利根川がクスクス笑って楽しそうに目を細める。真澄はビシと夏木ゆきを指差した。
「どうして私なの!? 暇ならあいつが相手してくれるじゃん!」
「あいつもう股ガバガバなんだよ。ユルいから真澄、お願いな」
ニヤニヤ笑って真澄の足を掴んだ。
いやぁぁぁと悲鳴に似た雄叫びが響いた。水面におぼれた虫のようにジタバタと暴れる足。しかし、無慈悲にもその足の間に蛇のように手を突っ込まれる。周りは、誰も助けない。
赤井はこんな緊急時に寝ているし、夏木ゆきは毛頭助ける気なんてないだろうな。いじめられっ子がいじめっ子を助けるなんざ、どの漫画もどんなジャンルもない。
残る僕は助けない選択肢を選んだ。直也に目をつけられたくないからだ。
髪の毛も服装もとりわけ、地味っ子の真澄。しかし、その裏で利根川を操って虐めのターゲットを決めたり学校の支配計画についても巧妙で頭の切れる女。大きな影に隠れて、自分の手は一切汚さない、そんな女が直也の持ってきたバイブで腰をよがっている。
「おっ感じてる? 感じちゃってる?」
ニヤニヤ笑う直也。すると……。
「この、ふっざけんなぁぁぁぁぁっ!!」
真澄が直也の体を足蹴り。
思ってもみなかった抵抗に直也は少し、後ずさった。
「おっととと……このやろ――あ?」
「え?」
直也のお腹に窓硝子の破片が刺さっていた。
「う……寒ぃ」
倒れた机を起こして、その上にのって横になる赤井。が、その机はキンキンに冷えて冷たい。氷の上を横になっているのと同じ。赤井はその冷たさに耐えきれなくて床に座る。
――ガンガン!
ドアを無理やりこじ開ける音が、異常な事態に堕ちた僕らの耳にやけに響いた。直也がドアをこじ開けようと体当たりしているんだ。
「くっそ!! 開かねぇ!」
ガンガンと扉を蹴破る。
直也はこう見えても、柔道三段を持っている。大きな体に強い力を持ってしても、頑なに開かない扉。
だんだん、その音が大きくなるにつれ、赤井が苛立ってきた。
「さっきからうるさい! 寝れやしない」
すると、直也は蹴るのをやめ赤井を睨みつけた。その表情は、頭に血が昇り、完全に周りが見えなくなった獰猛な獣。
「お前は、よくこんなときに落ち着いてられるな! 閉じ込められたんだぞ! あれから何時間も経ってるのに救助が来ない! 誰が落ち着けるか!」
直也の言いたいことは分かる。
僕も正直、困惑してるし怖い。情報が全く分からない状況、そして、扉も窓からも脱出できない場所にいる。今自分たちは世界から置いてけぼりにされたような暗い感覚に堕ちた。
科学室は三階。カーテンを外してつなぎ合わせても地上から若干遠い。扉はなにかの重さにふさぎこんで開かない。
絶対絶命。その言葉が脳裏に浮かんだ。直也はじっとすることに不信感を抱き、行動するがおもにそれは、体力が削るだけ。実際、もう息が切れていた。この真冬、この状況で一番最悪なのは体力だ。
赤井が温存しようと声をかけたのは何分前か――。
「とりあえず、体力の消耗になる。やめとけ」
「うるせっー! クソクソクソ!!」
直也は逆上して、扉を力任せに蹴破る。赤井は言っても無駄だ、とお手上げのポーズをして再び、目をつぶった。それから、直也は獰猛の獣のように壁や扉を蹴破った。
苛々している。ひしひしと僕らにも分かった。その矛先は夏木ゆきに理不尽に向かう。
夏木ゆきはそれまで、黙って死体の近くでしゃがんでいた。痛々しい死体を間近で見ても表情も態度も変わらない。ただ、眼鏡の奥から見える黒い瞳は、生気を失った真っ黒闇だった。
直也は夏木ゆきのボサボサの髪の毛を掴んで、窓のほうへと引っ張った。まだ、破片がチリチリに残る枠に頭を押し付ける。
「こいつのせいだ! こいつのせいで俺らはこんなとこに閉じ込められたんだ! こいつのせいでこいつのせいでっ!」
「う……あぅ…やめて」
首筋にツゥと線が入った。それから丸い血の玉が顔をだす。直也はそれでもグイグイと頭を押しつけた。その顔は完全に怒りに満ちている。誰も止められない。いいや、これはいつものことだ。いつもいつも、直也が怒ったとき夏木ゆきが理不尽な目に合うことなど日常茶飯事。だから、誰も止めない。
利根川はネイルアートを施した爪を綺麗に磨いて、真澄は倒れた机や椅子をなおして自分だけの領域をつくっている。僕もいつもの通り見てみぬふりをした。簡単だ。耳をおさえて聞こえなくすれば全て、そんなの目の当たりにしない。
でも、今回は違った。赤井がそれを止めたのだ。死ぬぞ、とたった一言。僕ももちろん、夏木ゆきも腰を抜かすほど驚いたはずだ。だって、今の今さら心配されるなんて思ってもみなかった。それに、地震が起きる前、僕らは処刑遊戯をしていた。夏木ゆきのあの首に縄をくくろうとしていたのに、それが今さら死ぬぞ、なんて笑いのへったくりもない。
直也は赤井を睨みつけた。充血したように赤い目玉。
「今……なんつった?」
「死・ぬ・ぞ、て言ったの。もうそんな奴ほっといて体力温存のためにゆっくりしよう」
非常に不穏な空気になった。
今にでも飛びかかりそうな直也。目を疑うほど冷静な赤井。両者の間では亀裂が交えた。まさに、見えない火花が目からバチバチと散っている。
直也は夏木ゆきを離して、一直線に赤井のもとにズカズカ歩みよった。夏木ゆきはバタンと倒れるように腰をおろし、即座に手で首元を覆い被した。
直也は赤井に寄り、胸グラを掴む。
「お前、さっきから何なんだ? 何様だ? この俺さまを置いて何発言してんだよ!」
牙を剥き出しの野生の獣の姿だ。傍から見ていても背筋が凍るほど怖い。あんな表情で近くに来たらと思うと、身の毛もよだつ。対して、赤井の奴は冷めた目で直也のことを見下ろしていた。目の前の獣の姿に、まったく動じていない。
「直也、少し冷静になれよ。今揉めあっても仕方がないだろう? みんな不安なんだ。引っ張ってくれる頼もしいお前がそんなんじゃ心許ないだろ?」
落ち着いた口調で、やんわり煽てる口調でそう言う赤井。直也はその言葉にパッと腕を離し表情が少し楽になった。
「そうだな。あぁ、そうだ! 俺がしっかりしないとお前ら全然だめだな。まったく。早くそう言えよ」
直也の機嫌が一瞬でなおった。
赤井はフッと笑って直也の肩をポンポンと叩く。それから、くるりと後ろを返すとさっきまでの表情を一転させ、生真面目な表情となった。荒々しく捕まれた胸グラを程よくなおす。
それから時は流れた。
時間は一秒一秒過ぎていく。けど、その時間は重みだった。時間は流れているのに現状は変わらない。目を開けて何度も見る非日常。平和だった現実から薄離れた景色が頭をガンガンとうちつける。
腕につけている時計を見下ろしてみた。午後十二時五十二分で止まっている。
「お腹、すいた」
利根川がお腹をおさえてつぶやいた。
「やめて」
真澄が強くその言葉を覆い被す。
「ハンバーガー食べたいなぁ」
「ステーキとかな」
利根川続いて直也も口走る。
「二人ともやめて」
真澄が今までより強く言う。
地震が起きた十二時五十二分から、明らかに夜明けに近い時間帯に二人は食べ物の話しを交した。真澄は赤井と同じように自分のテリトリーをそこら辺の机とかで用いて、横になっている。僕らに背を向けて。
利根川たちがこんな話しを交わす前、意外なほど静かだった。深夜の夜に相応しい静寂。たぶん、寝てたやつもいただろう。けど実際寝れてないよな。目をつぶるたび、まつ毛に霜が張り付いて痛い。だから、容易に寝れるやつなんていないさ。
「いいじゃん。言うだけ」
「言ったら、ますます食べたくなるでしょ」
背を見せながら会話が続く。と、すると直也が何やら不気味な笑みを宿した。目の奥の眼光が鋭く光っている。
内ポケットから何やらいかがわしい玩具を取り出した。色は灰色に近くて、先端は男性用の亀頭をモチーフとされた大きなシリコン製。アメリカでも巨根と支持され、有名なアダルトグッズ製品だ。それを横になっている真澄のお尻に近づけた。バイブ音で気づいたのか、跳ねるように真澄は起き上がた。
直也の持っているソレを凝視して、一歩仰け反る。
「なにやってんの? 悪ふざけは大概にしてよね」
強気に言うが微かに震えている。直也はニヤニヤ気色悪い笑みしてジリジリと真澄に寄る。
「冗談じゃないさ。前からお前のことが気になってたんだ」
「うそー! それ、この前あたしにも言ってた台詞!」
利根川がクスクス笑って楽しそうに目を細める。真澄はビシと夏木ゆきを指差した。
「どうして私なの!? 暇ならあいつが相手してくれるじゃん!」
「あいつもう股ガバガバなんだよ。ユルいから真澄、お願いな」
ニヤニヤ笑って真澄の足を掴んだ。
いやぁぁぁと悲鳴に似た雄叫びが響いた。水面におぼれた虫のようにジタバタと暴れる足。しかし、無慈悲にもその足の間に蛇のように手を突っ込まれる。周りは、誰も助けない。
赤井はこんな緊急時に寝ているし、夏木ゆきは毛頭助ける気なんてないだろうな。いじめられっ子がいじめっ子を助けるなんざ、どの漫画もどんなジャンルもない。
残る僕は助けない選択肢を選んだ。直也に目をつけられたくないからだ。
髪の毛も服装もとりわけ、地味っ子の真澄。しかし、その裏で利根川を操って虐めのターゲットを決めたり学校の支配計画についても巧妙で頭の切れる女。大きな影に隠れて、自分の手は一切汚さない、そんな女が直也の持ってきたバイブで腰をよがっている。
「おっ感じてる? 感じちゃってる?」
ニヤニヤ笑う直也。すると……。
「この、ふっざけんなぁぁぁぁぁっ!!」
真澄が直也の体を足蹴り。
思ってもみなかった抵抗に直也は少し、後ずさった。
「おっととと……このやろ――あ?」
「え?」
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