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九章 侵略者と未来人
第90話 テニス
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商店街を渡り歩きながら疲れたら休憩を挟んで、それから大通りまでやってきた。
「こ、ここは?」
見たことのない景色に一気に警戒心をみせた。まるで強い敵に威嚇でもするかのように鋭い眼光で辺りを見渡す。
「ここは、大通りだ。商店街の表道て言えば分かるか」
適当に言ったら、なる程と理解してくれた。商店街よりも大きく舗装された道路。行き交うのは人ではなく無数の車。家が並んである。
「ここは何もないな」
しょんぼりとした様子。
「何もなくない。ほら、あそこに書店屋がある。よく学校帰りに行くんだよな」
ふらふらと歩くと何かに引っ張り戻された。振り向くと鹿室が服をがっちり掴んでいる。
「……疲れた」
「え、さっきも休憩したよな?」
「疲れたて言ったら休憩するの!」
後ろ向きのまま、グイグイ引っ張られた。普段使われていなさそうな苔が生えた椅子に座り込んで、首をうなだれている。ほんとに疲れたのかもしれない。あるいは、見たことのない景色に不安でいっぱいになり、怖くなっているとか。
「体調どうなんだ?」
ボソボソとアイスに耳打ちした。
『心拍数乱れなし。体調は良好。今日は曇天もない快晴快調!』
アイスは目の色を黄色にさせている。笑っているつもりだろうか。鹿室はゆっくり顔を上げた。
「もう、うるさいわね。大丈夫だし。ちょっと見る景色に戸惑っちゃって」
技術は未来のほうが勝っているのに、この景色を新鮮のように見てきた。未来では一体どんな景色が広がっているのか。
この反応があるから、未来について聞きたくても聞け出せない。無理に聞けば混乱させるからな。ふと、何かに気づいたように目を見開いた。
「しょ、てん?」
「あぁ、ここを真っ直ぐ行ってそこを曲がると書店屋があるんだ」
書店と聞いて、目をキラキラさせた。腰を上げ、俺に顔を向ける。その顔は俯いてうなだれていた表情じゃない。とても清々しいほどの晴れやかな顔。
「書店屋に行ってみたい!」
そんなことをそんな表情で言われたら、こっちも応えなければなるまい。ちなみに、どうしてそんなに書店屋に行きたいのか、理由を聞いてみた。
「僕はトト機関だってこと、忘れてないか? 人類が炎に包まれてもトト機関の内部だけは歴史的な書がある。僕は読み書きができるんだ! そして、この時代にあった〝漫画〟というものを一度見てみたい!」
子供のように無邪気に言った。
アイスの目の色が水色に変わった。どういう感情を表しているのか、分からない。俺より先に走っていき、書店屋のドアに顔面をぶつけた。
「ぶっ!」
「ふはは、何してたんだよ。自動ドアじゃねぇよ。ここを押すんだ」
顔面を赤くして、しゃがみこんでいる鹿室にドアの開け方を教える。鼻を抑えていた鹿室はそれを見て、立ち上がった。
「そんなの、知ってたし!」
未だに顔面を赤くしながらも、強気に言った。たった今教えた開け方を出来て、店内に入って行った。アイスも当然のようにその後を追う。
鹿室は漫画を知りたがっていた。未来ではトト機関が運営している図書館のみ、漫画が置いてあるが、ごく数本だけで、続編物でも中々入手できない。
鹿室が見たいのは続編物の漫画だ。
「タイトルは確か……〇〇で人類に現れた敵を少年少女たちが倒す物語なんだ。著者がこの時代に執筆したもので、僕は、この漫画が好きなんだ」
「それ知ってる。今話題作だからな」
少年漫画の棚に足を運び、並べてある本のタイトルを一冊一冊目に配る。ネットの情報で話題作となり、ニュースにも報じられている。
話題作なもんで、知っていても中々入手できない。
「へぇ。以外と未来でも漫画はあるんだな。ちょっと良かった」
知ってるシリーズ物を見つけて、棚から引っ張りあげる。
「五十冊しかない。ほんとはもっとあったが、一ヶ月前図書館が襲撃にあって、本も何もかも燃えたんだ」
鹿室は切なく言った。長い髪の毛で表情は隠されているが、きっと、哀しい表情をしている。漫画が束ねる棚を見渡して、最初、目をキラキ輝かせていた。
新たな一面が見れた。ほんとは武器を持つ子供じゃない。読者が好きな文系子だ。
話題作だし、鹿室が知っている巻まで発売していなかった。諦めて何も買わずに書店屋を出た。何も掴めなかったが、鹿室は嬉しそう。たくさんの漫画に囲まれたからだ。
「次っ! 次はどこ行く!」
目をキラキラ輝かせながら、振り向いた。何処かに行くと決まって信じて疑わない顔だ。帰る選択肢なし。
『でしたら、運動公園に向かわれたら。そこではこの時間帯テニスコートが空いています。予約しますか?』
「てにす?」
キョトンとなった。確かにここから近いのは運動公園だが、買い物もしてなおかつ、ぶらぶら歩いてきた。体力もそれ程ない。まぁ、テニスを知らない未来人のため、ここは一肌脱ぐしかない。
「ラケットを持ってボールを打ち合うことだ」
簡単に説明すると、なる程と理解した。理解したのか本当に、あの説明で。
説明を聞いた鹿室は、アイスの黒い画面をタップした。するとアイスが大きく起動した。まるで、今起きたロボットのように。
『了解致しました。只今予約中です――予約しました』
あのテニスコートは確か、予約制じゃなかったはず。爺婆たちが老人会のために、真っ昼間からよく使われているコートで、この地域はそれを知っているせいで、誰もテニスをやりたがらない。
特にこんな晴れた快晴の真っ昼間は。
老人会は毎日のようにある。毎日見ている光景でな。それを予約したなんて。簡単に出来ることじゃない。
アイスに疑問の目をかけるが、いつの間にか運動公園にたどり着いていた。舗装された陸上競技場。白いラインが眩しい。
左右には観客席があり、その裏にはテニスコートがある。テニスを知らなかったやつが、いきなりテニスが出来る話、きいたことない。
テニスコートからポンポンと打ち合う音が聞こえる。やっぱり先客がいるじゃないか、とアイスを睨みつけた。テニスコートに恐る恐る足を運ぶと片側しか使っていない。
もう一方の広いコートは誰かに、何かを指示されたのか、全く誰も入ってこなかった。
「あれがテニス」
ポンポンと打ち合う姿をみて、目をぱちくりさせている。
「言っとくが俺もテニスやったことないからできないぞ。ルールは知っているだけで、あそこにいる人たちに学んでこい」
とん、と背中を押すと、そこに、足裏をぴったりとくっついて行こうとしなかった。ぐっ、と押しても動かない。
「あんた、このいたいけな美少女をあんな銭婆たちのところに行かせる気!? 正気!?」
「正気だし、てめぇの目はあれが某アニメのお婆様に見えんのか? むしろ俺はその目が心配だ」
「よく見ろ! あんなしわくちゃな婆がそう簡単に俊敏に動けるわけない! きっとこれは遊びと生じて訓練に決まっている! 若者の魂を吸い取るんだ。このいたいけな美少女を!」
「いやいや、婆は婆でも動ける婆はいる。それに婆のために吸い込まれろ。潤うぞ」
ぐっ、と力強く押すと「うわっ!」と驚いた声を出してやっと地面から足が離れた。足が向かったのは自然と、先客のおばさまたち。
鹿室がコートに入ってきて、試合が止まった。ボールがてんてん、と転がっていき、鹿室の足元に止まった。
「ご、ごめん、な、さい……あ、あの」
ちらりと助けを求める視線が。俺はガッツポーズを送った。途端に鋭い視線となって返ってきた。
「あ、あの、テニス、教えて下さい」
後半、声が小さくて聞き取れなかった。でもおばさまたちは納得して、鹿室をコートにいれた。
使われていないコートで鹿室にテニスを教えている。その為に空けたのか、偶然か必然か、もし必然だったなら、恐ろしいな。
鹿室がおばさまたちに囲まれて、自然と笑っている。最初はぎごちなかったが、段々と警戒心が緩み、本来の鹿室としての姿をみせた。
その様子を遠くから眺めている。アイスはさっきから、目の色が真っ暗なため、機械が落ちたのかと思ったが唐突に喋りだした。
『久しぶりに見た。あの子の笑顔を』
目の色が真っ暗でも起動してたんだな。少しびっくりして、俺は苦笑した。アイスは話を続けた。
『あの子は幼いころにトト機関に入って、厳しい訓練をしいたげられてきた。周りより過酷な任務を行い、やっと認められ、それでも笑顔を見せなかった。わたくし以外の周りの人間に興味がなかったのに』
「親離れだな」
そう言うと、アイスの目の色が水色やらピンクになった。七色の色に。様々な感情が揺れ動いている。
鹿室はおばさまたちの指導のもと、すっかりやり込めるように。元々身体能力と運動神経が強いのだろう。すぐに試合に入って圧勝した。
『そういえば、何かを忘れているような』
目の色を白く表示させた。
「宇宙人の侵略を止めに来たんじゃないのか?」
ぶっきらぼうに答えると、今思い出したかのようにアイスも鹿室も、口をあんぐりした。
「こ、ここは?」
見たことのない景色に一気に警戒心をみせた。まるで強い敵に威嚇でもするかのように鋭い眼光で辺りを見渡す。
「ここは、大通りだ。商店街の表道て言えば分かるか」
適当に言ったら、なる程と理解してくれた。商店街よりも大きく舗装された道路。行き交うのは人ではなく無数の車。家が並んである。
「ここは何もないな」
しょんぼりとした様子。
「何もなくない。ほら、あそこに書店屋がある。よく学校帰りに行くんだよな」
ふらふらと歩くと何かに引っ張り戻された。振り向くと鹿室が服をがっちり掴んでいる。
「……疲れた」
「え、さっきも休憩したよな?」
「疲れたて言ったら休憩するの!」
後ろ向きのまま、グイグイ引っ張られた。普段使われていなさそうな苔が生えた椅子に座り込んで、首をうなだれている。ほんとに疲れたのかもしれない。あるいは、見たことのない景色に不安でいっぱいになり、怖くなっているとか。
「体調どうなんだ?」
ボソボソとアイスに耳打ちした。
『心拍数乱れなし。体調は良好。今日は曇天もない快晴快調!』
アイスは目の色を黄色にさせている。笑っているつもりだろうか。鹿室はゆっくり顔を上げた。
「もう、うるさいわね。大丈夫だし。ちょっと見る景色に戸惑っちゃって」
技術は未来のほうが勝っているのに、この景色を新鮮のように見てきた。未来では一体どんな景色が広がっているのか。
この反応があるから、未来について聞きたくても聞け出せない。無理に聞けば混乱させるからな。ふと、何かに気づいたように目を見開いた。
「しょ、てん?」
「あぁ、ここを真っ直ぐ行ってそこを曲がると書店屋があるんだ」
書店と聞いて、目をキラキラさせた。腰を上げ、俺に顔を向ける。その顔は俯いてうなだれていた表情じゃない。とても清々しいほどの晴れやかな顔。
「書店屋に行ってみたい!」
そんなことをそんな表情で言われたら、こっちも応えなければなるまい。ちなみに、どうしてそんなに書店屋に行きたいのか、理由を聞いてみた。
「僕はトト機関だってこと、忘れてないか? 人類が炎に包まれてもトト機関の内部だけは歴史的な書がある。僕は読み書きができるんだ! そして、この時代にあった〝漫画〟というものを一度見てみたい!」
子供のように無邪気に言った。
アイスの目の色が水色に変わった。どういう感情を表しているのか、分からない。俺より先に走っていき、書店屋のドアに顔面をぶつけた。
「ぶっ!」
「ふはは、何してたんだよ。自動ドアじゃねぇよ。ここを押すんだ」
顔面を赤くして、しゃがみこんでいる鹿室にドアの開け方を教える。鼻を抑えていた鹿室はそれを見て、立ち上がった。
「そんなの、知ってたし!」
未だに顔面を赤くしながらも、強気に言った。たった今教えた開け方を出来て、店内に入って行った。アイスも当然のようにその後を追う。
鹿室は漫画を知りたがっていた。未来ではトト機関が運営している図書館のみ、漫画が置いてあるが、ごく数本だけで、続編物でも中々入手できない。
鹿室が見たいのは続編物の漫画だ。
「タイトルは確か……〇〇で人類に現れた敵を少年少女たちが倒す物語なんだ。著者がこの時代に執筆したもので、僕は、この漫画が好きなんだ」
「それ知ってる。今話題作だからな」
少年漫画の棚に足を運び、並べてある本のタイトルを一冊一冊目に配る。ネットの情報で話題作となり、ニュースにも報じられている。
話題作なもんで、知っていても中々入手できない。
「へぇ。以外と未来でも漫画はあるんだな。ちょっと良かった」
知ってるシリーズ物を見つけて、棚から引っ張りあげる。
「五十冊しかない。ほんとはもっとあったが、一ヶ月前図書館が襲撃にあって、本も何もかも燃えたんだ」
鹿室は切なく言った。長い髪の毛で表情は隠されているが、きっと、哀しい表情をしている。漫画が束ねる棚を見渡して、最初、目をキラキ輝かせていた。
新たな一面が見れた。ほんとは武器を持つ子供じゃない。読者が好きな文系子だ。
話題作だし、鹿室が知っている巻まで発売していなかった。諦めて何も買わずに書店屋を出た。何も掴めなかったが、鹿室は嬉しそう。たくさんの漫画に囲まれたからだ。
「次っ! 次はどこ行く!」
目をキラキラ輝かせながら、振り向いた。何処かに行くと決まって信じて疑わない顔だ。帰る選択肢なし。
『でしたら、運動公園に向かわれたら。そこではこの時間帯テニスコートが空いています。予約しますか?』
「てにす?」
キョトンとなった。確かにここから近いのは運動公園だが、買い物もしてなおかつ、ぶらぶら歩いてきた。体力もそれ程ない。まぁ、テニスを知らない未来人のため、ここは一肌脱ぐしかない。
「ラケットを持ってボールを打ち合うことだ」
簡単に説明すると、なる程と理解した。理解したのか本当に、あの説明で。
説明を聞いた鹿室は、アイスの黒い画面をタップした。するとアイスが大きく起動した。まるで、今起きたロボットのように。
『了解致しました。只今予約中です――予約しました』
あのテニスコートは確か、予約制じゃなかったはず。爺婆たちが老人会のために、真っ昼間からよく使われているコートで、この地域はそれを知っているせいで、誰もテニスをやりたがらない。
特にこんな晴れた快晴の真っ昼間は。
老人会は毎日のようにある。毎日見ている光景でな。それを予約したなんて。簡単に出来ることじゃない。
アイスに疑問の目をかけるが、いつの間にか運動公園にたどり着いていた。舗装された陸上競技場。白いラインが眩しい。
左右には観客席があり、その裏にはテニスコートがある。テニスを知らなかったやつが、いきなりテニスが出来る話、きいたことない。
テニスコートからポンポンと打ち合う音が聞こえる。やっぱり先客がいるじゃないか、とアイスを睨みつけた。テニスコートに恐る恐る足を運ぶと片側しか使っていない。
もう一方の広いコートは誰かに、何かを指示されたのか、全く誰も入ってこなかった。
「あれがテニス」
ポンポンと打ち合う姿をみて、目をぱちくりさせている。
「言っとくが俺もテニスやったことないからできないぞ。ルールは知っているだけで、あそこにいる人たちに学んでこい」
とん、と背中を押すと、そこに、足裏をぴったりとくっついて行こうとしなかった。ぐっ、と押しても動かない。
「あんた、このいたいけな美少女をあんな銭婆たちのところに行かせる気!? 正気!?」
「正気だし、てめぇの目はあれが某アニメのお婆様に見えんのか? むしろ俺はその目が心配だ」
「よく見ろ! あんなしわくちゃな婆がそう簡単に俊敏に動けるわけない! きっとこれは遊びと生じて訓練に決まっている! 若者の魂を吸い取るんだ。このいたいけな美少女を!」
「いやいや、婆は婆でも動ける婆はいる。それに婆のために吸い込まれろ。潤うぞ」
ぐっ、と力強く押すと「うわっ!」と驚いた声を出してやっと地面から足が離れた。足が向かったのは自然と、先客のおばさまたち。
鹿室がコートに入ってきて、試合が止まった。ボールがてんてん、と転がっていき、鹿室の足元に止まった。
「ご、ごめん、な、さい……あ、あの」
ちらりと助けを求める視線が。俺はガッツポーズを送った。途端に鋭い視線となって返ってきた。
「あ、あの、テニス、教えて下さい」
後半、声が小さくて聞き取れなかった。でもおばさまたちは納得して、鹿室をコートにいれた。
使われていないコートで鹿室にテニスを教えている。その為に空けたのか、偶然か必然か、もし必然だったなら、恐ろしいな。
鹿室がおばさまたちに囲まれて、自然と笑っている。最初はぎごちなかったが、段々と警戒心が緩み、本来の鹿室としての姿をみせた。
その様子を遠くから眺めている。アイスはさっきから、目の色が真っ暗なため、機械が落ちたのかと思ったが唐突に喋りだした。
『久しぶりに見た。あの子の笑顔を』
目の色が真っ暗でも起動してたんだな。少しびっくりして、俺は苦笑した。アイスは話を続けた。
『あの子は幼いころにトト機関に入って、厳しい訓練をしいたげられてきた。周りより過酷な任務を行い、やっと認められ、それでも笑顔を見せなかった。わたくし以外の周りの人間に興味がなかったのに』
「親離れだな」
そう言うと、アイスの目の色が水色やらピンクになった。七色の色に。様々な感情が揺れ動いている。
鹿室はおばさまたちの指導のもと、すっかりやり込めるように。元々身体能力と運動神経が強いのだろう。すぐに試合に入って圧勝した。
『そういえば、何かを忘れているような』
目の色を白く表示させた。
「宇宙人の侵略を止めに来たんじゃないのか?」
ぶっきらぼうに答えると、今思い出したかのようにアイスも鹿室も、口をあんぐりした。
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