うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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七章 侵略者と玉座 

第71話 王座

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 サヨナラを告げ、コスモたちは惑星に帰った。出迎えてくれたのはギャラクシー。あれから少しも動いていないのか、留まった場所で立っていた。実際、宇宙では一時間しか経っていない。そこに留まって帰って来るのを待っていた。
「おかえりなさい。お別れはちゃんと言いましたか?」
 微笑した。
 コスモたちの泣いていた顔を見て、哀しく笑う。帰ってきたコスモたちは早速、責務を果たすことに。第二段階『エンド様を外に出すこと』。

 エンド様のいる部屋の前に集まった。
「これ生きてる?」
 コスモが指差す。
「指ささないの!」
 スターがかっとなって指を逸らす。宮殿内に人がいる。払ったメイドと執事も宮殿内をばたばた走っている。サターン様の逝去がもう星中で知れ渡っている。早急に玉座を決めらなければ。
「わたくしは玉座に相応しいのは、エンド様だと思っています。サターン様の弟君であり、正統にこの星の守備者です。ですが問題なのは……」
 眼鏡を指先でおさえ、暗い表情になった。
「国民の支持率と王政のやり方、でしょ?」
 ギャラクシーが言いたかったその先を、ダスクがさらりと言った。こちらも険しい表情で。コスモは首を傾げる。難しい話なので、もうついていけない。
「あたしもサターン様に弟君がいたの、最近なの。それまで知らなかったし、知らない世代は多い。床に伏せているせいで宮殿内にいる人間からも顔を知れ渡っていない。支持率は全く、と言っていいほど無いと思う。ずっと床に伏せていたせいで、王政がどう取り決めるか知らないのにいきなり玉座に座るとか、甚だすぎる」
 空気は沈黙した。
 ダスクはギャラクシーさえも黙るほどの正論を吐き捨てた。コスモは首を傾げた。
「叩き起こして外に連れ出せば終わりじゃないの?」
「終わりというか始まりね」
 スターがため息をついた。
 目の前の部屋に本人がいるのに、もはや誰も気にも止めない。あれやこれや聞こえる声量で話す。それでも、中の方からは物音はしない。

 ギャラクシーが懐から懐中時計を見下ろした。
「もうすぐ、王族方たちがいらっしゃいます。我々も準備をしなくては」
 顔をあげ、真面目な表情になった。怒っているような鋭い眼光。ギャラクシーは先に応接間に向かう、と言ってコスモたちを残して行った。

 ダスクがやれやれとため息をついた。
「さて、どうしますか」
「だから叩き起こして外に連れ出せばいいだけじゃない?」
 コスモが気だるけに言った。
 スターとダスクはコスモの顔をまじまじ見る。何も考えていない表情。スターがくすりと笑った。
「そうね! 難しい話だったわ。ただ簡単に外に連れ出せばいいのよ!」
「責務を果たす、これ以外ない!」
 スターとダスクはすっきりした表情になり、戸を叩きつけた。
「エンド様、そこにいらっしゃいますよね?」
 ダスクが大きく語りかける。中から返事がない。それでも語りかけた。
「サターン様が、あなたのお姉様が逝去しました。大変心苦しいです。今、この星は混乱に満ちています。出てきてください」
 返事はなし。スターが振り向いて合図を送る。コスモはわかった、と相槌する。待っても返事は返ってこない、と判断した。


 スターとダスクは後ろに隠れる。コスモが部屋の戸を蹴破るからだ。凄まじい大きな音に宮殿が揺れた。宮殿内にいるメイドや執事たちがざわつく。
「皆さん、落ち着いて! 大丈夫です」
 これ以上騒ぎを引き立たせてはいけないと、ギャラクシーは騒ぎ始めるメイドたちに叫んだ。ギャラクシーが〝大丈夫〟だといえば他の者も信じるしかない。

 一旦落ち着いたけども、ギャラクシーの内心は慌てていた。
「全く何をやっているんですか……」
 この音がコスモたちの仕業だと直感した。ひやりと冷たい汗が流れてる。普段かかないのに。

 蹴破った戸は中の方で真っ二つに別れてる。
「あちゃーギャラクシー怒っているかも」
「構わん構わん! やっちゃえ!」
 スターはこの状況でもわっと笑って、奥の部屋に向かった。コスモたちは部屋の中に侵入する。ちゃんと「お邪魔します」と言って。部屋の中は、むわんとしていて暑苦しい。それに、生腐った臭いがぷんとして、鼻が折れ曲がりそう。
「くっっさ! 何なのこの部屋くっっさ!!」
 スターが鼻を強く抑えた。鼻が真っ赤になっている。
「お菓子の臭いとパンの臭いと注射器の臭いと……」 
「分かったから言わないで」
 コスモが鼻をくんくんとし、臭いの根源を辿る。部屋の中は雑誌や食べたあとのお菓子のゴミが散乱していた。足のふみ場もないほど。ゴミにゴミを重ね、山の上を歩いているみたい。

「一樹が見たら失神しそう」
「しそう」
 スターとダスクがうんうんと頷く。部屋の中の有様を見て、自分よりやばい奴いたとコスモは発見する。ゴミ山のせいか、エンド様が見つからない。
「生き埋め」
「馬鹿なこと言わないで!」
 コスモの頭をスターが叩いた。 
「ちゃんと生命体の反応あるの分かってるでしょ」
 スターの触角がピクピク動いている。部屋の中はゴミ山のせいでか、狭いと感じるのに実際見つからないのは、この部屋は実際広いからだ。
 エンド様を見つけている途中、ダスクはあるものを発見。大きな液晶画面にゲームの設定が止まったまま。

 しかもそこだけ、ゴミが溜まっておらず床が見えていた。ゴミを避けて人一人寝れる大きさの穴グラが。その場所にそっと手を添えるとふと温かい。さっきまでここに座ったいた証拠。
「どうやら元気そうね」
 ぽつりと呟いた。
 意識を集中していたスターがくわっと目を見開き、ひときわ大きな声を出した。
「いたぁ! そこに隠れてる!!」
 指差したのは個室のトイレ。部屋の中に個室トイレがあるのは珍しいし、聞いたことも見たこともない。 


 コスモが足をあげた。
「待ってコスモ」
 静止させたのはダスク。
 何? とコスモはダスクを睨みつける。足を宙に浮かせたまま止まっている。
「エンド様に当たったらどうするの。ここはまず話し合いから始めましょ」
 コスモを軽く退かすと、コスモはちっと舌打ち。それ程までに足蹴りをしたかったらしい。コスモの座を降ろさせて、トイレの前にいるのはダスク。トイレに向かっているであろう人物に語りかける。
「エンド様。そこにいるのは分かっています。いい加減出てきてください。サターン様が、あなたの姉君が逝去しました。分かっておいでですよね? これから激しい争奪戦が起きます。あなたも加わるのです」
 返事はなし。
 スターがむっとした。ダスクを退かせて自分が前に踊る。戸をだんだん、と叩いた。
「ちょっと聞こえてるんでしょ! そこにいるのは分かってんだから隠れても無駄ぁ! わたしの視覚から外れたものなどない! さぁ観念して早く出てこい!!」
「ちょっとスター……」 
 スターはふんぞり返っている。
 ダスクはやれやれと手のひらを上に向かせた。


 スターの怒声にも全く返事がない。
「これ死んでるよ」 
「そうね。ゾンビだわ」
 コスモがとを指差し、スターはちっと舌打ち。コスモたちは強行突破をしかけた。話しかけても無視しているのは存分に腹が立つ。
 

 戸を蹴破ったときと同じように、トイレの戸を叩き壊した。また宮殿内に大きな音が響き渡る。ギャラクシーの顔色がまた青くなって、メイドたちに心配される始末。
「何を、何をやっているのですか……!!」
 地面に膝をつき、頭を抱えた。

 一方、コスモたちはようやくエンド様とご対面。中にいたのは、トイレの便器に座ってガタガタ震えている男の子が。
 髪の毛は伸び切って目は前髪は隠れているし、後ろは床につくまで伸び切って痛んでいる。

 ヨレヨレの服を着て、白かった生地がケチャップのあとや黒い埃がついている。人間の年齢でいえば、十八~十九の青年。
「ひっ!!」
 まるで化物でも出たかのような小さな悲鳴を漏らした。
「大丈夫です。安心してください」
 ダスクが駆け寄る。
「あんたがさっさと出ないからでしょお! もがっ」
 スターがやけになって、怒声を浴びせる。ダスクが慌ててその口を封じた。エンド様は便器の上で体育座りして、ガタガタ震えている。雪のように白い肌がやけに、青白いと感じる。
「サターン様の弟」
 コスモが顔を近づけて、まじまじ凝視した。白い肌に黒髪はより映える。サターン様も美しかった。


 だが、こちらは荒れた肌に傷んだ髪の毛。まともに食っていないのか、やせ細っている。
「全然似てない。姉弟、姉妹は似てないものなの?」
 コスモが首をコテンと傾げた。
 コスモの視線に耐えきれなくなり、エンドは態勢を崩した。便器の上からズルズル降りる。
「む、無視したのは悪かった。悪かった、です。だから外だけは! 外だけは行きたくない!」
 酷く怯えた声。
 体も震え、縮こまっている。

 コスモたちはその様子を見て、居た堪れなくなった。サターン様と似てなさすぎて困惑したのもある。だが、王族が簡単に膝をついているのを目にして「あぁ駄目だ」とそれぞれ同じことを思った。
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