うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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四章 侵略者と夏休み 

第49話 買い物

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 久しぶりに惑星に帰ったんだし、気晴らしに自分たちの時間を使いなさいと。コスモたちは俺を連れて、宮殿の外に連れ回す。

 古臭いし暑苦しいし、でも外に行くんだから顔をみられなようにフードを被ってなきゃ。また、門番の人たちみたいに絡まれる。地球では周りより腕力あると思っていたのに、ここでは通用しない。ここでは、コスモみたいな力を持ったのがうじゃうじゃいる。
 さっきみたいに絡まれて、コスモがもし助けに来なかったから――あのまま死。の、かもしれない。

 宮殿の外は、太陽が刺すように痛かった。最初はなんともなかったのに、次に太陽の光を浴びると、全身を針で貫かれた痛みが走った。
「太陽が近いから。人間は焼け死ぬはず」  
 ダスクがサングラスを俺にかけて言った。黒いサングラスで、周りの色が半透明になった。繁華街から無事歩いてこれた理由は、建物の影を歩いていたから。

 サングラスをかけて、フードをかぶった。なるべく、肌を晒さないようにしよう。少しだけ太陽が当たった腕をみると、肌が赤くなっていた。これ以上当たると、皮膚が焼けてドロドロになる。

 危険を乗じて外に行くのは気が引けるが、この真っ広い宮殿で残るのは嫌だ。コスモたちは外に行って買い物をするそうだ。
 久しぶりの故郷の土地を歩いていく。あの長い橋を馬車で使って渡ってく。白馬のような姿形してるけど、背中に羽がついている。伝説上のペガサス、に似ている。
 馬車は楽ちんだ。
 ただ揺られてるだけで目的地までつく。
「サターン様、痩せていた」
 コスモが呟いた。
「やっぱり気づいてた? この間報告したときはそんなにお痩せになかったのに」
 ダスクが真剣な表情で考え込む。
「わたしたち、帰郷した時期間違えたかしら?」
 スターが不安な表情で俺たちのお互いの顔を見つめた。   
「時期は間違いない。長期期間の休みを狙わないと、地球の時間的に一年、二年になりかねない」
 ダスクが真剣な表情で答える。
 三匹が不安な表情をした。俺はモニター越しでしか顔を見たことないから、サターン様の様子がおかしいなんて気が付かなかった。そもそも、おかしいなんて気が付かなかった。

 馬車が止まった。小さな窓から顔を覗かせると、繁華街から少し離れた人通りが薄い場所。馬車から降りていくと、馬車は走っていった。宮殿の馬車だから宮殿にもどったのだろう。
 何処もかしこもレンガ造りの建物だらけだ。宮殿にいたせいで、嗅覚が発達している。この場所は生臭くて頭がガンガンする。この惑星では当たり前なのだろう。コスモたちは特に気にしない様子だっし。

 建物の影から日向へ。俺はフードを深く被った。周りの面々は、気にすることなく通り過ぎさっていく。人間だってバレることはない。
「久しぶりね。ここ、訓練が終わったあとよく食べに行ってたの」
 自慢した場所は、小さな店舗だった。
 猫の顔の看板が目印で、何をかいているのかよくわからない。宇宙語? ぽい。よく食べに行ってた店は、地球でいうとパン屋さんだ。でもこの惑星ではちょっと違う。

 黒焦げになったパンがずらりと置いてある。それを嬉しそうに買って帰る親子連れを見て、これが当たり前なのかと不思議に首をかしげる。
「ここ、近所では美味しかった」
「わたしたち、ほぼ毎日来てて常連さんだったのよ。オマケに一個食パンの耳くれたし」
「それ、嬉しかった?」
 侵略者になる前の、訓練所でいた頃のコスモたちの話を聞くと新鮮だ。今まで話さなかったし。
 コスモたちは、いつも通っていた久しぶりのお店に目を輝かせてる。試しに「行ってみるか?」と訊くと、三匹はその言葉を鵜呑みにしもう扉を開いていた。店内に入ると、出来たてのパンの香りが。

 頭をガンガンいわす悪臭から解放された。店内は親子連れが多くて、活き活きとした声がこだましていた。
 なんだ、割と普通じゃん。見た目は悪いけど、地球と似ているところがあってホッとする。
「アンラ、ナツカシイ!」
 太ったおばさんが駆け寄ってきた。
 頭に三本触覚が生えてて、ぶんぶん振っている。歩くたびに太った脂肪がタプンタプン揺れている。服がはちきれそうな脂肪だ。
「ココニシュウカンキテナカッタカラ、スゴクシンパイシタノ。ゲンキソウデナニヨリ」
 にっと笑った。
「おばさん、わたしたち訓練生じゃなくてもう侵略者だからね。来ないのは当たり前だよ」
 スターがくすくす笑う。おばさんはそうだったね、という顔をしてまたはにかんだ。おばさんは見ない間に変わったコスモたちを、常連だとすぐに分かったらしい。

 コスモのもちもちほっぺたをつねって、おばさんは「まるでパンみたいだね」と高らかに笑った。ダスクの焼けた肌を見て「太陽に焼かれたのかい?」と心配される。スターはいまいち変わってないので、スルーされる。そして最後に矛先が向かったのは、俺だった。

 店内に入ってもフードを深く被っているし、常連と共にやってきたので好奇心と少しの不審感を抱いている。
「ナンダイ? スコシニオイガチガウネェ」
 俺の側にきて、クンクン鼻を嗅いだ。
 変なもの食べた覚えはない。宮殿のお茶がきっと体に染み付いて、匂いになっているんだ。
 俺は耐え切れなくて、体をずらした。でもそれでもクンクン嗅いでくる。怪訝な表情。やめろ、そんな匂い嗅がれると、こっちが恥ずかしい。
「カイダコトナイニオイダネ。チョット、コンナ、ニオイスルノヲウチニイレナイデ!」
 おばさんは俺だけ追い出した。
 ちょっと叩かれたと思ったら弾き飛ばされてて、気がついたら店内の外だった。ゴムみたいにパーンと弾かれたみたい。
 おばさんはふん、と荒い息で追い出した俺を見下ろして、戸を閉めた。どん、と大きな音。

 なんか、すごい事になった。周囲の視線が痛い。すぐに起き上がると、傍らに親子連れの人と目があった。真っ赤な瞳だ。大きくて丸い。零れ出そうな瞳。
 俺は人差し指を唇に近づけると、子供も同じ仕草をしてくれた。
 暫くすると、店内からコスモたちが出てきた。おばさんを説得してきてくれたのだろうか。

 それから俺たちは懐かしい思い出の場所を巡った。訓練生のとき、いつも遊んでいた場所や、訓練生たちから人気なスポットに。巡る地に行くと、それぞれ足を止めて目を輝かせた。
 どれくらい外に行ってたのか、時間が分からない。

 空の色は変わらず真っ赤。赤いペンキをぶっかけたように、赤く染まっている。朝も昼も夜も変わらないらしい。夜になっても太陽が上がってて沈まない。だから、夜という時間は存在しない。
「まだ昼。自由時間残り八時間。ゆっくり使いましょう」
 ダスクがポケットから腕時計を取り出した。ペンダントの形をした時計。残り八時間もある。

 俺はもうヘトヘトだ。街中歩いて、それに周りは生臭い臭いが充満してて休める場所もないし、フードが暑い。脱ぎたい。もう全身脱ぎたい。
 コスモが川に行ったら休めるかも、と提案した。コスモにしては考えたな。俺を気遣ったのかもしれない。

 川辺に行くと、冷たい空気が流れた。橋の下だから影もあってひんやりしてて気持ちいい。川辺の臭いで生臭い臭いも殆どしない。
 でも、やっぱり赤なんだよな。
 赤一色。空の色も川の色も赤。見慣れすぎて飽きてくる。

 太陽の直射日光も届かないしひと目もない。フードを脱ぐと汗が飛沫した。よくこんなものを長時間着ていたものだ、と感心する。体がずっしり重いのは、この衣装のせい。
「そういえば、お前たちは訓練生のときからも仲良かったのか」
 何気なく訊くと、三匹は目を丸くした。
「そうでもない」
 ダスクがすぐに否定した。
 コスモもスターもうんうん、と頷く。 
「同期でもないし、それぞれ学校も違う。星五になって、勲章されてやっと対面した仲なんだから」
 スターがちらりとダスクの顔を見た。ダスクは、怪訝な表情になる。
「勲章される前に知り合う可能性がある。あたしは偶々〝銀河一天才〟なんてレッテル貼られて知られたけど」
「へぇ、そうなんだ?」
「コスモは初めて知ったの?」
 銀河一天才美少女というレッテルを、コスモは知らなかった。コスモの場合、それらの情報を阻害されていたから。
 
 この三匹が仲良いのはもっと前からだと思っていた。違和感なかったし、スターがコスモの面倒見ている場面では、ずっと世話を焼いていたとも思っていたし、スターとダスク妙に息が合うのは、仲良かったからとも思っていた。全部違ったのか。

 それじゃあ、地球に降りる前に仲良くなったのか。それはそれですごい。川辺から見える一際大きな建物。お城のすぐ近くにある三つの建物。

 あれが、侵略者を育成する場所。もっと言うと、コスモたちが本当に育った場所だ。コロシアムみたいな建物と似ていて〈特攻〉〈探索〉〈情報〉にそれぞれ振り分けられている。今も、多くの子供たちが訓練している。
「そんなこと教えていいのかよ」
「別に。人間に言っても、何も出来ないでしょ」 
 ダスクは嘲笑うかのように言った。
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