うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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四章 侵略者と夏休み 

第46話 夏休み

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 初夏が過ぎ七月下旬になると、夏休みに入った。気温は常に三十五℃を記録してて、毎日が暑い日々。夏休みになると、みんな浮かれて長い夏休みの期間でそれぞれどうするか、盛り上がっていた。
「一樹くんはどうするの?」
 委員長が聞いてきた。
 終業式が終わり、放課後。この時間帯になったら、生徒たちは教師の目から自由になり、はしゃぎ回る。帰る準備を整えていると、話しかけてきた。 
「今年は特に……あいつらがいても、特に変わらない気がする」
「そうかな?」
 委員長はクスクス笑った。委員長はこれから友達と寄り道するみたい。俺たちはここで別れた。夏休みになってもまた会おうね、と。

 当然、近所だから会えると思っていた。が、まさか、その当たり前ができなくなるとはこの時、考えもしない。

 家に帰ると、コスモとスター、ダスク三匹がそろって玄関先で待っていた。普段出迎えなんてしないくせに。嫌な予感を感じた。
「おかえり」
「おかえり。なんだよ揃って出迎えか? それとも外行くのか?」
 靴を脱ぎながら訊く。
 ファッションセンスを致命的に欠けているダスクの服装が割とマトモだった。主張するかのように民族衣装をいつも羽織っていたけど、今日してない。ピシッときめていた。
「今日から夏休みでしょ?」
「あぁ、そうだ」
 スターが上機嫌に聞いてきた。
 無駄にニコニコしている。 
「それじゃあレッツゴォー」
 コスモが腕をあげた。
 何処に、と訊く前にスターとダスクが俺の脇を掴んで、ズルズルと引っ張った。まだ靴ちゃんと脱いでいないのに。片方だけ靴を履いている。
「何処に行かせるつもりだ!」
「ちょっと大人しくしてて」
 奥の部屋にどんどん連れて行く。奥の部屋は特に何もない。お客様が来たときの接待部屋だ。
 何をするか分からないが、こんな状況は初めてで軽くパニックだ。とりあえず手当たりしだいに棒や角を掴んで、引き止めた。スターとダスクはそれでも引っ張る。
「もうなにしてんのぉ!? 動かないんだけどぉ!」
「それはこっちの台詞だ。何処に行って何するか言え!」
「いいから大人しくついてきて」
 ダスクが首をゴン、と叩いた。スターほど力はないのに、脊椎をやられると視界がぐわんと揺れた。目の前がチカチカして、焦点が合わない。  
 角を持っている手の力が弱り、そのままズルズルと引っ張られた。客間室に行くのかと思いきや、客間室の窓を突き抜け裏庭に出た。

 裏庭には未確認飛行物体が悠々と置いてあった。丸くて白い球が宙に浮いている。何だあれは。言葉が出てこない。喉が詰まってうまく喋れない。
「荷物置いた?」
「バッチリよ」
 スターとダスクが会話している。
 意識が遠くなっていて、声が二重に聞こえる。
「大丈夫なの?」
 コスモが俺の安否を聞いてきた。
「大丈夫よ。軽くやっといたから」
 ダスクが軽く言う。
 軽くじゃねぇよ。痛いし意識が朦朧としている。コスモたちと関わって、宙に浮いてある物体は珍しくもない。オービットの宇宙船も確か、これと似ている。
 ダスクが球体に手を置くと、機械音がした。それから輪っかが出てきた。フラフープみたいな形。
「暑いしさっさと入りましょ」
 じわじわと蒸せる空気に耐えきれず、スターが白い球体に近づく。近づくと危ない気がする。でもこれは、宇宙人のものだから宇宙人が一番知っている。

 フラフープ状が出現して、機械音がまた鳴った。今度は小さな音だったけど、ダスクはそれを聞いて、丸い球体に入っていく。
 置いていた手が球体の中に入っていき、やがて全身が飲み込まれた。
 ダスクが入るとスターも入っていく。さっと歩いていって球体に飲み込まれていく。二匹ともそれからぱったり姿を見せなかった。
「行こう」
 コスモたちがズルズルと引っ張った。
「まままま待て! あれは俺が入っても大丈夫なのか!? 何処に行かせるつもりだ」
「大丈夫。少しの間、息が止まるだけ」
「死ぬじゃねぇか」
 精一杯の抗議をしてもコスモには敵わない。ズルズルと引っ張られコスモの体が球体に飲み込まれていく。そして、俺の服を掴んでいた所からも飲み込まれ、腕がぬるっと入った。

 変な感触だ。冷たくも暖かくもない。泥に浸かったかのような気持ち悪さ。だんだん顔の方に近づいていく。目元まで浸かると、ぎゅと目を瞑り息を止めた。

「もう大丈夫だよ」
 コスモの声で、恐る恐る目を開いた。景色が見えてきた。壁も天井も白いせいで一瞬、ここは天国かと思ったけど、パソコンや机など生活雑貨を見て、生きていると実感した。
 息を少しの間止めてたせいで、息苦しい。でも室内のほうは快適だ。エアコンがついているのか外よりも涼しい。

「こ、ここは?」
「宇宙船の中」
 俺はじっくり辺りを見渡した。広さは、自分の部屋より大きい。丸い球体の中がまさか、こんな場所とはとても信じられない。
「何処に行くんだ?」
「あたしたちの故郷よ」
 ダスクが大きなモニターを操って、背後で喋った。コスモたちの故郷と聞いて、俺はさぁ、と血の気が引いていった。
「なんで俺まで乗せるんだ! 帰省するなら自分たちだけでいいだろ。こっちは貴重な夏休みだっていうのに」
 ぶつぶつ文句を垂らす。
「サターン様が是非連れて来てほしいて言われたから仕方なくよ。それに、その貴重な夏休み特に何もないんでしょ?」
 ダスクは嘲笑うように言った。
 確かに今年は何処にも行く予定ないが、特にないと決めつけられると逆に腹立つ。

 夏休みは四週間ある。
 朝寝坊出来るし、ぐうたらできる。普段出来ない事がやれるのが夏休みだっていうのに、宇宙に行くなんて壮大すぎだろ。

 今文句を言ったも遅し、宇宙船は飛行して現在雲の上をぐんぐん登っていく。宇宙船には大きな窓があって、そこから現在何処地点を走っているのか分かる。

 初めて雲の上の景色を見た。白い雲が野原のように広がっている。雪みたい。触ってみたら綿みたいだろうな、とぼんやり眺めているとふと、気になる臭いを感じ取った。

 古臭いちゃぶ台が置いてあり、その周りに雑誌やカップラーメンのゴミが散乱していた。そこから漂う異様な臭い。この臭いは一週間も洗っていない親父の靴下と同じ。
「誰だこんなに散らかしたのは」
 スターはコスモを指差して、コスモはスターを指差す。つまり、どっちもどっちてことだな。
 散らかしたものは片付けるように言いつけると、スターは舌打ちした。
「だから連れて来たくなかったのに。これだからオカンは」
「聞こえてるぞ。俺はオカンじゃない。オヤジだ」
「それドヤ顔で言う? 性別のことを言ってんじゃないの! ガミガミ叱りつけてくるのがオカンみたいだなって話」
 コスモがスターの肩をとんとんと叩いた。スターは振り向くと、コスモは
「スター、違うよ。オカンじゃなくて、お袋だよ」
 とこちらもドヤ顔で言った。スターはもうツッコミに疲れて「ハイハイお袋ね。全く二人して天然なんだから」とそっぽを向いて、片付けに集中した。

 雑誌はスターが。食べたあとのゴミはコスモが片付ける。宇宙船の中だからゴミはどうするのか、コスモの行動をずっと見ていたら袋に入れたゴミはパッと消えた。 
「あとはお袋がきっと分別してくれる」
「おい、あのゴミ、俺ん家に送ったのかよ。そういえばこの頃ゴミが増えているってお袋が言ってたのは、お前の仕業か!」
 頭にチョップをかけた。
 手加減してても、コスモは膝をついて「あたたた」と言った。

 宇宙船に乗ってからそれ程時間は経っていないのに、地球の時間は一日経っている。このスピードじゃ、夏休みが完全に潰れた。 
「もうちょっとスピードあげれない?」
 コスモが提案した。
 操縦席にいたダスクがちらりと視線を向いてきた。
「それ、あたしも思っていた。みんなが納得ならスピードアップね」
 赤いボタンを押すと、宇宙船内がガタガタ揺れ始めてスターが「何処かに捕まってないと死ぬわよ」と叫んだ一瞬、体がふわりと浮いて天井に頭をぶつける。
 
「いっ……!」
 喋ることが出来ない。喉を圧迫されている感じ、体もずっと天井に張り付いたままで動けない。貼り付けにされた。
「だから言ったのに」
 スターが天井を見上げて、やれやれと顔をした。それを早くいえよ。睨んでも仕方ない。その後はコスモとスターの手で助けてくれてやっと体が自由になった。

 体が自由になっても、船内はなんだかふわふわ浮いているような感じで居心地悪い。宇宙人は慣れていて、雑誌を読んだりお菓子を食べていたりほぼいつもと変わらない暮らしぶりを船内でもみせていた。
 猛烈に吐き気がしてきた。
 スピードアップに同調するんじゃなかった。
「この調子なら、あと三時間でつきそう」
 ダスクが明るく言った。
 宇宙空間で三時間経つと、地球の時間的には六日かかっている。夏休み丸ごと潰されなくて良かった反面、もう少しスピードを緩めてほしいと願った。  
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