うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

文字の大きさ
39 / 100
三章 侵略者とガーディアン

第39話 三大柱

しおりを挟む
 ハムのおかげで、眼球の回復は出来たし、エネルギーも少しずつだけど戻ってきてる。小さい体だけど内に秘めている力は偉大。宇宙軍の優秀な配下だ。いいや、わたしの大事な相棒だ。
 内ポケットにいるハムに手を差し伸ばすと、ハムはその手のひらにぴょんと飛んだ。凛々しい表情を向ける。
「任せた!」
 腰を屈め、ハムを地面に降ろした。ハムはダッシュでコメットのほうへ向かっていく。小さな全身を使って走っていく。

 動物嫌いなコメットが反応した。
「ネズミの気配! 二度も同じ手に引っかかるか!」
 ヒュンと空気を裂いた。あの剣は長くて薄い。まるで生きているかのように攻撃してくる。見えない速さだ。なのにハムはそれを超えて、コメットに近づいていく。

 コメットの範囲内に入ると、ハムは何処かに消えた。目の前で消えた。コメットは焦って辺りをキョロキョロする。
「わたしはこっちよ!」
 スターの声が背後から。振り向くと、トンと首に何かが当たった。フッ、と意識が遠退いていく。体が地面に吸い込まれていく。なのに体が動かない。そのまま地面に倒れた。
 動かないコメットを見て、スターは大きく息をついた。内ポケットからハムが顔を覗かす。
「やっと片付いた。あんたのおかげよ」 
「キュキュ!」
 ハムは嬉しそうにニコリと笑った。
「さて、決着はついたし合流しないと。コスモのほうは、大丈夫かしら……」
 爆発がした方向に顔を向けた。煙の臭いが風で運ばれてく。すんとする臭いだ。コスモなら大丈夫だ。ソレイユがどんな強敵だろうとコスモなら、絶対に負けるわけない。コスモが本気出せば人間なんて……。
「キュキュ?」
 ハムが心配そうに目尻を下げた。ハムの鳴き声で思考が現実に戻った。
「そうね。善は急げ! さっさと行きましょうか。あ、そういえばこの女はどうしよう」
 地面に横たわっているコメットを抱える。こんな場所に放置すれば、風邪ひくし、なにより狼男が出現してお持ち帰りされて、あんなことやこんなことをされたら、放置したこっちも目覚め悪い。
「よっこい。うわ、乳がキリマンジャロみたい」
 肩に腕を回して抱えあげると、コメットの乳が当たった。プリンみたいな柔らかくて感触がたまらない。髪の毛から良い匂いがして、女でもその魅力にクラクラする。
「ほんとに中学生なのか疑問だわ。てか、中学生でよくあんなに戦ったわね」
 これほど強かったら、二年後、五年後、大きく成長して強くなる。いつか絶対にガーディアン機関に滅ぼされるかもしれない。そんな未来が一瞬でも見えた。  

 すると、こちらに二つの生命体が近づいてくる。一つは知っている。ダスクだ。もう一つは人間のだ。ダスクの反応が少しおかしい。少し小さくなっている。
「キュキュ!?」 
 ハムがびっくりして、全身の毛を波立たせた。内ポケットから出て肩に移動する。全身の毛を立たせ、前足を低くさせた。威嚇のポーズだ。
 低い声で唸る。
 ハムが威嚇のポーズをして唸っている方向は誰もいない。ただ、濃ゆい暗闇が広がっている野原。でもそこから、ダスクたちの反応がする。
 ハムが恐れているのは、ダスクでもなく人間のほうだ。異様に冷たい風が吹いた。雪のように肌に当たると痛い。冬のような寒さだ。

 コメットはまだ意識を落としている。こんな寒さなのに。

 ダスクが負けている。
 直感した。信じたくないけど現実ではそうなっている。加勢に行ったほうがいいかもしれない。でもそれでダスクの足を引っ張ることになったら、それはそれで嫌だ。
 威嚇のポーズをし続けるハムに一声かけた。
「安心して。多分、こっちには来ないと思うから」
 スターには直感していた。
 ダスクは負けている。けれど、他のわたしたちには被害が及ばないように善戦している。その努力を無駄にしたくない。

 スターはダスクから背中を向けて、コスモのほうに向かった。未だにハムは威嚇している。離れていても、それを感じるのだろう。

 コスモの方角に行くにつれて、妙な気配を感じる。複数の人間の気配だ。ソレイユ一人の気配じゃない。人間の男性が三人。コスモの生命体の反応はある。あの爆発で恐らく、コスモも負傷している。

 負けている感じは見られないけど、人間の気配がそこにいる以上、何かある。スターは足裏に力をこめて、大地を強く蹴り、前へ走った。
 振り落とされないようにハムはスターの髪の毛にしがみつく。

 走って走って、ようやくたどり着いた。そこには信じられない光景が、目を疑う光景が広がっていた。
 コスモは大きな鎖で全身縛られ、横たわっていた。近くには男三人と、ソレイユが。コメットを無造作に置いて、両手を顔の前に掲げる。
「全員離れて! 離れないと、痛い目合うから」
 地面にある小石を浮かせた。
 大岩を持ち上げられるエネルギーには達していない。けど、小石ほどなら。
 男性三人はスターの顔を見張った。鋭い目つき。眼光が妖しく光って、まるで闇に照らす猛獣の目と同じ。
「これは、自分のほうから来てくれるとは、助かります」
 鋭い目つきをした男性。かんなぎの服をきっちり皺もなく着ている。神経によく通る声で、それが不気味に脳髄に響きわたる。

 全員二十代の男性たち。コスモを囲んで何をやるのか容易に分かった。
「コスモを縛って複数でプレイなんて、青姦させるか! そんなの、ヤるんだったらわたしも混ぜて!」
 男性たちとソレイユの顔が一瞬キョトンとなった。はてなマークが浮かぶ。ハムもキョトンとする。

 その場は一瞬だけ固まった。
 スターはその気になって、顔を赤らめ腰をくねくねさせている。すぐ近くにいたハムがやれやれと手のひらを上に向かせる。そんなことスターは知らない。

「待って僕たちはそんなことしないよ」
 否定したのは優しそうな顔立ちした男性。こっちも覡の服を着ているけど腕には高価なブレスレットをつけている。
 ヒョロとした体格で、威圧感が感じられない。この中で一番話ができそう。おっとりとした口調も兼ねての第一印象。
「僕たちはガーディアン機関の三大柱。僕たちはこの不当な争いを止めるために来たんだ」
「止めるため?」
 スターは眉間にシワを寄せた。
 ガーディアンの三大柱と聞いて、敵とみなしている。なのに、そいつらがこの喧嘩を止めるために来たと。

 ソレイユは少し遠いところで、一人で突っ立っていた。じっとこちらをうかがっている。喜怒哀楽も感じられない抑制した眼差し。冷たい切れ長の瞳の奥に何を映しているのか分からない。ただ、じっと変わらぬ表情で見つめていた。

 男性が一歩歩み寄った。
「そんなに警戒しないでくれ。僕は百塔 白夜びゃくとう びゃくや。こっちは瑞壁 千斗みずかべ せんと。そしてそこにいるのは、土岐和希。僕らは、ガーディアン機関を支えている三大柱て呼ばれている。今回、この子たちが勝手に仕掛けた争いを、どうか許してほしい」
 白夜と名乗る男が宥めるように優しく言った。少し警戒していたけど、本気らしい。そのことを察したスターはゆっくり腕を下ろす。

 それを見計らって、千斗と呼ばれた男がこちらに突進してきた。
「ははははっ! そうだ、皆同じ兄弟! 喧嘩は良くない!」
 声を張りながら突進してきた。スターはドン引きして、バリアをすぐに張る。
「むっ、バリアか! 姑息な! 正々堂々とやろうではないか! さぁ! さぁ! さぁっ!」
「何こいつ暑苦しい!」
 バリアに額を打ち付けて、腕の力を使って頑丈なバリアをこじ開けていく。スターは身の危険を感じてバリアの壁を三層に増やした。けどこの男、宇宙人の貼った頑丈なバリアを腕の力のみで破り出した。

 人間の技じゃない。

 スターはバリアを幾つも作るが、破られる。そのイタチごっこが続いた。どちらかが敗北しないといけない。そのどちらかが、スターだった。何層も貼ったバリアを腕の力だけで破り出した千斗は、ついに境界線に入ってきた。

 貼ったバリアの欠片が飛び、スターは敵を目前に目を瞑ってしまった。境界線に入ってきた千斗はスターを押し倒した。  
「仲良くやろうではないか! 皆兄弟だ! 手を取り合って仲良くやろうではないか!」 
「熱っ、暑苦しいつぅの! 熱い……ほんとに燃えてる!?」
 押し倒されたスターの地面がドロドロに溶け、赤くマグマのような液体になっている。千斗の手がマグマのように毒々しく赤くなっていた。

 人間の域を超えている。

 ハムは「キュキュ」と鳴き続けている。必死な声。マグマがすぐ近くにいて恐怖と絶望でスターに助けを求めている。その声がすぐ近くだけど、本人は身動きが取れない。

 真っ赤な手に捕まってるから。
 ジュワと右手が燃えていく。真っ白な皮膚がドロドロに溶け、真っ赤な果肉が露になった。逃げられない。右肘まで灰になると、今度は左肘も燃やされた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...