上 下
30 / 100
二章 侵略者と訪問者 

第30話 地球の食べ物

しおりを挟む
 オービットは、金城生徒会長に謝った。嫉妬で襲ったこと、許してほしいと。金城生徒会長は、すぐに許した。元々穏やかな性格もあって、すぐに許してくれた。そして、こんなことを言う。
「いいお茶がある。君も我が家に来るといい」
 と。
 オービットは素直に頷いた。

 一件落着。
 と、その言葉は早い。有ったことはたとえ、宇宙人でも消せない。割れた窓硝子、信号機はダスクの〈情報操作〉でなんとかなった。この事態は臨時ニュースで流れた。何者かのテロ行為だって、大袈裟に言う人も。警察もマスコミもきて学校は、閉鎖。一週間自宅待機。
「ニート暮らし良かったね」
 コスモがにんまり笑った。
「そうだな。お前たちも当分は外行くなよ?」
「はぁ!? なんで」
 スターがかっとなる。
「お袋たちも家にいるから。あんな事故あったし、心配させたくないだろ」
 とそっけなく返すと、コスモは分かったと頷く。ここは相原家。学校は朝のホームルームもなしで帰宅。

 ダスクも我が家にいる。真っ直ぐ金城家に帰るのかと思いきや、そのまま相原家に直行。その理由は、オービットの処分の下しだ。

 オービットは、ずっと暗い表情していた。触覚がピクリとも動かない。今、サターン様たちと通信している。ダスクの持っているタブレットで。
 宮殿みたいな真っ白い室内が最初に見えた。長い階段があり、大きな椅子に、小柄で華奢な女性が座っていた。そばにはギャラクシーが仕えている。

 サターン様は厳しい表情していた。第一印象が優しくて、ほんとに女王なのかそれさえ、威厳を感じない気さくな女性だったせいで、厳しい表情しているのは初見だ。怒っているに近い。目をじっと瞑っている。

 ダスクが報告する前に、目をすっと開けた。暗い瞳が深く漆黒。何も映っていない。コスモの瞳と似ている。けどこっちは怖い。本当に、その瞳の中に吸い込まれそうだ。

『オービット、わたしはとても失望しています。あなたに襲われた子が可哀想です。人を傷つけたら、その倍になって返ってくる。でも――その顔を見ると、もう十分返ってきたようですね。咎める必要はなかったようです』

 サターン様の口調が穏やかに変わった。
 オービットの顔を見て、ふっと静かに笑う。オービットの処分は階級取り下げで済まされた。

 階級取り下げは、一番下っ端になった。侵略訓練で培ったものが消え、また一からやり直し。でもまた、訓練所に入って頑張ればまたやり直せる。オービットは星三つになるまで六年かかった。また六年費やせばいい。

 宇宙人には、まだまだ時間がある。何度転んでも、立ち上がっていける。コスモたちの後釜はオービット以外いない。後輩はいるけど、他皆星二つで、三つの階級はいない。オービットが退けば、激しい後継者争いに巻き込まれるだろう。

 オービットは最後に、地球の食べ物を食べてみたいと言った。そういえば、作ったものを食べてくれるところ、見たことないな。最後の晩餐だから、腕によりをかけてやる。

 ハムカツを作っていると、横からコスモが涎を垂らしてやってきた。その視線の先は油の中でグツグツ湧いているカツを捉えている。もう食べる気になって。
「これはオービットのだぞ」
「私のは?」
「昼飯さっき食べただろ」
 コスモの涎が油の中に入りそうなので、邪魔と押し退けた。でも、コスモの食欲は旺盛で俺の力を持ってしても一歩も動かない。仕方なく、コスモの分も作ってやる。それで満足したのかコスモは、キラキラした瞳で居間に戻っていった。戻っていったコスモを見て、はぁとため息つく。全く。なんであんな食いしん坊なんだ。 

 ハムカツをオービットの前に出すと、オービットは眉間にシワを寄せた。文句を言いたげな顔だ。文句を押し殺して、オービットは箸を持った。
 一口サイズで切って恐る恐るそれを口にした。どう反応するのか、どんな感想言われるのか、俺も内心ヒヤヒヤ。スターもダスクもどんな反応するのか固唾を飲んで見守る。
 ゆっくりそれを咀嚼すると、目を見開いた。
「美味しい」
 口から漏れた言葉は、ほんのたった一言だった。でもそれでも、わっとなって俺たちは喜んだ。
 言った本人は否定しない。無言でハムカツを食べた。その勢いは二日飲み食いもしていなかったような、ガッツのある勢いで、コスモの分まで余裕で食べれそうだ。
「オービット、それ、私の」
 オービットが今度箸を進めてきたのはコスモの。コスモは寸前で箸で止めた。
「ごめんなさい。お腹がすいちゃって」
 オービットは、苦笑して箸を退ける。コスモは勝った、とドヤ顔でハムカツを口にいれた。
「地球の食べ物も悪くない。見直してあげる」
 箸を机に置き、顔を赤らめてそう言った。これは……褒めているのか?

 最後の晩餐も済ませて、オービットは宇宙船に乗った。
「先輩方、迷惑をかけました。先輩方が地球を侵略しているとき、そのときは隣にいます! 絶対追いつきます! 見ててください!」
 オービットは敬礼をしてニッと笑った。今日一番のいい顔で宣言。落第しても、オービットはそこから這い上がる、その活きを持っている。
 それを聞いて、コスモたちは微笑んだ。涙ながらの別れじゃなくて、こんな、アットホームな感じの別れだからこそ良いのかもしれない。
「これから大変かもしれないけど、頑張って」
 ダスクが言った。
 オービットは敬礼したまま「はい!」と大きく返事する。ダスクが「ゆっくりして」と敬礼を解くと、オービットは従う。

 スターとコスモも別れの挨拶を言って、だんだん、オービットの目はうるうるしだして涙が溢れそう。
「元気でな」
 俺が言うと、ひゅと涙が引っ込んだ。やっぱり反応は変わっていない。
「てめぇこそ、今度合うときは奴隷だけどな。せいぜい生きているこった」
 相変わらず悪口。全部いきなり変わることなんて出来るはずがない。オービットは少し考えてから、また口を開いた。
「今度は、いっぱい食べさせてよ。地球のもの」
 ボソリとつぶやいた。 
 宇宙人は、地球のものを好んでくれてよかった。オービットは宇宙船に潜り、宇宙船がふわふわと宙に浮いた。
 俺たちはいなくなるまで手を振る。宇宙船の蛍光のような、赤と青のランプがあってそれを交互に入れ替えている。まるで、さようならを言っているような。

 宇宙船は、遥か遠い空の向こうへと消えていった。快晴の空だから遠くに飛んでもよく見える。でも小さくなっていき、ついには見えなくなった。
 手を降っていた腕を戻す。
「わたしたち、簡単に地球侵略できそうにないから、早く追いつきそうね」
 スターが微笑混じりに言った。
「確かに」
 ダスクも否定しない。
 きっと、宣言したとおりオービットは必ず地球に来るだろう。新たな侵略者として。それはいつか、もしかしたら近い未来かもしれない。オービットの成長に、俺も期待をした。

 いやいや、なんで侵略される側が侵略する宇宙人の成長を期待してるんだ。オービットの場合、こいつらよりも手際良いぞ。ほんとに侵略されたらたまったもんじゃない。

 オービットも帰ったし、俺たちはそれぞれゆっくりした。オービットが帰ったのを見計らったかのようにガーディアンも来て、相原家でまた、テレビゲームをする。騒がしいのがすっかり日常になった。

 ガーディアンの三人は、オービットと遊ぶために来たと。でもさっき帰ったからな。帰ったことを告げると、アポロはしくしく泣いた。
 
 宇宙人一匹が帰っていったからなのか、家にいる犬猫たちも安寧に過ごしている。居間にコスモたちがいても、気にしない猫が増えてきた。十五年いる老犬も、すっかり懐いてコスモたちが座っている横で横になっている。

 一ヶ月待たずして、ダスクの家はすでに金城家と決まった。ダスクは昼間ここで遊びに来てるけど、決まった時間になると帰る。門限は特に決まっていない。なのに、決まった時間に帰る理由は、あの大型のテレビで好きな情報番組を見たいがため。 

 生徒会長とも割と話せるようになった。人間話してみないと分からないもんだな。割と話しが通じて、お互いの共通点が言い合える。そのお互いの共通点とは、宇宙人のことだ。

 本来は、住む場所が違うんだよな。その共通点さえなければ、話すことも目も合わさない。生徒会長はずっと、明るい場所にいて俺は暗い場所にいた。
 こうして話せるのは宇宙人がいるから。少し、宇宙人たちがいてほっとする。

 オービットがいたころは、侵略活動を途中まで頑張っていたせいか、脱力するようにこの頃しない。相原家に集まってゲームしての食べての繰り返し。
 侵略するなとは言わない。でも、いい加減俺の部屋で寝て食べてをやめてほしい。オービットが帰って二日。
「着いたかな?」
 コスモが空を見上げた。小さな雲が転々と青い空に広がっている青空。穏やかな空気が窓から入ってくる。
「今頃、頑張ってるだろ」
 俺はそっけなく返した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

タイは若いうちに行け

フロイライン
BL
修学旅行でタイを訪れた高校生の酒井翔太は、信じられないような災難に巻き込まれ、絶望の淵に叩き落とされる…

転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!

饕餮
ファンタジー
  書籍化決定!   2024/08/中旬ごろの出荷となります!   Web版と書籍版では一部の設定を追加しました! 今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。 救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。 一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。 そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。 だが。 「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」 森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。 ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。 ★主人公は口が悪いです。 ★不定期更新です。 ★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。

真夜中に愛猫とキスを

八百十三
SF
究極なまでのブラック企業、アビス株式会社に勤めるプログラマー、下唐湊崇史(しもとそたかし)は、家に帰った時に出迎えてくれる猫のわらび(年齢不詳・メス)だけが心の支えだった。 徹夜で仕事に取り組み、そのままその日の夜まで仕事をし、真夜中によれよれになりながら自宅に帰った崇史は、玄関に出迎えに来てくれたわらびに思わず頬ずりして、キスをしようと顔を近づける。 だがその時、わらびの方から崇史に顔を寄せて口づけをしてきた。普段ならキスなど許してくれないわらび、遂に許してくれた、と崇史が喜んだのもつかの間、わらびは口の中に舌を突っ込み、熱烈なディープキスをしかけてきた。 愛猫とディープキスという異様な状況に崇史が目をつむると、耳に柔らかな女性の声が聞こえてきた。 「やっと『契約』を結ぶことが出来ましたね、ご主人様?」 目を見開くとそこには、すらりとした体格の猫獣人に返信したわらびの姿が。変身した彼女が言うことには、彼女は地球とは別の次元にに住む、高次元の神の遣いなのだとか。 そして彼女たち神の遣いは、これと決めた相手とキスをすることで『契約』を結び、高次元の存在へと引き上げて力を与えることが出来るのだと言う。 わらびと『契約』を結び、生物の本質を見抜く目を手に入れた崇史は、ブラック過ぎて高次元存在から危険視されている、アビス株式会社の実態を知る。 実は高次元の存在そのもので人間ではなかった同僚六反田(ろくたんだ)、異世界の魔物を溺愛する総務部員四十物(あいもの)。 悪霊に取り憑かれている課長小飯塚(こいいづか)、二次元の邪神を崇拝している部長俵積田(たわらつみだ)、神に祟られている社長七五三掛(しめかけ)。 世界の「ひずみ」に満ち溢れた勤め先の人間は、一癖も二癖もある人物ばかり。 そして契約維持のために毎夜わらびとキスを交わしながら、崇史はブラックすぎる会社をよりよい環境にするべく、六反田や四十物と協力しつつ、異次元の力を使いながら動き出すのだった。 ※ノベルアップ+様、カクヨム様、エブリスタ様でも並行して公開しています。 https://novelup.plus/story/295356818 https://kakuyomu.jp/works/16816700428218503878 https://estar.jp/novels/25903639

Dragon maze~Wild in Blood 2~

まりの
SF
シリーズ二作目。Wild in Bloodの続編。あれから三年。突然A・Hの肌に現れる翼の生えた蛇の印。それは理想郷への免罪符なのか……暗号、悲劇、謎のメッセージ、箱舟から出た竜とは? 主人公をネコのA・Hカイに交代し、ここに新しい神話が始まる。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

もしニートの俺が変な島に漂流したら

佐藤さん
SF
佐藤大輔23歳はニートである。 親の脛を齧って齧りまくるヘタレの青年が、起きると見たことのない島にたどり着いていた。 これはニートがニートを脱却するための、死屍累々の奮闘記である。 一章から三章(全三章)  ニートである佐藤大輔は無人島に漂流してしまった。持ち物は着ている服とくしゃくしゃのチョコスティックだけ。 持ち合わせのない彼に迫るのは、絶滅したはずの獣たちだった 新章  大輔の母、佐藤佳以子は無人島に降り立った。佐藤佳以子は息子を捜し求めて、地球上で最も賢い喋るゴリラを尋ねた。 閑話休題  これは終末人類史の「前置き」である。 リノベーション編  日本の大阪に住むくぅーちゃんは、とある少女に出会い、あらぬ方向に人生が進んでいく。 アポカリプス・インパクト 日本を中心に起きた衝撃が世界を包み、終わりを迎えて3年が経った。

処理中です...