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一章 侵略者と地球人 

第13話 モンスター

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 相原家には、これがいつもの光景としか思えない光景が広がっていた。宇宙人がいて、ガーディアンがいて、一緒にテレビゲームをしている。本来敵同士なのに、一緒の空間になると一緒のことをしている。仲良しグループか。
 俺の買ってきたお菓子もとっくに開けられてて、残ったものといえば、空になったゴミ。

 平日なのに、いつもピッタリに合流するのは何か合図を送っているのか、分からないが、楽しそうで何よりだ。
「いつもすみません」
 これも毎回ルナが言っている台詞。自分たちが騒がしくしていると、気を遣って台所にやってくる。クッキーや飲料水を持って行ってくれて助かる。
「学校って何処なんだ?」
 ふとした疑問だった。
 アポロとルナ、レイは同じ制服で毎度再会すると、そのかっこう。茶色のブレザーで真っ赤なネクタイ。見かけない制服だ。ココらへんの学校じゃない。
 聞かれたルナは、少し戸惑っていた。聞かれちゃ、不味いことなのか。
「秘密事項です」
 返ってきた返事はそれだった。 
 困ったように眉をハチの字に曲げていた。
「ここから遠いのか? 見かけない制服だし、もしかして他県?」
「秘密事項です」
「あいつらと遊ぶために、電車使ってないよな?」 
「秘密事項です」
 おいおいさっきからその一点張り。秘密事項の範囲大きいなそれ。ちっとも会話にならねぇじゃん。
「機関の学校に通っているよ」
 あっさりと俺の質問に答えたのは、アポロだった。台所から居間に向かっている途中に、ばったりと遭遇して会話を聞いていたアポロが軽く答えた。
「秘密事項なのになんでそんな、あっさりと応えているの! 怒られるでしょう!」
 ルナは怒りにわなわな震え、アポロを一喝。でもアポロは反省している素振りもない微笑み。
「大丈夫でしょ。一樹くんが外に漏らすことしないって、あたし信じてる。それに、そんな秘密事項ばかり言ってたら会話にならないよ」
「だからって、機関がこのこと知れば――」 
 ルナは、それから口を閉ざした。怒りも悲しみも沸かない無表情。

 話を続けたのはアポロ。
「まぁ、あんまり詳しくは教えないけど機関の学校に通ってる。小さい子なら保育園から入っているよ」
「保育園から高校までのエスカレーター式かよ。すげぇな」
 保育園から高校までの進学が保証される。でもそれ、窮屈すぎないか。高校デビューの俺からしたら、窮屈過ぎてたまらない。抜け出したくなる。
 そんなアポロも、幼少期からその機関に入っている。ルナもレイも。幼少期から入って、宇宙人を滅ぼすために訓練している。他のガーディアンがアポロたちの現状を知ると、どうなるか見なくてもわかる。

 ガーディアンは選ばれた人間らしい。ガーディアンの長、つまり、機関の最も上の人間がガーディアンの子供となるべく人間を選び、機関に招き入れて組織の人間にさせる。そのとき、親は子を売るらしい。ほんとの名前も捨て。『アポロ』という仮初の名前は、長がつけたもの。長は、ガーディアンの子供たちから『親』みたいなもので、アポロたちも尊敬している。
「親に捨てられたときは、寂しかったけど、あたしの場合は妹がいたからね」
「妹いるのか」
 アポロはふふふと笑った。そんなの初耳だ。いや、深く聞いたのはこれが初めてだったな。
「妹もね、あたしと同じ〝太陽〟なんだ。今は訳あって一緒に暮らしてないけど、可愛いよ」
 そう言ったアポロの表情は、まるで妹を思い出しているかのように目を細めて愛しそうに俺を見た。
 アポロの妹か、一度見てみたいな。アポロの妹なんだから、きっと〝太陽〟のような女性だろうな

 アポロたちとゲームをしまくり、空の色がすっかり暗くなるまでゲームをしていた。姉貴は疲れてて、部屋で休んでいる。両親もそろそろ帰ってくるだろう。アポロたちにも、門限があるみたいだし、ゲームを終えたら早足に帰っていった。
「あいつらも大変だな」
「だな」
 その後ろ姿をいつまでも玄関で見送る。俺はコスモのほうに振り返った。
「それじゃあ、夕飯にすっか」
「やったやった」
 俺は玄関の戸を閉めると、居間に知らないやつがいた。全身黒くて足がない。幽霊みたいに体が透けてて、遠くの景色が見えている。アポロたちが座っていたソファーの上で、ちょこんと座っている。
「姉貴の彼氏!?」
「ちゃうわ!!」
 部屋で休んでいたはずの姉貴が居間にいて、へたり込んでいる。関東制覇した暴走族の元頭とは思えない姿。顔は血の気が引いて白くて、唇が青い。
「どっからどう見てウチの彼氏に見える!? 目ん玉、臭てんのかてめぇは!?」
 その威勢の張りは、まだまだ現役。居間にいたはずの犬猫たちの姿もいない。怯えてどっかに隠れたんだ。
「喉が乾いて、居間に来たらこんなのが……何なのこいつ」
 姉貴が逃げようともぞもぞ動いた。
 黒い生物ぽいのが、姉貴のほうに顔を向けた。

 白い仮面。喜怒哀楽が分からない。ずっと同じ仮面をつけている。ひっと小さな悲鳴が足元からした。
「動かないで」
 同じように、居間にいたダスクが声をかけた。その台詞は、姉貴に言ってるのか黒い生物に言っているのか。反応したのはどちらともだった。
 ダスクの持っているタブレットが、サバンナで使う槍に変わった。それを黒い生物に剥き出す。
「何者? 何故ここにいる。ここを何処だと思っている」
 いつもの高い音量から感じられない威圧に満ちた低い声。生物はカタカタと首を動かした。まるで機械のよう。
 白い仮面がニタァと笑った。耳まで裂けた口。ダスクの槍が生物の首を斬った。でも、斬った音がしない。空振りだ。

 奴はソファーにいない。ダスクの槍を逃げるために、天井に張り付いている。体から六本の足が出ている。小さくて短い足。
 耳まで裂けた口から涎が出て、ポタポタと床面に落ちている。
「コスモ!!」
 ダスクが叫んだ。
 それと同時にコスモが動く。
 コスモが両手を伸ばす。すると、その腕がサイコロのように分解された。肉がゴロゴロ転がる。
「コスモっ!!」
 俺が駆け寄ると、いつの間にかダスクが背後にいて、俺の腕を掴んでいる。
「離せっ!」
「あんたは邪魔!! コスモは慣れてるの、あれくらいで死なない!」
 慣れてる? 嘘だろ?
 肘から先が失くなったものの、コスモは倒れない。血は出ない。床面に散りばめた肉が浮いて、自身の体に戻っていく。

 ほらね、とダスクが腕を放した。腕を放している間に、完全に腕は完治した。黒い生物もいつの間にかいなくなっている。ダスクが次にした行動は、タブレットに電話をかけてスターと繋がること。
 〈探索〉のスターなら、やつの居場所を突き止めるから。事情を説明すると、スターはすぐに取り掛かった。
『この地域にまだいる。二件目の家の玄関前』
「わかった。ありがとう。コスモ行くよ!」
 ダスクはタブレットの電話を切ると、コスモに声をかけた。コスモは、命じられるまま動く。

 あいつらは、俺を置いて二件目の家に向かった。姉貴はいつの間にか気絶していた。確かにあんなの目の当たりにすればな。アレが何なのか俺も知りたい。俺は二匹を追いかけた。

 俺ん家から二件目の家は、一人暮らしのおばあちゃんが住んでいる。明かりがついているから、今日は老人会じゃないのか。ダスクたちも俺より前に駆けつけたはずだ。 
 その家の前に、物騒な音がした。刃物と刃物が交差する音。

 おばあちゃん家の前の道路で、宇宙人vs黒い生物が戦っていた。黒い生物の腹から刃物が出てきた。それを飛ばしている。

 おばあちゃんは大丈夫だろうか。俺は戦っている奴らをよそに、おばあちゃん家の前に辿りついた。戸を叩くとしばらくして、おばあちゃんが顔を出した。良かった。生きている。何でもない、とやりきった。

 宇宙人たちの攻防戦は続く。中々相手は手強いやつで、コスモが腹を抉っても瞬時に再生している。不死身か。
「やっぱり……こいつの弱点分かったわ! コスモ、あいつの仮面を狙って! 叩ききるの!」
 ダスクが叫ぶと、コスモは高く飛んだ。空にまで飛んでいきそうな。
 大口開けて空を眺めている奴と同一人物とは思えない飛躍力。グルンと回転するや、奴の仮面を狙って、足が降ろされる。

 飛躍力と、回転に伴って力を増したその脚力を受けた奴は、地面に窪みが出来るほどめり込んだ。当然。仮面は真っ二つに割れている。仮面から先にサラサラと灰になっていく。その次に胴体。そして、全身灰となって風によって塵になった。
「何だ、今の」
「あれは、宇宙の塵に生息する生物」
 ダスクが静かな口調で話した。宇宙の塵がどうしてここに。
「恐らく、あたしたちと一緒に着てたんだと思う。地球に入る前に宇宙で分担されたから、その隙間に入ったんだよ」
 恐らくその数は、千にも登る。侵略者の前に危険視するのは、その生物たちだ。俺はすぐにコスモに駆け寄った。
「コスモ大丈夫か!?」
「一回死んだ」
 コスモの腕は傷もなく、何事もない。そして、コスモも至って平気な様子。気がついたら、コスモを殴っていた。
「なんで」
「痛かっただろうが、なんでそんな平然としとるんだ」
「宇宙人に痛覚はない」
「あるわ」
 あるだろ。俺が殴ったとき、痛いて言っただろうが。コスモは、首をかしげていた。
「なんで泣いてるの?」
「てめぇのかわりに泣いてんだ」
 コスモに見えないように、抱きしめた状態でいる。が、どうしてこんな時だけ鋭い。


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