うちのペットはもしかしたら地球を侵略するかもしれない。

ハコニワ

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一章 侵略者と地球人 

第1話 ペット? 

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 学校から帰ってきたら、両親がゴミ捨て場で捨てられていたペットを拾った。

 両親はたまに、捨てられた子猫や子犬など、はたまたうり坊まで見境なく拾ってくる。本人たち曰く「放っておけない」だと。かれこれ、一年間で拾ってきた動物は十匹以上。里親探すのに苦労するていうのに、その間育てるのにも苦労するんだよ。だからなるべく、拾って来てほしくない。

 て言われても、両親の「拾いクセ」は治らない。それが二人の特長というべきか。だからといって、これはあんまりだ。
「人間?」
「まぁ、一樹いっきたら、そんなわけないじゃない」
 お袋がくすくす笑った。
 お袋には、どう見えているのだろうか。そのペットの頭をなでていた。親父も姉貴も新しく迎えたペットを、歓迎している。心なしか、家がアットホーム感に包まれている。

 俺がおかしいのだろうか。もう一度目をこすってみても、やっぱり変わらない。真っ白い肌に真っ赤な唇、見た目は十二歳の小学生女子。頭に生えた二本の触覚。頭を撫でている度にピクピク生きているように動いている。どう見ても……。
「人間だろぉ!!」
「やかましい!」
 姉貴が投げた辞書が頭にクリーンヒット。角に当たって痛い。頭を抱えて悶える。別に悪いこと言ってないのに、理不尽だ。触覚の生えたなんか分からない奴は、相原家あいはらけにすっかり馴染んで、姉貴の昔のおさがりを着ていた。
「この子ね。そこのゴミ捨て場のところで裸にされて捨てられてたの。見捨てられないでしょう?」
 お袋がヨシヨシと、頭を優しく撫でた。
 そいつは、気持ちがいいのか目を細めて、されるがまま。
「こんな可愛い子捨てるなんて、ありえない。ねぇ、この子、ウチらの家族に迎えようよ」
 姉貴が高い声あげて言った。普段の姉貴の声は、男みたいに低くて以前好きな男にその声を聞かれた際、ドン引きされた経験があるほど。

 姉貴がこう言うと、アットなホームに包まれた空間は丸く収まっていく。このままでは、得体の知れないものと一緒に住んでしまう。そうはさせん。

 俺はアットホームに包まれないぞ。
「反対だ! どっからどう見ても人間だろ! 手足あるし、変な触覚あるけど、人間だろ! 返してこい!」
「まぁ、一樹……そんな酷いことを」
「はっ、サイテー」
「見損なったぞ」
 家族から大バッシングが地味に刺さる。しかも、既に家族に囲まれているそいつにも、ギロリと睨まれた。反対一賛成三で、圧倒的に飼うことに。    

〝コスモ〟

 これがそいつの名前。家族の誰かが決めたんじゃない。そいつ自身の指にはめてある、指輪にその名が刻まれていたので、コスモと命名。

 いや、圧倒的におかしいだろ。
 どっからどう見ても人間なのを、お袋たちは犬か猫みたいなペット感覚で接しているし、指輪にはめてある命名がある時点で、何処かのいいとこ育ちだって思うじゃん。なのに、なんだよこのポカポカホーム感は。

「よろしく」
 頭を抱えていると、そいつが喋った。
 幼さの残る舌足らずの声で、あっけらかんと言った。腰を中腰にして俺の顔を見上げてくる。
「私宇宙人。地球を侵略しにきた」
 冗談を言っている顔ではない。川の流れのように軽く言った。

 フラリ。目の前が横転した。
 喋った。しかも、宇宙人。地球を侵略? なにそれ、何処かの小説かよ。相原家に居座った新たなペットは、犬や猫でも、うり坊でもない。宇宙人だった。相原 一樹あいはら いっきのこれからの生活が、狂わされる。


§


 ご飯を食べる前に筋トレは欠かさない。日頃から絡まれないように、筋トレしているのだ。腕立て伏せ一〇〇回にスクワット一〇〇回。ご飯を食べる前の時間が一番いい。
「ねぇ、楽しい?」
 腕立て伏せ五十六回。まだ、止まるわけには行かない。こういうのは、リズムが大事なんだ。
「ねぇねぇ、ねぇてば」
 五十七回、五十八、ごじゅ……。
「突くな!」
 こいつはなぜか、俺の部屋にいて、筋トレ中の俺の脇腹を突いてきた。やめろ。リズムが大事なんだ。そいつは、俺がやっと反応してくれたから、大袈裟に肩を震わせた。
「やっぱり聞こえてたんじゃん。ねぇなんで、無視したの? ねぇねぇ、それより楽しい? 楽しいからするの? 楽しいて、何? ねぇねぇ」
「しつけぇな! 今筋トレしてんだよ、鍛えてんの! もういいからお袋のところにでも行って、ご飯貰ってこい」
 コスモは、こてんと首をかしげた。ぼんやりした焦点で、俺を見つめる。気がついたら、そいつは当たり前のように俺の近くで座っていた。  
「筋トレて、何?」
「体を鍛える」
「どうしてするの?」
「絡まれたくないからだよ」
「何に?」
「昔の因縁のある……て、しつけぇなほんとに。用があるのか?」
 もう完全に筋トレする所じゃない。上体を起き上がらせると、そいつと視線が同じになった。どっからどう見ても、人間の女の子だ。こっちが誘拐してきたんじゃ、ないかとヒヤヒヤする。

 気まずくなって、起き上がってみる。バックにあるタオルに手を伸ばし、汗を拭う。今日はそれ程できなかった。明日は倍やらないと。すると、ズボンを小さく引っ張られた。びっくりして思わずその方向を見ると、コスモがじっと見上げていた。借りてきた猫みたいな表情。
「地球を侵略するて、どうすればいいんだろ?」
「知らねぇよ。その、なんか、宇宙と繋がっているメールとかないの?」
「ない……」 
 あったとして、壊すべし。
 そう簡単に侵略されてたまるか。そもそも、こんなのが地球を侵略できるわけがない。しかも、侵略する考えもない宇宙人に侵略できるか。

 コスモは、手を放して天を仰いだ。ほんとに空に向かって手をあげて、くるくるしている。
「しまったなぁ。着地点失敗したぁ。スターとダスク今どこにいるんだろ」
「仲間がいるのかよ!」
「一人なわけないじゃん」
 確かに。俺も宇宙人側だったら、こいつを一人見知らぬ星に行かせたりしない。即死ぬな。今も簡単に地球人に捕らえられている時点で、こいつ終わったな。本人気づいていないけど。

 下の階から、夕ごはんが出来たと声がかかった。廊下に出ると、いい香りが空いた腹をくすぐる。
「ご飯って?」
「メシのことだ」
「メシって?」
「生きていくため、欠かせない人間の行動だ」
 納得してくれたのか、コスモはそれから口を開かなかった。さっきの筋トレ質問攻めでも、一つ一つ聞いて理解していっている。聞いた単語や、知らないものを一つ一つ吸収していく。

 居間の席につき、家族揃って手を合わせる。その行動も不思議なもんか、首をかしげていた。俺以外、家族の目には人間体として見られていない。あの触覚が人の脳の神経を触れ、記憶や感覚、視覚を弄っている。たまに、俺みたいに〝視える〟人間がいる。そういうときは、また、弄ればいいと。

 俺がどうしてこいつ自身が視えるのは、謎だ。こいつ自身もどうして俺が視えているのか、不思議と言われた。

「これは何?」
「ハムカツだ」
「はむ、勝つ?」
「とにかく美味しい」
 質問攻めに面倒臭くて、適当に返した。
 俺はパクパク食っていく。それを隣で目の当たりにして、コスモは恐る恐るそれを口に持っていく。

 すると、目がカッと見開いた。それからは何も言わずして、黙々と食べていく。でも、こぼしたり髪の毛にもご飯粒がついて、ほんとに世話ねぇな。

 髪の毛や頬についたご飯粒を取っていてあげると、それを見た姉貴がくすくす笑った。
「なんだよ。一番仲良しじゃーん」
「ホッとしたわ」
 お袋の目には涙が。そんな泣くほどでも。

 冒頭の通り、相原家には拾ってきた犬猫が多い。机を囲み、俺たちの足元にはその拾ってきた犬猫たちがガツガツ音を立てて、ご飯を食べている。こいつは椅子の上で食べているけどな。
 動物たちもこいつには近寄って来ない。威嚇している。動物の本能てすごいよな。
    
 ご飯を食べ終わると、コスモは姉貴と一緒にお風呂に入っていった。姉貴は新しい家族に、テンション上がり放し。お下がりを着せていた部分をみると、妹的なこと考えているんだろう。

 部屋にあがると、パソコンを立ち上げた。基本的に使わない機器だから、奥の方に仕舞ってあったのを、引っ張りだした。
 検索ワードに『宇宙人』と検索した。カルト的なものが出てきた。俺が知りたいのは、そういうものではなく、最近宇宙人がどうやって、地球に流れたのか。

 コスモの他にもまだ、二人の宇宙人がいる。それを乗せた宇宙船がある可能性だってある。「着地点失敗したぁ」と嘆いていたから、恐らく、流れ星みたいにバラバラに別れたんだ。地球から見れば、それは隕石が落ちてきたような見せ方。最近の情報によると、隕石やら流れ星やらの情報は一ヶ月前にあった。

 夜空に青白く流れる三つの線。これが、コスモたちの船だ。

 それじゃあ、俺たち、一ヶ月前に侵略者がいることも知らずにのうのうとしていたのか。パソコン画面を見て、ぞっとした。
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