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捌 陰陽師家系問題
第58話 後継者争い
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事務所が半ば焼けて煙をみた野次馬共が外で集まっていた。終いには消防車と警察も。外の野次馬は雪香さんが対処してくれた。今回の件を引き起こしたと雪香さんは顔を真っ青にさせながらも。
わらわら群がっていた野次馬共がぽつりぽつりいなくなっていく。消防車も警察も撤退してから才次くんが帰ってきた。嵐のような荒々しさは周囲にまだ残っている。
その余韻の空気に才次くんは早々と察した。
「はぁ~今回ばかりは本当にごめんなさい」
「もう何度も聞きましたから。かまくらから出てきて下さい」
雪香さんは小さなかまくらを作ってそこでしょんぼり肩を落としている。さて、わたしたちは事務所の掃除をテキパキと勤しみながら、雪香さんのケアを。
天井や壁のススを取り払うのに苦労して燃えた本や仮面やポスターなどの小物はあっさりとゴミへ。そうすると事務所が途端に広くなる。
探偵からの捨てる捨てないの意見も聞かずにね。探偵は最初仕方ないと面を被っていたが次々と捨てられていくうちにその面は破り容赦なく捨てていくわたしたちに抗議したが、全力無視で勤しむ。
「キレーだな!」
真那ちゃんが清々しい顔で室内を見下ろす。
「確かに。物いっぱいだったものね。こうして掃除すると広いわ~」
雪香さんは頭に雪を積もらせながら低テンションで言う。
事務所は埃やススだらけで焼けた匂いに包まれて倦怠感を増すが自分たちで掃除したという達成感もあり、居心地の良さも感じられるように。
「はぁ~疲れた」
探偵がドカッと椅子に座る。
「何もしてねぇだろ」
真那ちゃんがカッとなる。
「真那くん、視界はいつでも見た景色ではなく心の目も光らせておくものだ。我の中ではこの城はいつでも綺麗だ!」
「はぁ~あ~」
真那ちゃんは大きなため息つく。探偵が働いているところ見たことないな。わたしたちには働けと言ってモップを持ってきたりするも、自分はしないし。この前の天狗の城建設も優雅にお茶を飲んでたし。
「これ、物陰にいた」
才次くんはコックリさんの首根っこをプラーンと持っている。
そういえば騒動になって忘れかけていた。
「才次、今すぐそいつを捨てろ」
いつになく真面目なトーンで探偵が言う。気を失っているコックリさんは耳も尻尾もペタンと倒れていた。ケモ繋がりで才次くんは流石に探偵からの命令は背いた。居た堪れないのか才次くんの耳も尻尾もペタンとなっている。
「首輪、ないですね」
「吹っ飛んだ感じだったしな」
「土御門家も厄介なものに目印つけて」
「ねぇ、あれなかったらこの子、どうなんの?」
各々がどうするか検討しているとコックリさんが瞬きして目を覚した。目が覚めて第一一声が空にも響き渡る叫び声だった。
「やかましい!」
探偵がコックリさんの頭を軽く叩く。
それでも泣き叫びはやまなくて、雪香さんが赤子のように抱き包める。するとぴたりとやんだ。泣きっ面がひくひくと痙攣して穏やかな顔になっていく。
「あらまあ可愛い子」
上機嫌に笑う雪香さん。
その姿はまさに母のような。
夕陽の光が割れた窓から差し込んでそれが後光のように眩しくて偉大なる母の包容に若干戸惑う。
「姐さん、子供好きすっか?」
真那ちゃん謎の敬語。
「ふふ。そうね。まあ好きよ」
聞いたこともない柔らかい口調。
「そいつ……位の高い種族だが、そいつはまだ幼いようだな」
探偵は懐から煙管を取り出した。
「人間でいうと10代くらいでしょうか?」
わたしはコックリさんの鼻や頬をつんつんする。つんつんされても抵抗もしない、赤子のような大きな黒眼がじっとこちらを見上げている。
「さぁな。だが土御門家が何故早々に後継者あらそいに勃発したのか分かった」
探偵は柱にもたれ煙管に火をつけた。窓の外を流し目で見下ろす。
「土御門家は駆除家と呼ばれ代々力の衰えが見え始めてきた。尚且つ、先月の蛟の件、土御門家では全く足元にも及ばなかった。その件について土御門家は焦り始めたのだろうな」
「後継が二人いまちゅ」
コックリさんが喋った。
コックリさんはより詳しく土御門家の内情を語ってくれた。土御門家では後継人あらそいでピリピリしており、その中のある二人が特に名前があげられる。計算高い策士で女にだらしない土御門明哲と直系だが倒してきた妖の数が多い、ひたむきにその座へと階段を一歩一歩踏み歩いている土御門庄司。
「土御門庄司⁉」
名前を聞いてこの場にいる全員は誰もが同じ顔を浮かんだ。
ヒヒを捕えに来た陰陽師、蛟の件で一緒に来た陰陽師、そのどちらも同じ顔、土御門結美の兄。
「やだ。あの人⁉」
唾つけときゃよかった! と嘆く雪香さんを無視して探偵は窓の外を睨みつけている。
「コックリ。来客だ」
煙管に溜まった灰を灰皿にカン、と静かに落とす。その言葉と同時にガチガチに固まった扉がいとも簡単にこじ開けられた。
凄まじい大きな音が響き渡り、空気中にホコリが舞、扉は床に来客の足の橋かけとなっていた。さっき掃除したのにまたホコリ臭さが。
来客は白装束を着た人間。
見たことのある集団だ。
「うわー‼ 土御門家だ!」
コックリさんがジタバタと暴れまわった。
「この城を無断で入ってくるとは」
探偵が白装束の着た人たちに向けて手をかざす。するとその人たちは地に足をぴたりとくっつけ動けなくなり、動揺する。そのすきに探偵が「コックリ置いて逃げろ!」と。
わたしたちは言われたとおり白装束を着た人たちの間から逃げ、事務所から脱出したがされど待っても探偵が顔を出さない。
わらわら群がっていた野次馬共がぽつりぽつりいなくなっていく。消防車も警察も撤退してから才次くんが帰ってきた。嵐のような荒々しさは周囲にまだ残っている。
その余韻の空気に才次くんは早々と察した。
「はぁ~今回ばかりは本当にごめんなさい」
「もう何度も聞きましたから。かまくらから出てきて下さい」
雪香さんは小さなかまくらを作ってそこでしょんぼり肩を落としている。さて、わたしたちは事務所の掃除をテキパキと勤しみながら、雪香さんのケアを。
天井や壁のススを取り払うのに苦労して燃えた本や仮面やポスターなどの小物はあっさりとゴミへ。そうすると事務所が途端に広くなる。
探偵からの捨てる捨てないの意見も聞かずにね。探偵は最初仕方ないと面を被っていたが次々と捨てられていくうちにその面は破り容赦なく捨てていくわたしたちに抗議したが、全力無視で勤しむ。
「キレーだな!」
真那ちゃんが清々しい顔で室内を見下ろす。
「確かに。物いっぱいだったものね。こうして掃除すると広いわ~」
雪香さんは頭に雪を積もらせながら低テンションで言う。
事務所は埃やススだらけで焼けた匂いに包まれて倦怠感を増すが自分たちで掃除したという達成感もあり、居心地の良さも感じられるように。
「はぁ~疲れた」
探偵がドカッと椅子に座る。
「何もしてねぇだろ」
真那ちゃんがカッとなる。
「真那くん、視界はいつでも見た景色ではなく心の目も光らせておくものだ。我の中ではこの城はいつでも綺麗だ!」
「はぁ~あ~」
真那ちゃんは大きなため息つく。探偵が働いているところ見たことないな。わたしたちには働けと言ってモップを持ってきたりするも、自分はしないし。この前の天狗の城建設も優雅にお茶を飲んでたし。
「これ、物陰にいた」
才次くんはコックリさんの首根っこをプラーンと持っている。
そういえば騒動になって忘れかけていた。
「才次、今すぐそいつを捨てろ」
いつになく真面目なトーンで探偵が言う。気を失っているコックリさんは耳も尻尾もペタンと倒れていた。ケモ繋がりで才次くんは流石に探偵からの命令は背いた。居た堪れないのか才次くんの耳も尻尾もペタンとなっている。
「首輪、ないですね」
「吹っ飛んだ感じだったしな」
「土御門家も厄介なものに目印つけて」
「ねぇ、あれなかったらこの子、どうなんの?」
各々がどうするか検討しているとコックリさんが瞬きして目を覚した。目が覚めて第一一声が空にも響き渡る叫び声だった。
「やかましい!」
探偵がコックリさんの頭を軽く叩く。
それでも泣き叫びはやまなくて、雪香さんが赤子のように抱き包める。するとぴたりとやんだ。泣きっ面がひくひくと痙攣して穏やかな顔になっていく。
「あらまあ可愛い子」
上機嫌に笑う雪香さん。
その姿はまさに母のような。
夕陽の光が割れた窓から差し込んでそれが後光のように眩しくて偉大なる母の包容に若干戸惑う。
「姐さん、子供好きすっか?」
真那ちゃん謎の敬語。
「ふふ。そうね。まあ好きよ」
聞いたこともない柔らかい口調。
「そいつ……位の高い種族だが、そいつはまだ幼いようだな」
探偵は懐から煙管を取り出した。
「人間でいうと10代くらいでしょうか?」
わたしはコックリさんの鼻や頬をつんつんする。つんつんされても抵抗もしない、赤子のような大きな黒眼がじっとこちらを見上げている。
「さぁな。だが土御門家が何故早々に後継者あらそいに勃発したのか分かった」
探偵は柱にもたれ煙管に火をつけた。窓の外を流し目で見下ろす。
「土御門家は駆除家と呼ばれ代々力の衰えが見え始めてきた。尚且つ、先月の蛟の件、土御門家では全く足元にも及ばなかった。その件について土御門家は焦り始めたのだろうな」
「後継が二人いまちゅ」
コックリさんが喋った。
コックリさんはより詳しく土御門家の内情を語ってくれた。土御門家では後継人あらそいでピリピリしており、その中のある二人が特に名前があげられる。計算高い策士で女にだらしない土御門明哲と直系だが倒してきた妖の数が多い、ひたむきにその座へと階段を一歩一歩踏み歩いている土御門庄司。
「土御門庄司⁉」
名前を聞いてこの場にいる全員は誰もが同じ顔を浮かんだ。
ヒヒを捕えに来た陰陽師、蛟の件で一緒に来た陰陽師、そのどちらも同じ顔、土御門結美の兄。
「やだ。あの人⁉」
唾つけときゃよかった! と嘆く雪香さんを無視して探偵は窓の外を睨みつけている。
「コックリ。来客だ」
煙管に溜まった灰を灰皿にカン、と静かに落とす。その言葉と同時にガチガチに固まった扉がいとも簡単にこじ開けられた。
凄まじい大きな音が響き渡り、空気中にホコリが舞、扉は床に来客の足の橋かけとなっていた。さっき掃除したのにまたホコリ臭さが。
来客は白装束を着た人間。
見たことのある集団だ。
「うわー‼ 土御門家だ!」
コックリさんがジタバタと暴れまわった。
「この城を無断で入ってくるとは」
探偵が白装束の着た人たちに向けて手をかざす。するとその人たちは地に足をぴたりとくっつけ動けなくなり、動揺する。そのすきに探偵が「コックリ置いて逃げろ!」と。
わたしたちは言われたとおり白装束を着た人たちの間から逃げ、事務所から脱出したがされど待っても探偵が顔を出さない。
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