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伍 山神抗争決戦
第55話 昔話④
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雨が降らなければ作物が育たないことに村人たちはオツ子に相談した。オツ子は神でもなければ作物なんて知る由もなく、それでも迷える村人たちの心に寄り添い大丈夫だと言った。それが村人たちにとって、諸刃であった。どんなに待っても雨も降らない。オツ子が大丈夫大丈夫と言ってくれるも作物が育たなければら農民にとって明日はない。オツ子の言葉は疑われオツ子はやがて邪神と言いくるめられた。そして、オツ子を狙った。
オツ子は息が絶え絶えだった。
「もういい、喋るな。こんな傷すぐに防いでやる」
大火傷を負っている額に手を翳すとその傷がたちまち自分の額に。乗り移るように出現する。
「だめ」
オツ子が翳している腕に手を添えて静止した。
「何を! こんなに負傷していては直に死んでしまう!」
「もういい。もういいの」
オツ子は笑った。
なぜ、笑うのか分からなかった。ぐったりと支えの木にもたれ、空を見上げる。真っ暗闇の空。点々と煌めく星は手を伸ばせば届くのにずっと遠い場所にある。三人でみたお月見の光景がシャボン玉みたいに浮かんできてぱちん、と弾く。
今宵の月は満月ではない。
「わたし、初めてバァバ以外とお月見したんですよ」
ボソボソと語り始めた。
ボーと空を眺めている。
「それ以外にも、外の世界とか烏の話じゃなくて神様から語られるのは初めてで」
ゆっくりとこちらに顔を向けた。
涙を含んだ目で愛おしい眼差し。
「あなたに出会えてよかった。わたし、初めてのことあなたといっぱい体験した。もう悔いがないほど。こんなふうに寄り添ってくれてるだけで嬉しい」
手を添えていた指がいつしかお互い絡めていた。細くて弱々しい。初めて触れた人の体温は冷たかった。オツ子の右目からツゥと大粒の涙が流れる。
「喋るな。晴明のところに行けば有名な医者がいるかもしれん。だからもう喋るな」
抱えるように腰に手を伸ばすももう片方の繋がっている手が離れなかった。オツ子はふるふると頭を振った。でも、だって、と否定的な言葉を吐いていたのは自分だった。
まだ助かる。と希望を繋ぐように語りかけるもオツ子には全然届かなかった。勝手にペラペラ話す。
「そういえば……神というのを懲らしめてやるて言ってましたけど……本当はすごい感謝しているし、もうずっと……神様なんて分かっていますよ。だからもう……」
オツ子の言いたいことがわかって、我は遮った。
「そうだな。勝手に対抗心を燃やしていた。神である我を無下にしたのが癪で……だが今となっちゃそんな対抗心はない」
ここで晴明と雪女の言葉が蘇る。
〈それは恋よ!〉
〈瑠月、君は今彼女に恋している〉
恋など、と情の中で最も深いものを、そんなものを、持つわけが。ツゥと流れた涙が悲しく映り指先で拭った。
汗で髪の毛が張り付いたのを一本一本優しく取って最後に頬に伸ばして包んだ。オツ子はその手に擦り寄るように目をつぶる。ドキリとした。異様なくらい心臓が高鳴って同時に〝愛おしい〟という感情がはっきりと芽生える。
なるほど、これが――。
気づいたところでもう遅かった。何もかも手遅れだ。
「オツ子、我も感謝している。お前と会えて、この愛おしいという感情を知ることができた」
自分らしくもない弱りきった声だった。
その言葉にどんな救われたのかオツ子は満面の笑みで笑った。その笑顔を最後に目を閉じた。永遠に。冷たくなっていく彼女の体を抱きしめた。どれくらいの時間がたったのか、村人たちがこちらに気づいた。
死んでもオツ子を追ってくる。罵倒する村人たちにこれまで感じたことない怒りが芽生えた。ふつふつと体の中が熱く沸騰し、腹の底が煮え滾って暴れたくて仕様がない。
オツ子の遺体をそこに静かに置き、村人含め村全体の集落を燃やした。オツ子が浴びた炎を倍返しするように。
何百人死んだだろう。結果、神という称号を剥奪された。住んでいた祠も社も壊され地位も名誉もなくなった。人に憎悪を向けたのは初めてその衝動にかられたことが罪だと言われたが、村人たちがオツ子たった1人に向けた感情のほうが重い。
住む場所を失えば自然と神という存在を消える。崇め、人から覚えられてれば存在は維持されるが祠も社もなければ、ただ消滅するのを待つのみ。
「情けないな」
晴明が呟いた。
オツ子の遺体を丁寧に処置し終わったところで、剥奪し神でも人間でもない不完全なものに落とされた我を見下ろす。
「神という立場から堕天したらどの種族だろうな」晴明は一人でに語りだす。黙ったままの我を無視して「人間か? お前が素直に人として生きるのは難しいだろうし、ならば妖だろう。まだ術は使えるのだろう? そうしろ。お前が妖になっても特に変わらぬ」と続けざまにペラペラ話す。死神が言うには余命は1100年らしい。余命を聞いて烙印をおした神共の秤を理解した。そうか。そういうことか。
何百人の命を奪った罪として、千年を超える寿命のまま悔改めよと。死より恐ろしい刑罰だ。
「千年か、また会えるな」
晴明がふっと笑った。
「そうだな……オツ子も、彼女にも会えるだろうか」
死神の女は懐から赤い手帳を取り出しペラペラめくるとほくそ笑む。
「会えますよ。千年先に。それくらい待ってればの話だけど」
千年先……その先にいるのか。
ほんの少し淡い希望が芽生えた。真っ暗だった夜が明けて朝日が昇る。大地や植物に太陽の光が浴びて命を吹き返すように色が宿る。
§
過去の昔話を聞いて足が震えた。探偵はくるりと漸くわたしの顔を見た。笑っていても苦しそうに引き攣っていた。
「余命はあとどれくらいですか?」
「……90年だ」
まだそんなに。
「だが、これでも幸せなんだ。漸くな」
愛しい眼差しを向けた。初めてだ。魂の記憶、前世の自身が見たであろう光景を目の当たりにしている。
「だったら幸せに、なりましょうね」
無意識に言っていた。
探偵は「あぁ」と小さく返事。笛湖で見たあの景色の謎が漸く解けてわたしはようやく陸地にあがった。
オツ子は息が絶え絶えだった。
「もういい、喋るな。こんな傷すぐに防いでやる」
大火傷を負っている額に手を翳すとその傷がたちまち自分の額に。乗り移るように出現する。
「だめ」
オツ子が翳している腕に手を添えて静止した。
「何を! こんなに負傷していては直に死んでしまう!」
「もういい。もういいの」
オツ子は笑った。
なぜ、笑うのか分からなかった。ぐったりと支えの木にもたれ、空を見上げる。真っ暗闇の空。点々と煌めく星は手を伸ばせば届くのにずっと遠い場所にある。三人でみたお月見の光景がシャボン玉みたいに浮かんできてぱちん、と弾く。
今宵の月は満月ではない。
「わたし、初めてバァバ以外とお月見したんですよ」
ボソボソと語り始めた。
ボーと空を眺めている。
「それ以外にも、外の世界とか烏の話じゃなくて神様から語られるのは初めてで」
ゆっくりとこちらに顔を向けた。
涙を含んだ目で愛おしい眼差し。
「あなたに出会えてよかった。わたし、初めてのことあなたといっぱい体験した。もう悔いがないほど。こんなふうに寄り添ってくれてるだけで嬉しい」
手を添えていた指がいつしかお互い絡めていた。細くて弱々しい。初めて触れた人の体温は冷たかった。オツ子の右目からツゥと大粒の涙が流れる。
「喋るな。晴明のところに行けば有名な医者がいるかもしれん。だからもう喋るな」
抱えるように腰に手を伸ばすももう片方の繋がっている手が離れなかった。オツ子はふるふると頭を振った。でも、だって、と否定的な言葉を吐いていたのは自分だった。
まだ助かる。と希望を繋ぐように語りかけるもオツ子には全然届かなかった。勝手にペラペラ話す。
「そういえば……神というのを懲らしめてやるて言ってましたけど……本当はすごい感謝しているし、もうずっと……神様なんて分かっていますよ。だからもう……」
オツ子の言いたいことがわかって、我は遮った。
「そうだな。勝手に対抗心を燃やしていた。神である我を無下にしたのが癪で……だが今となっちゃそんな対抗心はない」
ここで晴明と雪女の言葉が蘇る。
〈それは恋よ!〉
〈瑠月、君は今彼女に恋している〉
恋など、と情の中で最も深いものを、そんなものを、持つわけが。ツゥと流れた涙が悲しく映り指先で拭った。
汗で髪の毛が張り付いたのを一本一本優しく取って最後に頬に伸ばして包んだ。オツ子はその手に擦り寄るように目をつぶる。ドキリとした。異様なくらい心臓が高鳴って同時に〝愛おしい〟という感情がはっきりと芽生える。
なるほど、これが――。
気づいたところでもう遅かった。何もかも手遅れだ。
「オツ子、我も感謝している。お前と会えて、この愛おしいという感情を知ることができた」
自分らしくもない弱りきった声だった。
その言葉にどんな救われたのかオツ子は満面の笑みで笑った。その笑顔を最後に目を閉じた。永遠に。冷たくなっていく彼女の体を抱きしめた。どれくらいの時間がたったのか、村人たちがこちらに気づいた。
死んでもオツ子を追ってくる。罵倒する村人たちにこれまで感じたことない怒りが芽生えた。ふつふつと体の中が熱く沸騰し、腹の底が煮え滾って暴れたくて仕様がない。
オツ子の遺体をそこに静かに置き、村人含め村全体の集落を燃やした。オツ子が浴びた炎を倍返しするように。
何百人死んだだろう。結果、神という称号を剥奪された。住んでいた祠も社も壊され地位も名誉もなくなった。人に憎悪を向けたのは初めてその衝動にかられたことが罪だと言われたが、村人たちがオツ子たった1人に向けた感情のほうが重い。
住む場所を失えば自然と神という存在を消える。崇め、人から覚えられてれば存在は維持されるが祠も社もなければ、ただ消滅するのを待つのみ。
「情けないな」
晴明が呟いた。
オツ子の遺体を丁寧に処置し終わったところで、剥奪し神でも人間でもない不完全なものに落とされた我を見下ろす。
「神という立場から堕天したらどの種族だろうな」晴明は一人でに語りだす。黙ったままの我を無視して「人間か? お前が素直に人として生きるのは難しいだろうし、ならば妖だろう。まだ術は使えるのだろう? そうしろ。お前が妖になっても特に変わらぬ」と続けざまにペラペラ話す。死神が言うには余命は1100年らしい。余命を聞いて烙印をおした神共の秤を理解した。そうか。そういうことか。
何百人の命を奪った罪として、千年を超える寿命のまま悔改めよと。死より恐ろしい刑罰だ。
「千年か、また会えるな」
晴明がふっと笑った。
「そうだな……オツ子も、彼女にも会えるだろうか」
死神の女は懐から赤い手帳を取り出しペラペラめくるとほくそ笑む。
「会えますよ。千年先に。それくらい待ってればの話だけど」
千年先……その先にいるのか。
ほんの少し淡い希望が芽生えた。真っ暗だった夜が明けて朝日が昇る。大地や植物に太陽の光が浴びて命を吹き返すように色が宿る。
§
過去の昔話を聞いて足が震えた。探偵はくるりと漸くわたしの顔を見た。笑っていても苦しそうに引き攣っていた。
「余命はあとどれくらいですか?」
「……90年だ」
まだそんなに。
「だが、これでも幸せなんだ。漸くな」
愛しい眼差しを向けた。初めてだ。魂の記憶、前世の自身が見たであろう光景を目の当たりにしている。
「だったら幸せに、なりましょうね」
無意識に言っていた。
探偵は「あぁ」と小さく返事。笛湖で見たあの景色の謎が漸く解けてわたしはようやく陸地にあがった。
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