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伍 山神抗争決戦
第47話 怒り
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天狗は風を操り嵐を呼び覚ますことができる。故に触れてはならない一族でもある。一族の長である娘が消息したとなれば一大事件だ。そりゃもう、天と地をひっくり返すほどのな。
お爺ちゃんの怒りは山もろとも跡形もなく壊すほどの底しれぬものであり、山神にでもなるほどの威厳と言葉にできない重みがのしかかる。
探偵が娘の居場所を知っている、とわざわざ煽った。探偵は正直に、娘が大嶽丸の息子とすでにデキていて駆け落ち話しを自分たちに依頼してきたとお爺ちゃんに話す。
とんでもないことになった。
「別に隠していたわけじゃない」
探偵は小窓から見上げる限りの空を眺め言った。
曇天の空に覆われ太陽の光は一切届かない、朝なのか夜なのか、実際朝なのに夜のように暗い。風は凍てつくように冷たく、ここから見える限り竜巻が二ヶ所確認できる。外は大荒れだ。
お爺ちゃんは怒りに震えて顔も真っ赤だ。お面も素の顔も真っ赤赤で本当に天狗の面している。兎に角天花ちゃんを見つけないといけない。これ以上、天狗の怒りを買うと世界が荒れる。
「こりゃ、勇者の出番だな!」
真那ちゃんが意気込んだ。
「ゲームの話じゃないよ。リアルで起きてんだから!」
「わぁーてる」
真那ちゃんはひらひら笑っているけど、わたしは足が竦むほど心配している。いいや、恐怖で身が竦んでいる。天狗の圧に押しつぶされるようにして体がガタガタ震えている。水神と呼ばれる蛟の前では平気だったのに、どうしてか、今頃になって妖怪というモノの奥深さに足を踏み込んだ感じだ。ずっと前から、ずっと隣りに居た存在なのにどうして。
「我が助手だというのに、何を怯んでいる。行くぞ」
探偵がぽんと肩を叩いてきた。スタスタと顔を見ずに先に行く。久しぶりに話しかけられた。わたしはそっと叩かれた方の肩に手を添える。
熱い。じんじんと熱が集まって体中に広がっていく。久しぶりに話しかけられて胸がドキドキしている。舞い上がるほど嬉しいと感じてしまう。どうしよう、どうしよう。絶対顔真っ赤だ。
「何突っ立てんだよ」
真那ちゃんが顔を覗き込んできた。わたしは一瞬顔をそらす。
「な、なな何でもない!」
何事もなかったかのように歩く。真那ちゃんは怪訝な表情だがこれ以上何も聞いてこかった。
「でも探してもいのかな?」
わたしは足を止めたくなった。
「半分天狗のおっちゃんに追い出された感だけどな」
「確かに」
わたしたちと天狗の一族が揃って天花ちゃんを探すのだが、置き手紙で記してあった『さがさないでください』と。それを違反している。それに天花ちゃんをここまで追い詰めたのはわたしたちだ。城が完成すれば一族もろともそれこそ、彼との交際なんて認められない。助けを求めていたはずなのに。小さなSOSを勇気を振り絞って出したのに、結局、わたしたちは彼女たちのSOSを振り払った。
「いま、どこに向かっているの?」
才次くんが天花ちゃんの匂いを追って森の中をさまよう。天狗のお爺ちゃんが無理やり天花ちゃんの匂いのついた枕を鼻に押し付けたのである。かつてのわたしと同じだ。人様の暴虐非道さを見るとわたしは才次くんに何て酷い事をしたんだ、と今更に思い悩む。才次くんは暴れまわっていたが、お爺ちゃん含む天狗の揃いの圧がかかりしぶしぶ乗ることに。
才次くんの鼻だけが頼りだ。
「森を抜けると思ったが、深淵の闇の中だな」
探偵がやれやれとため息ついた。
「ところで雪香くんはどうした?」
くるりと振り向く。ここにいるのは、雪香さんを除く妖怪探偵事務所の一同だ。
「雪香さんは男の人たちと一緒です」
「昨日男の寝屋に行ったきり部屋に帰ってきてねぇぞ」
それを聞くなり探偵はさぁと顔を青ざめる。煙管を持っている手が震えて危うく落としそうに。大きなため息を2回繰り返し、少し考えてくるりと前を向く。
「諸君、雪香くんは置いて先に進もう」
この場にいない雪香さんを責めるのをこの場でいなかった。バサバサと翼をはためく音が上空で行ったり来たりしている。天狗の人たちが上から探しているのだ。
低くのし上がる音が頭上から聞こえるとどうも集中できない。羽が落ちてくるし、頭上にも注意が必要だ。空から探しても見つからないのは中々だ。この山は集落も公共施設も遥か先まで進まなければ辿り着けない。ここから更に東に行けば大嶽丸の領域だ。それのせいか森の風景がなんとなく、鬼の領域だという空間がひしひし流れてくる。今わたしたちは東に向かっている。答えは明白だった。
彼と駆け落ちし逃げているのだと。
「なぜ争うのでしょう?」
わたしは聞いた。
「大嶽丸とか? そりゃ山を統べる者どうし、主導権は一つに限られている。だからこそその切り札をもぎ取るのだ、我としてはなんてつまらない争いだと思うのだがな。だが、そう言ってられない」
探偵は淡々と答えた。
山を統べる者どうしその主導権は一つに限られている。天狗も大嶽丸もそれを1歩も譲らない。それは大昔から睨み合ってバチバチしている。
「仲良くなれないのでしょうか、同じ山を統べる者どうし。手を取って」
「ハハハッ、それは無理だ。あの二族が睨み合っているのは四百年も前からだ。それをいきなり手を取り合って仲良くしよう、なんて言われても中々できることではない」
探偵が高笑いした。鼻で笑われてまともに相手にしてくれない。
「だから、どうして啀み合う理由が知りたいです。昔はそれなりに共存していたんじゃないですか? 最初からじゃないということは、四百年前何かが起きて啀み合った。その理由を知ってますよね?」
わたしは問い詰めた。探偵は足を止めて振り向く。酷く冷たい眼差し。
お爺ちゃんの怒りは山もろとも跡形もなく壊すほどの底しれぬものであり、山神にでもなるほどの威厳と言葉にできない重みがのしかかる。
探偵が娘の居場所を知っている、とわざわざ煽った。探偵は正直に、娘が大嶽丸の息子とすでにデキていて駆け落ち話しを自分たちに依頼してきたとお爺ちゃんに話す。
とんでもないことになった。
「別に隠していたわけじゃない」
探偵は小窓から見上げる限りの空を眺め言った。
曇天の空に覆われ太陽の光は一切届かない、朝なのか夜なのか、実際朝なのに夜のように暗い。風は凍てつくように冷たく、ここから見える限り竜巻が二ヶ所確認できる。外は大荒れだ。
お爺ちゃんは怒りに震えて顔も真っ赤だ。お面も素の顔も真っ赤赤で本当に天狗の面している。兎に角天花ちゃんを見つけないといけない。これ以上、天狗の怒りを買うと世界が荒れる。
「こりゃ、勇者の出番だな!」
真那ちゃんが意気込んだ。
「ゲームの話じゃないよ。リアルで起きてんだから!」
「わぁーてる」
真那ちゃんはひらひら笑っているけど、わたしは足が竦むほど心配している。いいや、恐怖で身が竦んでいる。天狗の圧に押しつぶされるようにして体がガタガタ震えている。水神と呼ばれる蛟の前では平気だったのに、どうしてか、今頃になって妖怪というモノの奥深さに足を踏み込んだ感じだ。ずっと前から、ずっと隣りに居た存在なのにどうして。
「我が助手だというのに、何を怯んでいる。行くぞ」
探偵がぽんと肩を叩いてきた。スタスタと顔を見ずに先に行く。久しぶりに話しかけられた。わたしはそっと叩かれた方の肩に手を添える。
熱い。じんじんと熱が集まって体中に広がっていく。久しぶりに話しかけられて胸がドキドキしている。舞い上がるほど嬉しいと感じてしまう。どうしよう、どうしよう。絶対顔真っ赤だ。
「何突っ立てんだよ」
真那ちゃんが顔を覗き込んできた。わたしは一瞬顔をそらす。
「な、なな何でもない!」
何事もなかったかのように歩く。真那ちゃんは怪訝な表情だがこれ以上何も聞いてこかった。
「でも探してもいのかな?」
わたしは足を止めたくなった。
「半分天狗のおっちゃんに追い出された感だけどな」
「確かに」
わたしたちと天狗の一族が揃って天花ちゃんを探すのだが、置き手紙で記してあった『さがさないでください』と。それを違反している。それに天花ちゃんをここまで追い詰めたのはわたしたちだ。城が完成すれば一族もろともそれこそ、彼との交際なんて認められない。助けを求めていたはずなのに。小さなSOSを勇気を振り絞って出したのに、結局、わたしたちは彼女たちのSOSを振り払った。
「いま、どこに向かっているの?」
才次くんが天花ちゃんの匂いを追って森の中をさまよう。天狗のお爺ちゃんが無理やり天花ちゃんの匂いのついた枕を鼻に押し付けたのである。かつてのわたしと同じだ。人様の暴虐非道さを見るとわたしは才次くんに何て酷い事をしたんだ、と今更に思い悩む。才次くんは暴れまわっていたが、お爺ちゃん含む天狗の揃いの圧がかかりしぶしぶ乗ることに。
才次くんの鼻だけが頼りだ。
「森を抜けると思ったが、深淵の闇の中だな」
探偵がやれやれとため息ついた。
「ところで雪香くんはどうした?」
くるりと振り向く。ここにいるのは、雪香さんを除く妖怪探偵事務所の一同だ。
「雪香さんは男の人たちと一緒です」
「昨日男の寝屋に行ったきり部屋に帰ってきてねぇぞ」
それを聞くなり探偵はさぁと顔を青ざめる。煙管を持っている手が震えて危うく落としそうに。大きなため息を2回繰り返し、少し考えてくるりと前を向く。
「諸君、雪香くんは置いて先に進もう」
この場にいない雪香さんを責めるのをこの場でいなかった。バサバサと翼をはためく音が上空で行ったり来たりしている。天狗の人たちが上から探しているのだ。
低くのし上がる音が頭上から聞こえるとどうも集中できない。羽が落ちてくるし、頭上にも注意が必要だ。空から探しても見つからないのは中々だ。この山は集落も公共施設も遥か先まで進まなければ辿り着けない。ここから更に東に行けば大嶽丸の領域だ。それのせいか森の風景がなんとなく、鬼の領域だという空間がひしひし流れてくる。今わたしたちは東に向かっている。答えは明白だった。
彼と駆け落ちし逃げているのだと。
「なぜ争うのでしょう?」
わたしは聞いた。
「大嶽丸とか? そりゃ山を統べる者どうし、主導権は一つに限られている。だからこそその切り札をもぎ取るのだ、我としてはなんてつまらない争いだと思うのだがな。だが、そう言ってられない」
探偵は淡々と答えた。
山を統べる者どうしその主導権は一つに限られている。天狗も大嶽丸もそれを1歩も譲らない。それは大昔から睨み合ってバチバチしている。
「仲良くなれないのでしょうか、同じ山を統べる者どうし。手を取って」
「ハハハッ、それは無理だ。あの二族が睨み合っているのは四百年も前からだ。それをいきなり手を取り合って仲良くしよう、なんて言われても中々できることではない」
探偵が高笑いした。鼻で笑われてまともに相手にしてくれない。
「だから、どうして啀み合う理由が知りたいです。昔はそれなりに共存していたんじゃないですか? 最初からじゃないということは、四百年前何かが起きて啀み合った。その理由を知ってますよね?」
わたしは問い詰めた。探偵は足を止めて振り向く。酷く冷たい眼差し。
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