妖怪探偵事務所・瑠月

ハコニワ

文字の大きさ
上 下
46 / 65
伍 山神抗争決戦

第46話 建設

しおりを挟む
 お城が少しでも建設していけば抗争の火種が撒くだろう。それこそ鐘の音だ。さらに完成すれば大嶽丸との関係は更に悪化。その前に逃げ出したかった二人。天花ちゃんと四鬼くんの必死さがようやくわかった。親にも助けを求めることせずに、わたしたち事務所に助けを求めてきた。でもそれもおしまいだ。わたしたちはお城を建設することを優先してしまった。そのため、あの2人は――。
「どうしよう四鬼くん」
『大丈夫だ天花ちゃん。幸い、バレていないだろ?』  
「うん」
『なら、今夜、行こう』
『……分かった。わたし、四鬼くんと一緒ならどこへでも。うん、うん、いつもの場所ね分かった。うん、約束よ、それじゃあ』
 誰も来ない、昼間は男共やその他大勢の配下たちは城作りに懸命になって出払っている。山を統べるものとして山一帯の警備のため天狗が見廻りに来るが本日は一回だけだと知っている。誰も来ない森の奥でヒソヒソと通信し、恋仲の彼と惜しみながらも通信を切る。
「電波が通じるんだなここ」
 声がしてハッと振り返ると妖怪探偵事務所を営んでいる探偵が火影で休んでいた。足元に煙管で吸って落とした灰が溜まっているから恐らくずっとここにいたらしい。なら会話はずっと聞いてた。悪趣味だ。
「悪趣味だと思うな。ここで吸ってたらお前がいきなり電話していちゃつきぶりを見せつけてくるのが悪い」
 心読まれた? つぅ、と汗が滴り落ちる。
「それは悪かったですね。ならどっか行きゃいいのに」
 ボソボソと悪口を言ったものの結局怯えるばかりでスマホを手にこの場をさろうと踵を返した。
「大嶽丸の息子か、大物を手中におさめたな」
 探偵が話を続ける。足を止めた。
「よく鬼の種族と接触できたものだ。天狗の一族はそれなりに敵との接触は避けるはず。そして幼少期からこう教わるはずだ『鬼の一族と触れ合うな。我ら天狗の一族こそが山の神なり』と」
 探偵と天狗の娘は静かに目を合わせた。ざぁ、と山木の頭が踊るように揺れる。少女はわなわなと怒りを覚え震える。
「何なんですか⁉ 何が言いたいんですか⁉」 
 静かな森の中に少女の怒声が響き渡り、山の神の怒りだとカラスが怯えて飛び去る。
「いや何、そうカッカするな。如何にして接触できたのかはあえて触れない事にしておこう。惚気話だとさらに退屈する。省略するとだな、鬼の息子か天狗の娘のお前か、どちらかがけしかけているのではないか?」
「あるわけない! 彼もそんな人じゃない! わたしたちのことよく知りもしないで侮辱しないで!」
 山木が強くざぁ、と激しく揺れた。カラスや動物たちが奥へと逃げる。山の神の逆鱗に触れた、と風も動物も怯えて空気が冷たく凍てつく。
 彼女はドシドシと音を立ててその場から去った。探偵は冷えていた空気を温めるように煙管に火をつけた。奥の茂みからガサゴソと物音が。そこから人影がにゅるりと現れた。
「才次か」
「探した」
 才次くんは奥の茂みからやっとのことで出てくると鼻をすんと動かした。
「天狗の匂い」 
「こら、女の匂いをそう変態ぽく言うな」
 探偵はやれやれと火の始末をして、空に顔を向けた。才次くんが「向こうで皆が探し回っている」と報告するや探偵はため息ついた。
「どうせ行っても行かなくてもいいのだがな」
 ポツリと呟いた。
 耳のいい才次くんはその声を確かに聞き取る。頭にハテナマークを浮かせた才次くんの頭を探偵はガサツに撫でた。
「やれやれ行くか。このところ、三下たちに主導権を握られて自らの城を追い出されるやもしれんしな」
 探偵はスタスタ歩いていくので才次くんはその後ろをついて歩く。


 探偵が現地に顔を出すとここぞとばかりに非難の嵐が降ってくる。雪香さんが作業員の男に夢中で作業も半端だし、わたしに至っては手先が不器用すぎてすぐに怪我する。
 見兼ねた真那ちゃんが一緒に組んでもらっているが、真那ちゃんの幸を吸収して巡回して悪い精気を発しているのではないと疑うほどに今日のわたしはついていない。木材を運ぼうとしたら足に落とすし、何もないところで転ぶし最悪だ。
「はぁ~」
「ため息吐くな。ただでさえ悪循環なのに」
 真那ちゃんにぎろりと睨まれ、わたしは口を一つに結んだ。
「たく、あいつどこほっつき歩いていたんだ」
 真那ちゃんの視線は探偵の殺意のような獰猛に変わった。わたしはちらりと横目でそれを確認するとすぐに目移りした。どうせ優雅に煙管でも吸っていたんだろうな、なんて。
 探偵がサボっていること、百も承知だ。みんな。それでも探して回ったのは人手が必要なのだ。そりゃ猫の手も借りたいぐらい、サボり魔野郎の手も借りなきゃいけない。


 城の建設は着々と完成に近づいてく。達成感もありながら、この城が完成したら抗争の火種がおきる、火の粉なが舞い上がっていくさまを想像して、期待と不安、疑念を感じ始める。お城の完成も着々と磨いていき、やがて二日が過ぎたある日――。

 朝起きたら天花ちゃんが消えていた。使用人の女性が何度も呼ぶも中々顔を出さないので心配して、部屋に入ると彼女だけがこつ然と消えていて大切なぬいぐるみや教科書、漫画は虚しくそこに残されていた。城中パニック。天狗の娘がこつ然と消えるのは皮肉なことだが。
 天狗の長、お爺ちゃんが城中を轟かせるほど怒声を放った。ビリビリと体が強張る。竜巻が発生し、動物たちが怯えて逃げる。天花ちゃんは置き手紙を残していた。

『さがさないでください』


 と。わたしたち妖怪探偵事務所は彼女が消息する理由がわかった。彼と駆け落ちした――。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百合系サキュバス達に一目惚れされた

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

デリバリー・デイジー

SoftCareer
キャラ文芸
ワケ有りデリヘル嬢デイジーさんの奮闘記。 これを読むと君もデリヘルに行きたくなるかも。いや、行くんじゃなくて呼ぶんだったわ……あっ、本作品はR-15ですが、デリヘル嬢は18歳にならないと呼んじゃだめだからね。 ※もちろん、内容は百%フィクションですよ!

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~

トベ・イツキ
キャラ文芸
 三国志×学園群像劇!  平凡な少年・リュービは高校に入学する。  彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。  しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。  妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。  学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!  このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。 今後の予定 第一章 黄巾の乱編 第二章 反トータク連合編 第三章 群雄割拠編 第四章 カント決戦編 第五章 赤壁大戦編 第六章 西校舎攻略編←今ココ 第七章 リュービ会長編 第八章 最終章 作者のtwitterアカウント↓ https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09 ※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。 ※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

処理中です...