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参 狗神家呪術事件
第22話 酒呑童子
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ドカドカと中に入っていく。外で漂っていた酒臭さは中に入れば更に強烈になった。中は騒がしい。道場の門が開いているからまだ誰か稽古しているのか。と思いきやこの酒臭さとこの活気あふれる声は一瞬にして違うなと判断した。
玄関の扉が開いたことに誰かが気づき慌てて駆け寄ってくる足音がする。
「これはこれは、かんにんどす気づかなくて……あら」
廊下の奥から顔を出した女性は探偵の顔を見るなり目を白黒した。
「あらあらまだ生きてはったんですかい」
京都弁で喋る女性は探偵を頭から足の爪先までじっと見下ろす態度で接してきた。人を見くだつ不快感を確実に与えるニタニタとした笑み。
誰だ。探偵とはどんな間柄。
女性の額には一本の角が出ていた。蝶柄の着物を着こなしてて肌を見せないように小さくだけど丁寧に動く所業は色気と上品さが垣間見える。
「そっちこそまだ別れてなかったんだ。あんなに別れたがっていたのに」
探偵は嫌味を返した。
女性は「嫌やわぁ」と呟く。予期せぬことに探偵がくるりと振り向いて思わずびっくりした。さっきまで二人の空間だったからわたしのこと忘れてると思った。
「乙子くん。こいつは酒呑童子の妻の……とりあえず先へ進もう」
探偵はわたしを強引に押していく。女性の横を通り過ぎていく。「あのお知り合いだったらわたしのことは気にせず」「知り合いだったとしても高貴な我に話そうもの誰もいない」と女性にろくな挨拶もせずに上がり込んだ。女性はぞんざいな扱いなど慣れているようで、先頭に立ち中を案内してくれた。
辿り着いた場所は広い敷地。厚めで真っ平らな畳が敷かれた場所だった。腐ったまま放置された木材の臭いがする。騒がしい声はたった1人の鬼のものだった。【酒呑童子】――鬼の一角であり名の知らない者はいない有名な鬼。お酒が大の好きで酔っ払ても飲む。
酔っ払っているからか首から赤い顔をした赤鬼が酒を飲んでいた。空になった瓶が周りに投げ飛ばされちらかっている。
「よくこんなに飲んで死なないな」
探偵がその鬼に近づいた。
「あ? あんれ? 何処かでみた顔だなぁ~おいお~い」
赤い鬼――酒呑童子が酒を片手に奥さんを呼ぶも、奥さんはため息ついて出ていった。代わりにわたしたちが入り探偵は酒呑童子の持っていた酒を掻っ攫う。
「没収だ!」
「あぁ? んだ? こいつは――なんだ瑠月お前じゃねぇか。来てるなら早く言えひっく」
酒呑童子は酒を奪われたことに腹を立てたが探偵の顔を見るやそんなこと忘れてわっと喜んだ。
「久しいなひっく、ここに来たのは何用ひっ、くで?」
しゃくりあげ酒呑童子の前に探偵は座った。胡座で。
「あぁ、貴様の酔いが冷める話を持ってきた。聞きたいであろう? そうか。そんなに言うなら話してやろう」
「まだ何も言ってませんよ」
「よしよし話せー!」
酔っ払いのテンション高いな。
わたしはその2人から一歩離れて話を聞く。探偵はここに来た始め「50年前のあの事件覚えているか?」と切り出した。その途端、酒に酔い潰れていた酒呑童子の顔がみるみるうちに青くなった。
鬼らしく怖い形相に。
「瑠月、お前……今更何故その話題を?」
白髪の髪の毛がゆらゆらと逆立ち服で隠れていた筋肉がみるみるうちに大きくなり、パツパツに弾けていく。それでも冷静に座っている探偵はおかしい。
散らかした空の瓶が床でガタガタ震えカエルの合唱のように鳴り響いている。空気がゾッとするほど冷たい。夜になればまだ冬の名残があり肌寒くなってくるが外よりも断然凍える寒さだ。酒呑童子は口癖のように「何故」と何度も呟く。
その返答に探偵はいとも簡単に口開いた。
「50年前のあの事件の学校でまだ彷徨っている霊と接触して、赤鬼を助けてほしい依頼でな」
グワン、と酒呑童子の体が燃えた。
言葉のとおりだ。体から火が発火しオレンジの炎に包まれている。その炎は天井にまで高く登りさっきまで冷えた空気を温かくさせ熱くさせた。
ぶわりと出た炎はすぐに体の中に入り収縮する。畳は燃えていない。炎はやがて小さくなると見えなくなりシュウと白い煙が肩やら頭に昇天している。
「取り乱してすまない。さぁ、話の続きを」
酒呑童子は重いため息ついた。
探偵は話を続ける。
「あいつには呪いをかけられている。貴様の読み通り相当な呪いだ。術式を解くのは狗神本来だろう。だが呪いは相当な力だ。この世界において〝呪い〟は人間が存在している限り妖も神も共存しているのと同じ切っても切れないものだ。呪いと戦ったあの安倍も最期は呪いで死んだからな」
「つまり、何が言いたい。心臓を奪った安倍晴明を見つけてほしい? それとも狗神家と交戦してほしい? 前者はお前の生き方だろ。後者は散々やって仲間も家族も死んだ……もう、俺は失いたくねぇ」
ドスのきいた声がしょんぼり縮まった。
鬼の一角で鬼の中の鬼と呼ばれる彼がここまで追い詰めた相手、それが今回の黒幕。探偵は肘に手を置き頬杖ついた。ジト目で酒呑童子を見上げる。
「ここまで弱ったか情けない」
その言葉に酒呑童子はカッと目を見開いた。
「お前こそ心臓がないからと強者から逃げ回ってたじゃないか。お前の方こそ情けない」
酒呑童子は酒を片手にガブガブ浴びるように飲む。また飲んだら体が赤くなった。
さっきからやたらと出てくる言葉がある。「心臓」「隠す」「安倍晴明」何言ってんだろ。酒呑童子は探偵と違って厨二病じゃないはずだ。
「心臓の話じゃない。一緒に狗神家を倒そうと目論見だ」
探偵は右腕を伸ばした。振り払われることを知らない自信満々な態度に呆気に囚われてやれやれとため息ついた。
玄関の扉が開いたことに誰かが気づき慌てて駆け寄ってくる足音がする。
「これはこれは、かんにんどす気づかなくて……あら」
廊下の奥から顔を出した女性は探偵の顔を見るなり目を白黒した。
「あらあらまだ生きてはったんですかい」
京都弁で喋る女性は探偵を頭から足の爪先までじっと見下ろす態度で接してきた。人を見くだつ不快感を確実に与えるニタニタとした笑み。
誰だ。探偵とはどんな間柄。
女性の額には一本の角が出ていた。蝶柄の着物を着こなしてて肌を見せないように小さくだけど丁寧に動く所業は色気と上品さが垣間見える。
「そっちこそまだ別れてなかったんだ。あんなに別れたがっていたのに」
探偵は嫌味を返した。
女性は「嫌やわぁ」と呟く。予期せぬことに探偵がくるりと振り向いて思わずびっくりした。さっきまで二人の空間だったからわたしのこと忘れてると思った。
「乙子くん。こいつは酒呑童子の妻の……とりあえず先へ進もう」
探偵はわたしを強引に押していく。女性の横を通り過ぎていく。「あのお知り合いだったらわたしのことは気にせず」「知り合いだったとしても高貴な我に話そうもの誰もいない」と女性にろくな挨拶もせずに上がり込んだ。女性はぞんざいな扱いなど慣れているようで、先頭に立ち中を案内してくれた。
辿り着いた場所は広い敷地。厚めで真っ平らな畳が敷かれた場所だった。腐ったまま放置された木材の臭いがする。騒がしい声はたった1人の鬼のものだった。【酒呑童子】――鬼の一角であり名の知らない者はいない有名な鬼。お酒が大の好きで酔っ払ても飲む。
酔っ払っているからか首から赤い顔をした赤鬼が酒を飲んでいた。空になった瓶が周りに投げ飛ばされちらかっている。
「よくこんなに飲んで死なないな」
探偵がその鬼に近づいた。
「あ? あんれ? 何処かでみた顔だなぁ~おいお~い」
赤い鬼――酒呑童子が酒を片手に奥さんを呼ぶも、奥さんはため息ついて出ていった。代わりにわたしたちが入り探偵は酒呑童子の持っていた酒を掻っ攫う。
「没収だ!」
「あぁ? んだ? こいつは――なんだ瑠月お前じゃねぇか。来てるなら早く言えひっく」
酒呑童子は酒を奪われたことに腹を立てたが探偵の顔を見るやそんなこと忘れてわっと喜んだ。
「久しいなひっく、ここに来たのは何用ひっ、くで?」
しゃくりあげ酒呑童子の前に探偵は座った。胡座で。
「あぁ、貴様の酔いが冷める話を持ってきた。聞きたいであろう? そうか。そんなに言うなら話してやろう」
「まだ何も言ってませんよ」
「よしよし話せー!」
酔っ払いのテンション高いな。
わたしはその2人から一歩離れて話を聞く。探偵はここに来た始め「50年前のあの事件覚えているか?」と切り出した。その途端、酒に酔い潰れていた酒呑童子の顔がみるみるうちに青くなった。
鬼らしく怖い形相に。
「瑠月、お前……今更何故その話題を?」
白髪の髪の毛がゆらゆらと逆立ち服で隠れていた筋肉がみるみるうちに大きくなり、パツパツに弾けていく。それでも冷静に座っている探偵はおかしい。
散らかした空の瓶が床でガタガタ震えカエルの合唱のように鳴り響いている。空気がゾッとするほど冷たい。夜になればまだ冬の名残があり肌寒くなってくるが外よりも断然凍える寒さだ。酒呑童子は口癖のように「何故」と何度も呟く。
その返答に探偵はいとも簡単に口開いた。
「50年前のあの事件の学校でまだ彷徨っている霊と接触して、赤鬼を助けてほしい依頼でな」
グワン、と酒呑童子の体が燃えた。
言葉のとおりだ。体から火が発火しオレンジの炎に包まれている。その炎は天井にまで高く登りさっきまで冷えた空気を温かくさせ熱くさせた。
ぶわりと出た炎はすぐに体の中に入り収縮する。畳は燃えていない。炎はやがて小さくなると見えなくなりシュウと白い煙が肩やら頭に昇天している。
「取り乱してすまない。さぁ、話の続きを」
酒呑童子は重いため息ついた。
探偵は話を続ける。
「あいつには呪いをかけられている。貴様の読み通り相当な呪いだ。術式を解くのは狗神本来だろう。だが呪いは相当な力だ。この世界において〝呪い〟は人間が存在している限り妖も神も共存しているのと同じ切っても切れないものだ。呪いと戦ったあの安倍も最期は呪いで死んだからな」
「つまり、何が言いたい。心臓を奪った安倍晴明を見つけてほしい? それとも狗神家と交戦してほしい? 前者はお前の生き方だろ。後者は散々やって仲間も家族も死んだ……もう、俺は失いたくねぇ」
ドスのきいた声がしょんぼり縮まった。
鬼の一角で鬼の中の鬼と呼ばれる彼がここまで追い詰めた相手、それが今回の黒幕。探偵は肘に手を置き頬杖ついた。ジト目で酒呑童子を見上げる。
「ここまで弱ったか情けない」
その言葉に酒呑童子はカッと目を見開いた。
「お前こそ心臓がないからと強者から逃げ回ってたじゃないか。お前の方こそ情けない」
酒呑童子は酒を片手にガブガブ浴びるように飲む。また飲んだら体が赤くなった。
さっきからやたらと出てくる言葉がある。「心臓」「隠す」「安倍晴明」何言ってんだろ。酒呑童子は探偵と違って厨二病じゃないはずだ。
「心臓の話じゃない。一緒に狗神家を倒そうと目論見だ」
探偵は右腕を伸ばした。振り払われることを知らない自信満々な態度に呆気に囚われてやれやれとため息ついた。
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