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弐 探偵事務所の仕事
第16話 帰ろう
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土御門家が何度も悟に挑んでも何度も逃げられる理由――心を読まれるから。それもあるがもう一つ、これが確かだ。
一家全体を二十数名の土御門家が囲んでいる。全員白装束で白い布の覆面を被っていて顔が見えない。
「あなた、大丈夫⁉」
女性がわたしのところに駆け寄ってきた。男性は黒い帯紐。女性は赤い帯紐でなんとなく区別つく。白い布で顔を隠しているから誰かわからない。でも心配してくれたことに素直に嬉しかった。
「大丈夫です。二人が来てくれたから」
「全く。あなたって面倒事にすぐ巻き込まれますのね」
あれ、その甲高い声とその口調は……。
「もしかして、土御門結美さん?」
「もうっ! 他に誰がいますの‼」
土御門さんは白い布をペラリとめくり、ムッとした顔をさせていた。初見でわからなかった。まさか同級生に鉢合わせするとはこんな場所で。しかもこの同級生には過去に猫の一件でわたしの印象が〝憑き物子〟だって思われてる絶対。
学校以外で鉢合わせするなんて、しかも土御門家としての仕事としての顔を見るのは初めてだ。学校では友達と楽しそうに話してて一切その話題も持ち出さないし振ってこない人が任務のために土御門家としての恰好しているのを見るとやっぱり、出生は土御門家なんだなって改めて思い知る。
「……怪我はなさそうですわね」
ほっとした顔をする。
「わたしのことはいいから」
任務についていってほしい。逃したらきっと危ない。
「大丈夫ですわ。こんなに人がいて逃れる妖など……」
土御門さんは自信満々に胸を張る。だがその誇りは簡単に破り捨てられる。大勢の土御門家が張った陣がバチンと音をして破られた。
高いところから鏡を割った衝撃だ。
陣が破られ土御門家の人間がバタバタと地面に倒れていく。一体何が、と言いかけた直後中にいたはずのヒヒが目前にいて何かを土御門さんに伝えたあと、一瞬にして消え去った。瞬きした瞬間に。
「一体何が……」
わたしは途方に暮れて呟く。
土御門家の結界が破れてしまうほど、ヒヒの悟の能力は強い。悟の能力は他者の感情を読み取れるもので他者の心に入れる。どんな人間でも複数の人間でも簡単にね。心の隙間に入られた故に逃げられた。ヒヒを捕まえられない理由はそれ。
「こんだけ専門家がいて逃げられるのかよ」
真那ちゃんが幻滅。
「さっき、何か言われてたよね?」
わたしは好奇心で訊いた。土御門さんは首をうつむき顔が見えない。
「『久しぶり』て言ってた」
才次くんが口を開く。
土御門さんはギクリと顔をした。才次くんは構わず話を続ける。
「昔会ったみたいな口ぶりだった」
さぁと土御門さんの顔色が変わっていく。するとその横で土御門家の1人が現れた。黒い帯紐。男性だ。
「結美、怪我はなかったか? あいつ、以前お前を攫った妖だった。すまない。逃してしまった」
男の低い声。
聞き取りやすく物腰が柔らかい。土御門さんの肩を抱きポンポンと撫でる。お兄さんだろうか。土御門さんは男性に振り向くとバツが悪そうな顔をした。攫われた? 何の話だろうか。
「君は怪我はなかったかい?」
話の話題はわたしに注がれてわたしはびっくりした。「大丈夫です」とこれまで何度も唱えたものをまた唱える。この人はやっぱり土御門さんのお兄さんで土御門家では位が高いらしい。
「庄司お兄様たら、心配症ですわ。それに、わたくしも土御門家の端くれ、もう攫われることなど今後一切ないですわ!」
土御門さんは自信満々にドヤ顔で言ってみせた。さっきまでの暗い顔色はどこへやら。お兄さんはわたしたちの安否を知るとすぐに現場の指揮に戻った。
お兄さんがいなくなり、わたしは声を潜めて今度こそ聞いてみる。
「攫われた、てあの妖に?」
土御門さんは目を細めた。わたし他人の心の領域にズカズカ入り込んだかな。暫しの沈黙、はぁと観念したため息。そうして重い口を開く。
「もう10年前の話ですわ。親につれられてこんな田舎に出向いたとき、あの妖に気に入れられ暫く洞窟の中で一緒におままごとをしていたの。何のおままごとかもうすっかり忘れてしまったわ。それでいつになっても帰っこないわたくしに親が心配してあの妖をあと1歩のところまで追い詰めたのですわ。でも結果逃げられて」
ポツリポツリと語られた内容は今まで知らなかった側面。
「悟の血を飲んだら鬼が見えるという伝えは聞いたことあります?」
「おお、あるある」
真那ちゃんが赤べこみたいに頷いた。わたしはそんな言い伝え初耳だ。悟の血を飲むと鬼の姿が見れる。土御門家では〝鬼〟が見れることで初めてその家系に認められ位がつけられる。土御門さんは実は幼少期鬼が見れなかった。しかしヒヒの血を飲んだため、その姿を初めてみて初めて土御門家に認められた。あの妖は誘拐犯でもあり救世主のような。
また捕まえられなかった妖に土御門家は反省点をいくつか上げ帰っていく。わたしたちもひとまず帰ることに。依頼主とようやく合流し病院へ行き医者に診てもらいご帰宅。
医者からはよく失血死しなかったな、て大騒ぎ。事務所に帰って来た頃にはどっぷり空は暗かった。星が点々と煌めいて田舎と都会じゃ、見る星空が全然違う。都会じゃ、星空が手を伸ばしても建物の影にさえぎってしまう。
事務所の窓から差し込む光は温かった。夜道にポツンと浮いている蝋燭の炎のよう。
「探偵さんと雪香さん、まだいるのかな?」
わたしは心配になる。
「あの探偵が電気つけっぱの可能性」
真那ちゃんが呆れてそう言うと才次くんが頷く。頭に包帯巻いているだけで命に別状はなかった。後遺症もなし。
わたしたちは温かな光へ向かった。
「おかえり!」
戸を開けるとすぐさま歓迎の声が降り注いだ。
「もう~心配したわよ。依頼主から連絡くるわ土御門家からも来るわ、あんたたち悟に変なことされなかった?」
雪香さんがわたしを強く抱きしめてその次は才次くんや真那ちゃんも順番に抱擁する。ふわりと香る香水は女物だけど妙に心地良い。雪香さんらしくて肌に馴染む。
「大丈夫です。二人が、すぐに来てくれて」
わたしは二人に微笑んだ。才次くんは「別に」と言ってソファーに横になるとゲームをしだした。
「おお、帰ったか」
奥から探偵がひょっこり顔を出した。そこは普段わたし(台所)の居場所。狭い場所だけどいいところなの。探偵は三つのマグカップをもってきてそれぞれ手渡した。
「怪我人が出たおかげで依頼主からお金をさらに分捕れたあはは」
探偵は陽気に笑った。
わたしはムッとした。怪我人は才次くんでありそんな軽く捉えてもらっては困る。口を開いた直後、雪香さんに止められた。探偵は才次くんの頭をなでた。
「よく頑張った才次」
ふっと見たことない穏やかに笑う。
褒められてよほど嬉しかったのか、ふだん隠している尻尾がぶんぶん振っている。素知らぬ顔している癖に可愛い。
「あれはあれで心配してたんだよ。特に乙子ちゃんのこと」
雪香さんは穏やかに言った。ふぅとため息ついて。まだわたしはあの探偵のこと知らないことばかり。飄々としていて厨二病のくせに、何を考えているのか分からない。でもそんな人でもなんでだろう、ついて行きたくなった。
一家全体を二十数名の土御門家が囲んでいる。全員白装束で白い布の覆面を被っていて顔が見えない。
「あなた、大丈夫⁉」
女性がわたしのところに駆け寄ってきた。男性は黒い帯紐。女性は赤い帯紐でなんとなく区別つく。白い布で顔を隠しているから誰かわからない。でも心配してくれたことに素直に嬉しかった。
「大丈夫です。二人が来てくれたから」
「全く。あなたって面倒事にすぐ巻き込まれますのね」
あれ、その甲高い声とその口調は……。
「もしかして、土御門結美さん?」
「もうっ! 他に誰がいますの‼」
土御門さんは白い布をペラリとめくり、ムッとした顔をさせていた。初見でわからなかった。まさか同級生に鉢合わせするとはこんな場所で。しかもこの同級生には過去に猫の一件でわたしの印象が〝憑き物子〟だって思われてる絶対。
学校以外で鉢合わせするなんて、しかも土御門家としての仕事としての顔を見るのは初めてだ。学校では友達と楽しそうに話してて一切その話題も持ち出さないし振ってこない人が任務のために土御門家としての恰好しているのを見るとやっぱり、出生は土御門家なんだなって改めて思い知る。
「……怪我はなさそうですわね」
ほっとした顔をする。
「わたしのことはいいから」
任務についていってほしい。逃したらきっと危ない。
「大丈夫ですわ。こんなに人がいて逃れる妖など……」
土御門さんは自信満々に胸を張る。だがその誇りは簡単に破り捨てられる。大勢の土御門家が張った陣がバチンと音をして破られた。
高いところから鏡を割った衝撃だ。
陣が破られ土御門家の人間がバタバタと地面に倒れていく。一体何が、と言いかけた直後中にいたはずのヒヒが目前にいて何かを土御門さんに伝えたあと、一瞬にして消え去った。瞬きした瞬間に。
「一体何が……」
わたしは途方に暮れて呟く。
土御門家の結界が破れてしまうほど、ヒヒの悟の能力は強い。悟の能力は他者の感情を読み取れるもので他者の心に入れる。どんな人間でも複数の人間でも簡単にね。心の隙間に入られた故に逃げられた。ヒヒを捕まえられない理由はそれ。
「こんだけ専門家がいて逃げられるのかよ」
真那ちゃんが幻滅。
「さっき、何か言われてたよね?」
わたしは好奇心で訊いた。土御門さんは首をうつむき顔が見えない。
「『久しぶり』て言ってた」
才次くんが口を開く。
土御門さんはギクリと顔をした。才次くんは構わず話を続ける。
「昔会ったみたいな口ぶりだった」
さぁと土御門さんの顔色が変わっていく。するとその横で土御門家の1人が現れた。黒い帯紐。男性だ。
「結美、怪我はなかったか? あいつ、以前お前を攫った妖だった。すまない。逃してしまった」
男の低い声。
聞き取りやすく物腰が柔らかい。土御門さんの肩を抱きポンポンと撫でる。お兄さんだろうか。土御門さんは男性に振り向くとバツが悪そうな顔をした。攫われた? 何の話だろうか。
「君は怪我はなかったかい?」
話の話題はわたしに注がれてわたしはびっくりした。「大丈夫です」とこれまで何度も唱えたものをまた唱える。この人はやっぱり土御門さんのお兄さんで土御門家では位が高いらしい。
「庄司お兄様たら、心配症ですわ。それに、わたくしも土御門家の端くれ、もう攫われることなど今後一切ないですわ!」
土御門さんは自信満々にドヤ顔で言ってみせた。さっきまでの暗い顔色はどこへやら。お兄さんはわたしたちの安否を知るとすぐに現場の指揮に戻った。
お兄さんがいなくなり、わたしは声を潜めて今度こそ聞いてみる。
「攫われた、てあの妖に?」
土御門さんは目を細めた。わたし他人の心の領域にズカズカ入り込んだかな。暫しの沈黙、はぁと観念したため息。そうして重い口を開く。
「もう10年前の話ですわ。親につれられてこんな田舎に出向いたとき、あの妖に気に入れられ暫く洞窟の中で一緒におままごとをしていたの。何のおままごとかもうすっかり忘れてしまったわ。それでいつになっても帰っこないわたくしに親が心配してあの妖をあと1歩のところまで追い詰めたのですわ。でも結果逃げられて」
ポツリポツリと語られた内容は今まで知らなかった側面。
「悟の血を飲んだら鬼が見えるという伝えは聞いたことあります?」
「おお、あるある」
真那ちゃんが赤べこみたいに頷いた。わたしはそんな言い伝え初耳だ。悟の血を飲むと鬼の姿が見れる。土御門家では〝鬼〟が見れることで初めてその家系に認められ位がつけられる。土御門さんは実は幼少期鬼が見れなかった。しかしヒヒの血を飲んだため、その姿を初めてみて初めて土御門家に認められた。あの妖は誘拐犯でもあり救世主のような。
また捕まえられなかった妖に土御門家は反省点をいくつか上げ帰っていく。わたしたちもひとまず帰ることに。依頼主とようやく合流し病院へ行き医者に診てもらいご帰宅。
医者からはよく失血死しなかったな、て大騒ぎ。事務所に帰って来た頃にはどっぷり空は暗かった。星が点々と煌めいて田舎と都会じゃ、見る星空が全然違う。都会じゃ、星空が手を伸ばしても建物の影にさえぎってしまう。
事務所の窓から差し込む光は温かった。夜道にポツンと浮いている蝋燭の炎のよう。
「探偵さんと雪香さん、まだいるのかな?」
わたしは心配になる。
「あの探偵が電気つけっぱの可能性」
真那ちゃんが呆れてそう言うと才次くんが頷く。頭に包帯巻いているだけで命に別状はなかった。後遺症もなし。
わたしたちは温かな光へ向かった。
「おかえり!」
戸を開けるとすぐさま歓迎の声が降り注いだ。
「もう~心配したわよ。依頼主から連絡くるわ土御門家からも来るわ、あんたたち悟に変なことされなかった?」
雪香さんがわたしを強く抱きしめてその次は才次くんや真那ちゃんも順番に抱擁する。ふわりと香る香水は女物だけど妙に心地良い。雪香さんらしくて肌に馴染む。
「大丈夫です。二人が、すぐに来てくれて」
わたしは二人に微笑んだ。才次くんは「別に」と言ってソファーに横になるとゲームをしだした。
「おお、帰ったか」
奥から探偵がひょっこり顔を出した。そこは普段わたし(台所)の居場所。狭い場所だけどいいところなの。探偵は三つのマグカップをもってきてそれぞれ手渡した。
「怪我人が出たおかげで依頼主からお金をさらに分捕れたあはは」
探偵は陽気に笑った。
わたしはムッとした。怪我人は才次くんでありそんな軽く捉えてもらっては困る。口を開いた直後、雪香さんに止められた。探偵は才次くんの頭をなでた。
「よく頑張った才次」
ふっと見たことない穏やかに笑う。
褒められてよほど嬉しかったのか、ふだん隠している尻尾がぶんぶん振っている。素知らぬ顔している癖に可愛い。
「あれはあれで心配してたんだよ。特に乙子ちゃんのこと」
雪香さんは穏やかに言った。ふぅとため息ついて。まだわたしはあの探偵のこと知らないことばかり。飄々としていて厨二病のくせに、何を考えているのか分からない。でもそんな人でもなんでだろう、ついて行きたくなった。
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