妖怪探偵事務所・瑠月

ハコニワ

文字の大きさ
上 下
4 / 65
壱 音無乙子の体探し

第4話 助手一号

しおりを挟む
 同級生の女の子にこの現場を目撃された。
「何してますの。こんな場所で」
「あはは」   
「その猫は?」
 顔を覗き猫をじっとみる。目撃されたのがこの子で良かった。わたしの透明になっている姿を見て驚きはしたものの、すぐに理解してくれた。
「まぁ。あなたって、ホントにつくづくおバカさんだこと。他人を助けてこうなって挙句また、他人の心配してる場合ですこと?」
「ごもっとも」
 助けてと懇願する前にその子はフフン、と胸を出した。
「仕方ありませんからこのワタクシが力を貸しましょう」
 と勝手に手伝ってくれることに。女王様気質でお嬢様言葉。まぁ実際お金持ちだけど。

 陰陽師の家系で駆除行為はそれなりに力がある。土御門 結美つちみかど むすび。学校で話したことは全然ないけど、名前覚えててくれたんだ。なんか嬉しい。陽光の光でより一層輝いているウェーブのかかった金髪。大きなチェック柄のリボンを後ろにつけて一つにしている。よく通る透き通った声の持ち主。
「土御門さん。この子、なんて言っているかわかる?」
「ふざけてますの?」
「全然」
 切れ長の目を細めて睨みつける。美人て怒った顔もかわいいんだな。土御門さんは猫をじっと見下ろし、バサッと蝶柄の扇子を広げた。
「この子、死んで間もないから死痕のあとを辿れば簡単じゃありませんの」
「死痕?」
「まぁ、そんなことも分かりませんの?」
 土御門さんは扇子を口元に当てた。
 土御門さんが言うには〝死痕〟というのは、死んだ人間、あるいは動物たちが死して尚この世に留まり続け霊体となっても動いた足跡。この跡をたどれば、事後にあった場所もわかる。
 なるほどぉと関心する。
 流石は陰陽師一家。

 土御門さんと一緒にその死痕とやらを辿る。わたしにはそれが見えない。霊体となっていても見えないのは元々その力がないから。と言われる。確かに霊感はないけれど、しょっちゅう昼間でも出てくるじゃんトイレの花子さんとか。ポッキー渡したことあるけどそっけなかったな。

 魂と体が別離になってそれから、頼んだ綱は路地裏にある探偵屋。名のしれた名探偵ではないが、偶々引き寄せられる形であの場所に入ったのだ。
「瑠月? 聞いたこともない探偵ですわね」
 土御門さんは曖昧に答えた。
 名のしれた探偵だったらわたしにだって分かるよ。やっぱり陰陽師の間では知らないのか。少しの雑談に盛り上がる。
「土御門さんて、いつも派手なグループにいるから話しにくくてもっと傲慢でわがままかと思った」
「あらそれはこちらも同じ台詞ですことよ。貴方もっと内気で弱者だと思っておりましたの。とんだ筋違いですわね」
 そうして話しているうちにやがて、死痕が漂ってくる源までたどり着いた。


 場所は車も人通りの多い路上。近くに店が立ち並んで何処からかいい香りが風に乗って運ばれてくる。扇子をバサッと開き口元に当てた。死痕を眺め、じっと見下ろす。
「この大通り、車もよく通るのでもしかすると車に轢かれてしまったのかもしれませんね」
「そっかぁ。死体はないんだね。おばあちゃんにどうやって報せよう」
 わたしは首をひねる。猫もミャアと鳴いてその辺を行ったり来たりしている。わたしの足元に擦り寄り何かを訴えるようにニャァニャァ鳴いている。何だろう。
「ふむふむ。おばあちゃんの誕生日が近くておばあちゃんを喜ばせようとここに来たものの、車にはねられてしまった。あのプレゼントを僕の代わりに渡してほしいと。ふむふむ」
「それ、貴方の妄想ですわよね?」
「ふむふむ。そのプレゼントは車にはねられた時に何処かになくしてしまったと。ふむふむ」
「いい加減なさい。そんな妄想、はじめっから――な、い?」
 わたしのデタラメな妄言に呆れて土御門さんは、やれやれとため息ついた。そして、何かを見つけたらしい。人々から何度も蹴られていくうちに道路の端まで捨てられ、見るも無残な形になったプレゼント箱が。

 わたしはほらね、とドヤ顔で笑う。
 土御門さんは偶々ですわ、と扇子を口に持っていく。

 赤いリボンで結ばれたプレゼント箱。恐らく真っ白い容器だったが、汚れて黒く煤がついている。そして容器はボコボコになって中身が無事か心配だ。リボンを解いて蓋を開けてみると中身は――。
「にぼし?」
 わたしと土御門さんは同じく声を上げた。
 なんと、箱の中に入っていたのはあの味噌汁でも入っている栄養満点の煮干しである。しかも一匹。
「煮干しだよね?」
「ちょっと近づけないで下さいまし。そんなのワタクシでも分かりますわ」
 土御門さんは一気に後ずさる。
 猫がまるでそうだよ、と言うようにニャァと鳴いた。

 わたしがすべき行動はただ一つ。百円ショップに足を運ぶのみ。小さなプレゼント箱と赤いリボンを買いその箱の中に一匹の煮干しを投下。
「ありがとう土御門さん」
「ワタクシは何もしておりませんわ。死痕のあとを辿っただけ。貴方が頑張ったから導き出した答えですわ」 
 土御門さんはくるりと踵を返し颯爽と去ってしまった。去り方もかっこいい。まるでランウェイで歩いて行くかのように靴音を鳴らして歩いていた。小言は割と言ってたけど苦言は言ってなかったし中身まで最高かよ。
「さて。これからおばあちゃんの家に帰ろっか」
 わたしは猫に向かって言う。
 猫はニャァと明るく返事。


 おばあちゃん宅に帰ると探偵が悠々とその宅に上がり込みちゃっかり団子とお茶を啜っていた。
「よぉ。お帰り。どうやら何か見つけたようだな」
 わたしの手に持っているプレゼント箱を見てニィと笑った。
「ええ。頑張ったかいがありますもの」
 つい一緒にいた土御門さんの口調を真似て、わたしは庭から縁側の方へ歩み寄った。おばあちゃんは客人が来て、大層嬉しくお茶を持ってきてくれた。
「おばあちゃん、はいこれ」
 おばあちゃんに手渡す。
 おばあちゃんはキョトンとした顔でプレゼント箱を見下ろす。猫ちゃんのだよ、と言うとスルリと赤いリボンを解き中をめくる。一匹の煮干しを見ておばあちゃんは固まった。
 固まったおばあちゃんを心配してか探偵が箱の中を覗くと「煮干しかよ」と冷たく言う。

 おばあちゃんは暫く固まっていたがゆっくりと、動き出しふふっと笑った。おばあちゃんの笑顔を見て猫も笑いすぅと光に導かれ消えてしまった。わたしの魂も安心したのか、わたしの胸の中へすぅと入っていく。

 体がだんだん暖かい。温もりが戻っていく。足や体を見下ろすと戻っている。体が透明じゃない。
「やった! やったやった‼」
 わたしは素直に喜びその周りをクルク回った。動ける。息できてる。温かい。地面の感触がある。それだけでこんなにも喜ばしいなんて。
 わたしが嬉々に浸っているとぱちぱちと規則的に手を叩いて探偵が拍手してくれた。
「おめでとう。これで助手一号だ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話

釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。 文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。 そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。 工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。 むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。 “特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。 工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。 兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。 工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。 スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。 二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。 零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。 かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。 ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。 この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

京都式神様のおでん屋さん 弐

西門 檀
キャラ文芸
路地の奥にある『おでん料理 結(むすび)』ではイケメン二体(式神)と看板猫がお出迎えします。 今夜の『予約席』にはどんなお客様が来られるのか。乞うご期待。 平安時代の陰陽師・安倍晴明が生前、未来を案じ2体の思業式神(木陰と日向)をこの世に残した。転生した白猫姿の安倍晴明が式神たちと令和にお送りする、心温まるストーリー。 ※一巻は第六回キャラクター文芸賞、 奨励賞を受賞し、2024年2月15日に刊行されました。皆様のおかげです、ありがとうございます✨😊

処理中です...