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第5話 〈終〉放埒のアリス
しおりを挟む――被告人、前へ。名を名乗りなさい
「節目亜利子」
――あなたに処刑を言い渡します
「なぜ?」
――あなたは白うさぎに罪を被せ、あの場から逃げた。よって処刑です
「なぜ?」
――あなたは罪を知っている。放埒な君なら、この夢から早く覚めるのでは?
「覚めたくない。あんたなんかがいる世界なんて、私はこんなミジンコみたいにちっぽけになる!」
――知ってるよ。私はあなたがストラップを盗んだこと
急に壇上に立つ赤の女王様の声が赤目先輩になった。その声は母親のように穏やかで風になびく小枝のように優しい。
私はびっくりした。傍聴人、壇上席すべての人が私のよく知っている人物に変わった。
傍聴人は私の軍隊蟻。芋虫は芋虫先輩。チェシャ猫は猫島くん。白うさぎは尊。マッドが灯となった。
「亜利子、やったことはなにも塗り替えられない。忘れちゃだめだよ」
尊が前に乗り出して言う。彼女のピアノ線みたいな手が私の肩に置いた。私はカッとなり、その手を振り払った。
「バレたくせに! 二度と話しかけんなっ!!」
尊は絶句し、俯いて後ろに下がってしまった。透明な液体が彼女の瞳をうるうると潤している。今度は近寄ってきたのは芋虫先輩。
「この世界では充分、中心になっただろう? 帰るんだ。現実世界に」
私は芋虫先輩を睨んだ。今度喋ったのは猫島くん。
「あれから、どうなったと思う? ストラップを持っていた尊は学校中からイジメられ、君は植物状態の寝たきり。この世界では君の世界でも言うけど尊の為ではないかい?」
私は頭を振った。聞こえないように耳を両手で押さえて。今度は赤目先輩。
「こんな世界から覚めて。早く起きて」
続けるように灯が赤目先輩と並ぶ。
「みんな、待っているよ。亜利子が軍隊蟻って言う人たちも毎日御見舞に来ているし、尊ちゃんも私も先輩たちも毎日毎日心配して祈ってる。ね? 行こう」
彼女の真っ白な腕が私の前に伸びてきた。その腕はまるで、全ての罪を洗いざらい綺麗にしてくれるような腕。
その異様な眩しさに惹かれ、つい私はその腕を取った。
――ジョキン
処刑台から私の首が数㍍飛んだ。
コロンコロンとサッカーボールのように転がる。
首を跳ね飛ばされた私は夢世界ではいられなくなり、そうして、私は眠りから覚めた。
―完―
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