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第6話 ブルースカイ
しおりを挟む「青い空を、見たかったの……。このウラヌスは、空気は綺麗だけどそれは作り込まれてて、空はいつも濁っている。だから、青い空がある地球をひと目でも見たかったの。侵略して、我がウラヌスの拠点になる前に、美しい景色を見たかった。綺麗だった。ペンキをぶちまけたように広大に広がる空。天高にあって、手を伸ばしても届かない。この空のもとで、歩んでいる。大勢の中に紛れ込んでいる。自分がどれだけ、ちっぽけな存在か、痛感したの……。わたしが地球に降りたのは、一ヶ月前。住民の記憶をいじって、わたしは朝日の幼馴染、福元里奈として生活した。たった一ヶ月だったけど、楽しかった。あんなにお腹がはちきれるほど笑ったことない。楽しかったよ本当に。いつまでもここにいたいと思った。でも、わたしはこの星の姫として、成すことをしなければいけない」
里奈はぽつりぽつり話した。
とても、信じられない事実だ。受け入れられないけど、受け入れるしかない。その話は本当だから。
「なるほど、あなたは空を見に地球に降りてきた。その前に、ウラヌスは地球を侵略することは分かっていたことなの?」
乃愛が間に入ってきた。里奈がギロリと睨んだきがしたけど、そっぽを向きながら答えた。
「朝日も見たでしょ? ここの星は綺麗な所が好きなの。汚い環境で育った者や好まない者は徹底的に排除する。そんなウラヌス星人が綺麗な地球を狙うのは明白」
奥にいた矢代がなるほど、と独りでに納得している。外来種がやってくるのは主に侵略するため。ことごとく、未来人に破られてるけど。あぁ、そうか。
里奈がさっきから未来人に対して素っ気ない態度をとっているのは、同族が殺されているからだ。
「あなたたち、未来人がきても、わたしたちウラヌスは地球を侵略することは変わらない。あの青い空を、濁らせるのは嫌だけど……」
「嫌なら、君は止めなったのかい?」
所長が横から喋ってきた。里奈の表情が徐々に険しくなる。
「もちろん、止めたわ。地球は美しいものや大好きな人たちが溢れている。でも、わたしの声は……もう届かなくて」
その声は弱々しかった。すると、この地下牢にまた人が入ってきた。ギィと重い扉が開き、人影が。
里奈がランプを持っているから、何者か分かった。執事みたいな黒い服を着ていて、人間のような姿形だけど、頭に触覚がある。
「ピノ様。国王様がお待ちです」
ハスキーな低い声。
この人は、宮殿に仕える執事みたいだ。里奈は、暗い顔した。執事に呼ばれると、踵を返した。
「もう行くね。もっと、話したかったけど。それと、わたしが地球に帰らせるから釈放して、て言ったからすぐにここから出られる。安心して……少しの間だったけど、過ごしてくれたお母様によろしくとごめんなさいを伝えて」
里奈は、そのまま扉に向かい出ていった。残るは消失感。暗くなった地下牢。寂しさ、冷たさが一気に押し寄せる。
里奈の言ったとおり、すぐに釈放された。目を布で覆われ、荷台に乗せられ、王都の門番に着いた。せっかく潜ったのに、気づいたらスタート地点に立っていた。
乃愛たちも、これには途方を暮れていた。僕は悔しさいっぱいだ。同時に怒りがある。
里奈を連れ戻せなかったこと、里奈が『少しの間だったけど、過ごしてくれたお母様によろしくとごめんなさいを伝えて』と言ってたけど、それは、自分が伝えろ。生きているんだから、それぐらい自分で伝えろ。
なんとしてでも、里奈を取り戻さないと。里奈の居場所がたとえここでも、地球でやり残していたものがあるじゃないか。それを伝えずに逃げるな。
『このまま帰れない』
乃愛たちと考えが一致した。
乃愛たちも、このままじゃ帰れない。何も成していないのだから。引き下がるわけにはいかない。もう一度門を潜ろうとした矢先、雷のような音が世界中に響きわたった。上空に黒い船が通っている。
ウラヌスでは、この船が通るのか呆然と眺めていると、ウラヌス人たちは困惑していた。まるで、ソレを初めて目の当たりにした感じ。
黒船は、凧もギザギザに刻まれてて古びた海賊船みたい。大砲もこちらに向いている。ん? 大砲がこの地上に向けている。みんなもそのことに気づき、大砲がこない別の地に急いで避難を。でも、空から降ってくるのに、逃げ場はあるのか。無に等しい。
ウラヌス人も僕らも街の中でひしめきあって、逃げ惑っていた。乃愛がこう提案した。
「宮殿に逃げましょう。相手は恐らく、他国でしょう。ウラヌスが他国に侵入されているのは真実のようです」
乃愛が言った。
みな、考えることは一緒。宮殿へと走っていった。門の前では、ウラヌス人がひしめきあっていた。入れてほしいと叫んでも中からはうんともすんとも言わない。
まさか、自分の国民を見捨てるなど落ちぶれてはいるまい。里奈がそこにいると確信して叫んだ。
「里奈ぁ! 頼む、開けてくれ!! みんな、必死なんだ! 里奈ぁ!」
宮殿まで届いているはずだ。無視できないぞ。大きな宮殿。窓がいっぱいあって、その一つ、窓が無造作に開いた。中から顔を覗かせたのは、里奈だった。顔を赤らめてこちらを睨みつけて
「里奈里奈うるさい! 大声で連呼しないで」
そう言われても……。里奈は怒っているけど、僕に答えてくれた。門を開けようと、一階まで降りる。そのとき、執事が邪魔をした。
「いけません。ピノ様、ここは簡単に民間人が踏み入って良い場所じゃありません。民が死のうがなんだろうが、ここを通すわけにはいきません」
里奈は、むっとした。
「わたしは王女です。あなたこそ、そこをどきなさい」
威厳をみせても執事は動かなかった 王族に歯向かうとどうなるか分かっているくせに。里奈がみてきた地球では、自然も動物も優しさが溢れていた場所だった。
それなのに、自分が生まれ育った場所は国民一人考えない無慈悲な集まりだった。
爆弾が落ちてきた。悲鳴が宮殿のほうまで届く。民の声がここまで聞こえているのに、王は何もしない。民の声を無視している。民の声も無視して、何が王だ。
爆弾がヒュウと降ってくる。この宮殿も危うい。もしかしたら、相手はこの惑星ごと狙っている。だとしたら、王族は報復をしないといけない。国のためにも、民のためにも、最小限の犠牲で抑えないと。
里奈を待っていても、いっこうに現れない。宮殿内で何かあったのか、もしくは開けないつもりか。里奈のことを考えると、後者はないだろう。爆弾が空から降ってきた。黒い粒みたいなものが街に降り注いでいる。
爆発音と熱風が襲った。
甲高い叫び声が響いた。辺りは燃え広がる建物。泣き叫んでいる人々。腐敗した臭いと火薬の臭いが充満している。まるでその光景は、この世の終わりみたいだ。
街のほうが火の手にあがっていた。燃え盛る炎。
「相手は惑星ごと狙っている可能性が高い。王族も危ない。もしかしたら、逃げているのかも」
僕はかっとした。
「里奈はそんな薄情者じゃない! 自分の国が危ないのに、我先に逃げるやつじゃない!」
里奈のことを馬鹿にされたみたいで、僕はカッとなって怒鳴った。乃愛はびっくりして「ごめん」と小さくなる。
通信を試みていた矢代がぱっと顔を上げた。
「地球での通信が繋がったよ。でも援軍はこない。所長、自分たちでなんとかするしかないよ」
所長は難しい顔をした。眉間にシワをよせて暫く考え込んだ。上空にまた新たな船が。こちらは大砲もあり、矢も降ってくる。
〝最下層〟の街にそれが降り注ぐ。街がどんどん破壊され、それが町並みとは程遠いものになっていく。焼け野原になっていく。
それをなすすべもなく、見ていることしかできない。
違う星だけど、他人事ではない。
街に降り注ぐ核。泣け叫ぶ住民たち、全てを燃やさんとする炎。
悪夢を見ているみたいだ。目の前で起きている出来事が夢の中みたい。
「ウラヌス人を助けよう!」
僕の提案に、一斉に驚いた。僕は純粋に助けたい気持ちでいっぱい。でもだれもその提案にのることはできなかった。
乃愛たち未来人にとって、敵の国民なんて、助ける慈悲もない。
「助けましょう」
乃愛が覚悟を決めた顔で言った。
乃愛が最初に言い出すと、あとにつられて伊予や矢代もそれに乗った。残るは所長だけ。所長はずっと腕を組んでいた。
案外あっさりと承諾してくれた。
「敵地だろうと、命を見捨てない。君たちの覚悟は然りと受け止めた。種族が違えど、宇宙に生まれた兄妹! さぁ、今助けるぞ!」
所長は張り切って進んだ。
僕らはふた手に別れた。
乃愛は僕と、所長は矢代と伊予。
ふた手に別れた僕らは、瓦礫に埋もれている人や小さな子を助けた。ウラヌス人は、僕らが地球人だと知っていても、差し伸べる手を振り払わなかった。
建物が木材製だから火の海になるのが一弾と速い。しかも追い打ちをかけるようにして、もう一隻、船が現れた。
ウラヌス星の特攻隊たちだ。船を攻撃している。上空で爆弾が飛び交っている。巻き添えは、自分の星の大地。
焼け野原になるまで、攻防しているつもりだ。そんなの見の蓋もない。だからって、僕たちがやれるのは、ウラヌス星人たちの避難。
僕ら地球人がやれるといったら、敵国と同盟。
ウラヌス星と地球、この二つが同盟を組めば、侵略国も薙ぎ払うことができる。ただ、しないだけ。こんだけ、不利な状況が続いているのに、どちらもそれには徹しない。僕らがその関係を築けばいい。
戦争が始まった。国を守るため、お互い守るために、核を持った。この争いを止めるには、王が変わらないといけない。
王が変わると、その国のルールが全て変わる。同盟だって、できる。ウラヌス星は、王の次に、皇太子はいない。早くにして病死したと。王の代わりは、女王しかいない。里奈だ。
でも、頼みの綱の里奈がいない。すると、敵軍の動きが止まった。城の外に、新女王がいたからだ。
「戦争をやめてください!」
その声は、大空に響き戦火を切り裂いた。戦争の最中に響き渡る、甲高い声。その声は、女王のものだった。
僕は女王を見上げた。
新しく国を担う、女王の姿は、知っている人だった。里奈、もといピノ姫だった。王冠をかぶり、まだ幼い顔たちしているも新しき国の女王になるため、威厳に満ちていた。
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