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第5話 ウラヌス
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惑星ウラヌスは、地球みたいに町があった。教科書の図と全然違う。発展してある街だ。触覚がある生物と濁った色の空を除けば、第二の地球だ。
地球でいうと、空き家に僕らの宇宙船は降りた。ここなら、誰にも見つからない。それにしても、ウラヌス星人と地球人は割と似ているな。
でも主食は主に虫。地球人とは異なるな。
僕らは変装をして、街中に紛れ込んだ。市販で買った猫耳と尻尾だけど、大丈夫かな。不安だったけど、ウラヌス人は気づくこともなく、また、普通にウラヌス人だと思われて通り過ぎている。
全身黒いマントに身を包んだ所長が
「うむ。これなら問題なさそうだ。みな、はぐれないようにしっかりついてきたまえ」
「所長、王都はそっちじゃない」
逆のほうに進んだ所長を、どうやって信用すればいいんだ。信用できるのは、最年少の女の子とは。
道路にはゴミが散乱してたり、ゴミ袋が放棄してたり、建物は黒く淀んでて、家の数も疎らで道端で寝ている星人もいる。ここはウラヌス星では〝最下層〟のような場所だ。
ここから真っ直ぐ見える、大きな宮殿。白く輝いて、銀色の光が灯っている。きっとそこでは、この塵にまみれた空気なんて、知らないだろうな。こことは偉い違いだ。王都のそばなのに、繁栄してないなんて。
僕らは真っ直ぐ、遠くの景色からみえる宮殿まで歩いた。もちろん、ウラヌス人に気づかれない程度に。
僕はキョロキョロした。寂れた場所。女、子供も苦しそうに道端で、寝転がっている。見かけは地球人に似ているから、少し心が痛む。
「ねぇ朝日くん」
背後にいた乃愛に話しかけらた。
「噂の里奈ちゃんのこと、探してるでしょ」
ギクリとした。図星だ。心を言い当てられ、ギクシャクした。図星だと分かると乃愛は微笑んだ。
「大丈夫。絶対いるよ。この街じゃないと思うけど」
「ありがとう。乃愛」
少しばかり、乃愛と話しながら歩を進んだ。時折伊予に睨まれ、矢代にはニヤニヤ不敵な笑みで見られた。
そうして、王都に着いた。宇宙船から歩くと20分。走ると10分。その距離。王都は〝最下層〟よりもっと賑わっていた。
高層ビルが立ち並んでて、舗装された道路にはゴミなし、草なし、何より空気が良い。腐敗した臭いが漂う〝最下層〟と違って、浄化され汚染もないこの場所は完全に〝作り込まれた場所〟だ。
徹底的に美しく見せ、美しく在れ〝最下層〟の者を徹底的に差分する。嫌な場所だ。嫌悪感がする。
こんなところにずっといたら、頭がおかしくなりそう。早く里奈を探して、一刻も早く地球に帰らないと。
すると、〝最上層〟と〝最下層〟の間には橋があった。まるで、隔てるように作り込まれたものは、厳しい門番がいて〝最下層〟の者が入ってこれないように厳しく管理していた。
「これは、どうやって通るんだ?」
恐る恐る訊いても、誰も答えてくれなかった。当然だ。みな、ウラヌスに来たことないのだから。待ち受けていたのがこんなものだと、知るはずもない。
「あれは変装してても、ダメそうね」
乃愛が苦しそうに言った。
橋を渡るのは、疎ら。荷台の車が来たり商人が渡っていた。でも一人。薄着で汚れたシャツを着たおじいさんが橋を渡っていた。
門番の鎧の人に呼びとめられている。
「あれ、どう見ても〝最下層〟でしょ」
伊予が呆れて言った。
見るからにみずぼらしい服。何日も洗っていないような姿。どう見ても〝最下層〟だ。橋を渡ろうとしている。
しかし、門番は一言二言話しもせず、その人を橋の下に叩き落とした。僕らは愕然とした。目の前で起きた出来事が信じられない。
もしかしたら、そっちに何か用があったのかもしれない。なのに、ろくに話もせず〝最下層〟だとわかるとすぐに、橋に突き落とした。
信じられない。この橋は、落ちたら奈落の底だ。どす黒い谷底から吹く冷たい風が、手招きしている。
二度と這い上がって来れない場所。門番はこれが当たり前のように遂行した。見ている人も誰も止めない。ここでは、アレが普通なんだ。
僕らは理解した。〝最下層〟と〝最上層〟の激しい差別。そして、あの門を潜らなければ王には会えない。
「どうするんですか!?」
僕はあたふた慌てふためく。けど、僕以外の四人は冷静だった。
「いいチャンスだ」
「そうですね。これに捕まり、宮殿内に入れます」
所長が冷静なのが、珍しいがみんなどうしてそんな冷静なんだ。それに、捕まったら橋の下に突き落とされる。生きて帰れないのに、捕まったら元も子もない。
「朝日くん、慌てないで。こっちには考えがあるから。任せて」
ニコッと乃愛が笑った。考えとは、何なのか分からない。僕らは結局橋を渡り、案の定門番に捕まった。
門番は何かを言っいる。宇宙人の言葉だから、全然理解できない。外国人が何かを真剣に喋っているみたいな。
乃愛が何かの印をみせた。それは、地球人だという証拠の、青い惑星のシンボル。それを見せると、門番は少したじろいた。
すると、いきなり腕を捕まれ、捕縛された。そして汚らしい荷台に座らされる。目も布で覆われ、実際何がどうなっているのか全然分からない。どうなっているんだ。
荷台がカタコト動いているから、僕らは門を潜っているのか。乃愛たちの反応がない。きっと隣にいるのかもしれないけど、視界は真っ黒で隣にいるのかも分からない。
怖くなった。
今、この瞬間何処には運ばれて何をするんだろう。きっと、牢屋に捕まりそこで一生…――。
「朝日くん、大丈夫だよ」
ふと、声がした。
乃愛の声だ。すぐそばで聞こえた。真っ黒闇にいた世界に、希望の光が現れる。僕は声のした方向に、手当り次第に詰めた。
「安心して、私たちがついている。そのままでいいから聞いて」
僕はピタリと止めた。
乃愛は小声だけど、鋭い口調。きっと、近くに監視役がついているんだ。それでさっきから小声なんだ。
とりあえず、乃愛の言葉を信じた。乃愛の声を聞いて、自分でも底抜けにホッとしている。暫くしてから、話を始めた。
「今、私たちは宮殿に向かっているはず。私たちは地球から来たのだから、勝手に処分はされない。何かしら、国のトップに会えるはず」
みんな、それを分かってたから冷静だったんだ。むしろ、慌てていた自分が情けない。
すると、図ったかのようにして荷台が立ち止まった。うるさかったのは、さっきまで町中を歩んできたと思われる。でも、少しずつ声はなくなり、今は静かだ。もう、宮殿に着いたのか?
不安と緊張が走る。
すると、またウラヌス語が飛び交った。複数のウラヌス人がいる。間違いない。囲まれている。
すると、乱暴に荷台から引きずり降ろされ、ズルズルと引きずられながら、どこかに連れてこられた。
腐敗した臭い。冷たい空気。水が滴る音。ここは、地下牢ではないか。
目を覆われた布も、巻かれた縄も解かれた。そして、ようやく視界が広がる。最初に見えた光景は、錆びた檻。そして、窓もない薄暗い場所。
案の定地下牢だ。
ここで所長がメンバー確認をした。全員いる。みんな、個別の檻に閉じ込められている。突き落とされることはなかったけど、命の保証はない。
こんな所にいたら、里奈を探すことも王と話すこともできない。あの頑丈な扉から出てきたものは僕らを、拷問する奴らに違いない。
体の震えるのを止められなかった。
ごく自然に、体が反応した。氷のような冷たい空気に、鳥肌がたち、歯がガチガチなる。恐怖を抑えきれなかった。
その時、一筋の光が現れた。
あの扉が開き、中から誰かが入ってきた。不安に抱いていた、拷問だ。これから痛めつけられるんだ。どうか、僕の前には来ないでください。
そう願っているのに、そいつは、カツカツとヒールを地面に叩き込ませながら、こちらに向かってきた。足音はだんだん近づいてくる。
空気が異常にひんやりしている。何者かの侵入に、みんな、固唾を飲んでいる。
足音は、僕の前で立ち止まった。
ひゅ、と息が止まった。恐る恐る見上げると、人影らしい影。誰なのかは分からない。心臓がさっきからうるさい。緊張と不安、恐怖で死にそうだ。
「久しぶりだよね。朝日」
誰かが言った。
乃愛の優しい声でも、伊予の尖った声でもない。僕は知っている。この声を。ずっと探していた人の声。
そんな、まさか……。
こんなところに、いるはずがない……。
「り、な?」
僕はその名前を口にした。声が震えてる。その事実があまりにも衝撃的だったからだ。暗かった室内に、明かりが灯る。ランプを持っている少女が僕の前に立っていた。
その幼い顔立ち、華奢な体、僕の知っている、いや、探していた福元里奈だ。
僕の頭は真っ白だ。
ようやく会えた。やっぱり里奈は存在している。今目の前で。今まで何していたんだ。どうして姿を隠したんだ、色々聞きたいことが山ほどある。
頭の中では、質問ばかり。里奈は切ない表情で僕を見下ろした。
「ごめんね。朝日。黙って姿消して」
ほんとだよ。親友の僕にまで黙って姿消すなんて、許さないからな。
「里奈、良かった。ほんとに存在していた。皆の記憶から消されてて、もう、里奈はこの世にいないんじゃないかと」
グスグス涙流し出てくる。里奈は切ない表情で話を続けた。
「そのとおりだよ。わたしはもう存在しないの。ここまでおってくるとは思わなかったけど。わたしは、もう地球には帰らない。わたしはここにいるべき存在だから」
何を、言っているんだ。
さっきから、目に止まらなかったけど里奈の着ている服装はまるで、シンデレラみたいな、ドレスだった。生地が白くて、フワフワしてて、里奈には少し大人びた服。
周りの人は、すぐに気づいた。里奈がどんな者かを。
「わたしの本当の名前は、ピノ・カスティエル・ラ・エンディ・シナジーエルトン・レレルフェリル・ウラヌス。長いから、ピノて呼ばれている。地球では平凡な福元里奈を演じてたけど、わたしは、この惑星の王女なの」
言葉出てこなこった。
里奈の本当の名前は里奈ではなく、地球で過ごした頃は演技で、そして、この惑星の王女だと……。
信じられるわけがない。受け入れるには、時間のかかることだ。
「それでは、ピノ姫。どうして地球に降りていたんですか? ウラヌス星の姫ならば、一晩で侵略できたものの。そしてなぜ外来種が地球に降りているんですか?」
僕が黙っていると、乃愛が質問した。里奈は、未来人をみるや、そっぽを向いた。
地球でいうと、空き家に僕らの宇宙船は降りた。ここなら、誰にも見つからない。それにしても、ウラヌス星人と地球人は割と似ているな。
でも主食は主に虫。地球人とは異なるな。
僕らは変装をして、街中に紛れ込んだ。市販で買った猫耳と尻尾だけど、大丈夫かな。不安だったけど、ウラヌス人は気づくこともなく、また、普通にウラヌス人だと思われて通り過ぎている。
全身黒いマントに身を包んだ所長が
「うむ。これなら問題なさそうだ。みな、はぐれないようにしっかりついてきたまえ」
「所長、王都はそっちじゃない」
逆のほうに進んだ所長を、どうやって信用すればいいんだ。信用できるのは、最年少の女の子とは。
道路にはゴミが散乱してたり、ゴミ袋が放棄してたり、建物は黒く淀んでて、家の数も疎らで道端で寝ている星人もいる。ここはウラヌス星では〝最下層〟のような場所だ。
ここから真っ直ぐ見える、大きな宮殿。白く輝いて、銀色の光が灯っている。きっとそこでは、この塵にまみれた空気なんて、知らないだろうな。こことは偉い違いだ。王都のそばなのに、繁栄してないなんて。
僕らは真っ直ぐ、遠くの景色からみえる宮殿まで歩いた。もちろん、ウラヌス人に気づかれない程度に。
僕はキョロキョロした。寂れた場所。女、子供も苦しそうに道端で、寝転がっている。見かけは地球人に似ているから、少し心が痛む。
「ねぇ朝日くん」
背後にいた乃愛に話しかけらた。
「噂の里奈ちゃんのこと、探してるでしょ」
ギクリとした。図星だ。心を言い当てられ、ギクシャクした。図星だと分かると乃愛は微笑んだ。
「大丈夫。絶対いるよ。この街じゃないと思うけど」
「ありがとう。乃愛」
少しばかり、乃愛と話しながら歩を進んだ。時折伊予に睨まれ、矢代にはニヤニヤ不敵な笑みで見られた。
そうして、王都に着いた。宇宙船から歩くと20分。走ると10分。その距離。王都は〝最下層〟よりもっと賑わっていた。
高層ビルが立ち並んでて、舗装された道路にはゴミなし、草なし、何より空気が良い。腐敗した臭いが漂う〝最下層〟と違って、浄化され汚染もないこの場所は完全に〝作り込まれた場所〟だ。
徹底的に美しく見せ、美しく在れ〝最下層〟の者を徹底的に差分する。嫌な場所だ。嫌悪感がする。
こんなところにずっといたら、頭がおかしくなりそう。早く里奈を探して、一刻も早く地球に帰らないと。
すると、〝最上層〟と〝最下層〟の間には橋があった。まるで、隔てるように作り込まれたものは、厳しい門番がいて〝最下層〟の者が入ってこれないように厳しく管理していた。
「これは、どうやって通るんだ?」
恐る恐る訊いても、誰も答えてくれなかった。当然だ。みな、ウラヌスに来たことないのだから。待ち受けていたのがこんなものだと、知るはずもない。
「あれは変装してても、ダメそうね」
乃愛が苦しそうに言った。
橋を渡るのは、疎ら。荷台の車が来たり商人が渡っていた。でも一人。薄着で汚れたシャツを着たおじいさんが橋を渡っていた。
門番の鎧の人に呼びとめられている。
「あれ、どう見ても〝最下層〟でしょ」
伊予が呆れて言った。
見るからにみずぼらしい服。何日も洗っていないような姿。どう見ても〝最下層〟だ。橋を渡ろうとしている。
しかし、門番は一言二言話しもせず、その人を橋の下に叩き落とした。僕らは愕然とした。目の前で起きた出来事が信じられない。
もしかしたら、そっちに何か用があったのかもしれない。なのに、ろくに話もせず〝最下層〟だとわかるとすぐに、橋に突き落とした。
信じられない。この橋は、落ちたら奈落の底だ。どす黒い谷底から吹く冷たい風が、手招きしている。
二度と這い上がって来れない場所。門番はこれが当たり前のように遂行した。見ている人も誰も止めない。ここでは、アレが普通なんだ。
僕らは理解した。〝最下層〟と〝最上層〟の激しい差別。そして、あの門を潜らなければ王には会えない。
「どうするんですか!?」
僕はあたふた慌てふためく。けど、僕以外の四人は冷静だった。
「いいチャンスだ」
「そうですね。これに捕まり、宮殿内に入れます」
所長が冷静なのが、珍しいがみんなどうしてそんな冷静なんだ。それに、捕まったら橋の下に突き落とされる。生きて帰れないのに、捕まったら元も子もない。
「朝日くん、慌てないで。こっちには考えがあるから。任せて」
ニコッと乃愛が笑った。考えとは、何なのか分からない。僕らは結局橋を渡り、案の定門番に捕まった。
門番は何かを言っいる。宇宙人の言葉だから、全然理解できない。外国人が何かを真剣に喋っているみたいな。
乃愛が何かの印をみせた。それは、地球人だという証拠の、青い惑星のシンボル。それを見せると、門番は少したじろいた。
すると、いきなり腕を捕まれ、捕縛された。そして汚らしい荷台に座らされる。目も布で覆われ、実際何がどうなっているのか全然分からない。どうなっているんだ。
荷台がカタコト動いているから、僕らは門を潜っているのか。乃愛たちの反応がない。きっと隣にいるのかもしれないけど、視界は真っ黒で隣にいるのかも分からない。
怖くなった。
今、この瞬間何処には運ばれて何をするんだろう。きっと、牢屋に捕まりそこで一生…――。
「朝日くん、大丈夫だよ」
ふと、声がした。
乃愛の声だ。すぐそばで聞こえた。真っ黒闇にいた世界に、希望の光が現れる。僕は声のした方向に、手当り次第に詰めた。
「安心して、私たちがついている。そのままでいいから聞いて」
僕はピタリと止めた。
乃愛は小声だけど、鋭い口調。きっと、近くに監視役がついているんだ。それでさっきから小声なんだ。
とりあえず、乃愛の言葉を信じた。乃愛の声を聞いて、自分でも底抜けにホッとしている。暫くしてから、話を始めた。
「今、私たちは宮殿に向かっているはず。私たちは地球から来たのだから、勝手に処分はされない。何かしら、国のトップに会えるはず」
みんな、それを分かってたから冷静だったんだ。むしろ、慌てていた自分が情けない。
すると、図ったかのようにして荷台が立ち止まった。うるさかったのは、さっきまで町中を歩んできたと思われる。でも、少しずつ声はなくなり、今は静かだ。もう、宮殿に着いたのか?
不安と緊張が走る。
すると、またウラヌス語が飛び交った。複数のウラヌス人がいる。間違いない。囲まれている。
すると、乱暴に荷台から引きずり降ろされ、ズルズルと引きずられながら、どこかに連れてこられた。
腐敗した臭い。冷たい空気。水が滴る音。ここは、地下牢ではないか。
目を覆われた布も、巻かれた縄も解かれた。そして、ようやく視界が広がる。最初に見えた光景は、錆びた檻。そして、窓もない薄暗い場所。
案の定地下牢だ。
ここで所長がメンバー確認をした。全員いる。みんな、個別の檻に閉じ込められている。突き落とされることはなかったけど、命の保証はない。
こんな所にいたら、里奈を探すことも王と話すこともできない。あの頑丈な扉から出てきたものは僕らを、拷問する奴らに違いない。
体の震えるのを止められなかった。
ごく自然に、体が反応した。氷のような冷たい空気に、鳥肌がたち、歯がガチガチなる。恐怖を抑えきれなかった。
その時、一筋の光が現れた。
あの扉が開き、中から誰かが入ってきた。不安に抱いていた、拷問だ。これから痛めつけられるんだ。どうか、僕の前には来ないでください。
そう願っているのに、そいつは、カツカツとヒールを地面に叩き込ませながら、こちらに向かってきた。足音はだんだん近づいてくる。
空気が異常にひんやりしている。何者かの侵入に、みんな、固唾を飲んでいる。
足音は、僕の前で立ち止まった。
ひゅ、と息が止まった。恐る恐る見上げると、人影らしい影。誰なのかは分からない。心臓がさっきからうるさい。緊張と不安、恐怖で死にそうだ。
「久しぶりだよね。朝日」
誰かが言った。
乃愛の優しい声でも、伊予の尖った声でもない。僕は知っている。この声を。ずっと探していた人の声。
そんな、まさか……。
こんなところに、いるはずがない……。
「り、な?」
僕はその名前を口にした。声が震えてる。その事実があまりにも衝撃的だったからだ。暗かった室内に、明かりが灯る。ランプを持っている少女が僕の前に立っていた。
その幼い顔立ち、華奢な体、僕の知っている、いや、探していた福元里奈だ。
僕の頭は真っ白だ。
ようやく会えた。やっぱり里奈は存在している。今目の前で。今まで何していたんだ。どうして姿を隠したんだ、色々聞きたいことが山ほどある。
頭の中では、質問ばかり。里奈は切ない表情で僕を見下ろした。
「ごめんね。朝日。黙って姿消して」
ほんとだよ。親友の僕にまで黙って姿消すなんて、許さないからな。
「里奈、良かった。ほんとに存在していた。皆の記憶から消されてて、もう、里奈はこの世にいないんじゃないかと」
グスグス涙流し出てくる。里奈は切ない表情で話を続けた。
「そのとおりだよ。わたしはもう存在しないの。ここまでおってくるとは思わなかったけど。わたしは、もう地球には帰らない。わたしはここにいるべき存在だから」
何を、言っているんだ。
さっきから、目に止まらなかったけど里奈の着ている服装はまるで、シンデレラみたいな、ドレスだった。生地が白くて、フワフワしてて、里奈には少し大人びた服。
周りの人は、すぐに気づいた。里奈がどんな者かを。
「わたしの本当の名前は、ピノ・カスティエル・ラ・エンディ・シナジーエルトン・レレルフェリル・ウラヌス。長いから、ピノて呼ばれている。地球では平凡な福元里奈を演じてたけど、わたしは、この惑星の王女なの」
言葉出てこなこった。
里奈の本当の名前は里奈ではなく、地球で過ごした頃は演技で、そして、この惑星の王女だと……。
信じられるわけがない。受け入れるには、時間のかかることだ。
「それでは、ピノ姫。どうして地球に降りていたんですか? ウラヌス星の姫ならば、一晩で侵略できたものの。そしてなぜ外来種が地球に降りているんですか?」
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