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ハジメテの友達
10―2 新たな扉
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少年はニコッと笑い、僕の前にたった。背丈は同じなんだな。
「黙っておく代わりにボクと友達になってよ」
僕は混乱した。
僕は生まれて〝友達〟を持ったことはない。下の子の友達はいるよ。大勢ね。けど、同年代の友達は持ったことがないんだ。
僕の同年代は病院にいることなんて絶対ない。だって、いたとしたらそれはすぐ退院する子かそれとも植物状態か。
僕は暫く黙っていた。黙ることしかできなかった。だって言葉がでてこないんだもの。少年は不審に思い首をかしげた。
「だんまり?」
違うんだ。だんまりじゃなくて言葉が上手く出てこなくて。
「……ふーん、じゃこのことみんなに言っちゃお!」
少年は不敵な笑みを宿し、くるりと病院側に向かって走り出した。僕は慌てて少年を呼び止めた。
「ちょっと待ってっ!」
その言葉を待っていたらしく、ピタリと足が止まった。振り返り、ニコニコとした眩しい笑顔で手を差し伸べる。
「よろしく。あっくん」
「あ、あっくん!?」
僕の名前には確かに「あ」がある。しかも二つも。あっくん、て名前で呼ばれたことは一度もない。毎日遊んでいる子どもたちにもね。
少年はクスクス笑った。こちらの反応を見て新鮮に感じているらしい。
「ボクのことはそうだな……コンでいいよ」
僕は恐る恐る少年の手を握った。白い雪肌にしてはひだまりのようにポカポカしている。
「よ、ろしくコンくん」
これがきっかけで少年、コンとは仲良くなり、初めての同年代の友達を持った。
コンは好奇心旺盛で病院のあちらこちらの病棟を詳しい。こっそりと抜け出したり、肝試しをしたり外に出歩いたり、コンと遊ぶ毎日は楽しかった。
それまで、ずっと病院の檻にいた。「ここ以外生きていけないのだ」と信じて。ずっと何年も何十年も狭い檻の中にいた。でも、こうして普通に外にも行けるしあんな狭い場所にいたことが嘘みたいだ。
それから、急激に発作がなくなった。嘘みたいに。
診断したら、なんと黒い空洞が埋まっているんだって。奇跡しかない。この短期間で別になにもしてないのに寿命が長くなったんだ。
余命宣告も嘘ぱちさ。はやくこのことを伝えたくてコンのもとに向かった。
でも、今ごろ気がついた。僕はいつもコンに誘われてるけど僕は彼についてなにも知らない。
歳もお家も好きな食べ物も。だから、僕が伝えたいことがあってもコンが来なければ伝えられない。歯がゆい。コンにはそれなりに感謝している。
外の世界を見せてくれたこと。外の情報をいっぱい教えてくれたこと。感謝の言葉がいくつあってもたらないよ。
彼についてもっと知りたい。友達なのだから当然だよね。でも、その日からコンが姿を現すことはなかった。
僕は一生懸命探した。看護師さんに聞くと狐のお面を被っている同年代はいないときくし、そんなのありえない。彼は確かにいた。存在したんだ。僕が絶対証明してみせる。彼にとっていちばんの長い付き合いだし初めての友達だから。
それから月日がたち、そろそろ退院の話しが持ちかけたときだった。蘇るように病気が再発した。
両親は大粒の涙を流して僕を見た。看護師さんも憐れむ眼差しで僕を見た。僕は悲しくなった。なぜいつも神さまは僕の味方をしてくれないのだろうって。
久しぶりに発作に苦しむ体。眠れない夜。何日も続いて、何度もコンの名前を呼んだからかな。夢のなかにコンが現れたんだ。
容姿は全く変わっていない。ずっと彼は彼のままだった。
「やぁ、元気だったかい?」
「コン!」
歩み寄ろうも、コンが後退したので、その一歩は前になかなか歩みよれなかった。
「ごめんね。顔出せなくて。ここの所、忙しくって」
ニコッと包みこむように笑った。僕はそれまで溜まっていた疑問を投げかけた。僕の予想どおり、彼は答えてくれない。それよか、話しをそらされた。
「君は狐の力を信じるかい?」
「なにを言って……」
コンがニコッと笑った。どこか、物寂しい眼差しなのは気のせいだろうか。
「君は特別面白かったから、特別に教えてやろう。ボクは神さまに使える狐だ」
は? と思わずすっとキョンの声がでる。対して、コンは大真面目らしい。話しを続ける。
「近くに神社があるだろう。そこに使えてるんだ。名前はコンでもない。歳は君より百倍いってる。ボクはいつも神社から見える病院で君のことを見ていたよ、寂しそうに窓を見つめて元気にさせたいと思って近寄ったんだ。それがこんなにも楽しくなるとはね」
待て待て、話しが飛躍すぎる。
か、仮にコンが神さまの使いものだとして僕はそれまでどうしてコンと接していたんだ。僕は特殊な霊感なんて持ち合わせていないのに。
コンが寂しい眼差しで僕を見つめる。
「怖い? こんなのが目の前に現れてきて」
僕は激しく首をふった。
「そんなっ!! でも、どうして僕だったんだい?」
「言っただろう、君を元気にさせたいと……おっと、もう時間だ戻らないと。それじゃあ、またね」
「待って…――!!」
その言葉を最後に光とともにコンは消え、僕は眠りから覚めた。そして、また病気が消えて両親もろとも医者も腰をあげてびっくりしていた。
だぶん、これはコンのしわざだ。僕は噛みしめる思いで窓から見える神社を見つめた。また良くなったら会いに行こう。コンのもとに。
―『ハジメテの友達』完―
「黙っておく代わりにボクと友達になってよ」
僕は混乱した。
僕は生まれて〝友達〟を持ったことはない。下の子の友達はいるよ。大勢ね。けど、同年代の友達は持ったことがないんだ。
僕の同年代は病院にいることなんて絶対ない。だって、いたとしたらそれはすぐ退院する子かそれとも植物状態か。
僕は暫く黙っていた。黙ることしかできなかった。だって言葉がでてこないんだもの。少年は不審に思い首をかしげた。
「だんまり?」
違うんだ。だんまりじゃなくて言葉が上手く出てこなくて。
「……ふーん、じゃこのことみんなに言っちゃお!」
少年は不敵な笑みを宿し、くるりと病院側に向かって走り出した。僕は慌てて少年を呼び止めた。
「ちょっと待ってっ!」
その言葉を待っていたらしく、ピタリと足が止まった。振り返り、ニコニコとした眩しい笑顔で手を差し伸べる。
「よろしく。あっくん」
「あ、あっくん!?」
僕の名前には確かに「あ」がある。しかも二つも。あっくん、て名前で呼ばれたことは一度もない。毎日遊んでいる子どもたちにもね。
少年はクスクス笑った。こちらの反応を見て新鮮に感じているらしい。
「ボクのことはそうだな……コンでいいよ」
僕は恐る恐る少年の手を握った。白い雪肌にしてはひだまりのようにポカポカしている。
「よ、ろしくコンくん」
これがきっかけで少年、コンとは仲良くなり、初めての同年代の友達を持った。
コンは好奇心旺盛で病院のあちらこちらの病棟を詳しい。こっそりと抜け出したり、肝試しをしたり外に出歩いたり、コンと遊ぶ毎日は楽しかった。
それまで、ずっと病院の檻にいた。「ここ以外生きていけないのだ」と信じて。ずっと何年も何十年も狭い檻の中にいた。でも、こうして普通に外にも行けるしあんな狭い場所にいたことが嘘みたいだ。
それから、急激に発作がなくなった。嘘みたいに。
診断したら、なんと黒い空洞が埋まっているんだって。奇跡しかない。この短期間で別になにもしてないのに寿命が長くなったんだ。
余命宣告も嘘ぱちさ。はやくこのことを伝えたくてコンのもとに向かった。
でも、今ごろ気がついた。僕はいつもコンに誘われてるけど僕は彼についてなにも知らない。
歳もお家も好きな食べ物も。だから、僕が伝えたいことがあってもコンが来なければ伝えられない。歯がゆい。コンにはそれなりに感謝している。
外の世界を見せてくれたこと。外の情報をいっぱい教えてくれたこと。感謝の言葉がいくつあってもたらないよ。
彼についてもっと知りたい。友達なのだから当然だよね。でも、その日からコンが姿を現すことはなかった。
僕は一生懸命探した。看護師さんに聞くと狐のお面を被っている同年代はいないときくし、そんなのありえない。彼は確かにいた。存在したんだ。僕が絶対証明してみせる。彼にとっていちばんの長い付き合いだし初めての友達だから。
それから月日がたち、そろそろ退院の話しが持ちかけたときだった。蘇るように病気が再発した。
両親は大粒の涙を流して僕を見た。看護師さんも憐れむ眼差しで僕を見た。僕は悲しくなった。なぜいつも神さまは僕の味方をしてくれないのだろうって。
久しぶりに発作に苦しむ体。眠れない夜。何日も続いて、何度もコンの名前を呼んだからかな。夢のなかにコンが現れたんだ。
容姿は全く変わっていない。ずっと彼は彼のままだった。
「やぁ、元気だったかい?」
「コン!」
歩み寄ろうも、コンが後退したので、その一歩は前になかなか歩みよれなかった。
「ごめんね。顔出せなくて。ここの所、忙しくって」
ニコッと包みこむように笑った。僕はそれまで溜まっていた疑問を投げかけた。僕の予想どおり、彼は答えてくれない。それよか、話しをそらされた。
「君は狐の力を信じるかい?」
「なにを言って……」
コンがニコッと笑った。どこか、物寂しい眼差しなのは気のせいだろうか。
「君は特別面白かったから、特別に教えてやろう。ボクは神さまに使える狐だ」
は? と思わずすっとキョンの声がでる。対して、コンは大真面目らしい。話しを続ける。
「近くに神社があるだろう。そこに使えてるんだ。名前はコンでもない。歳は君より百倍いってる。ボクはいつも神社から見える病院で君のことを見ていたよ、寂しそうに窓を見つめて元気にさせたいと思って近寄ったんだ。それがこんなにも楽しくなるとはね」
待て待て、話しが飛躍すぎる。
か、仮にコンが神さまの使いものだとして僕はそれまでどうしてコンと接していたんだ。僕は特殊な霊感なんて持ち合わせていないのに。
コンが寂しい眼差しで僕を見つめる。
「怖い? こんなのが目の前に現れてきて」
僕は激しく首をふった。
「そんなっ!! でも、どうして僕だったんだい?」
「言っただろう、君を元気にさせたいと……おっと、もう時間だ戻らないと。それじゃあ、またね」
「待って…――!!」
その言葉を最後に光とともにコンは消え、僕は眠りから覚めた。そして、また病気が消えて両親もろとも医者も腰をあげてびっくりしていた。
だぶん、これはコンのしわざだ。僕は噛みしめる思いで窓から見える神社を見つめた。また良くなったら会いに行こう。コンのもとに。
―『ハジメテの友達』完―
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