物語の環

ハコニワ

文字の大きさ
上 下
21 / 21
ハジメテの友達

10―2 新たな扉

しおりを挟む
 少年はニコッと笑い、僕の前にたった。背丈は同じなんだな。
「黙っておく代わりにボクと友達になってよ」
 僕は混乱した。
 僕は生まれて〝友達〟を持ったことはない。下の子の友達はいるよ。大勢ね。けど、同年代の友達は持ったことがないんだ。
 僕の同年代は病院にいることなんて絶対ない。だって、いたとしたらそれはすぐ退院する子かそれとも植物状態か。
 僕は暫く黙っていた。黙ることしかできなかった。だって言葉がでてこないんだもの。少年は不審に思い首をかしげた。
「だんまり?」
 違うんだ。だんまりじゃなくて言葉が上手く出てこなくて。
「……ふーん、じゃこのことみんなに言っちゃお!」
 少年は不敵な笑みを宿し、くるりと病院側に向かって走り出した。僕は慌てて少年を呼び止めた。
「ちょっと待ってっ!」
 その言葉を待っていたらしく、ピタリと足が止まった。振り返り、ニコニコとした眩しい笑顔で手を差し伸べる。
「よろしく。あっくん」
「あ、あっくん!?」
 僕の名前には確かに「あ」がある。しかも二つも。あっくん、て名前で呼ばれたことは一度もない。毎日遊んでいる子どもたちにもね。
 少年はクスクス笑った。こちらの反応を見て新鮮に感じているらしい。
「ボクのことはそうだな……コンでいいよ」
 僕は恐る恐る少年の手を握った。白い雪肌にしてはひだまりのようにポカポカしている。
「よ、ろしくコンくん」
 これがきっかけで少年、コンとは仲良くなり、初めての同年代の友達を持った。
 コンは好奇心旺盛で病院のあちらこちらの病棟を詳しい。こっそりと抜け出したり、肝試しをしたり外に出歩いたり、コンと遊ぶ毎日は楽しかった。
 それまで、ずっと病院の檻にいた。「ここ以外生きていけないのだ」と信じて。ずっと何年も何十年も狭い檻の中にいた。でも、こうして普通に外にも行けるしあんな狭い場所にいたことが嘘みたいだ。
 それから、急激に発作がなくなった。嘘みたいに。
 診断したら、なんと黒い空洞が埋まっているんだって。奇跡しかない。この短期間で別になにもしてないのに寿命が長くなったんだ。
 余命宣告も嘘ぱちさ。はやくこのことを伝えたくてコンのもとに向かった。
 でも、今ごろ気がついた。僕はいつもコンに誘われてるけど僕は彼についてなにも知らない。
 歳もお家も好きな食べ物も。だから、僕が伝えたいことがあってもコンが来なければ伝えられない。歯がゆい。コンにはそれなりに感謝している。
 外の世界を見せてくれたこと。外の情報をいっぱい教えてくれたこと。感謝の言葉がいくつあってもたらないよ。
 彼についてもっと知りたい。友達なのだから当然だよね。でも、その日からコンが姿を現すことはなかった。

 僕は一生懸命探した。看護師さんに聞くと狐のお面を被っている同年代はいないときくし、そんなのありえない。彼は確かにいた。存在したんだ。僕が絶対証明してみせる。彼にとっていちばんの長い付き合いだし初めての友達だから。


 それから月日がたち、そろそろ退院の話しが持ちかけたときだった。蘇るように病気が再発した。
 両親は大粒の涙を流して僕を見た。看護師さんも憐れむ眼差しで僕を見た。僕は悲しくなった。なぜいつも神さまは僕の味方をしてくれないのだろうって。
 久しぶりに発作に苦しむ体。眠れない夜。何日も続いて、何度もコンの名前を呼んだからかな。夢のなかにコンが現れたんだ。
 容姿は全く変わっていない。ずっと彼は彼のままだった。
「やぁ、元気だったかい?」
「コン!」
 歩み寄ろうも、コンが後退したので、その一歩は前になかなか歩みよれなかった。
「ごめんね。顔出せなくて。ここの所、忙しくって」
 ニコッと包みこむように笑った。僕はそれまで溜まっていた疑問を投げかけた。僕の予想どおり、彼は答えてくれない。それよか、話しをそらされた。
「君は狐の力を信じるかい?」
「なにを言って……」
 コンがニコッと笑った。どこか、物寂しい眼差しなのは気のせいだろうか。
「君は特別面白かったから、特別に教えてやろう。ボクは神さまに使える狐だ」
 は? と思わずすっとキョンの声がでる。対して、コンは大真面目らしい。話しを続ける。
「近くに神社があるだろう。そこに使えてるんだ。名前はコンでもない。歳は君より百倍いってる。ボクはいつも神社から見える病院で君のことを見ていたよ、寂しそうに窓を見つめて元気にさせたいと思って近寄ったんだ。それがこんなにも楽しくなるとはね」
 待て待て、話しが飛躍すぎる。
 か、仮にコンが神さまの使いものだとして僕はそれまでどうしてコンと接していたんだ。僕は特殊な霊感なんて持ち合わせていないのに。
 コンが寂しい眼差しで僕を見つめる。
「怖い? こんなのが目の前に現れてきて」
 僕は激しく首をふった。
「そんなっ!! でも、どうして僕だったんだい?」
「言っただろう、君を元気にさせたいと……おっと、もう時間だ戻らないと。それじゃあ、またね」
「待って…――!!」
 その言葉を最後に光とともにコンは消え、僕は眠りから覚めた。そして、また病気が消えて両親もろとも医者も腰をあげてびっくりしていた。
 だぶん、これはコンのしわざだ。僕は噛みしめる思いで窓から見える神社を見つめた。また良くなったら会いに行こう。コンのもとに。

                      ―『ハジメテの友達』完―
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

夜の動物園の異変 ~見えない来園者~

メイナ
ミステリー
夜の動物園で起こる不可解な事件。 飼育員・えまは「動物の声を聞く力」を持っていた。 ある夜、動物たちが一斉に怯え、こう囁いた—— 「そこに、"何か"がいる……。」 科学者・水原透子と共に、"見えざる来園者"の正体を探る。 これは幽霊なのか、それとも——?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

考える椅子

HAHAH-TeTu
ミステリー
長く使われた物にはある種の霊魂が宿ると言われます、そんな椅子紹介したいと思います。

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

10日間の<死に戻り>

矢作九月
ミステリー
火事で死んだ中年男・田中が地獄で出逢ったのは、死神見習いの少女だった―…田中と少女は、それぞれの思惑を胸に、火事の10日前への〈死に戻り〉に挑む。人生に絶望し、未練を持たない男が、また「生きよう」と思えるまでの、10日間の物語。

処理中です...