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カガミ合わせ
2―2 深夜の宣告
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学校の道、生徒たちが疎らに歩いている場所を二人は本当になにもなかったように歩いた。学校に忍び込んだ罪悪感が消えなかったらしく、二人とも目の下にクマがある。
教室に入るや、話題は二つで盛り上がっていた。一つは、昨日の地震。二つは、家庭科室の鏡が粉々に割れていたこと。その話しで盛り上がって、輪の中に入れない。
いつも楽観的で周囲の人気者のあの珠姫でさえ、輪の中に入ろうとしなかった。ただ、一人で席に座り窓の景色を呆然と眺めている。
佳苗はまず、いつも通り職員室に向かった。朝の授業を行う先生を呼びにいくのと、先生たちに挨拶を交えることが佳苗の習慣。職員室に足を運び、いつも通り挨拶を交した。
しかし、予期せぬ出来事が起きた。大きな声で言っても笑顔で言っても誰も返事を送らない。優等生な佳苗にとってこれは前代未聞であり生まれて初めての瞬間。
「おはようございます!」
またスルーされた。
「おはようございますっ」
またスルーされた。
「おはよう……ございます……」
目の前でお辞儀しても、誰もいないように横を通り過ぎていく。佳苗は耐えきれなくなり、途端に大声で弾けた。
でもその声は切なく職員室に響き渡るだけ。誰もその返事を返してくれなかった。バタバタと忙しく先生たちが横を通り過ぎていく。
「……無視、しないで……ねぇ、聞こえてるんでしょ!? 無視すんなっ!! なんで……もしかして」
昨日、学校に忍び込んだのは私たちだと既にバレていると? そんなのありえない。だって誰も見ていなかったもの。
ショックで地べたに膝をついている佳苗のもとに珠姫が歩み寄ってきた。朝から職員室に来るなんて意外。
「なに?」
「………」
問いかけても、無言。切ない眼差しで佳苗を見つめてる。暫く、口を開いたのは珠姫。
「佳苗は昔から頭良くって成績優秀で自慢の幼馴染だったよ」
「は? 急になに言ってるの?」
珠姫は悲しい表情をした。目の奥に涙を貯め顔を逸してこう言った。それは余命宣告を告げられた衝撃。
「昨日の地震でうちら死んだんだよ」
は? としか言い返せなかった。また質の悪い冗談を、そう思った途端、突拍子もなく、室内が変わった。職員室から家庭科室へと。瞬間移動したように音もなく。
転ぶほど慌てる佳苗。対してどこか落ち着いた珠姫。二人の目の前には割れた鏡。鏡がある周囲には青いビニールシートが敷いてある。
あの立派で大きな鏡は全体にヒビが入り、悲しい気持ちを訴えているように佇んでいる。ヒビが入ってもそのたいしょうをほんの僅かに映していた。そう、佳苗と珠姫の二人だ。
目も口も鼻も立派な体がついているそれが当たり前だ。でも、鏡に映っていた二人の容姿は違った。
目には大量のガラスが棒状になって突き刺していた。着ていた私服姿がボロボロ。その私服から刃のように無数のガラスが突き刺さっていた。
珠姫の根太い髪の毛がだらりと垂れ下がりまるで、落ち武者のように顔を覆っている。佳苗の自慢の容姿も釘のようにガラスが突き刺さっている。
「な……にこれ」
ショックで言葉にならない佳苗。珠姫はこれが現実だと言いたげな視線。
「机がひっくり返るほど大きな地震、鏡のとこにいたんだよ? 普通は死ぬよね、ううん。死んだんだよ。うちら、昨日で」
青いビニールシートをパラリとめくった。そこにいたのは、なんと青白くなった佳苗と珠姫だった。
「う……嘘」
「嘘じゃない」
佳苗の頬には涙が伝った。珠姫に言われるまで自分が死んでいたことなど覚えていなかったのだ。自分がまだ生者だと思って教室や職員室に堂々と入っていた。幽霊なのだ、挨拶を交わしても誰も返事など送るはずがない。
ようやく、思いだした。自分は死んだのだと。珠姫がひだまりのようにニコリと笑った。
「さて、これからどうする?」
「七不思議になっちゃう?」
「お! それいいね!」
「……冗談よ」
二人は笑って家庭科室を出ていった。その笑い声はけたましく室内に轟く。
―『カガミ合わせ』完―
教室に入るや、話題は二つで盛り上がっていた。一つは、昨日の地震。二つは、家庭科室の鏡が粉々に割れていたこと。その話しで盛り上がって、輪の中に入れない。
いつも楽観的で周囲の人気者のあの珠姫でさえ、輪の中に入ろうとしなかった。ただ、一人で席に座り窓の景色を呆然と眺めている。
佳苗はまず、いつも通り職員室に向かった。朝の授業を行う先生を呼びにいくのと、先生たちに挨拶を交えることが佳苗の習慣。職員室に足を運び、いつも通り挨拶を交した。
しかし、予期せぬ出来事が起きた。大きな声で言っても笑顔で言っても誰も返事を送らない。優等生な佳苗にとってこれは前代未聞であり生まれて初めての瞬間。
「おはようございます!」
またスルーされた。
「おはようございますっ」
またスルーされた。
「おはよう……ございます……」
目の前でお辞儀しても、誰もいないように横を通り過ぎていく。佳苗は耐えきれなくなり、途端に大声で弾けた。
でもその声は切なく職員室に響き渡るだけ。誰もその返事を返してくれなかった。バタバタと忙しく先生たちが横を通り過ぎていく。
「……無視、しないで……ねぇ、聞こえてるんでしょ!? 無視すんなっ!! なんで……もしかして」
昨日、学校に忍び込んだのは私たちだと既にバレていると? そんなのありえない。だって誰も見ていなかったもの。
ショックで地べたに膝をついている佳苗のもとに珠姫が歩み寄ってきた。朝から職員室に来るなんて意外。
「なに?」
「………」
問いかけても、無言。切ない眼差しで佳苗を見つめてる。暫く、口を開いたのは珠姫。
「佳苗は昔から頭良くって成績優秀で自慢の幼馴染だったよ」
「は? 急になに言ってるの?」
珠姫は悲しい表情をした。目の奥に涙を貯め顔を逸してこう言った。それは余命宣告を告げられた衝撃。
「昨日の地震でうちら死んだんだよ」
は? としか言い返せなかった。また質の悪い冗談を、そう思った途端、突拍子もなく、室内が変わった。職員室から家庭科室へと。瞬間移動したように音もなく。
転ぶほど慌てる佳苗。対してどこか落ち着いた珠姫。二人の目の前には割れた鏡。鏡がある周囲には青いビニールシートが敷いてある。
あの立派で大きな鏡は全体にヒビが入り、悲しい気持ちを訴えているように佇んでいる。ヒビが入ってもそのたいしょうをほんの僅かに映していた。そう、佳苗と珠姫の二人だ。
目も口も鼻も立派な体がついているそれが当たり前だ。でも、鏡に映っていた二人の容姿は違った。
目には大量のガラスが棒状になって突き刺していた。着ていた私服姿がボロボロ。その私服から刃のように無数のガラスが突き刺さっていた。
珠姫の根太い髪の毛がだらりと垂れ下がりまるで、落ち武者のように顔を覆っている。佳苗の自慢の容姿も釘のようにガラスが突き刺さっている。
「な……にこれ」
ショックで言葉にならない佳苗。珠姫はこれが現実だと言いたげな視線。
「机がひっくり返るほど大きな地震、鏡のとこにいたんだよ? 普通は死ぬよね、ううん。死んだんだよ。うちら、昨日で」
青いビニールシートをパラリとめくった。そこにいたのは、なんと青白くなった佳苗と珠姫だった。
「う……嘘」
「嘘じゃない」
佳苗の頬には涙が伝った。珠姫に言われるまで自分が死んでいたことなど覚えていなかったのだ。自分がまだ生者だと思って教室や職員室に堂々と入っていた。幽霊なのだ、挨拶を交わしても誰も返事など送るはずがない。
ようやく、思いだした。自分は死んだのだと。珠姫がひだまりのようにニコリと笑った。
「さて、これからどうする?」
「七不思議になっちゃう?」
「お! それいいね!」
「……冗談よ」
二人は笑って家庭科室を出ていった。その笑い声はけたましく室内に轟く。
―『カガミ合わせ』完―
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