物語の環

ハコニワ

文字の大きさ
2 / 21
追う者と追われる者

1-2 智②

しおりを挟む
 友人がごほんと咳払いし、それまで高音で喋っていたのがいきなり、低い声で喋りはじめた。それだけで少し空気が冷たくなる。
『隣町にある廃墟になった児童水泳スクールに行ってみないか? 今俺たち・・・もう、目の前にいるんだけど、一応お前も呼んだけど来るよな?』
 なんだ、その一応って。なら、呼ぶな。しかし、智はこの話しを断る事はできなかった。
 それは、智いわく、友人も高校時代ホラー部に所属しており、心霊スポットや廃墟など、霊がうろついている場所をいろいろと探索していたのだ。ホラー系やこの世のものではないものは、興味があるし特に心霊スポットは興味がある。
 久し振りに子どもくすぐる好奇心と興奮に抑えがきかなく、友人の話しにのった。
「オッケ。んじゃ今すぐ行くから」
 そう言って、身支度を整え、弟たちに任された食器をそのまんまで玄関をでた。

 車を発進して約一時間。隣町の廃墟になった児童水泳スクール辿りついた。ここら一帯は全体的に霧がこもっていた。そのせいで薄暗い。
 廃墟になった建物の奥には誰も管理されていない雑木林がのっぺりと佇まっている。
「おーい!!」
 友人が大きく手を振り、こちらに手招きした。顔見知りの友人他に柄が悪い男と女一人がいた。
 みため若い女は柄が悪い男の腕にずっと手を組んでいる。カップルなのだろうか。女も男と一緒に柄が悪いジャージを着ている。
 この二人は大学時代で会ったことも、喋った事がない。友人の友達なのだろうか。だったら、こいつ、危ない道に進んでいるのではないか。ふと友人の顔を見てつい、心配になった。
「どうした?」
「いや…なんでも」
「そうだ! 紹介するよ。こいつは立花。こうみえても同僚なんだ」
 にこやかに友人が男の素性を喋った。
 おいおいまじかよ。こんな派手でグラサンかけて、いかにもチンピラ男が友人と同じサラリーマンだと!?
 男のほうはペコッと頭を小さく下げただけで会話もしない。
「んで、そっちの可愛い子はおれらの後輩柚子ゆずこちゃん」
「柚子です!!」
 おいおいまじかよ。こいつもか。今どきのサラリーマンって朝っぱから、こんな派手な格好してんのかよ。
「……初めまして、智といいます」
 簡単な自己紹介をすませ、俺らは廃墟の建物に足を踏み入れる。
 建物内は、使っていたものがそのままで、まるで、時間が過ぎ去っても物は忘れないっていわんばかりの雰囲気が立ち込めた。
 元は白い棚が黒く煤になっており、競技で使うボールも風で吹き飛んだのか、あっちこっち置かれている。
 智が持っている一本のライターを光に、廊下を進む。
「なんで、肝試し行くのに、蝋燭とかも準備してないんだよ」
「ハハッ、忘れてたわ」
 陽気に応える友人をよそに、先一歩歩いている立花と柚子がふと、足を止めた。
 こんな場所でも二人は腕を組み、抱き合っている感じだ。
「どうしたんだ?」
 訊ねると、柚子が途切れ途切れに応える。
「聞こ…える」
「何をだ?」
 柚子のもとに駆け寄って、顔を覗くと、顔面蒼白した柚子が呆然としていた。全身の血が吸血鬼に吸われたみたいに青くなっている。
 その隣の立花も蒼白しきっていた。
 二人とも、厳つい顔つきが今や何かに怯えだしている。
 二人が目を見開き、凝らしているのは窓の奥の鬱蒼とした森林。
「ああああ……っ!」
 今度は友人が叫びだした。
 汚い地べたに尻をつき、窓の外を恐る恐る指差した。
 おいおい、どうなっているんだ? 友人が指差した方向と二人が呆然と見ている方向は同じ。つられて、俺も恐る恐る目を見はった。
 カキーン
 
 カキーン

 まるで、何かを討っている音が森の奥からした。でも、よく目と耳を凝らしてみると、全身白い生地の着物を羽織った女が杉の木に藁人形を打ちつけている。
「え?」
 ズルリと片足が転げ落ちそうになった。その時、何かの拍子で割れ散った窓ガラスの破片等を踏んづけてしまった。

 パリン グシャ

 その音はやけに反響し、女がこちらを振り向いた。梅干しのように皺くちゃな顔した老婆。頭に乗せた、数本の火のついた蝋燭が動きと共にゆらりと揺れる。
「に、逃げるぞ!」
 智は震える足を踏ん張り、友人と今だに呆然している二人に声をかけた。
 女が奇声をあげ、斧を持って走ってくる。
 俺らがいるのは一階の裏口玄関前。森からは若干、近い。鬼の血相で駆け寄ってくる女のスビードは測れしれない。
「う、うわあぁ!」
「いゃぁぁ!」
 やっと、友人と二人が正気に戻り、一目散と外に向かっていく。
 来た道を走るが、廊下が異常にも長い。面白話で進んできた道がこんなにも憎むなんて。
 女が裏口玄関の戸をこじ開け、中に入ってきた。
「うおぉ! あぁぁ! 待てぇぇぇぇ!!」
 まるで、地獄から帰ってきた生霊のような恐ろしい声が建物内に反響した。
 俺らはそんな声を無視し、やっと外に出た。一目散と、車に戻る。
「シートベルト……!」
「そんな事より早く!」
「待て、鍵が!」
 俺はポケットから鍵を取り出し、震える指先で鍵穴に刺す。その間、柚子は泣き出し、立花は呆然、友人は目の前にいるかのような悲鳴をあげて、車の中は混乱している。
 鍵がやっとの事で鍵穴に刺した。ブルンと車のエンジン音がなる。
「良かった……これで」
 安堵した束の間、車の前のガラスに女が張り付いた。
「貴様らの顔……覚えておく。あとで待ってろぉ!」
「ひぃ!」
「いゃぁぁぁ!!」
 俺はついに怖くなり、そのまま車を発進させ、都会に向かって全速力で走った。
 民家や明るい商店街など、それらを目にするとやっとの事で落ち着いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!

オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。 ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。 学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。 当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。 同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。 ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。 そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。 まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。  その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。 こうしてジュリーとの同居が決まった。

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

不貞の末路《完結》

アーエル
恋愛
不思議です 公爵家で婚約者がいる男に侍る女たち 公爵家だったら不貞にならないとお思いですか?

処理中です...