わたしとあなたの夏。

ハコニワ

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一 大倉麻耶 

第22話 嫉妬、強欲、

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 わたしは景子の家の前までたどり着いた。
 何度も遊びに来た見覚えのある庭、お家、ふわっと香る夏の匂い。庭では景子の家が飼っている、二匹の鶏がコケコケと甲高く鳴き、くちばしを跳ねるように動かして庭の土を突いている。
 一匹の鶏がわたしに気づき、コケッコケッと鳴いた。歓迎されているのかな。
「おはよう。景子はいるかな?」
 小声でそっと訊ねると、鶏は目をぱちくりさせ首をカクカク振りまた土を突く。まるで、頷いたような。
 鶏なんかに聞いて馬鹿みたい、わたしは一人でに微笑み景子の玄関の戸を叩いた。
「すいませーん。誰かいませんか?」
 大きく叫ぶと、中からドタドタと音をたて廊下を歩く足音がした。ちょっと怒っているのか、その足取りは一つ一つの歩幅が短い。
 こんな早朝に起こされたからなのか。それとも、声の主がわたしだからなのか。
  わたしはちょくちょく景子の家に遊びに出かけたとき、こうやって声をかける。いつもの時間帯にこんな声の調子、景子の家の人はわたしだって分かるだろう。
 ドキドキして、胸の弾みが圧迫した。玄関の硝子越しに中の人影が見えた瞬間、その圧迫が強くなった。ドクンドクンと大きく脈うつ。
「はい」
 玄関の戸がしきりに開いた。
 中から現れたのは景子のお母さん。
「あ、おはようございます。えっと……景子はいますか?」
「景子なら、とっくに外に行ったわよ?」
 そんな、それじゃあ何処かですれ違ってた?
 景子が既にこの場にいないと分かり、わたしはすぐにここを去ろうと決意した。なんとなくだけど、景子のお母さんとも歓迎されてなさそうだし。

 景子の家を出て、それから暫く歩いたさきにある民家から話し声が聞こえた。一人は村長。しわがれた声とすをずに言ってしまう口調で分かる。もう一人は研究者さん。
 なんの話しをしているのか気になって茂みでこっそり隠れて聞き耳をたてちゃった。
 大丈夫。大人の話しなんていつも難しい話しか女の人の話ししかしないから、聞いてもなにも文句はないよね。
 まず、初めに村長が気難しい顔で言った。
「今年の夏も暴れそうでずな」
「そうですね……もし、良いのですか?」
「抗って死ぬ選択はない。この村にいる限り死は逃れられない」
「そうです……ね」
 意味深な会話に釘付けでわたしは気づいていなかった。研究者さんが茂みにわたしが隠れていることに気づいていたことを。
「下っ端の奴に村調査を頼んでいるんで、これで失礼します。警察のかたも含め我ら研究員も早々にこの村をでないと」
 研究者さんがくるりと背を向き、村長と別れた。後方に言ってた言葉は一体なんだったのだろう。
 研究者さんと別れた村長は縁側でひっそりと一人で座っていた。真っ青な青空を見上げ、祈るようにその眼差しは悲しかった。
 なんだか見てはいけないものを見てしまった嫌悪感を抱き、その場を足音もなく去った。

 のちに分かった、この会話はこの残虐事件の結末を意味していたものだと知る。この会話どおり、この日に研究者さん、刑事さんが村から出て行った。
 まるで、死を恐れ畏怖したように、ゴミくず一つ落とさずに。
 でも、僅か数名の研究者さんが残ったのは篤さんがわたしの後の夫となる経緯がある限り、言うまでもない。

 景子を探そう、堅く決心した。近道しちゃたけど、景子の行きそうな場所を手当たりしだいで探せば大丈夫だよね。
 公園に辿りつき、周囲をキョロキョロしてみても景子の影は一つも見当たらない。もしかしたら、またすれ違って家に帰っているのかも。
 一旦引き帰そう、とあの十字路の道をまたがった途端、聞き覚えのある悲鳴が真っ青な空にこだました。
 佐竹家からだ。しかも、瞬ちゃんと同じように時間帯も同じ、叫び声の主も同じ。
 わたしは衝動にかられ、佐竹家へと向かった。朝から村中を駆け回っているせいか、足取りが重い。両足に鎖をはめられたように重い。
 きっと、行き着く場所で見る光景はあの酷い光景なのだろうか。それよりももっと、酷い光景なのだろうか。
 そんな不安も胸に置きつつ、佐竹へと辿り着いた。野次馬が二人か三人ぐらいいる。
「佳代子さん! 一体どうしたんですか!?」
 野次馬の一人、佳代子さんに聞いてみる。佳代子さんも意味が分からない状態で呆然としている。
「わ、私が来た頃にはもう、なにがなんなのか……」
 そう言って前方を見つめる。つられてわたしもその方向に顔を向けた。

 驚く光景が広がっていた。なんと、和也さんと朝倉の亭主、サトシさんが喧嘩をしていたのです。ただの口喧嘩じゃない。お互い流血をして、手には斧や包丁を持っている。
 和也さんなんか、頭から流血して顔全体にドロとした赤い液体がかかっている。
「ど、どうしたんですか!?」
 わたしが急いで駆け寄るとそばにいた佳代子さんが静止した。
「危ないわ! 下がって!!」
 その通り、この喧嘩は子どもが立ち防げるものではない。佐竹家と朝倉家は確かに仲は悪いけど、こんな暴力沙汰を起こすような間柄ではなかったはず。
「うちの瞬之助は死んだのに、どうしてあんたの息子は生きてるの!? 返してうちの子を!」
 ヒロミさんがシクシク泣きじゃくていた。膝を地につき産声のような奇声をあげて。
 サトシさんが持っている斧を頭上に上げ、ヒロミさんの首を斬った。ズドンと鈍い音が響き、コロンコロンと首が二㍍転んで、朝倉さん家の鶏小屋で止まった。
 顔がこっちを向いていた。恐怖の顔で歪んでいる。
 一瞬、何が起きたのかさっぱりでした。頭が真っ白で呼吸ができない。徐々に、ページをめくるようにして現状を理解しました。
 目の前でヒロミさんが殺された、と。さっきまで生きていた人が死んだのだ。全ての神経が赤信号を鳴らしてた。
 理解した既に、辺りは悲鳴に満ちていた。
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