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一 大倉麻耶
第18話 矢田家
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刑事さんたちの突然の裏切り、次は研究者さんたちの支配下がこの村を圧迫していた。生まれ育った場所なのに右も左も動けない。
この日こそ、この惨劇事件の屈辱の日。なにかを失うにはなにかを得なければならない。その代償はとてつもなく大きかった。それは五年生のわたしにとって、それは大きな、覆せない代償でした。
7月29日(日)
朝、刑事さんたちからとんでもない情報が渡った。それは、矢田家から血まみれの斧が発見したという。
冗談だと、悪態だと、聞きつけたときそう思わずにはいられなかった。
いつものように集会場に集まった村人たち。でも、人数が少なく見えるのは気のせいだろうか。集まると、人の蒸気と夏の生暖かい風が密封し灼熱の砂漠化するのに今日は違った。
というと、昨日の刑事さんたちの悪態で来ていない人が割と多いかも。大人は見かけるけど、同年代の洋介と礼子の姿がない。代わりに景子の姿が見える。
顔をみると、真っ白い肌しているのがますます青白くなっていた。血を抜かれたように蒼白。どうしたの、と訊くと景子はいきなり顔をそらされた。
問いかけようにも、景子は意外と口が硬い子でね。口を割ろうとしない性格。だから、聞きたくても聞けなかった。あとで聞けばいいや、そのときは軽く思っていた。
でも、今にして思えばあの時顔を背けられたのは〝後ろめたさ〟〝薄情〟その言葉の真実を知るのは約数分後。
「刑事さん、これは間違いでずぜ。兄者の家から血まみれの斧なんざ出てこないでず」
村長が喋った。日焼けした褐色肌に大粒の汗がわきでている。必死な弁解に誰もが参戦していた。
騒ぐわたしたちに刑事さんはやれやれといった感じでため息をついた。
「間違いないです。こんなのが矢田家の庭から出てきました」
赤い血痕と泥がついた斧を見せられた。大きい透明ビニール袋の中に入っているもの。斧についた血は赤い玉模様。何日か置いて固くなって表面がザラザラしているように見える。
「恐らく、佐竹瞬之助くんの血痕でしょう。あの事件、凶器は見つからなかったので」
鏡を割ったようにざわつきはじめた。誰もが顔を見合わせ、口を滑らせている。半信半疑な雰囲気に、わたしは一歩近付いてみた。
わたしが今、そんなことを聞きたいんじゃない。本当に知りたいのは亜希子たちの身。
「亜希子のおばさんや家族たちはどこですか?」
訊くと、景子がしくしくと泣きだした。両手で顔を覆い大粒の涙を溢している。
「ど、どうしたの景子」
「ごめんなさい……」
掠れる声でそう言ってきた。ポロポロと雫を溢し、真っ赤に焼けた顔をあげた。
「つい……口が滑っちゃたの。グスッ……私たちが井戸で、グス……呪詛をやったこと」
びっくりして声が出ない。心臓が急激に音を鳴り出し始めた。心中では黒いモヤが一気に波寄せてきた。
喋った? わたしたちが呪詛をやったことでどうして亜希子の家から斧が見つかるの。どうしてこの場に亜希子はいないの。
その瞬間、チクリと刺す視線を感じた。四方から。飛び跳ねるように周囲の視線を追った。みな、汚いものでも見るような眼差しでわたしたちを見ていた。
かつて感じたことない恐怖に陥られた。既にわたしたちがやったこと周囲にバレている。そして、その罪の下しが決まっていたようだ。礼子の言っていたとおり、村八分だ。
「えーと、矢田家は今隣街の警察署に向かっています」
それって。わたしは足を踏み出し、玄関に向かって走った。怒声を背後に感じながら。
亜希子のもとに向かって走った。このときのわたしは友を失うのが怖かった。
亜希子は確かにわがままで人を見下すクセはあるけどそれでも、人を殺したりするような子じゃない。優しい一面があるのを知っている。だからこそ、あの斧は間違いだと直接聞きたくて追いかけた。
大勢で隣街に行くなら、橋は絶対に渡らないはず。橋のルートを避け、崖道を向かった。この村で育った脚力なめんな。
崖道をなんなくクリアし、以前覚さんが足を踏み外した場所に人が数名歩いている。適度な間隔をあけ、縦に並んで歩いている。先頭と後ろは刑事さん二人。
その間を矢田家が歩いていた。囚われた囚人みたいに顔色が悪い。
「亜希子っ!」
わたしは叫んだ。その声がけたましく響き、やまびことなり一行の耳に届く。
「麻耶……どうしてここに?」
振り返った彼女は第一に口を開いた言葉はそれだった。怪訝にわたしを見つめる眼差しは今でも覚えている。
「嘘……だよね? 血まみれの斧なんて」
問いかけると、亜希子は確かに目の色が黒くなった。
「本当だよ」
その言葉は聞きたくなかった。なんのためにここまで来て追いかけたのかわからない。
「う、嘘……嘘だ」
釈然としないわたしは目の前がクラクラとした。貧血でも起こしてないのにクラクラする。亜希子はそんなわたしに追い打ちをかけるように現実を突きつけた。
「人を殺したのは確か。あたしたちは村のためにやったの。でも、瞬ちゃんじゃない……瞬ちゃんは殺していない!」
虚しい叫び声がこだました。
わたしは思考が止まり、頭が真っ白になった。わたしが予想していた言葉は遥か上回り覆すものではなかった。
「人を……殺した?」
言いきかせるように呟く。亜希子はわたしからさっと顔をそらし、くるりと踵を返した。
「ごめんなさい」
押し潰されそうなか弱い声。
背中を見せたかと思うと、一歩一歩歩んでいく。受験に失敗した虚ろな歩きかた。いつも自信満々で胸をはる歩きかたの子が、人生初めて弱気な姿だ。そのあとを追うように矢田家は歩いていった。
わたしはなんて応えたらいいのか分からず、その姿を目で追うことしかできなかった。
なにを語れば、亜希子が振り向いてくれるのか全く分からなかった。
この日こそ、この惨劇事件の屈辱の日。なにかを失うにはなにかを得なければならない。その代償はとてつもなく大きかった。それは五年生のわたしにとって、それは大きな、覆せない代償でした。
7月29日(日)
朝、刑事さんたちからとんでもない情報が渡った。それは、矢田家から血まみれの斧が発見したという。
冗談だと、悪態だと、聞きつけたときそう思わずにはいられなかった。
いつものように集会場に集まった村人たち。でも、人数が少なく見えるのは気のせいだろうか。集まると、人の蒸気と夏の生暖かい風が密封し灼熱の砂漠化するのに今日は違った。
というと、昨日の刑事さんたちの悪態で来ていない人が割と多いかも。大人は見かけるけど、同年代の洋介と礼子の姿がない。代わりに景子の姿が見える。
顔をみると、真っ白い肌しているのがますます青白くなっていた。血を抜かれたように蒼白。どうしたの、と訊くと景子はいきなり顔をそらされた。
問いかけようにも、景子は意外と口が硬い子でね。口を割ろうとしない性格。だから、聞きたくても聞けなかった。あとで聞けばいいや、そのときは軽く思っていた。
でも、今にして思えばあの時顔を背けられたのは〝後ろめたさ〟〝薄情〟その言葉の真実を知るのは約数分後。
「刑事さん、これは間違いでずぜ。兄者の家から血まみれの斧なんざ出てこないでず」
村長が喋った。日焼けした褐色肌に大粒の汗がわきでている。必死な弁解に誰もが参戦していた。
騒ぐわたしたちに刑事さんはやれやれといった感じでため息をついた。
「間違いないです。こんなのが矢田家の庭から出てきました」
赤い血痕と泥がついた斧を見せられた。大きい透明ビニール袋の中に入っているもの。斧についた血は赤い玉模様。何日か置いて固くなって表面がザラザラしているように見える。
「恐らく、佐竹瞬之助くんの血痕でしょう。あの事件、凶器は見つからなかったので」
鏡を割ったようにざわつきはじめた。誰もが顔を見合わせ、口を滑らせている。半信半疑な雰囲気に、わたしは一歩近付いてみた。
わたしが今、そんなことを聞きたいんじゃない。本当に知りたいのは亜希子たちの身。
「亜希子のおばさんや家族たちはどこですか?」
訊くと、景子がしくしくと泣きだした。両手で顔を覆い大粒の涙を溢している。
「ど、どうしたの景子」
「ごめんなさい……」
掠れる声でそう言ってきた。ポロポロと雫を溢し、真っ赤に焼けた顔をあげた。
「つい……口が滑っちゃたの。グスッ……私たちが井戸で、グス……呪詛をやったこと」
びっくりして声が出ない。心臓が急激に音を鳴り出し始めた。心中では黒いモヤが一気に波寄せてきた。
喋った? わたしたちが呪詛をやったことでどうして亜希子の家から斧が見つかるの。どうしてこの場に亜希子はいないの。
その瞬間、チクリと刺す視線を感じた。四方から。飛び跳ねるように周囲の視線を追った。みな、汚いものでも見るような眼差しでわたしたちを見ていた。
かつて感じたことない恐怖に陥られた。既にわたしたちがやったこと周囲にバレている。そして、その罪の下しが決まっていたようだ。礼子の言っていたとおり、村八分だ。
「えーと、矢田家は今隣街の警察署に向かっています」
それって。わたしは足を踏み出し、玄関に向かって走った。怒声を背後に感じながら。
亜希子のもとに向かって走った。このときのわたしは友を失うのが怖かった。
亜希子は確かにわがままで人を見下すクセはあるけどそれでも、人を殺したりするような子じゃない。優しい一面があるのを知っている。だからこそ、あの斧は間違いだと直接聞きたくて追いかけた。
大勢で隣街に行くなら、橋は絶対に渡らないはず。橋のルートを避け、崖道を向かった。この村で育った脚力なめんな。
崖道をなんなくクリアし、以前覚さんが足を踏み外した場所に人が数名歩いている。適度な間隔をあけ、縦に並んで歩いている。先頭と後ろは刑事さん二人。
その間を矢田家が歩いていた。囚われた囚人みたいに顔色が悪い。
「亜希子っ!」
わたしは叫んだ。その声がけたましく響き、やまびことなり一行の耳に届く。
「麻耶……どうしてここに?」
振り返った彼女は第一に口を開いた言葉はそれだった。怪訝にわたしを見つめる眼差しは今でも覚えている。
「嘘……だよね? 血まみれの斧なんて」
問いかけると、亜希子は確かに目の色が黒くなった。
「本当だよ」
その言葉は聞きたくなかった。なんのためにここまで来て追いかけたのかわからない。
「う、嘘……嘘だ」
釈然としないわたしは目の前がクラクラとした。貧血でも起こしてないのにクラクラする。亜希子はそんなわたしに追い打ちをかけるように現実を突きつけた。
「人を殺したのは確か。あたしたちは村のためにやったの。でも、瞬ちゃんじゃない……瞬ちゃんは殺していない!」
虚しい叫び声がこだました。
わたしは思考が止まり、頭が真っ白になった。わたしが予想していた言葉は遥か上回り覆すものではなかった。
「人を……殺した?」
言いきかせるように呟く。亜希子はわたしからさっと顔をそらし、くるりと踵を返した。
「ごめんなさい」
押し潰されそうなか弱い声。
背中を見せたかと思うと、一歩一歩歩んでいく。受験に失敗した虚ろな歩きかた。いつも自信満々で胸をはる歩きかたの子が、人生初めて弱気な姿だ。そのあとを追うように矢田家は歩いていった。
わたしはなんて応えたらいいのか分からず、その姿を目で追うことしかできなかった。
なにを語れば、亜希子が振り向いてくれるのか全く分からなかった。
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