16 / 57
一 大倉麻耶
第15話 研究者
しおりを挟む
村八分にされるのを恐れて夜、全然眠れませんでした。身が竦むほどの恐怖と絶望に、あの日の見上げてた天井は嫌なほど鮮明に覚えている。そうして、夜が明けました。
7月28日(土)
不可解な死を遂げる村を解き明かしたいと外から研究者がやって来ました。刑事さんたちと変わらない厳つい顔つきをしていたのです。
次々と死んでいく村住民の代わりによそ者がズカズカとこの村の大地を歩いてきた。
そのことに対し、村住民だけじゃなく村長までも暴れ回った。もちろん、わたしも嫌でした。
この村によそ者がズカズカ入ってくるなんて、身も毛もよだつ。しかも、それが研究者なんて。不気味だし、なにより恐ろしかった。
「今日から君たちの担当をする田村 篤です。よろしくね」
これが後にわたしの夫となる田村篤との出会いでした。
彼は他の研究者と違い、質素で階級でも下っぱの人でした。わたしとの年齢差は五歳差の十六歳。小枝のように華奢で背が高い。穏やかで優しそうというのがその当時から第一印象でした。
研究者のイメージをあわせた黒渕メガネをかけている。
「お! 兄ちゃん、オレと同じ名字じゃん。もしかして、生き別れの兄弟だったりして!」
陽気に洋介が話しかけた。
調子こいてるこいつの話しかたはほんとに汚い。
集会場の四畳部屋に集まったのはわたしと景子、礼子と亜希子と洋介、佐奈ちゃんと克ちゃんにいわば、小学生から幼稚園組だ。
「洋介、仮にも年上なんだから敬語使えないの?」
クスクスと亜希子が笑った。バカにした笑いかた。それに感ずいた洋介はムッとした表情に変わり、篤さんを指差す。
「こんなひょろひょろしてるやつ、年上か! オレ様のほうが絶対身長上だ!」
洋介が篤さんの白シャツを掴み、無理やり下におろした。その勢いで篤さんはしゃがみこむ。しゃがみこんだら、彼の分厚いメガネがズリと傾いた。
「ほらな!」
洋介がこれみよがしに自分が上だとみんなに知らしめてきた。
「洋介ほんとバカ!」
「お馬鹿さん」
と室内は洋介のバッシングがブーインした。
篤さんがメガネを上に傾け、大きく咳払いした。話しの続きをする合図。
「さて、僕も一応研究者としてやって来たんだ。突然だけど君たちの身体検査をさせてもらうよ」
「え!? 何で!?」
ざわとどよめきが広がった。
小さい子どもなんかはお互い体をくっつけて身を寄せている。わたしだって鳥肌がたった。身体検査といえばこの時代、男子はパンツ一丁、女子もパンティだけだった。
佐奈ちゃんとか小さい子どもは見られても大丈夫。けど、年相応のわたしたちは大丈夫と言えるものではない。
だって、ほぼ裸だよ。亜希子とか礼子とかもう、ブラジャーつけてるもん。わたしは残念ながらつけていないけど。知らない男の人に裸を見られて、触られるなんてゾッと鳥肌が頭の毛まで伝った。
亜希子がツンとした態度で篤さんを睨みつける。
「断固拒否! なんで、研究者なのに身体測定しなきゃならないわけ? 意味分かんない」
その勢いに押され、篤さんはおもむろに口を開いた。
「身体測定は……軽めだから」
「無理っ! あたしはここを動かない」
そっぽを向いて、唇をアヒルのように尖らせている。困ったな、と篤さんが弱気につぶやいた。
「ほんとに軽めなの?」
わたしは訊ねると篤さんは一瞬、ホッとした表情を浮かべる。
「そうだよ。身長と体重と、あと血を取るだけ」
ニコッとさり気なくそう言った。途端、さっきよりもざわめきが大きくなった。洋介に浴びていたあのブーイングが今や篤さんに増大に浴びている。
篤さんは目を困らせて腰を低くする。身長が大きい割にやけに、小心者だ。そんな彼を見かねてわたしは口を開けた。
「みんな、落ち着いて大丈夫だよ。こんなところでブーブ言ってたら、研究者さんたちも困っちゃうよ。ね」
篤さんに視線をやると、篤さんは分かったと首を頷く。
「はい、それじゃあ小さい子から順番に身体測定から」
自信に満ちた声で篤さんが呼びかけた。勢いにのせられ、亜希子や洋介は黙るしかない。克ちゃんから順々に別室に名前を呼ばれていく。
洋介が終わったらわたし。ドキドキで待っていると、洋介が横からからかってきた。
「お前その歳でちっぱい! うける!」
わたしはカァと顔が火照り、両腕で体を隠した。でも、洋介はゲラゲラと笑いわたしをからかいものとして指差している。途端に涙が込み上がってきた。
女の子の裸を見て笑うなんて最低。確かにわたしは馬鹿で男の子と一緒に遊ぶような女の子の欠片もないけど、それでも笑うなんてあんまりだよ。
今でもゲラゲラ笑っている洋介に一発殴ってやろうとしたその時、背後から……。
「そのちっぱいに勃起しているのはどこの誰かしら?」
振り返ると亜希子が仁王立ちで洋介を睨んでいた。いいや、正確には顎をあげ見上げていた。あの大きなおっぱいを銭湯にある白いタオルで隠している。
「なっ……!」
洋介がさっきのわたしみたいに顔が赤くなった。
「ぼっきって?」
わたしは訊ねると、亜希子は目を押し上げまじまじと見つめてくる。
「え、知らないの? 勃起ってのはね……」
ちょうど、わたしの名前が呼ばれた。惜しみなく別れ、わたしは別室に向かう。保健室みたいに消毒液の臭いがこびりついてる部屋。
大きなベットがあり、見たことない機械が並んでいる。きっと、血を取るための機械だ、そう思うと鳥肌がたった。
「えと……大倉麻耶ちゃん、さっきはほんとにありがとう。助かったよ」
向かいあって座り、篤さんがにこやかに笑った。華奢だから、白い白衣も似合っている。
「ううん。それよりさ! 聞きたいことがあるの!」
早速、身長を測る前にわたしは思いきって訊ねてみた。彼は小さく首を傾げ、わたしから放つ質問を黙って待つ。
「ぼっきって何?」
そういうと、篤さんは暫く石のように硬直した。口をだらしなく開け、手に持っていたボードとペンをポトと落とす。
その反応を見て、わたしはいけないものを訊いてしまったのでは、と内心ヒヤヒヤしたけど聞きずにいられなかった。
7月28日(土)
不可解な死を遂げる村を解き明かしたいと外から研究者がやって来ました。刑事さんたちと変わらない厳つい顔つきをしていたのです。
次々と死んでいく村住民の代わりによそ者がズカズカとこの村の大地を歩いてきた。
そのことに対し、村住民だけじゃなく村長までも暴れ回った。もちろん、わたしも嫌でした。
この村によそ者がズカズカ入ってくるなんて、身も毛もよだつ。しかも、それが研究者なんて。不気味だし、なにより恐ろしかった。
「今日から君たちの担当をする田村 篤です。よろしくね」
これが後にわたしの夫となる田村篤との出会いでした。
彼は他の研究者と違い、質素で階級でも下っぱの人でした。わたしとの年齢差は五歳差の十六歳。小枝のように華奢で背が高い。穏やかで優しそうというのがその当時から第一印象でした。
研究者のイメージをあわせた黒渕メガネをかけている。
「お! 兄ちゃん、オレと同じ名字じゃん。もしかして、生き別れの兄弟だったりして!」
陽気に洋介が話しかけた。
調子こいてるこいつの話しかたはほんとに汚い。
集会場の四畳部屋に集まったのはわたしと景子、礼子と亜希子と洋介、佐奈ちゃんと克ちゃんにいわば、小学生から幼稚園組だ。
「洋介、仮にも年上なんだから敬語使えないの?」
クスクスと亜希子が笑った。バカにした笑いかた。それに感ずいた洋介はムッとした表情に変わり、篤さんを指差す。
「こんなひょろひょろしてるやつ、年上か! オレ様のほうが絶対身長上だ!」
洋介が篤さんの白シャツを掴み、無理やり下におろした。その勢いで篤さんはしゃがみこむ。しゃがみこんだら、彼の分厚いメガネがズリと傾いた。
「ほらな!」
洋介がこれみよがしに自分が上だとみんなに知らしめてきた。
「洋介ほんとバカ!」
「お馬鹿さん」
と室内は洋介のバッシングがブーインした。
篤さんがメガネを上に傾け、大きく咳払いした。話しの続きをする合図。
「さて、僕も一応研究者としてやって来たんだ。突然だけど君たちの身体検査をさせてもらうよ」
「え!? 何で!?」
ざわとどよめきが広がった。
小さい子どもなんかはお互い体をくっつけて身を寄せている。わたしだって鳥肌がたった。身体検査といえばこの時代、男子はパンツ一丁、女子もパンティだけだった。
佐奈ちゃんとか小さい子どもは見られても大丈夫。けど、年相応のわたしたちは大丈夫と言えるものではない。
だって、ほぼ裸だよ。亜希子とか礼子とかもう、ブラジャーつけてるもん。わたしは残念ながらつけていないけど。知らない男の人に裸を見られて、触られるなんてゾッと鳥肌が頭の毛まで伝った。
亜希子がツンとした態度で篤さんを睨みつける。
「断固拒否! なんで、研究者なのに身体測定しなきゃならないわけ? 意味分かんない」
その勢いに押され、篤さんはおもむろに口を開いた。
「身体測定は……軽めだから」
「無理っ! あたしはここを動かない」
そっぽを向いて、唇をアヒルのように尖らせている。困ったな、と篤さんが弱気につぶやいた。
「ほんとに軽めなの?」
わたしは訊ねると篤さんは一瞬、ホッとした表情を浮かべる。
「そうだよ。身長と体重と、あと血を取るだけ」
ニコッとさり気なくそう言った。途端、さっきよりもざわめきが大きくなった。洋介に浴びていたあのブーイングが今や篤さんに増大に浴びている。
篤さんは目を困らせて腰を低くする。身長が大きい割にやけに、小心者だ。そんな彼を見かねてわたしは口を開けた。
「みんな、落ち着いて大丈夫だよ。こんなところでブーブ言ってたら、研究者さんたちも困っちゃうよ。ね」
篤さんに視線をやると、篤さんは分かったと首を頷く。
「はい、それじゃあ小さい子から順番に身体測定から」
自信に満ちた声で篤さんが呼びかけた。勢いにのせられ、亜希子や洋介は黙るしかない。克ちゃんから順々に別室に名前を呼ばれていく。
洋介が終わったらわたし。ドキドキで待っていると、洋介が横からからかってきた。
「お前その歳でちっぱい! うける!」
わたしはカァと顔が火照り、両腕で体を隠した。でも、洋介はゲラゲラと笑いわたしをからかいものとして指差している。途端に涙が込み上がってきた。
女の子の裸を見て笑うなんて最低。確かにわたしは馬鹿で男の子と一緒に遊ぶような女の子の欠片もないけど、それでも笑うなんてあんまりだよ。
今でもゲラゲラ笑っている洋介に一発殴ってやろうとしたその時、背後から……。
「そのちっぱいに勃起しているのはどこの誰かしら?」
振り返ると亜希子が仁王立ちで洋介を睨んでいた。いいや、正確には顎をあげ見上げていた。あの大きなおっぱいを銭湯にある白いタオルで隠している。
「なっ……!」
洋介がさっきのわたしみたいに顔が赤くなった。
「ぼっきって?」
わたしは訊ねると、亜希子は目を押し上げまじまじと見つめてくる。
「え、知らないの? 勃起ってのはね……」
ちょうど、わたしの名前が呼ばれた。惜しみなく別れ、わたしは別室に向かう。保健室みたいに消毒液の臭いがこびりついてる部屋。
大きなベットがあり、見たことない機械が並んでいる。きっと、血を取るための機械だ、そう思うと鳥肌がたった。
「えと……大倉麻耶ちゃん、さっきはほんとにありがとう。助かったよ」
向かいあって座り、篤さんがにこやかに笑った。華奢だから、白い白衣も似合っている。
「ううん。それよりさ! 聞きたいことがあるの!」
早速、身長を測る前にわたしは思いきって訊ねてみた。彼は小さく首を傾げ、わたしから放つ質問を黙って待つ。
「ぼっきって何?」
そういうと、篤さんは暫く石のように硬直した。口をだらしなく開け、手に持っていたボードとペンをポトと落とす。
その反応を見て、わたしはいけないものを訊いてしまったのでは、と内心ヒヤヒヤしたけど聞きずにいられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる