わたしとあなたの夏。

ハコニワ

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一 大倉麻耶 

これは書き綴った物語である。

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 一九四五年八月十五日 その日は、日本の終戦日となった。ロシアやアメリカ、ヨーロッパまでも敵にまわした我が国はアメリカの二つの非道な爆弾によって戦争という名が幕をおろした。
何千人、何百人の死者を出した戦いはなんとも呆気なく終ったのである。

 それから、時は立ち――…
 終戦から約十五年も経った一九六〇年。

 快晴に透き通った青空がどこまでも続く七月の真夏日。炎天下で陽炎がゆらゆらと景色を惑わせる。そんな七月の二十四日。
 足を置くアスファルトと砂道は太陽により、熱さをともしていた。にも関わらず、無邪気に公園で遊んでいる小学生たちがいた。中には幼い、幼稚園児までもがいる。
 その先頭に声がやたら男声で、女の子な筈が男きまわりない目つきをした少女、大倉 麻耶おおくら まやがいた。
 歳はそう、小学5年生の11歳である。
 肌は日焼けして褐色になり、女っけがないシャツ一枚にピチピチ半袖ズボン。
「よぉし、今日のターゲットはこいつだぁ!!」
 麻耶が男まさりにジャングルジムの鉄を鋭く指さした。麻耶の周りには年頃の女の子二人と幼い子どもが複数。
 子どもたちは一斉に目を輝かせ、麻耶が指差したジャングルジムに飛びついた。
「きょう、オレがいちばんのりー」
「あ、ズルい!! わたしだよ!」
「もう押さないでよ…」
 ジャングルジムに一斉に飛びついた少年少女たちはまだ〝優先順位〟というのを理解していないらしい。
 見かねて少女が口を開く。
「こらこらこら、あんたたち女の子いるでしょうが! レディーファーストしなさいよね」
 そう言ったのは麻耶と同じ11歳の少女、矢田 亜希子やた あきこである。
 少し大人びた顔立ちでしかも、ここら一帯で珍しいフリルのついた洋服を身に纏っている。この風貌からして、お嬢様と言っても過言。しかし、リアルに超がつく程のお嬢様だ。
「んげぇ。あっちゃん、うっせぇー」
「れでィふぁうすと?」
 ツンツンした髪の毛坊主、かつちゃんはピンクの舌をベェと亜希子に向かせ出した。それとは対象にやや目尻が下がった坊主、しゅんちゃんは亜希子の言葉を再度自分の口から言う。
 亜希子は克ちゃんの行動を見てプルプルと肌を震わせた。
「ま、まぁまぁここは穏便に」
 そこで駆けつけたのは同じく5年生の少女、暁 景子あかつき けいこ
 こんな真夏の日差しにも関わらず、白い肌の持ち主で透き通った瞳の持ち主。亜希子を宥めようと必死な血相。
「んもう、まっちゃんも何か言ってよぅ」
 頬を膨らませ、景子が麻耶を上目遣いで睨んでくる。宥めているお相手は子どもだから仕方なしといった感じで去った亜希子。
 子どもたちから背を向けるとわんわん泣き出した。
「いや~この光景、いつもみよがしですなぁ~」
「笑いこどじゃないっ!」
「こ、こど、子ども怖い怖い……」
ぶつぶつと呪文のように口ずさむ亜希子はとてもやお嬢様といった風貌は感じられない。

 この頃はまだ知る由もなかった。
 この村が悲鳴に轟、惨劇にまみれ、血に汚れていくのを。
 5年生の11歳でこんな事、考える事もなかった。11歳でも大人だと信じてたあの頃……。

 これは大倉麻耶ことわたしがいずれ、田村 麻耶たむら まやになるおよそ8年前に起きた惨劇の事件の記録です。

 記録というより、後世に繋がる手紙です。
 どうか、この村で起きた出来事を忘れませんように。いつまでも、人の記憶に入っていますようにと、願いを込めて。
 しかし、いつか人は忘れてしまうものですよね。自分自身の事も命という大切な事も想いも。
 しかし、これだけは決っして肝に銘じて下さい。
 命はたった一つだと。人生は一度きりだと。そして、一度きりの人生で出会い別れまた出会ってその流れの中で、自分の〝人生の価値観〟〝大切なもの〟〝大切な人物〟を見捨てないで下さい。
 これは戦慄を潜ったわたしだから言える事かも知れません。ですが、必ず親や教師が言うはずです。
 〝命を粗末にするな〟
 と簡単に捉えてほしくない言葉です。足枷よりも重い言葉です。どうか、忘れないでほしい。
 命という灯火がある先に一人一人の大切な思い出、未来が詰まっていると。

 それとこの村に住んでいる人たちの名前をさきに教えとくね。この村の名は「絶法村ぜつほうむら」なんか薄気味悪い名前だよね。一番過疎化が進んでいてまだ、戦争の傷跡が残る村だった。

 村は山に囲まれ、地平が他より低く、夏は程よい暑さに、冬は凍える程寒い。都会にいくにも村を出るのに1日かかる程度だった。
 しかも、境目近くの橋は古びてて数人渡れば奈落の底に落ちる危ない橋。だから、みんな煙たがれ村を出ない。

 ここで、少し昔話を書きます。わたしもおばあちゃんから聞いた話しだけど、そのおばあちゃんもそのまたおばあちゃんも受け継がれてる村の伝説。

 この村は古き時代、鬼の瘴気によって人が住めなかったの。木も草花も枯れ果て川の水さえも腐らせるほど。でも、天から美しい天女様が降ってきてそれから、人が住めるようになったの。

【天女様が息を吹き込めば瘴気は霧のように晴れ、天女様が瞬きすれば瘴気によって枯れた草花は元に戻り、天女様が微笑めばたちまち、この集落は人が集まり、一つの集落と化す。こうして、村が出来上がったのです。あぁ、美しの天女様ありがとうございます。あなたが求むものはなんでもわたしたちが揃えましょう】という、お話。

 わたしはこの話しが好きでした。奇想天外で好奇心を唆られてたから。天女の名は〝ヤミヨミサマ〟この村一帯となって信仰する存在。
 ヤミヨミサマは夜を好み、夜道に歩く村人を攫って食べるんだとか。

【夜道で男が歩いておりました。ヤミヨミサマヤミヨミサマ、お迎えですよ。腸ひっくり返して食べましょう。明かりをつけた女が歩いておりました。ヤミヨミサマヤミヨミサマ、迎えにこれません。悔しくって水に帰ります】
 と怖い歌まであります。本当かどうか定かではない。でも、この伝承はのちに村の掟となり、誰も夜道を歩くことはないのです。ただ、明かり一本でもつければ別だけどね。

 その信仰の通り、どこの地域でも見かけない独特の風習が根強いでいた。特に夏。夏の始まりと中盤。
 それは、夏のお祭り。言いくるめてヤミヨミサマお祭りだ。夜と同じように、夏が好きなヤミヨミサマのためつくられたお祭りだ。
 初夏と八月の間に二度も催すお祭り。そのお祭りは明かり一つもつけないのがこの村の風習。信仰心を高めるため、真っ黒で静寂なお祭りだった。

 変だとは思わなかった。これが当たり前だとずっと思っていた。
 そのため、お祭りが終わったあと明かりもつけずに帰る村人がたまにいる。信仰心のだめだろうね。

 それでよく起きるの。〝ヤミヨミサマ神隠し〟が。神隠しにあった村人は捜索しない、詮索しない、それも村の風習でした。
 だから、たとえ親しい仲どいえど神隠しにあってもそんな、気にもとめなかったのです。本当に、今思えばおかしいものです。

 その神隠しに対して、本当に心が揺れていたのならこれに続く、絶法村惨劇事件の引き金にはならなかった。

 当時は50軒もない住宅に人口はおおよそ三十三人。
 村人全員の住所と名前が残っている戸籍表を見ています。所々、霞んでみえない文字もあるけど、なんとか記憶をはい巡らせて書いてみます。



絶法村(一九六〇年版)
暁 景子(11)暁 聡子さとこ(13)暁 みな(25)

朝倉 貴一あさくら きいち(18)朝倉 サトシ(41)朝倉 法子ほうこ(39)

大倉 セイ子(58)大倉 麻耶(11)

金田 トウかねだ(57)

神田 佐奈かんだ さな(4)神田 留美子るみこ(31)神田 礼子れいこ(11)

岐瀬 純子きせ じゅんこ(29)岐瀬 巡太郎じゅんたろう(19)岐瀬 たかし(29)
岐瀬 不二子ふじこ(61)岐瀬 山子やまこ(4)

佐竹 和也さたけ かずや(40)佐竹 さとる(61)佐竹 瞬之助しゅんのすけ(5)
佐竹 ヒロミ(35)

獅子 准之助しし じゅんのすけ(61)

田村 佳代子たむら かよこ(18)田村 節子せつこ(58)田村 洋介ようすけ(11)

原野 白蔵はらの はくぞう(31)

八尾 克やつお かつ(5)八尾 ハラ(61)八尾 ゆう(32)
 
矢田 亜希子(11)矢田 千夏ちなつ(13)矢田 茶(58)
矢田 良ノよしの(46)
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