わたしとあなたの夏。

ハコニワ

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二 名取美優

第47話 雨

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 昨日の夜は全然眠れなかった。おばあちゃんのお通夜から、絶法村へと行って、それから探索したのです。当時の人々が使用していた学校や集会場まで。
 ベットに潜っても忘れられない。疲れたはずのに、一睡もできなかった。


 7月31日(火)

 告別式が開かれた。お通夜より、人数が少ない。修斗くんもつーちゃんも来なかった。
「美優」
 告別式が行われる前に、お母さんが声をかけてきた。振り向くと、そこには母であるも醜い顔した女性が立っていた。
 よほど、泣いたのか目はパンパンに腫れ充血し、これから人前に立つのに髪の毛は荒れていた。たった一日で衰弱しきった母を見て、言葉が出なかった。
「美優、手紙書く?」
 おぼろげに言う。
「手紙……?」
 私は聞き返す。
 お母さんは小さく頷くと、懐から白い便箋を取り出した。一般の市販で買えるごく安いものだ。白い便箋に小鳥の絵がパステルに描かれた封筒。
 おばあちゃんの笑顔が脳裏によぎり私は手紙を書くことにした。内容はどうしようか。まず、天国のおばあちゃん、お元気ですか? と。
 これで、一列目が埋まった。B5の大きさの便箋なので、大きく書くことにしました。私は、作文とか得意じゃないので、丸をついた途端、改行を繰り返す書き方を取り出した。おかげで余白が多い。
 一列目が埋まり、次はなんて書こう。気持ちの整理が全くついていないのに、手紙なんて書けないや。
 書きたいことあるのに、頭では浮かんでいるのに、実際ペンが走らない。つい手が止まってしまう。
 二行目から思い出話を書き込んだ。あのときは私が下手をしてこうだった。おばあちゃんが卵を持って転んで庭の鶏が叫んだこととか。いっぱい。あのときは、おばあちゃんのひだまりのような笑顔が私たち家族の花でした。
 それを書き上げた瞬間、それに気づいた。もう、改行する場所もないと。思い出話だけで、二枚も三枚もいけちゃう。手が止まっていた時間が嘘みたい。
 ニ枚の中盤に差し掛かったころ、私はあのノートについて書き出した。
 あのノートをとりあえず全部見ました。そこで一つ、質問です。この事件は本当に偶然でしたか? と。
 返事はこないと分かっているつもりでも、私は書いた。ノートを読んでいてもさっぱり分からない部分がある。それは、三つ。


 最大の謎、一つ、佐竹瞬之助を殺害したのは誰か。事件の幕をあげた最初の犠牲者。その人はある行動により、ピロリ菌に小腸を突き破って腸が出ていたという描写がある。でも、死因は〝四股バラバラによる出血性ショック死〟ピロリ菌が突き破る前に殺害されてた、と考える。
 神田礼子さん曰く、この村には新しい都会人は来ていない。とすれば神隠しを催し、殺害など企てた矢田家の他にいない。でも、矢田亜希子さんが言った言葉〝瞬ちゃんを殺害していない〟と。
 それが本当ならば、この事件は本当に残酷だ。

 二つ、矢田亜希子さんはどうして呪詛を行ったのか。村の中で一番の権力者といっていい矢田家の娘が呪詛。本当に馬鹿馬鹿しい。
 呪詛よりも、権力を使って村から追い出せばいいものの。でも、亜希子さんは誰に向けて呪詛を行ったのか分からない。もしかしたら、この連鎖を断ち切るために? いいや、もしかしたらもっと強い念がこもっている。

 そして、三つ。不可解な死を遂げる研究者がどうして村から去ったのか。獅子村長と研究者が語っていた〝抗って死ぬ必要はない。この村にいる限り死は免れない〟それは、どういう意味だろうか。最初から分かっていて尚、抗体や予防接種を開発しなかったのはなぜ。


 私が分からない点は以上三つだ。
 宝箱に入っていたノートとの他に新聞紙の紙切れがあったはず。事件関連の記事だけを小さく切り刻んで箱の中を一色、新聞紙が覆っていたほど。
 箱をひっくり返せば、パラパラと雪結晶のように降る数の新聞紙の数。もしかしたら、その中に最大の謎を解ける答えがあるかもしれない。
 私はニ枚目の便箋をグシャグシャにしてゴミ箱に投げた。容器にちょうど当たり、狙いが外れる。グシャグシャに丸まった紙はコロコロとサイコロのように転がり、机の脚にトンと当たって、ようやく止まった。
 一枚目の便箋を取り出し、まだ空いている枠のなかに名前を書いた。学校で教えられたたたみ方で便箋を折り、封筒にいれた。

 これで良い。天国にいるおばあちゃんは休んでいるころだ。なのに、あの頃の話をするなんて、私にはできなかった。ゆっくり休んでほしい。もう、あの頃受けた痛みも苦しみもないのだから。
 告別式が行われ、おばあちゃんが横になっている棺の中で大量の花が飾られる。そして、一人一人おばあちゃんの大切だったものを棺の中にいれる。生前おばあちゃんが愛用していたクッションやら帽子。そ私は手紙を置いた。天国ではきっと、読んでくれますように。

――三〇〇ど近い炎に炙られ、おばあちゃんは骨となった。遺骨は持って、家族三人やっと家に帰った。この家の主、おばあちゃんはいなくてもこのお家は私たちのことを歓迎してくれるように感じる。

 梅雨明けというのに、雨が降っていた。告別式が始まる前はギラギラとした太陽が照らしてたのに、終わったあとは嘘のようにざぁざぁと降っていた。
 大地を強く打ち付ける雨。向こうの空は青空なのに、こっちではドス黒い雲が空を覆って、大雨を降らしている。
 急な天候に誰も傘など持ってきていない。終わったあとは、一斉に散って帰っていった。そして、私たちは家に帰り、遺骨を置いて、とりあえずお風呂の水を浴びようと。
 ここは両親二人を優先させ、私はおばあちゃんの部屋へと向かった。
 襖をあけると、こっちを振り向いてニコと笑うおばあちゃんの姿はもう見えない。中に入って、一直線にあるタンスへと向かった。
 おばあちゃんに見つかると大変な目にあうと思って慌てて隠した宝箱。五段目のタンスに手をかけた。
 でも、そんな必要はない。なんせ、もういないのだから。手をかけた力が強くなった。スッと自分のほうに手を引くと、タンスが開く。
 乾いた音を出したあと、タンスの中身たちが顔を覗く。中はまだ、おばあちゃんの服がぎっしり入っていた。たぶん、遺品整理をしていない場所はタンスの中だけだろう。あとはものけのからだ。
 おばあちゃんがよく使用していたベットも机も部屋を見渡す限り、姿形もない。寂しい部屋だ。
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