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一 大倉麻耶
第24話 踏み踏まれ
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村長が口を開いた。
今まで一言も発しなかった村長がその硬い口をようやく開けたのだ。その開口一言は何だったと思う。
「お知らせがありまず。まず一つ、刑事さんと学者さんたちが今夜都会に帰りまず。二つ、今夜はくれぐれも出歩かないように。以上」
たったそれだけ。
それ以上、何も語らなかった。朝、研究者さんと話してた内容がふと、脳裏によぎった。村長は一体なにを話していたのだろう。
すると、また誰かがつぶやいた。今や人口少数人となると、誰が喋ったのかわかる。村長の近くに座っていた黃瀬家。矢田家、村長と次ぐ村の権力者の一人だ。その家の長男、黃瀬 隆が声をあげた。
「村長、事の重大さを分かっておいでか!? 人がもう何人も死んだ! この数日間で! はっきりと対処を考えておいでか!?」
隆さんに賛同する意見が飛び交った。
「考えてないに見えるのか?」
村長の図太いしわがれた声で辺りがしんとなった。村人全員の口を一気に封じさせるほど、ハスキーで背筋が凍るほど低い。
隆さんが立ち上がって、一歩前に出た。顔を村長に向けて、静かにこう言った。
「矢田家が信仰心の薄い村人を殺してたのは知ってるでしょう。なのに、なぜそんな殺人鬼を待ってんですか? 村長、あんたはこの村の未来が見えていない! 今すぐ村を出ないと!」
わたしは隣にいる礼子に耳打ちした。
「本当なの? その……亜希子の家が」
礼子はわたしの顔を冷めた目で見て、かなりキーを落とした声で言う。
「本当よ」
わたしはびっくりした。
亜希子とはよく一緒に遊ぶしいつも顔を見ている、なにより家に遊びにいったとき亜希子の家の人はわたしを温かく迎え入れてくれた。
三時のおやつといってクッキーを初めて食べて感激してたわたしに、どっさり美味しそうなクッキーをくれた、とても優しい人たち。なのに、あの優しい笑顔の裏でそんなことをしていたなんて。
「信じられない?」
礼子がわたしの顔を覗いてきた。
その顔はどことなく笑みに満ち溢れていた。
「神隠しの正体って、まさか……」
「そのまさか。矢田家が気にくわない村人を選んで殺傷し、そのシステムを知ってる村人たちはあえて、無関心になることが神隠しの正体。瞬ちゃん、亜希子の目の前で回覧板のあの紙、いらない、って言ったじゃない? それで決まったの」
礼子は残念そうに淡々と喋る。
わたしは全然話しについていけなかった。頭の中が真っ白で状況についていけなかったです。
「村を出るだと!? 生意気なこと言うな!!」
村長と隆さんが取っ組み合いを始めた。そのせいで、狭い室内にいた人たちの体が波うって押し寄せてきた。
女性陣たちから狂ったような叫びが響いた。隆さんと六十過ぎのおじさんが取っ組み合いを開始し、その場はプロレスリングの輪を全員で無意識につくったようにして二人を囲んでいる。
五~六人の男性陣たちが二人の喧嘩の仲裁に入るも、二人は訳わからない喧嘩を売って二人の間はビリビリと火花が散っていた。
人の体が雪崩のように押し寄せてきて、壁際にいたわたしたちは、壁と同一化してしまうほど、体がめり込む。痛いと叫べないほどだ。
喧嘩が始まったタイミングが酷く、めり込んでる状態のときのわたしの態勢は、完全に手が逆のほうを向いていた。
痛い、退いて、と発狂しそうなほど。その願いが通じたのか、一分も経たないうちに人の集まりが消えた。すっきりするぐらい体の自由がきく。
喧嘩が終わったのかな、と思わず二人に顔を向けると、村人たちの視線はそこじゃなかった。二人の近くで少女がうずくまっていた。
お腹をおさえ、胎児のように丸くなっている。
「佐奈ぁぁ!」
断末魔を切ったような礼子の悲鳴。聞いたことない悲鳴だった。脇目もふらず礼子はうずくまった佐奈ちゃんのもとに駆け寄った。
「佐奈っ! 佐奈! お姉ちゃんよ、大丈夫大丈夫だからね」
酷く焦った口調で佐奈ちゃんを抱き寄せる礼子。そのあとを礼子のお母さんが駆け寄ってきた。
「誰よ! 佐奈を蹴ったのはどこのどいつですか!」
礼子のお母さんが発狂に近い怒鳴り声を散らした。無論、名乗りでるものなどいない。辺りは小さくざわざわする。佐奈ちゃんが心配になり、わたしも駆け寄った。
佐奈ちゃんはまだ、胸の下のお腹辺りに手を添えて、苦しい表情。
「お姉……ちゃん、早くお家に帰りたいよ」
「そうね。早くお家に帰りましょ――え?」
わたしも礼子も驚いたその光景は、佐奈ちゃんがおさえてある、お腹の部分にじわっと赤い血溜まりが滲んでいた。
「ゔぅ……いたいよ。お姉ちゃん」
佐奈ちゃんは目に涙を流した。
「さ、佐奈……」
礼子の声が明らかに動揺していた。いつも、落ち着いたトーンなのに、荒波が立ってある。
「うゔ……ゔ」
佐奈ちゃんがお腹をおさえ、ますます苦しみだした。
「は、はやく病院……誰か! 誰か、隣街のお医者さんに連絡してくれませんか!? 誰でもいいから早く!!」
礼子のお母さんが発狂寸前でわたしたちに助けを縋った。けど、誰も動いてはくれない。
そりゃそうだ。だってここは周りから疎外された寂しい村。電波も時々落ちるなど日常茶飯事。
確か、集会場にはたった一つだけ黒電話が置かれていたんじゃないかな。電波は確かに通るし、いざという時に隣街の連絡先が貼られてある。
それが分かった途端、村長が腰を震わせて、黒電話がある長い廊下へと向かった。その間、他の村人たちは必死に佐奈ちゃんを助けようと懸命に声を掛け合っている。それでも、佐奈ちゃんの様態が良くなることはない。より悪化している。
誰かに臓物を持っていかれたように胸の下部分のお腹だけが血みどろになっていた。デロリとしたその液体は、次第に黒くなり、服にさらに滲み出て広がっていく。まるで、赤い薔薇が咲き誇ったかのように。
佐奈ちゃんの息が次第に小さく奥ゆかしくなってきた。
「佐奈ちゃん! 頑張って! もうすぐお医者さんがくるからね!!」
わたしは佐奈ちゃんの手を握った。
冷たい。いつもは温かいっていうのに。顔色も青白くなってきた。
佐奈ちゃんはゆっくり小刻みに首を頷いた。微かに希望という光を信じて。
それから間もなく佐奈ちゃんの目は開けることはなかった。希望という光を宿してから、スッとその光が少しずつ消えていった。
今まで一言も発しなかった村長がその硬い口をようやく開けたのだ。その開口一言は何だったと思う。
「お知らせがありまず。まず一つ、刑事さんと学者さんたちが今夜都会に帰りまず。二つ、今夜はくれぐれも出歩かないように。以上」
たったそれだけ。
それ以上、何も語らなかった。朝、研究者さんと話してた内容がふと、脳裏によぎった。村長は一体なにを話していたのだろう。
すると、また誰かがつぶやいた。今や人口少数人となると、誰が喋ったのかわかる。村長の近くに座っていた黃瀬家。矢田家、村長と次ぐ村の権力者の一人だ。その家の長男、黃瀬 隆が声をあげた。
「村長、事の重大さを分かっておいでか!? 人がもう何人も死んだ! この数日間で! はっきりと対処を考えておいでか!?」
隆さんに賛同する意見が飛び交った。
「考えてないに見えるのか?」
村長の図太いしわがれた声で辺りがしんとなった。村人全員の口を一気に封じさせるほど、ハスキーで背筋が凍るほど低い。
隆さんが立ち上がって、一歩前に出た。顔を村長に向けて、静かにこう言った。
「矢田家が信仰心の薄い村人を殺してたのは知ってるでしょう。なのに、なぜそんな殺人鬼を待ってんですか? 村長、あんたはこの村の未来が見えていない! 今すぐ村を出ないと!」
わたしは隣にいる礼子に耳打ちした。
「本当なの? その……亜希子の家が」
礼子はわたしの顔を冷めた目で見て、かなりキーを落とした声で言う。
「本当よ」
わたしはびっくりした。
亜希子とはよく一緒に遊ぶしいつも顔を見ている、なにより家に遊びにいったとき亜希子の家の人はわたしを温かく迎え入れてくれた。
三時のおやつといってクッキーを初めて食べて感激してたわたしに、どっさり美味しそうなクッキーをくれた、とても優しい人たち。なのに、あの優しい笑顔の裏でそんなことをしていたなんて。
「信じられない?」
礼子がわたしの顔を覗いてきた。
その顔はどことなく笑みに満ち溢れていた。
「神隠しの正体って、まさか……」
「そのまさか。矢田家が気にくわない村人を選んで殺傷し、そのシステムを知ってる村人たちはあえて、無関心になることが神隠しの正体。瞬ちゃん、亜希子の目の前で回覧板のあの紙、いらない、って言ったじゃない? それで決まったの」
礼子は残念そうに淡々と喋る。
わたしは全然話しについていけなかった。頭の中が真っ白で状況についていけなかったです。
「村を出るだと!? 生意気なこと言うな!!」
村長と隆さんが取っ組み合いを始めた。そのせいで、狭い室内にいた人たちの体が波うって押し寄せてきた。
女性陣たちから狂ったような叫びが響いた。隆さんと六十過ぎのおじさんが取っ組み合いを開始し、その場はプロレスリングの輪を全員で無意識につくったようにして二人を囲んでいる。
五~六人の男性陣たちが二人の喧嘩の仲裁に入るも、二人は訳わからない喧嘩を売って二人の間はビリビリと火花が散っていた。
人の体が雪崩のように押し寄せてきて、壁際にいたわたしたちは、壁と同一化してしまうほど、体がめり込む。痛いと叫べないほどだ。
喧嘩が始まったタイミングが酷く、めり込んでる状態のときのわたしの態勢は、完全に手が逆のほうを向いていた。
痛い、退いて、と発狂しそうなほど。その願いが通じたのか、一分も経たないうちに人の集まりが消えた。すっきりするぐらい体の自由がきく。
喧嘩が終わったのかな、と思わず二人に顔を向けると、村人たちの視線はそこじゃなかった。二人の近くで少女がうずくまっていた。
お腹をおさえ、胎児のように丸くなっている。
「佐奈ぁぁ!」
断末魔を切ったような礼子の悲鳴。聞いたことない悲鳴だった。脇目もふらず礼子はうずくまった佐奈ちゃんのもとに駆け寄った。
「佐奈っ! 佐奈! お姉ちゃんよ、大丈夫大丈夫だからね」
酷く焦った口調で佐奈ちゃんを抱き寄せる礼子。そのあとを礼子のお母さんが駆け寄ってきた。
「誰よ! 佐奈を蹴ったのはどこのどいつですか!」
礼子のお母さんが発狂に近い怒鳴り声を散らした。無論、名乗りでるものなどいない。辺りは小さくざわざわする。佐奈ちゃんが心配になり、わたしも駆け寄った。
佐奈ちゃんはまだ、胸の下のお腹辺りに手を添えて、苦しい表情。
「お姉……ちゃん、早くお家に帰りたいよ」
「そうね。早くお家に帰りましょ――え?」
わたしも礼子も驚いたその光景は、佐奈ちゃんがおさえてある、お腹の部分にじわっと赤い血溜まりが滲んでいた。
「ゔぅ……いたいよ。お姉ちゃん」
佐奈ちゃんは目に涙を流した。
「さ、佐奈……」
礼子の声が明らかに動揺していた。いつも、落ち着いたトーンなのに、荒波が立ってある。
「うゔ……ゔ」
佐奈ちゃんがお腹をおさえ、ますます苦しみだした。
「は、はやく病院……誰か! 誰か、隣街のお医者さんに連絡してくれませんか!? 誰でもいいから早く!!」
礼子のお母さんが発狂寸前でわたしたちに助けを縋った。けど、誰も動いてはくれない。
そりゃそうだ。だってここは周りから疎外された寂しい村。電波も時々落ちるなど日常茶飯事。
確か、集会場にはたった一つだけ黒電話が置かれていたんじゃないかな。電波は確かに通るし、いざという時に隣街の連絡先が貼られてある。
それが分かった途端、村長が腰を震わせて、黒電話がある長い廊下へと向かった。その間、他の村人たちは必死に佐奈ちゃんを助けようと懸命に声を掛け合っている。それでも、佐奈ちゃんの様態が良くなることはない。より悪化している。
誰かに臓物を持っていかれたように胸の下部分のお腹だけが血みどろになっていた。デロリとしたその液体は、次第に黒くなり、服にさらに滲み出て広がっていく。まるで、赤い薔薇が咲き誇ったかのように。
佐奈ちゃんの息が次第に小さく奥ゆかしくなってきた。
「佐奈ちゃん! 頑張って! もうすぐお医者さんがくるからね!!」
わたしは佐奈ちゃんの手を握った。
冷たい。いつもは温かいっていうのに。顔色も青白くなってきた。
佐奈ちゃんはゆっくり小刻みに首を頷いた。微かに希望という光を信じて。
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