―ミオンを求めて―最後の世界

ハコニワ

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第一章 運命と死と想い

第15話 脱力

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 獣道から顔を出したのは同じ銀杏の奴だった。誰だこいつ。名前なんだっけ。興味なさすぎて忘れた。
「良かった! キング、こんなとこにいたんだ!」
 大きな瞳を開かせ、物騒な刀を鞘にしまった。コツコツと鹿のように軽快な歩きかたでこちらに寄る。そいつはひとめ、隣の梓を見ると怪訝に首を傾げた。
 梓は元は紅葉に含んでいた銀杏のスパイ。服の校章は紅葉がデザインされていたが、気がついたら既に銀杏にデザインされている。最初の選別の頃、いなかったので仲間だと信じるか。
 そいつは梓にも目もくれず、ペラペラと喋りだした。まるで、聞いてほしい血相で。
「キングがいないせいで城に杏子と紅葉の奴らが攻めにきて何人かは逃げたけど、まだ残っている奴がいるんだ。キングが城に行くには充分危ないけど、それでも助けてほしいんだ!」
 即効断る……つもりでいた。しかし、ふいにある考えが脳裏によぎった。
 周囲は〝キング狩り〟を続行しているなか、誰が早く首を狙うか。それはもちろん俺だ。しかし、首うちゲームが終わったあとまたさらなる過酷なゲームがあるだろう。
 首うちゲームに生き残ったあと、キングという役職なだけに人を殺した奴を信頼すると思うか? 誰も信じないと思う。生き残るのは俺含む銀杏だとしたら、この少数人はまだ駒として使える。
 やっぱり人間社会って〝信頼〟が大事だもんな。そうやって幾つもの人間関係を嘘と偽って演技していた。今回もその手だ。
 しかし、誰かが首をはねなきゃならない。惜しい仕事だが、それをやってもらうのは梓。こいつしかありえない。
「分かった。行こう。でも、梓」
 梓のほうを振り向くと、急に話しをふっかけられて余程驚いたのか、ビクリと肩をうならせた。そして、黒い瞳を震わせて聞き耳をたてる。
「梓はあの場に戻って状況を報告してほしい」
「んな!」
 ピンクの唇をわなわなと震わせ、大きく瞳孔が見開いている。真珠の形した丸い目玉が飛びだしそうになっている。
「あの場にはまだ仲間が残って戦っているはずだ。そいつらも一応助けないとな。でも、今どうなっているか分からない。それで、お互い持っている無線機でやりとりすれば大丈夫」

「わ、分かった」
 しぶしぶと首を頷く梓。顔をいっしゅん歪めるが、普段の阿呆ぽい顔つきになる。
 そうして、俺と梓はふたてに別れた。俺の狙いは助けるだけじゃない。梓みたいに狂気として使える人間を駒として採用したいだけ。

§

 別れて数分が経ったあと、合流するかのように、銀杏の城が見えてきた。黒い黒煙が曇天の空にモクモクと立ち昇っている。
 名前も知らない顔も知らない奴らが城を破壊しようと潜り込んでいる。
 うむ。これは単純に言って危ないな。といっても乗りかかった船だ。乗るしかない。
 城に近づくにつれ、変装もしていない俺は格好の獲物。次々と襲い掛かってくる。しかし、それを無残にも切り裂く男。
 名前覚えてないけど、こいつはこれから切り裂き魔と呼ぼう。
 城の中に入り、生き残った数名を引き連れて再び外へ。敵の拠点に既に等しい場所から奪還し、逃げ延びたのだ。しかも、無傷で。
 全て切り裂き魔くんが守ってくれたから。


 悠々と構えていると、一本道から人影のような影が木々を横切った。牛乳瓶のような眼鏡に線を描いたように華奢。最初は女だと思っていたが、違った。
 カツカツと慌ただしく小走りで歩いている奴は股を開いて歩いている。影でも分かる。男だ。誰だ。
 もう随分、暗闇の中にいすぎて目が慣れてしまった目を堪えた。その存在がわかるのは数秒経ったあと。慣れてしまっても分からないものは分からないものだな。
 あのとき、颯負と帝斗と顔を合わせたフィールド場にいた人物だ。確か、玲緒の隣にいたもう一人の杏子。
 切り裂き魔くんが腰に構えた日本刀に腕を伸ばし、鞘から鋼鉄の刃を引き抜く。
「殺すか」
「待って」
 俺は手を伸ばした。刃を持った腕がピタリとだるまさんが転んだように静止する。
「あとを追おう」
 どうして? という疑問が投げかける前に俺は言葉を言い放った。
「たぶん、あちらもふたてに別れたはず。で、身体能力が高い颯負と帝斗が足止め。そして、残った奴らが菜穂を安全な城に戻す。俺たちがそいつらの跡を追えば簡単に敵のアジトを見抜けるんだ」
 切り裂き魔くんの表情が関心するようにポカと口を半開きし、目から鱗のように目玉を飛び出している。
「さすがはキング、我ながら尊敬に値します!」
「ハハ、そうか」
 数名引き連れて跡を追うのは無理だから、ここで奪還したやつらとは別れて切り裂き魔くんと俺とで跡を追うことに決定した。
 木から木へと移り、バレないように身を隠す。まるで、スパイものの映画みたいだ。
 そうして、牛乳瓶の眼鏡かけた男が向かった先はやはり、城。
 杏子か紅葉か分からないが、このさいどうでもいい。この先に殺しておきたい人物がいるのだからな。
 嘲笑して、城に向かうといきなり背後から服の袖を捕まえられた。驚いてバッと振り向くとそこには梓がいた。走ったのか髪の毛は大胆に荒れ、息切れが激しい。
 うるうると水辺のように目玉が潤っている。
「もうヤダ! もうこんなのヤダァ!」
 駄々をこねる子どものように泣きじゃくり、その場に膝を抱えて丸くなった。
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