―ミオンを求めて―最後の世界

ハコニワ

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第四章 明日へ

第43話 浜田幸の語り

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 腕につけた時計を見ると、まだ時間は午前十一時。既に会場へと着いていたが、まだ、準備が整っていないのか黒いスーツを着ている男女が慌ただしく会場を走っていた。
「早すぎたかな……」
 玄関から中をチラリと覗くとまるで、中世時代のパーティと思わせる黄金のシャンデリアや、白銀の床が輝いている。
 わぁすごい、と関心する最中、目の端に何かが映りこんだ。ビクリと肩が唸り、思わず振り向くとそこには少女が立っていた。
 同じ、ゲーム参加者だったのだろうか。
 歳は菜穂と同じくらい。細身な体型した少女。花柄が入ったコートを着て、細い足をみっちりと青色のパンツが両足を包んでいる。細身な割には不釣り合いの豊かな胸。
 文字の入ったTシャツが膨らんだ二つの乳房によって文字が読めきれない部分がある。

 胸の圧迫した鼓動がやや、整った。それは、少女が見知った人物だからだ。
「幸さん」
 そう、少女の名は菜穂と同じ出身であり、同じ病室だった浜田幸。歳は一個上でも、去年卒業した先輩。幼い顔たちがやや残っている。
 すると、幸が菜穂のほうにゆっくりと顔を向けた。ニッコリと妖艶に微笑む。
「久しぶり。病院以来ね」
 少し前まで、先輩と対面すると、思わず身を攀じっていたが、日本有名な総裁になった菜穂は、心も体も揺らがなかった。
 かと言って、先輩に対する尊敬は失われていない。
「幸さん。あそこのカフェで休みましょう」
 会場近くのドーナツカフェ店を指差し、言った。東京では一番早く店を復興したと話題の店だ。
 元々、小さかった店だったらしいが大災害から復興という転機を得て、大きな店になったらしい。
 手動の扉を開け、店内を窺うとお客さんが転々と椅子を独占していた。昼前だからか、少し多い。
 まばらに座っているお客さんたちを避け、人気がない窓際の席へと辿りつく。
 メニュー表をだし、パラリと捲ると幸が喋りだした。
「ふぅ。東京ってすごい所だね。飛行機で来ていきなりナンパされちゃった」
 フフと笑い、緊張の糸が見えないような無邪気に笑う。その笑みを見て、菜穂も思わず笑ってしまった。
「あのテレビ、見てたよ。家族全員ね。家系の総裁になるなんて凄い。菜穂ちゃんが総裁になってみんな、嬉しいって言ってたよ」
「ほぉ……」
 頬杖をつき、優しく語る。同じ学校出身ってことは菜穂の家の話しもだいだいは噂話で聞いているはず。
 後継者であった梓の悪い噂と性格も。学校中に知れ渡っていたはず。
 梓は頭が良いぶん、なにかと同じ同級生からは忌み嫌われていた。それは、肝心なときに空気が読めないことだった。それで、女子や先輩たちからは喧嘩をふっかけられていた。しかし、有名な家の次期後継者と当たる人物がそんな人物像になると厄介になる。そう思い、教師からは喧嘩じたいもなかった事にする、相手側からふっかけたと捏造している。
 現に今でも学校に残っているだろう。捏造事件が。
 そんな多くの人たちに忌み嫌われても梓は菜穂にとってたった一人のかけがえのない妹だ。あのテレビを見ていたとすればあの発言も聞いたであろう。その妹が既に他界した、と。
〝総裁になって嬉しい〟ではなく〝お悔やみ申しあげます〟という応えがさきなのではないか。
 ふつふつと怒りの湯気が膨らんだ。そうとは知らずに幸がペラペラと喋りだす。
「拠点を東京に移したんでしょ? もう、地元には帰ってこないの?」
「今は難しいです。けど、いつかは帰ってきます」
「そう……」
 幸が残念そうに目線を下に配らせた。開いたメニューを見ている。ある文字を指先でちょいと指差した。
「これ、頼んでいい?」
「もちろん。私もそれにします」
 机の隅に置いてある店員さんを呼ぶ為の鈴をワンコールで鳴らした。少し経ってから腰にエプロンをつけた女性アンドロイドが駆け寄って来た。
 ご注文は、と訊ねてくる。応えたのは菜穂だ。頼む料理の品を指差して言った。応えたあと、また潔く去っていった。
 すると、幸から意外の言葉がかかった。その言葉は怒りに満ちていた心を浄化させる。
「テレビ見て、嬉しいって思ったけど違うよね。梓ちゃん、お悔やみ申し上げます」
「え……いいや。あ、ありがとうございます」
 突然の謝礼に菜穂は戸惑い、慌てて思わず足が立ち上がった。その反応を見て幸は目尻を猫のようにさげ、悲しげな表情になった。
「早いよね。進むのが」
 窓の外を見て、幸が言う。病院で絶対安静にしているか弱い子どものよう、遠くの景色を懐かしむような表情。
 まだ、瓦礫が撤去されてない民家と完全に復興した東京ドームを見ている。
「そうですね……」
 菜穂も窓の外を見る。
 二人は黙ってカフェから覗く東京の景色を見ていた。東京のほんの一部の景色なのに、いつまでも見ていられる。


 その時、頼んでおいた品がやっときた。今度の店員さんは男性アンドロイドのようだ。
 二つぶんのミックスドーナツと三つぶんの・・・・・の珈琲を持ってきた。
 机に丁寧に置き、深く礼をする。ここにいるのは菜穂と幸。二人しかいないので珈琲は三ついらない。店員さんが速やかに帰っていくのを菜穂は引き止めた。
「あの。私たち、二人しかいなので何処かの席と間違えてませんか?」
 振り返った店員さんは黙ったまま。微動だにしない。思わず心配になった矢先、店員さんの背後から女性が現れた。
「その珈琲、私が頼んだの。同席していいかしら?」
 漆黒の黒い髪を後ろで一つにした女性。白いシャツからはみ出るほどの豊かな胸。シャツをバブルスカートにいれているせいでそう見えてしまう。妖艶な胸において、引き締まったお尻。
「来てくれてありがとう。私は五代。ジャーナリストなの」

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