―ミオンを求めて―最後の世界

ハコニワ

文字の大きさ
上 下
43 / 48
第四章 明日へ

第42話 集結

しおりを挟む
 大災害から約一ヶ月を過ぎた頃。
 あれから、崩壊した建物や瓦礫が撤去しており、徐々に復興していった。電気も水も通じるようになり、数少なかった食べ物も家族三人分まで増えていった。
 〝鬼〟と異形の名をあげる雑誌は興味が薄れ、ことごとく消えていった。
 しかし、それでも周囲の目は好奇と憎悪の塊の眼差し。


 菜穂は公共の電話ボックスに電話をかけた。暫くプルルルと通話口からかかる音がする。三コールで相手がかかった。
「あ。もしもし? 玲緒ちゃん?」
『なによ。こんな朝っぱから』
 かかった相手の顔が映像に映しだされた。電話をかけた相手は有名占い師、玲緒。一ヶ月前、総裁が決まり颯負の病室で集まった以来の久しぶりの再会。
 朝の五時にかけたので、不機嫌顔している。
「久しぶり。元気?」
『見ての通り、元気よ』
 ふぁと大きな欠伸をし、潤った黒い瞳が覗いてくる。映像からは見受けとれるのは、玲緒以外に古風な室内。どうやら玲緒がいるのは、畳が敷かれているちょっと古風な部屋だ。
 今さっきまでそこで寝ていたからなのか、室内が暗い。
「ねぇ、見た? 封筒!」
『見た見た。〝ゲーム参加者集結!〟でしょ? それでこんな時間からかけてきたの?』
 そう言われると菜穂は笑ってコクリと頷いた。
「ねぇ、行ってみない?」
『無理』
 即答で玲緒は断った。どうして!? と電話口から菜穂の慌てた声が外に漏れる。
『だって、家の復興で忙しいもの。あんたも、そんな余裕ないんじゃない?』
 皮肉じめたきつい言い方で菜穂を細目で見た。映像の中に映る菜穂の姿は、骨のように痩せ細り、何でも着こなせるモデル体型とかしている。この一ヶ月の間、それほど、多忙だと薄々わかる。
「確かに、総裁になってから何から何まで忙しいけどさ、たまには息抜きが必要だよ!」
 元気な声が飛び交う。玲緒は思わず、承諾してしまうのをやめ、考え込んだ。

 電話で話している内容は〝ゲーム参加者集結!〟という怪しい話しだ。
 一週間前に家のほうに宛名不明の封筒が届いた。黒い封筒。赤い薔薇柄の刺繍。封筒の中身は黒い紙。明朝体で綺麗に配列された文字。今さっき印刷されたような生温かい感触。気味が悪いも、捨てるわけにはいかない。
 最後の最後の文章にこう書かれていたからだ。

〝真実を知りたい。貴方たちが二日の間、なにと闘っていたのかを。声を荒げて聞かせて。〟

 文章を見る限り、奇妙である。しかし、一時期、選ばれし神の子と異形の名を向けられた菜穂たちにとって、理解してくれる存在は有り難い。
 日程は明日。時間は昼。会場は東京ドーム。
 菜穂は行くき満々で、今にでも映像から飛び跳ねるような勢いだ。しかし、玲緒はこの話しは快く思っていないようだ。
 さっきから、この話しをするたびに眉間に皺を寄せている。
『……悪いけど、私はパス』
「そんな、せっかく会えるのに」
 唇をへの字に曲げ、菜穂が映像に顔を近づけた。玲緒目線から見ると、顔の毛穴がバッチリ見えるくらい、ドアップに映り込んでいる。
『パスなものはパス! 切るよ』
 玲緒は冷たくなぎ払う。
 電話を切ろうと耳から受話機を外した。菜穂は慌てて言葉を考え、早口で言った。
「明日は無理だけど。明後日は会えるよね! 楽しみにしてるね!」
 いたずらっ子のように笑い、菜穂から電話を切った。映像もプツリとシャットダウンされる。
 明後日はどうやら、颯負が退院する日らしい。その時、退院祝いに片桐や玲緒も揃うのだ。
 退院祝いの話しをした直後、狙ってきたかのように黒い封筒が送られてきた。
 菜穂は改めて封筒の中身の黒い紙切れを机から拾った。パソコンで一度文字を刻みながら、何重枚も印刷された紙。
 綺麗に配列された白色の文字を指先でなぞる。
 玲緒に電話をかける前に片桐にも電話をかけ、封筒の話しをすると、出席するらしい。
 一ヶ月ぶりの再会。菜穂は水面に跳ねる魚のように心が跳ねた。思わずスキップしてしまいそうになる。
 黒い紙切れを大事そうに胸にかかえ、公共の電話ボックスから出た。高く聳えたビルと壊れた建物の隙間から冷たい風がなびらかせていく。日の出があがり、辺りの景色が橙赤になっていく。
「明日……楽しみだな」
 そう言って、自分の家へと帰っていく。日の出から背を見せた。

§

 あっというまに明日を迎え、涼しげな秋の風が肌を伝っていく。菜穂は水色のワンピースの上に膝まで浸かるコートを着こなし、頭には顔を覆うほどの大きい帽子を着こなせ、会場へと向かった。
 まだ時間は午前十一時。総裁になってから多忙な一日を繰り返す中、この日は飛び跳ねるほどの嬉しい日となるだろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

岡●県にある●●村の●●に関する話

ちょこち。
ホラー
岡●県の、とある村について少しでも情報や、知ってる事がある方が居れば、何卒、教えて頂けると幸いです。

リューズ

宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。

限界集落

宮田歩
ホラー
下山中、標識を見誤り遭難しかけた芳雄は小さな集落へたどり着く。そこは平家落人の末裔が暮らす隠れ里だと知る。その後芳雄に待ち受ける壮絶な運命とは——。

歩きスマホ

宮田歩
ホラー
イヤホンしながらの歩きスマホで車に轢かれて亡くなった美咲。あの世で三途の橋を渡ろうとした時、通行料の「六文銭」をモバイルSuicaで支払える現実に——。

アポリアの林

千年砂漠
ホラー
 中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。  しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。  晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。  羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

焔鬼

はじめアキラ
ホラー
「昨日の夜、行方不明になった子もそうだったのかなあ。どっかの防空壕とか、そういう場所に入って出られなくなった、とかだったら笑えないよね」  焔ヶ町。そこは、焔鬼様、という鬼の神様が守るとされる小さな町だった。  ある夏、その町で一人の女子中学生・古鷹未散が失踪する。夜中にこっそり家の窓から抜け出していなくなったというのだ。  家出か何かだろう、と同じ中学校に通っていた衣笠梨華は、友人の五十鈴マイとともにタカをくくっていた。たとえ、その失踪の状況に不自然な点が数多くあったとしても。  しかし、その古鷹未散は、黒焦げの死体となって発見されることになる。  幼い頃から焔ヶ町に住んでいるマイは、「焔鬼様の仕業では」と怯え始めた。友人を安心させるために、梨華は独自に調査を開始するが。

処理中です...