―ミオンを求めて―最後の世界

ハコニワ

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第四章 明日へ

第42話 集結

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 大災害から約一ヶ月を過ぎた頃。
 あれから、崩壊した建物や瓦礫が撤去しており、徐々に復興していった。電気も水も通じるようになり、数少なかった食べ物も家族三人分まで増えていった。
 〝鬼〟と異形の名をあげる雑誌は興味が薄れ、ことごとく消えていった。
 しかし、それでも周囲の目は好奇と憎悪の塊の眼差し。


 菜穂は公共の電話ボックスに電話をかけた。暫くプルルルと通話口からかかる音がする。三コールで相手がかかった。
「あ。もしもし? 玲緒ちゃん?」
『なによ。こんな朝っぱから』
 かかった相手の顔が映像に映しだされた。電話をかけた相手は有名占い師、玲緒。一ヶ月前、総裁が決まり颯負の病室で集まった以来の久しぶりの再会。
 朝の五時にかけたので、不機嫌顔している。
「久しぶり。元気?」
『見ての通り、元気よ』
 ふぁと大きな欠伸をし、潤った黒い瞳が覗いてくる。映像からは見受けとれるのは、玲緒以外に古風な室内。どうやら玲緒がいるのは、畳が敷かれているちょっと古風な部屋だ。
 今さっきまでそこで寝ていたからなのか、室内が暗い。
「ねぇ、見た? 封筒!」
『見た見た。〝ゲーム参加者集結!〟でしょ? それでこんな時間からかけてきたの?』
 そう言われると菜穂は笑ってコクリと頷いた。
「ねぇ、行ってみない?」
『無理』
 即答で玲緒は断った。どうして!? と電話口から菜穂の慌てた声が外に漏れる。
『だって、家の復興で忙しいもの。あんたも、そんな余裕ないんじゃない?』
 皮肉じめたきつい言い方で菜穂を細目で見た。映像の中に映る菜穂の姿は、骨のように痩せ細り、何でも着こなせるモデル体型とかしている。この一ヶ月の間、それほど、多忙だと薄々わかる。
「確かに、総裁になってから何から何まで忙しいけどさ、たまには息抜きが必要だよ!」
 元気な声が飛び交う。玲緒は思わず、承諾してしまうのをやめ、考え込んだ。

 電話で話している内容は〝ゲーム参加者集結!〟という怪しい話しだ。
 一週間前に家のほうに宛名不明の封筒が届いた。黒い封筒。赤い薔薇柄の刺繍。封筒の中身は黒い紙。明朝体で綺麗に配列された文字。今さっき印刷されたような生温かい感触。気味が悪いも、捨てるわけにはいかない。
 最後の最後の文章にこう書かれていたからだ。

〝真実を知りたい。貴方たちが二日の間、なにと闘っていたのかを。声を荒げて聞かせて。〟

 文章を見る限り、奇妙である。しかし、一時期、選ばれし神の子と異形の名を向けられた菜穂たちにとって、理解してくれる存在は有り難い。
 日程は明日。時間は昼。会場は東京ドーム。
 菜穂は行くき満々で、今にでも映像から飛び跳ねるような勢いだ。しかし、玲緒はこの話しは快く思っていないようだ。
 さっきから、この話しをするたびに眉間に皺を寄せている。
『……悪いけど、私はパス』
「そんな、せっかく会えるのに」
 唇をへの字に曲げ、菜穂が映像に顔を近づけた。玲緒目線から見ると、顔の毛穴がバッチリ見えるくらい、ドアップに映り込んでいる。
『パスなものはパス! 切るよ』
 玲緒は冷たくなぎ払う。
 電話を切ろうと耳から受話機を外した。菜穂は慌てて言葉を考え、早口で言った。
「明日は無理だけど。明後日は会えるよね! 楽しみにしてるね!」
 いたずらっ子のように笑い、菜穂から電話を切った。映像もプツリとシャットダウンされる。
 明後日はどうやら、颯負が退院する日らしい。その時、退院祝いに片桐や玲緒も揃うのだ。
 退院祝いの話しをした直後、狙ってきたかのように黒い封筒が送られてきた。
 菜穂は改めて封筒の中身の黒い紙切れを机から拾った。パソコンで一度文字を刻みながら、何重枚も印刷された紙。
 綺麗に配列された白色の文字を指先でなぞる。
 玲緒に電話をかける前に片桐にも電話をかけ、封筒の話しをすると、出席するらしい。
 一ヶ月ぶりの再会。菜穂は水面に跳ねる魚のように心が跳ねた。思わずスキップしてしまいそうになる。
 黒い紙切れを大事そうに胸にかかえ、公共の電話ボックスから出た。高く聳えたビルと壊れた建物の隙間から冷たい風がなびらかせていく。日の出があがり、辺りの景色が橙赤になっていく。
「明日……楽しみだな」
 そう言って、自分の家へと帰っていく。日の出から背を見せた。

§

 あっというまに明日を迎え、涼しげな秋の風が肌を伝っていく。菜穂は水色のワンピースの上に膝まで浸かるコートを着こなし、頭には顔を覆うほどの大きい帽子を着こなせ、会場へと向かった。
 まだ時間は午前十一時。総裁になってから多忙な一日を繰り返す中、この日は飛び跳ねるほどの嬉しい日となるだろう。
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