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第三章 リリハの過去 心也たちは一切現れません! ごめんなさい!!
第40話 またすれ違ったら笑顔で…!
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白い空間が静まり返った。カイトの顔が化物じみた恐ろしい血相になる。
「どうして……」
ボソリと呟いた。
左目から溢れんばかりに瘴気の湯気があがる。距離が離れているのに、禍々しい。足のつま先が枷でも嵌められているように微動だにしない。
足が小刻みに震えている。
思わず、来た道に顔を向けた。そこには当然といった感じで白い壁が果てまで続いている。
来た道を見れば、そこにはミオンがいると思ったから頼ってしまったけど、この空間じたいに入っていないのだ。
リリハもカイトと同じ、カミュの力を一度だけ授けられた。ナミとしてゲームを進行していた力だ。しかし、今となってはそんな力はない。
ただのスケッチの絵で書かれた体で中身のない人間なんだもの。
カミュと同じ、天界から来た〝神〟という存在と対等に張り合えるわけがない。
お別れ話しを進めようとリリハは決断した。
「リリハを、今まで仲間として認めてくれてありがとう! 居場所を与えてくれてありがとう……!」
それから……とその先の言葉を喋ろうと口にした途端、言葉を呑んだ。胸の奥から引っ掻いたように喉が苦しい。言葉が思うような出てこない。
留めなく涙が頬を伝い、拭っても拭っても全然、吹ききれない。顔を俯き、黙り込むとカイトの少し抜けた「あ」が聞こえた。
思わず、カイトを上目遣いで見上げた。
紅い瞳が籠の中で暴れる金魚のように泳いでいた。リリハの顔を見つめ石像のように呆然としている。
何をそんなにショックを受けているのと思わず訊ねる前に口元に違和感を感じた。皮膚の表面が爛れているようにドロリと感じる。
恐る恐る頬に指先を持っていく。ドロリとした泥のような液が指先から伝わった。
顔まで持ってこようとすると、納豆のようなネバネバした粘液が頬から繋がっている。納豆のは白いけど、頬から繋がっているのは本当に泥のようで灰色だった。
指先から腕まで泥が伝い、リリハは小さな悲鳴をあげた。どうなっているのか訳がわからず混乱していると、今さっき床に滴り落ちたリリハの透明な涙がそれを映してくれた。
蛇のような白い髪の毛が毛先からやや、狐色の金色となっている。それだけじゃない。赤い瞳までも変わっていた。右目だけが碧眼となっている。
「この姿は…――」
息をのみ、雫に映った自分を見つめ返した。そう、この姿は紛れもなく生前のリリハ。スケッチで描かれた漫画の少女じゃない。
――リリハ、戻るわよ!
ミオンの声がふと感じた。
耳に〝聞こえた〟のではなく心の中に声が〝伝わった〟というべきか。
「ナミ、なんで、僕を一人にするのかい!?」
カイトが惜しむようにリリハに言った。
その言葉を聞き、なんとも心臓が裂かれるように痛い。リリハは人生の節目を決める極限の覚悟を決め、お別れを告げた。
目を強く瞑り、息を大きく吸った。目の前のカイトがどんな表情しているのか目の前が真っ暗でも分かる。
「ありがとう。本当に。わがままだけど、また何処かですれ違ったらそのときは笑ってね……!」
パリンと金属で窓ガラスを思いっきり割るような衝動音がした。それは天井さえも見えない白い空間から。
§
再び目を開けるとそこは黒い溝の中だった。隣にはミオンがいる。ミオンと目があった。
――ここは、戻ったの? カイトは?
――どうやらあの空間じたい、魂もない抜けた体では五分も保たなかったようね
死んだ虫を見るかのような悲しい眼差しでミオンが言った。リリハの碧眼を覗いてくる。ミオンと同じ蒼眼。髪の毛もそう、狐色をもっと輝かしたような金髪。
白い髪の毛だった髪の毛も毛先から真ん中まで、狐色になっていた。
――帰るの?
――当たり前じゃない! こうなると、貴方の魂が心配だし
強く握り締めた腕を引っ張りあげ、深海の上を目指す。すると、遠く離れた位置に影を見つけた。膝を抱えるように丸くなった人の形した影。海底にうようよと沈んでいく。
――あれは……! 人間!?
ミオンが思わず、その場所へと向かおうとリリハから離れた。すると、リリハの呼吸がつっかえた。お餅を喉に詰め込んだような息苦しさ。
――待って、ミオン! 離れないで!
屍のような声を出したリリハ。ミオンはなにかを悟り、リリハの腕をひしっと離れまいと抱きしめてきた。
――さっさと帰るわよ! あの子はあの空間から離れないと思うし、今のうちに!!
慌ただしく上へと昇った。ミオンが急にそばによると、つっかえた喉の苦しさはない。リリハは安堵し、慌ただしく昇るミオンを横目に人影のほうに振り向いた。どこかで見覚えがある顔。
けど、何度思い出そうとも、黒いモヤがかかったように顔が認識できない。妨害している。頭がおかしくなったのかな。
海底のほうに沈んでいくのはこの時、誰も心也だと知らない。
「どうして……」
ボソリと呟いた。
左目から溢れんばかりに瘴気の湯気があがる。距離が離れているのに、禍々しい。足のつま先が枷でも嵌められているように微動だにしない。
足が小刻みに震えている。
思わず、来た道に顔を向けた。そこには当然といった感じで白い壁が果てまで続いている。
来た道を見れば、そこにはミオンがいると思ったから頼ってしまったけど、この空間じたいに入っていないのだ。
リリハもカイトと同じ、カミュの力を一度だけ授けられた。ナミとしてゲームを進行していた力だ。しかし、今となってはそんな力はない。
ただのスケッチの絵で書かれた体で中身のない人間なんだもの。
カミュと同じ、天界から来た〝神〟という存在と対等に張り合えるわけがない。
お別れ話しを進めようとリリハは決断した。
「リリハを、今まで仲間として認めてくれてありがとう! 居場所を与えてくれてありがとう……!」
それから……とその先の言葉を喋ろうと口にした途端、言葉を呑んだ。胸の奥から引っ掻いたように喉が苦しい。言葉が思うような出てこない。
留めなく涙が頬を伝い、拭っても拭っても全然、吹ききれない。顔を俯き、黙り込むとカイトの少し抜けた「あ」が聞こえた。
思わず、カイトを上目遣いで見上げた。
紅い瞳が籠の中で暴れる金魚のように泳いでいた。リリハの顔を見つめ石像のように呆然としている。
何をそんなにショックを受けているのと思わず訊ねる前に口元に違和感を感じた。皮膚の表面が爛れているようにドロリと感じる。
恐る恐る頬に指先を持っていく。ドロリとした泥のような液が指先から伝わった。
顔まで持ってこようとすると、納豆のようなネバネバした粘液が頬から繋がっている。納豆のは白いけど、頬から繋がっているのは本当に泥のようで灰色だった。
指先から腕まで泥が伝い、リリハは小さな悲鳴をあげた。どうなっているのか訳がわからず混乱していると、今さっき床に滴り落ちたリリハの透明な涙がそれを映してくれた。
蛇のような白い髪の毛が毛先からやや、狐色の金色となっている。それだけじゃない。赤い瞳までも変わっていた。右目だけが碧眼となっている。
「この姿は…――」
息をのみ、雫に映った自分を見つめ返した。そう、この姿は紛れもなく生前のリリハ。スケッチで描かれた漫画の少女じゃない。
――リリハ、戻るわよ!
ミオンの声がふと感じた。
耳に〝聞こえた〟のではなく心の中に声が〝伝わった〟というべきか。
「ナミ、なんで、僕を一人にするのかい!?」
カイトが惜しむようにリリハに言った。
その言葉を聞き、なんとも心臓が裂かれるように痛い。リリハは人生の節目を決める極限の覚悟を決め、お別れを告げた。
目を強く瞑り、息を大きく吸った。目の前のカイトがどんな表情しているのか目の前が真っ暗でも分かる。
「ありがとう。本当に。わがままだけど、また何処かですれ違ったらそのときは笑ってね……!」
パリンと金属で窓ガラスを思いっきり割るような衝動音がした。それは天井さえも見えない白い空間から。
§
再び目を開けるとそこは黒い溝の中だった。隣にはミオンがいる。ミオンと目があった。
――ここは、戻ったの? カイトは?
――どうやらあの空間じたい、魂もない抜けた体では五分も保たなかったようね
死んだ虫を見るかのような悲しい眼差しでミオンが言った。リリハの碧眼を覗いてくる。ミオンと同じ蒼眼。髪の毛もそう、狐色をもっと輝かしたような金髪。
白い髪の毛だった髪の毛も毛先から真ん中まで、狐色になっていた。
――帰るの?
――当たり前じゃない! こうなると、貴方の魂が心配だし
強く握り締めた腕を引っ張りあげ、深海の上を目指す。すると、遠く離れた位置に影を見つけた。膝を抱えるように丸くなった人の形した影。海底にうようよと沈んでいく。
――あれは……! 人間!?
ミオンが思わず、その場所へと向かおうとリリハから離れた。すると、リリハの呼吸がつっかえた。お餅を喉に詰め込んだような息苦しさ。
――待って、ミオン! 離れないで!
屍のような声を出したリリハ。ミオンはなにかを悟り、リリハの腕をひしっと離れまいと抱きしめてきた。
――さっさと帰るわよ! あの子はあの空間から離れないと思うし、今のうちに!!
慌ただしく上へと昇った。ミオンが急にそばによると、つっかえた喉の苦しさはない。リリハは安堵し、慌ただしく昇るミオンを横目に人影のほうに振り向いた。どこかで見覚えがある顔。
けど、何度思い出そうとも、黒いモヤがかかったように顔が認識できない。妨害している。頭がおかしくなったのかな。
海底のほうに沈んでいくのはこの時、誰も心也だと知らない。
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