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第三章 リリハの過去 心也たちは一切現れません! ごめんなさい!!
第38話 決断の時
しおりを挟む「リリハ、ハンバーグとステーキ、どっちがいいかしらぁ」
と若干、母親みたく料理の好みを聞いてきたのはミオン。子どものように無邪気な笑顔で部屋に入ってくる。
隅でナミがめそめそと泣いているのを目の当たりにし、笑顔が一瞬で消えた。
「決まったようね……」
なにも言っていないのに、心の中を悟りまた、凛とした表情になった。ナミはコクリと黙って首を縦に振り、ミオンを見上げた。
「うん。リリハの為の選択、それは人に戻って人として頑張るよ!」
「そう……」
応えを聞き、一瞬、青蒼目が潤んだ事はリリハは知らない。
これまで、ナミが自分のことをリリハではなく仮の名、ナミと言っていたのがこの数時間で本当の名、リリハと喋ったのは、自分の過去に対し戦うことを決断したから。
「それじゃあ、最後の晩餐会を開こうかしら」
「ストップ!」
いきなり、リリハが立ち上がりたわわに膨らんだミオンの胸の前に人差し指を立てこう言った。
「ハンバーグとステーキはなし。リリハ、甘党なの。大盛りのパフェにしてくんない?」
すると、ミオンがリリハのオデコめがげてピシッとデコピンをしてきた。それをなんと、憎たらしく笑顔で。
その威力は木の板を真っ二つに裂けるような破壊力。とてもや、美しい女性からは発見されない力。リリハは耐え兼ね、また壁に背を預け、ミオンを見上げた。
「ダーメ。体壊すわよ」
「いったぁい! なにすんのさ!!」
まるで、悪虫でも引っ掻いたような涼しげな顔してミオンは言った。
「さぁて、晩餐会は激辛メニューかしら」
苦しむリリハをよそに部屋から一目散と出ていこうとする。その背をみて、慌ててリリハも追った。
「全く、加減知らなすぎ!」
くどくど文句を背後で言う。
そうして、二人はお城の舞台のような天井が高く料理がたくさんに並んだ一つの部屋へと入った。
クリーム色のタイル床の上に赤いカーペットが広がって、本当にお屋敷の中にいるみたい。カーペットを踏むとフワって戻ってくる。踏むたびに戻って、心地よい。
「わぁ、すごいすごい!!」
リリハは興奮を抑え切れず、丸く作られた机の周りをくるくると回った。
その姿をみて、戸の前でミオンは立ち竦した。子どもを愛しむ眼差しでリリハを見つめる。
「こらこら! 走らないの!」
パンパンと手の平を叩き、リリハを注意する。しかし、目に見張るほどの料理のしなに目が眩みリリハは耳を傾けない。
まったくとため息交えた鼻をならし、先に料理に手懐けた。
§
「さて、本題よ」
さっきまであった料理の皿にはもう、カランと肉や野菜がのっていない。完食したあとにミオンが口を開いた。
満腹といった風貌でお腹を抑え、椅子に腰掛けているリリハに語りだす。また、珍しく低くキーになったミオンに対し、思わず顔を向けた。
「あの子が見つかったわ」
ドクンと心臓の鼓動が高鳴った。
ミオンが言う〝あの子〟とはカイトのことだ。人で戻ると覚悟したリリハに対し顔を向けられない人物。
俯いて、暗い顔しているリリハをミオンは眉をほそめ、小声で訊ねてきた。
「どうしたの?」
「会ってもいいのかな」
室内が何事もなかったように静まり返った。今更、この部屋にいるのはミオンとリリハだけと知り、静まると異様に広く感じた。
時計の音も廊下で歩く、誰かの足音も聞こえない。耳まで麻痺するようにおかしくなる。
ミオンが首を傾げ、訊ねてきた。
「どうして?」
「最後のお別れをしたいの……これまで〝仲間〟としてそばで過ごしてきたから。リリハがリリハに戻るってお別れを告げたいの」
そう言うと困ったようにミオンが目尻を下げた。強きだった眉もハチの字にまげ、篤い眼差しだった視線を反らした。
「わたしの力は……あの人を天界に戻す為に蓄積したの。もう、わたしの残った力ではあの子を天界にやっと連れていける弱い力になってしまった……そこに、貴女を介入できるかどうか……ごめんなさい。力の弱い神で」
言葉が失いそうになった。
幾つもあるパワレルワールドの世界を外側から傍観しているミオンのことをリリハは強く心を揺さぶり、尊敬と偉大さを感じていた。
それなのに、その尊敬と偉大さを屈服するかのような助言をミオンから口走った。それは「敗北」とも似せる大きな鏡を割った衝撃。
普段、斧や鎌でもズタズタに切り裂かれても自分が信じたものや続けた行為などはどんなに信じてみせると篤くいくのに、「敗北」とたった二文字がぶつかると切り裂かれた傷口から夥しく血ではなく涙が溢れるばかり。
言葉を失い、リリハはどんな表情でミオンのことを見つめていたのだろう。見つめ返すミオンの口端が若干、哀しげにほくそ笑んだことから、リリハはメデューサにやられた石像になっていたんだな。
「でも、なんとか頑張るわ。あの子の為にも。貴女の為にも」
ふふっと妖艶に笑った。
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