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第二章 本当の戦い
第29話 契約
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深くドス黒い溝の中に体を浸かっている。なんの感触もない。そんな深い溝の中に心也はいた。
真っ暗闇で出口のないゴールに彷徨っている。
――ここは
意識が芽ばえたのはその溝に浸かってだいぶあとだった。体が自然と溝の底へと落ちていく。光がまったく見えない。
――どこだろうか
キョロキョロとしてみる。しかし、体が思うように動かない。麻痺しているように痺れがあり硬いロープかなにかにくくりつけられてるみたいで重い。なんだ、なにが起こったんだ。
こうなる前の記憶を目を瞑って思い出す。
テレビの映像を逆戻りしたかのように詳細に頭の中に記憶が思い出す。
まるで、散らかしたパズルのピースを嵌めていくようだ。物の影や隙間に入ったピースを集めて型に嵌めていく。
しかし、最後のたった一つのピースが嵌められない。そう、頭を打ったあの時以来の記憶が。気を失ってしまったのだろうか。
どうやって探しても嵌まらないピースに困惑する心也の背広から大きな光が。闇のように黒く染まった水槽の水を大きくかき回すように渦をまき、そこから、一筋の光が見えたのだ。
――あれは……!
光を見て、急いで体を反転させた。
水の輪をかいたせいで、透明で黒いシャボン玉が心也の横や足元を通り過ぎる。
一筋の光は徐々に大きくなり、そして、黒く染まった水を吸うかのように光に導かれていく。
目玉が焦がれるように暑い光。眩しすぎるほどの刺激を目の当たりにし、心也は目を瞑った。それは、数秒間の間だった。
突然、それまで、ふわふわと浮いていた足が地に落ちた。
癇癪玉を持たされたような驚いた心也は思わず、目を開けた。見渡すばかり白い空間。どこまでも広大に広がるような白さだった。壁や天井さえ見かけない。無機質空間。
焦がれる暑い光の刺激のせいで、目玉はチクリとも痛くなかった。
その空間に離れた位置にポツンと一人の少年が立っていた。心也を待ち構えていたようでニコリとなんとも言えない笑みで笑う。
「カイト」
そこに立っていたのはカイトだった。
茶髪じみた髪の毛に血を連想させる紅い瞳。でも、片目だけ、目玉を取られたように黒くなり、そこから、妖怪の瘴気のような禍々しい煙が立っていた。
「あれからどうしたんだ……ここはどこだ?」
もっと、質問してみたかった。しかし、声にでたのは些細な問いだった。
背中のほうに腕を回し、紅い瞳である右目だけを細めて寂しげに笑った。
「ここは全てを〝無〟にする空間です。貴方はやはりここまで来てくれた」
何を言っているんだと訊ねる前に背中に回した腕を胸に翳した。
「これを」
胸に手を翳した手のひらをスッと心也のほうに差し伸べてきた。手のひらの中は蛍のように小さい光の玉。
蛍の光は幻想的で夜の景色を惑わす妖しい光だが、カイトの中にある光の玉は違う。
蝋燭の白い蝋がドロドロに溶け、今にでも炎が少しの隙間風で消えいりそうな、そんな光だ。
「これは?」
「僕の今までの力です」
妖艶な眼差しで言った。
紅い瞳の中に心也が映っている。
「力……ゲームで使ったあの?」
コクリと力強く頷いてみせた。
「僕はもう、ここにいるだけでも限界のようです」
瘴気のように煙が立った左目からピキピキと壊れかけの人形のヒビが入ている。
「貴方はこの世を退屈と思い、崩壊を望んでいた。ならば、この力を授けます。今度は貴方自身が退屈しない面白い舞台を作れる側へとなりますよ」
その言葉を聞き、心也は消えいれそうな光が欲しくなった。今にでも、フッと消えそうな光。欲しくって欲しくって喉を掻きむしりたい。
そんな心中をあとに重大な問題を訊ねた。
「二つ聞く。一つ、お前らが行っていたゲームは何の目的で行っていた。二つ、その力を得たあとの代償は?」
「僕たちはある女神を捜す旅に出ていたのですよ。言うなれば、家出女を捜索、もしくはそれに型を埋める為の器探しです」
淡々と問の応えを言うカイトの顔はヒビが割れ、少しでも動かせば亀裂が重なり崩れるようだ。
「代償は…――」
一番最も重要な応えを言う寸前に白い空間にヒビが入った。まるで、落とした鏡のよう。
キシキシ、ピシピシと蠢く音を出し、白い空間がさっきいた黒い闇になろうとしている。
焦ったのは心也だけではなかった。上を見上げ、紅い瞳が死ぬ寸前の金魚のように暗くなっている。
「ミオンの奴、ついにここまで探し当てたか……」
うわ言を小声で言うが心也の耳にははっきりと聞こえた。〝ミオンの奴〟ミオン? 誰だ?
徐々に黒くなろうとしている空間と徐々に体までもヒビ割れしれいるカイト。
なにがなにで起こっているのかわからないがはっきりと行動に移したのはカイトの手の内にある光の玉をスッと奪うように救いあげた。
「なんの代償か知らんが……これだけは受けとっていく」
「ふふふ。良かったです」
そうして、白い空間が全てもとの黒い溝へと落ちていった。カイトの姿影も見当たらない。
しかし、心也の手の中にはカイトの力が託された。これから、その力を使ってどうするのか後の後世へと語り継ぐ。
真っ暗闇で出口のないゴールに彷徨っている。
――ここは
意識が芽ばえたのはその溝に浸かってだいぶあとだった。体が自然と溝の底へと落ちていく。光がまったく見えない。
――どこだろうか
キョロキョロとしてみる。しかし、体が思うように動かない。麻痺しているように痺れがあり硬いロープかなにかにくくりつけられてるみたいで重い。なんだ、なにが起こったんだ。
こうなる前の記憶を目を瞑って思い出す。
テレビの映像を逆戻りしたかのように詳細に頭の中に記憶が思い出す。
まるで、散らかしたパズルのピースを嵌めていくようだ。物の影や隙間に入ったピースを集めて型に嵌めていく。
しかし、最後のたった一つのピースが嵌められない。そう、頭を打ったあの時以来の記憶が。気を失ってしまったのだろうか。
どうやって探しても嵌まらないピースに困惑する心也の背広から大きな光が。闇のように黒く染まった水槽の水を大きくかき回すように渦をまき、そこから、一筋の光が見えたのだ。
――あれは……!
光を見て、急いで体を反転させた。
水の輪をかいたせいで、透明で黒いシャボン玉が心也の横や足元を通り過ぎる。
一筋の光は徐々に大きくなり、そして、黒く染まった水を吸うかのように光に導かれていく。
目玉が焦がれるように暑い光。眩しすぎるほどの刺激を目の当たりにし、心也は目を瞑った。それは、数秒間の間だった。
突然、それまで、ふわふわと浮いていた足が地に落ちた。
癇癪玉を持たされたような驚いた心也は思わず、目を開けた。見渡すばかり白い空間。どこまでも広大に広がるような白さだった。壁や天井さえ見かけない。無機質空間。
焦がれる暑い光の刺激のせいで、目玉はチクリとも痛くなかった。
その空間に離れた位置にポツンと一人の少年が立っていた。心也を待ち構えていたようでニコリとなんとも言えない笑みで笑う。
「カイト」
そこに立っていたのはカイトだった。
茶髪じみた髪の毛に血を連想させる紅い瞳。でも、片目だけ、目玉を取られたように黒くなり、そこから、妖怪の瘴気のような禍々しい煙が立っていた。
「あれからどうしたんだ……ここはどこだ?」
もっと、質問してみたかった。しかし、声にでたのは些細な問いだった。
背中のほうに腕を回し、紅い瞳である右目だけを細めて寂しげに笑った。
「ここは全てを〝無〟にする空間です。貴方はやはりここまで来てくれた」
何を言っているんだと訊ねる前に背中に回した腕を胸に翳した。
「これを」
胸に手を翳した手のひらをスッと心也のほうに差し伸べてきた。手のひらの中は蛍のように小さい光の玉。
蛍の光は幻想的で夜の景色を惑わす妖しい光だが、カイトの中にある光の玉は違う。
蝋燭の白い蝋がドロドロに溶け、今にでも炎が少しの隙間風で消えいりそうな、そんな光だ。
「これは?」
「僕の今までの力です」
妖艶な眼差しで言った。
紅い瞳の中に心也が映っている。
「力……ゲームで使ったあの?」
コクリと力強く頷いてみせた。
「僕はもう、ここにいるだけでも限界のようです」
瘴気のように煙が立った左目からピキピキと壊れかけの人形のヒビが入ている。
「貴方はこの世を退屈と思い、崩壊を望んでいた。ならば、この力を授けます。今度は貴方自身が退屈しない面白い舞台を作れる側へとなりますよ」
その言葉を聞き、心也は消えいれそうな光が欲しくなった。今にでも、フッと消えそうな光。欲しくって欲しくって喉を掻きむしりたい。
そんな心中をあとに重大な問題を訊ねた。
「二つ聞く。一つ、お前らが行っていたゲームは何の目的で行っていた。二つ、その力を得たあとの代償は?」
「僕たちはある女神を捜す旅に出ていたのですよ。言うなれば、家出女を捜索、もしくはそれに型を埋める為の器探しです」
淡々と問の応えを言うカイトの顔はヒビが割れ、少しでも動かせば亀裂が重なり崩れるようだ。
「代償は…――」
一番最も重要な応えを言う寸前に白い空間にヒビが入った。まるで、落とした鏡のよう。
キシキシ、ピシピシと蠢く音を出し、白い空間がさっきいた黒い闇になろうとしている。
焦ったのは心也だけではなかった。上を見上げ、紅い瞳が死ぬ寸前の金魚のように暗くなっている。
「ミオンの奴、ついにここまで探し当てたか……」
うわ言を小声で言うが心也の耳にははっきりと聞こえた。〝ミオンの奴〟ミオン? 誰だ?
徐々に黒くなろうとしている空間と徐々に体までもヒビ割れしれいるカイト。
なにがなにで起こっているのかわからないがはっきりと行動に移したのはカイトの手の内にある光の玉をスッと奪うように救いあげた。
「なんの代償か知らんが……これだけは受けとっていく」
「ふふふ。良かったです」
そうして、白い空間が全てもとの黒い溝へと落ちていった。カイトの姿影も見当たらない。
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