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第二章 本当の戦い
第28話 耳元で囁いて
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颯負と玲緒と片桐、三人とも、病院の一階にあるコンビニフロアへと向かった。残った菜穂は窓辺に腰をおろし、外を眺める。
建物の瓦礫が散乱しており、ひび割れた道路の上には作業服を着た作業員や人型アンドロイドや掃除機ロボットなどが忙しく動き回っている。
今でも信じられない。自分が総裁になるなんて。心の中にはまだ子どもの自分がいて、まだ遊んでいるのに、急に責任という重たいのがのしかかるとは思ってみなかった。
生ぬるい風がそれを察したように温かい風となり、菜穂の体に当たった。
ふいにピッピッと規則正しく機械音が聞こえた。今まで颯負の病室にいても、全く気にも留めなかった。あんなに騒いでいたのに、心也は声も目すらも開かない。
本当に死んだように眠っている。
静かに心也のベッドに寄る。二人っきりになるのは、私が杏子になる前の銀杏の時だったよね。
「生きてる……よね?」
ちょんちょんと指先を頬にあてる。すると、意志があるのか、ちゃんと感じたのか、眉がピクリとあがった。その反応を見て思わず、指先を止めた。
食い入るように観察するが、起き上がってこない。どうやら、生体反応らしい。
ホッと安堵の息をはき、ベッドに腰をおろした。だらりと垂れ下がった左腕のすぐ近くに腰をおろす。
「私……まだ貴方に許せないことがあるの」
眠っている心也に菜穂は語りだす。
「梓を殺したこと……貴方がこのまま死んでも絶対に許せない。起きてきたなら、血の底から徹底的に地獄を味あわせてやる。けど、こんな事言っても、梓は生き返ってこない。総裁になったのはねただの罪滅ぼしなの。たった一人の妹を守れなかった罪滅ぼし……」
さぁと荒い風が室内に流れてきた。
窓際の枠によって音がかえられ、ヒュウと低い口笛のような音となる。
白いコートとドレスがバサリと股までめくれあがった。
そんなのを気にも留めず、菜穂は心也の体に覆いかぶさってきた。唇を耳元に寄るため、上体を被るように密着してしまう。
耳元に唇を寄り付け、あの日言った言葉をもう一度言う。あの日とは梓が死んだ直後、嘲笑うかのように言ったあの言葉。歴史に刻まれた名のある姫の言葉だ。
「あの言葉、本当はね……〝愛する人の死は絶望を招く。しかし、それでも人は人を愛することをやめられない〟五百年生きた名のある姫の言葉。絶望を巻くような言葉じゃないの」
そう言うと、上体を起きあがりベッドから静かに離れた。
心也は今でも目を固く瞑り、永遠の眠りに入っている。菜穂の言葉が届いたのかわからない。今でも、規則正しく機械が動いて、白い息がカニューレに吐き出して霧状になっている。
また窓際の枠に腰掛け、涼しげな夏の風に酔いしれる。ふと、コンビニフロアへと向かった三人が息あいあいとたのしげに帰ってきた。
建物の瓦礫が散乱しており、ひび割れた道路の上には作業服を着た作業員や人型アンドロイドや掃除機ロボットなどが忙しく動き回っている。
今でも信じられない。自分が総裁になるなんて。心の中にはまだ子どもの自分がいて、まだ遊んでいるのに、急に責任という重たいのがのしかかるとは思ってみなかった。
生ぬるい風がそれを察したように温かい風となり、菜穂の体に当たった。
ふいにピッピッと規則正しく機械音が聞こえた。今まで颯負の病室にいても、全く気にも留めなかった。あんなに騒いでいたのに、心也は声も目すらも開かない。
本当に死んだように眠っている。
静かに心也のベッドに寄る。二人っきりになるのは、私が杏子になる前の銀杏の時だったよね。
「生きてる……よね?」
ちょんちょんと指先を頬にあてる。すると、意志があるのか、ちゃんと感じたのか、眉がピクリとあがった。その反応を見て思わず、指先を止めた。
食い入るように観察するが、起き上がってこない。どうやら、生体反応らしい。
ホッと安堵の息をはき、ベッドに腰をおろした。だらりと垂れ下がった左腕のすぐ近くに腰をおろす。
「私……まだ貴方に許せないことがあるの」
眠っている心也に菜穂は語りだす。
「梓を殺したこと……貴方がこのまま死んでも絶対に許せない。起きてきたなら、血の底から徹底的に地獄を味あわせてやる。けど、こんな事言っても、梓は生き返ってこない。総裁になったのはねただの罪滅ぼしなの。たった一人の妹を守れなかった罪滅ぼし……」
さぁと荒い風が室内に流れてきた。
窓際の枠によって音がかえられ、ヒュウと低い口笛のような音となる。
白いコートとドレスがバサリと股までめくれあがった。
そんなのを気にも留めず、菜穂は心也の体に覆いかぶさってきた。唇を耳元に寄るため、上体を被るように密着してしまう。
耳元に唇を寄り付け、あの日言った言葉をもう一度言う。あの日とは梓が死んだ直後、嘲笑うかのように言ったあの言葉。歴史に刻まれた名のある姫の言葉だ。
「あの言葉、本当はね……〝愛する人の死は絶望を招く。しかし、それでも人は人を愛することをやめられない〟五百年生きた名のある姫の言葉。絶望を巻くような言葉じゃないの」
そう言うと、上体を起きあがりベッドから静かに離れた。
心也は今でも目を固く瞑り、永遠の眠りに入っている。菜穂の言葉が届いたのかわからない。今でも、規則正しく機械が動いて、白い息がカニューレに吐き出して霧状になっている。
また窓際の枠に腰掛け、涼しげな夏の風に酔いしれる。ふと、コンビニフロアへと向かった三人が息あいあいとたのしげに帰ってきた。
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