―ミオンを求めて―最後の世界

ハコニワ

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第一章 運命と死と想い

第11話 首うちゲームの開始

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  1日目

 死のゲームが始まり、寝て覚めた場所は現実世界でもない。人にとって絶望しかない空間を今、俺は楽しんでいる。外を見れば、昨日とうって変わらぬ景色。
 上体を起き上がらせ、身支度を整える。その時、通信機器が鳴った。探検や戦争でよく見かけるあの黒く分厚い無線機。
 キングにだけ特別に用いられた道具。どこかの国にスパイとして送りこんだ奴と情報交換のため。いっとくが、銀杏のスパイなんぞ知らないぞ。送ったこともしていない。
 恐る恐る通信機器を取ると勝手に音声が流れこんできた。ザザッと荒波と一緒に音がちょっと鈍っている。
『あ、聞こえてる? もしもしキング?』
 ちょっとバカそうな女の声。だけど、どこかで聞き覚えがある。
『私だよ! あ・ず・さ!』
 なんと、スパイは梓。通話に聞き耳をたてた。太陽に似た明るい声が飛び交う。
『今、紅葉にいるの。銀杏のスパイだってことバレてないけどもう、ヒヤヒヤ! まぁあと話しでキング朗報だよ』
 急に声のトーンが低くなった。まるで試すよう。室内が静かになった。
『紅葉と杏子が手を組んだ。いわゆる同盟ってやつ。朝から何故かその話しが舞っていて、同盟を組んだ理由は銀杏を略奪する為……気おつけて』
 一方的に無線が切られた。でも、確かに朗報だ。知らぬ間に同盟とは。一匹狼の俺には考えられない。
 しかし、朝から頭が重い。同盟を組んでも結局は一組しか生き残れないのにバカな奴らだ。


「ふぁ、心也くんおはよう」
 部屋を出て、茶色の廊下を少し歩いた矢先、朝一で話しかけてきたのは菜穂だ。
 片手で口を覆い、大きな欠伸をさせて駆けつけてきた。
「あぁ、おはよう」
 紳士笑顔で応えると、菜穂は再び、欠伸をする。近くまでくると、菜穂の目の下にはうっすらとクマがある事に気づく。
「眠れなかったの?」
「ふぇ…?」
 欠伸寸前で、口を停め目には涙が残ったまま顔を向けた。まん丸な瞳が潤んでいる。菜穂は核心つかれた顔をし、苦笑いで応える。
「あぁ、うん。実はね」
「そっか」
 そう、会話していくうちに八畳間の部屋で集まったのは昨日、集まったものたち。みな、生気を持たない人形のような顔している。
「さて」
 心也からかけた一言によって、辺りの目がキングへといく。
「首をうちとるのはやはり、杏子と紅葉になるが、誰が仕留める?」
 さぁ、と辺りの空気が血の気のように引いていった。
「ちょ、ちょっと待って」
 菜穂が怯えた声で語りかける。
「杏子と紅葉って、心也くんも知っている知り合いじゃん……例えゲームだとしても仕留めるとか……あんまりだよ」
 何を言っているんだ。この女。もう、既にゲームは始まっている。仕留める問題じゃない。殺られたら、自分たちも死なのに。
 心也は偽善に喋る菜穂の口をこの場で塞ぎたくて仕方がなかった。
 ふと、その時、脳裏にある考えがよぎった。もしかして、この女、スパイなのでは……。それで庇っているとか杏子のキング、颯負か、または何処に所属したかわからない妹か。
 どちらにしろ、二組撃たなければゲームは終わらない。
「……それじゃ、どうすんの?」
「あの子、カイトに言ってこんなゲーム早くやめさせる!」
 思いきったのか、立ち上がり、テレビのスイッチを押した。
 しかし、スイッチを押しても画面は真っ暗。液晶画面には、テレビの前にいる菜穂の姿と八畳間の部屋が球レンズのように映り込んでいるだけ。
 この脳天気さ、流石は、金持ちでノウノウと生きているだけはある。
 しかし、こうなっては昨日練った作戦が動かない。まず、この女が動かなければいけないのだから。そう、この女にはまず、杏子のキングの首を撃つ事。
「……わかった。暫くこの件に関しては置いといてまず、偵察にいこう」
 そう言うと、しぶしぶ菜穂ものった。

 偵察に行く為に外に出向くのは心也、菜穂の二人と決まった。外に行くにも、みな、強張ってばっかりで話しが一行に進まず、結局はこの二人となったのだ。
「いいの?」
 裏の戸口から出ようとしたした時、背後から菜穂が訊ねた。振り向くと、心ここにあらずといった浮かない顔した菜穂が心也に寄る。
「いいの? キングが迂闊に外に出て」
「まぁ、みんな話しにのらないから」
 顔をつくり、笑い話しに変えようとした。
 護身用の為、武器を持っている指が微かに震えている事に気がつく。
「……菜穂ちゃんは、偵察に行く為は梓ちゃんを探す為だよね?」
 浮かない表情で地面を見下ろしてた途端、核心をつかれた顔をあげた。心也と暫く目が合うと、次第にまた地面に目を伏せる。
「うん。そうなの。あの子は……私の妹だから、守らないと……私が」
 うわ言をボソボソと呟く。
 やはり。懸命になるのは血の繋がった妹の安否を守る為。何処に所属したのかわからない今、キングの首をとるのは反対したのか。
 どうでもいい。こいつの妹にしろ、この女は今から働かなければならない。杏子のキングをうつ。しては、邪魔者は一人消える。
 まぁ、そのあと、この女も用なしとして消えるんだがな。

「そうだ!」
 思いついた顔で、菜穂の前にあるものを突き出した。
「なにこれ?」
 菜穂は突き出したものを受け取り、真上に翳す。それは、作戦でねったあるリモコン。手のひらサイズの黒いリモコンに、たった一つ真ん中に赤いボタンがある。
 いかにも、なにかあるボタンな訳だが、菜穂はつゆ知らずポチポチと赤いボタンを何度も連打している。
「なんに使うの?」
 興ざめた声帯で訊ねた。
「あとで言うから、菜穂ちゃんは早速やってほしい事があるんだ」
 そう言って、菜穂の耳元に寄って耳打ちする。
 全部話すと、菜穂の眉は釣り上げ、パクパクと金魚の口みたくなった。
「わ、私が杏子のエリアに入って侵入する!?」
 今さっき話した内容は作戦の約三分の一にも満たない。
 それでも、菜穂にとって一世一代なわけだが。
「そう。杏子のエリアに入って、誰かに気づかれたら、そのまま動かず、近づいた頃でそのボタンを押せば大丈夫」
「……」
 まだ、心配な表情。
 確かに、自分から死ににいく話しは気分が晴れないだろう。
 しかし、菜穂にとって敵のエリアを偵察しに行くのは、妹の安否を知る為。この話し断れきれないだろう。
「……わかった。私、やってみせるよ」

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