―ミオンを求めて―最後の世界

ハコニワ

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第三章 リリハの過去  心也たちは一切現れません! ごめんなさい!!

第32話 終わらない過去②

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 あの日は朝になるまで震えが止まらなかった。あの少年が密告する。〝逃げた魔女がここにいるぞ〟と教会に。また、あの場所に戻される…。
嫌だ、やっと掴んだ自由を潰される…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ………。

 震える身体を縮こまらせ、そのまま眠りに入った。真っ暗で溝のように深い眠り。このまま死ぬのかな? もう、死んでるも同然だけど、心残りとか……。

ドンドンドン

 玄関を力一杯叩く音が響いた。ハッとここで眠りから覚める。目覚めたばかりの目を擦り、扉を見上げた。今にも、壊れそうな木の扉。
 まさか、もう、密告を知って教会の者が? 早くここから脱出しないと。
 慌て、上体を起こした。その間も扉を叩く音は鳴り止まない。より一層、叩く音が強くなっている。
 男二人は敵わないけど、もし、1人ならなんなく交わせるかもしれない。ううん、この場で捕まる訳にはいかない。
 そこらへんにあったほうきを手に取った。穂先が所々枯れ、取って部分も黒いカビになっている。少し小汚いが、仕方がない。
 深く深呼吸をし、攻撃の態勢をし、玄関を恐る恐る開けてみた。

「おっはよーうござぶっ…!」

 元気よく挨拶する少年の顔面を穂先のほうてはない向きで突いた。開いた扉に急いで向かう。が、少年はなんと、空いた手で扉を塞いだ。
「いやはや、この時代には変わってる女性ですね…」
「なっ……!」
 握ってた力が脱力し、ほうきが手から滑り落ちた。
 もう、駄目だ。逃げ切る扉は一つしかない。塞がれた。男一人なら、敵うと思っていたのに……。今さら、許してとか言えない。
 少年は赤くなった鼻を片手で覆っている。
 ガタガタ足が震えた。少年がこちらを見た。
「覚えてませんか? 僕ですよ」
「……え?」
 ここで思い出した。昨日アムと楽しげに会話してた少年という事に。血と同じくらいの紅い目と幼い顔たち。確か、変な名前…カイトだっけ?

§

 小さなテーブルを挟んだ形で二人は座った。
「……何でいんの?」
「カミュ様からのお届け物です」
 胸ポケットから紙袋が取り出された。さっきの出来事があったからか、シワクチャになってる。さッと紙袋をもらい受けた。
「あと、カミュ様が歩いて行けと仰ったので歩いて来たんです、足がヘトヘトです」
 何とも真顔で言うじゃない。ヘトヘトなら苦しい顔しなさいよ。
「カミュって誰?」
 前々から言ってた名前を問いてみた。少年は真顔のまま、大きい溜息をついた。ゴホンと咳する。
「……アムさ、アムですねすいません」
 今さらながらに鼻を見る。血は出てなかった為、丈夫な子だなと思った。

「あぁ、それは人間の中にあって欠かせない赤い液体の事ですか?」
 口でも言ってないのに、少年が真顔で言う。リリハは驚きが隠せなかった。床に落ちたほうきを再度手に持つ。それを少年に向けた。尚、顔色を変えない。不気味に血の毛が引く。
「そんなの向けても僕は死にません」
 初めてクスと笑った。その笑みはリリハの中に流れる赤い血が引いていく。
「人間の中にある液体など僕にはありません、それに、ただの人がこの僕を殺せますか?」
「もう……一回……言って」
「はい?」
 リリハはほうきを投げ捨て、少年に飛びついた。少年から放った言葉をもう一度言ってほしくって。少年は口を庵りで少しおとなしめに語る。
「ただの人がこの僕を…」
 ガタンと滑り落ちた。
 腰から滑り落ちた先は埃だらけで小汚い場所だった。が、リリハの頭には少年の言葉が何度も重なりそれどころじゃない。〝人〟たった1言なのに、こんなにも衝撃で嬉しさが込上がってくるなんて…
 行く先、目が留まる時、指差される時〝魔女〟として言われてきた。けど、違う。絶対にリリハは魔女なんかじゃない。そう思ってる。が、何年も何千人にも指差され、吊るされたらリリハは本当は魔女なんかじゃないかと見失う時がある。
 少年が言ったたった1言はほんの些細な希望だ。
 涙が勝手に溢れ落ちた。見ず知らずの男の子の目の前でポロポロ涙が頬を伝い床に落ちた。
 少年が若干、びっくりした顔で床に落ちたリリハを見つめてる。

「僕から言いますと、貴女は歴っとした人間ですよ?」

 少年がそれだけ言うと、家から出て行った。残ったリリハは堰き止められない涙と声を一気に爆発した。

§

 太陽が沈んだ時刻でやっと、冷静になった。
「はぁ、リリハ何やってんの……」
 ズーンと沈む。不意に少年から受け取った紙袋を取り出した。ゴツゴツして、振ると鈴の音が聞こえた。開いてみる。そこには、金色の簪が。花の模様がついており、金でできた丸いものからはシャランと音がなる。
「なんて、綺麗なの…」
 天井に掲げ、見上げてみた。鈴がシャランと鳴る。
 これはアムが最後の別れとして持ってきてくれたのかな? 最後の別れ…ぎゅと簪を胸の中に沈めた。
 その簪を髪に結んでみた。金色の髪の毛とマッチしてるが、揺れる度に鈴がシャランとなる。

 鈴の音が鳴る度、嬉しさが込上がって小さい小屋の中をくるくる回った。
「ふふ、今日は嬉しい事がいっぱい…」

 寝静まった時刻、暗闇の中、火の玉が一つと人の声が微かに聞こえた。
「ここに逃げた魔女が?」
「あぁ、間違いねぇ、朝、ほうきを持った若い女が小屋にいると通報があった」
 リリハは簪をポケットに、床を這いずるように四つん這いになった。汚れた壁には吸盤のような丸い窓ガラスがある。その窓にゆっくりと寄り、外の景色を恐る恐る覗く。森の雑木林の木々に隠れてうっすらと硬いのを身に纏っている影が2つ。炎を点火させた松明もポツンと一つだけ。
 よし、まだ逃げられる。震える腰をあげ、そっと扉を開ける。見られないように半身を外に出した。
 一歩ずつ。音をたてないで。息を殺して…。
 身体全部が外に出ると、草むらの中を無我夢中に走った。腰が砕けるあまり、速く走れない。逃げた魔女が捕まったあと、どうなるか。容易に検討がついた。激痛のさらなる拷問。恐怖で息が荒くなった。不意に、後ろを見ようとした矢先、何かに躓いた。
「…っ…」
 ぶつかった対象を見上げてみた。兵の格好をした男。ゾッと血の毛が引いていく。何故、ここにも!?
「いってぇ…木にぶつかったか?」
 手が伸びてきた。咄嗟に離れる。急いでここから離れなないといけない筈が腰が抜けて足に力が入らない。
 同じくらい、状況が読めない。頭がパニクって判断のしようがない。
 数分後、リリハは身体を地面に押し付けられ、口に布と手にロープがかけられた。
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