―ミオンを求めて―最後の世界

ハコニワ

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第三章 リリハの過去  心也たちは一切現れません! ごめんなさい!!

第31話 終わらない過去①

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  16世紀 魔女狩りの最盛期
 ナミ、もとい、リリハ・アンシャーカーは生きていた。
 その頃は金髪で川の水のように清らかな碧瞳の持ち主だった。胸もそれなりにある。あの頃の出来事は今でも鮮明に覚えてる…



 見上げれば太陽があんなにも近かった。身体をきつく紐に縛られチリチリと炎が足元から燃え広がってる。一緒に縛られてる女性は悲鳴を天にむけ泣き叫んでた。
 やめて、叫ばないで。
 足元の炎と暑く照らす太陽で考える頭も叫ぶ力もない。どうしてこうなったのか、どうしてこんなふうになってるのかこの頃は、生まれた時代と生まれた国を恨んでることしかできなかった。
 16世紀魔女狩りの最盛期、女性のみならず男性、幼い子、貴族までもが吊るされていた。その他、勿論全員、魔女ではない。リリハも勿論。が、この時代は恨みや嫉妬で出来、誰かを〝魔女〟として扱わないと生きていけない時代だった。
 リリハはそっと瞼を開ける。自分がいるのは路地の民衆の前で身体を縛られ、炎を灯されてる。
 熱い…叫びたいのに、喉が渇きすぎて声にもならない。自分を見る民衆の目と貴族の目が愉しむような目をしてた。嘲笑い、満面の表情。

 狂ってる。

 人が死ぬのを見て楽しんでるこの時代はそうだった。

「生きたいか?」

 聞きなれない一声がかかった。
「…え?」
 瞬きした瞬間、民衆の笑みが止まり羽ばたいている鳥も止まり、熱かった炎さえも何の感触もない炎になった。恐る恐る、隣を見た。顎を突き出し、目の焦点があっていないまま、微動だにしない。
 鳥も人も埃も雲も全部止まっている。まるで、時が止まっているかのよう。その中で、リリハは意識もあり、この時間の中で動いていた。いうなれば世界でリリハだけが生きてる感覚に陥った。そして、もう一人、動ける男が目の前に。
 黒い髪に黒い服、全身黒に染まった男。顔たちは若くパッと見、好青年だ。男がジッとこちらを見ている。
「生きたいか?」
 男がまた問だした。
 返事を出したいが、お腹から声が出ない。力も入らない。
 すると、男は諦めたのかリリハから離れ颯爽とこの場から離れていく。
待って、行かないで!生きたい、生きたいに決まっている!

「生き…たい」

 やっと腹から力をだし、声が漏れた。小さく、久し振りに聞く自分の声は驚く程、弱々しかった。
 そう、これがリリハとカミュの最悪で最凶な出会い。この頃はまだ男が何者なのか知らなかった。〝ゲーム〟という存在も。その〝ゲーム〟に自分も加担するさえも知らなかった。

 人里離れた山奥にある花畑。一本の木影に男が腰掛けていた。恐る恐るリリハもその隣に腰掛ける。
「あの、さっきはどうも…ありがと」
 チラと男を見た。
 リリハの方を向いていない、顔ごと前方を見ている。それでも尚、リリハは喋った。
「リリハ・アンシャーカーっていうの、貴方は?」
 まるで、リリハが見えていないかのように無視してる。ムッとしたリリハは両手を男の頬に添え顔をぐりんとリリハの方に向かせた。
「あ・な・たの名前は?」
 強調するように声を上げた。男は最初驚いた顔してるが、目だけは冷めてる。フッといつもの顔すると、やっと口を開いた。
「……アム」
「アムっていうの? 変わった名ね所で貴方…魔女なの?」
 視線が交えた。揺らぐことのない視線。こう思うのはあの時、男の周りだけが止まっていた。雲も、鳥もこんなのはまるで、魔法ではないかっと。
 男は驚くことなくさも当たり前といった感じでものを言った。
「魔女ではない、が、確かに力はある」
 リリハは一瞬、固まった。力というのは武力のことか、権力のことか、又は人間を超える超人的な力のことか。

 口を噤んだリリハをよそにアムが喋った。
「この時代に生きて良かったか?」
 突然問われた。
 リリハは問われた質問に頭が真っ白になった。暫く、沈黙する。

「……生まれてきた時代とこの国も恨んでいる。リリハね、いつかこの世が平和になるんじゃないか夢みてるの! 今は狂ってるけどいつか、この花畑のように清らかになって本当に笑いあえる時代になるんじゃないかな…」

 リリハが屈託のない笑みを宿した。いつか平和がくると本当に信じてる。その笑顔はアムにとって眩しい輝きを放ってる。
 立ち上がり、花畑の中に入りくるくると円をかくように回った。

「リリハねこんな話しを人にするの、アムが初めてなの! 貴女と話してるとリリハ…リリハらしくなれる気がする…だから、アム! これからリリハと毎日会うこと! 決定ね!」
 言い分もなしに勝手に決められた。リリハは無邪気に花畑をくるくる周ってる。

 この日を堺にアムとリリハはこの花畑で密会するようになった。リリハは最初出会った頃とうって違ってユーモアが溢れコロコロと表情が変わる、天真爛漫な女の子だ。
 加えて、人の話しを聞かない時もある。少し強引な性格らしい。
 リリハとは世話話しや夢物語、世界など沢山の話しをした。それは途切れることもなく。

「アムは何処から来たの?」
 好奇心で問いた。
 それは出会って約1週間を過ぎたある日の事。アムは黙ってる。聞いてるの!?とまたリリハがふてくされた顔でアムに寄る。
 アムはそれでも頑なに口を閉ざしてる。より一層、ふてくされた顔をするリリハ。

 その時、芝生を踏む足音が聞こえた。それは近くで。
 恐る恐る振り向いた、と同時に少年が声を上げた。
「何やってるんですか!? 捜しましたよ、カミュ様っ!」
 やや眉間に皺を寄せながら少年が芝生を駆け寄り、アムに近づく。アムの事を〝カミュ〟とまた変な名前で呼んでいる。魔女のような禍々しい赤い瞳の持ち主。
「カイト……捜したのか」
「全く! ここ一週間何処ほっつき歩いてたんですか!?」
 ブツブツ文句を言ってる。その文句にアムも会話を続けていた。リリハが知らない単語を話してる。
 リリハの身体はプラスに潰されたように重い。全ての神経がピリピリする。
〝知られてしまった、捕まる! またあの場所に戻される、いやだ…逃げなきゃ全力でここを…!〟
「所でそこのみずぼらしい少女は?」
「あぁ、ここで出会った…―」
 二人に背を向け、全速力で逃げた。二人の会話は風で全く聞こえない。

 必死に走った。あの美しい花畑には行けない、もうアムさえも会えない…大丈夫、生きる為、この選択を選んだ。

 必死に走り、足の骨が折れるくらい無我夢中で走った先は小さな小屋。人気がない、寂れた小屋。その小屋で身を隠す。
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