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三章 二人の世界
第31話〈終〉天使が恋を知ったとき
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「天音さん、お姉さんは?」
「まだトイレにいるはず。置いてきた」
「どうして……」
言いかけて、止まった。天音さんは気づいてた。僕が隣にいなかったことを。そして、最後になってそれを叶えるためにやってきたことを。
回覧車にのって、室内は二人きりになった。向かい合って座る距離。窓から差し込む夕日の光が赤く、僕らの影が伸びている。天音さんの肌が艷やかに光っていた。あのときの光景に似ている。
屋上で、タイムリープの犯人を追いかけてついに突き止めたとき。あのときの屋上の朝日は、これに似た艶めかな光だった。
屋上の荒々しい風に、華奢な体は吹き飛ばされそうだった、そんな儚い少女が、こうして目の前にいる。あれから月日が経っているようで、実際は経っていない。何度も失敗し、繰り返し、僕らはそうやってやっと再会した。
天音さんは、絶景を眺めていた。大きな瞳に映っているのは、真っ赤に染まった町並み。静かに口を開いた。
「この世界は、ご両親もいて妹さんもいて、聖人の大事なものが詰まっている。なのに、最後、私を選んで後悔しない?」
「するわけないよ」
天音さんは、ゆっくり顔をこちらに向けた。お人形みたいな表情。微動だにしない。また静かになった。
ゴンドラが周り、いよいよ頂点に向かいそうだ。絶景もより美しく、町並みが小さくなっている。今、他のことなんて考えられない。天音さんは機械のようにゆっくりと、顔を俯いた。
「私を、選んでくれてありがとう。私を見つけてくれてありがとう」
天音さんは、少し寂しそうだった。そんな顔しないでくれ。僕が見たいのは、そんなんじゃない。
僕は頬に手を添えた。柔らかくて、白い肌。吸い込まれそう。天音さんは、びっくりして顔を上げた。大きな瞳がさらに大きくなっている。瞳の中いっぱいに、僕が映っていた。
「こっちこそありがとう。僕を選んでくれて。守ってくれて、恋してくれて」
天音さんは、僕の手をそっと触れた。穏やかな表情だった。足の距離が近い。腿がコツン、と当たる距離。心臓がバクバクいっている。爆発しそう。
ゴンドラはゆっくり回転し、ついに頂点に差し込んだ。夕日もやがて地平線の奥に隠れ、月が登ってくる。まだ頂点のほうでは、メラメラと燃えていた。
茜色の夕日だった。いつも見ている夕日より紅い。空気が静まりかえってて、少し気まずい空気になった。こんなに距離が近いのは、あのとき以来だ。
僕はゆっくり顔を近づけた。そのまま唇を重ねた。柔らかい。甘い。
そっと触れただけなのに、溶接したようにくっつく。このまま――ずっと、深く潜っていきたい。と思ってたけど、天音さんから、息が苦しそうな吐息が漏れた。
少し離れると、天音さんは吸えなかった空気を吸った。荒々しい息が溢れている。唇が離れると恋しい。おしゃぶりがほしい赤ちゃんみたい。顔が熱い。心臓が体が、燃えているように熱い。
天音さんは、顔を背けて腕で顔を隠した。え、そんな嫌だったの。僕もしかして嫌われたの。
「ごめ、ごめんね天音さん!」
こんな必死に言い訳しているのが、痛い。天音さんはずっと顔を背けていた。目だけはじっとこちらをうかがっている。トロンとした目尻で顔は真っ赤だった。
「不意打ち、だめ」
天音さんは、震えながら言った。
待って。この前は天音さんからしてきたじゃん。なのに、僕からしてきたらだめって、それにそんな顔されると二回戦に突入しちゃうし。
こんな密閉のところで、もうピンクの空気になっている。こんな可愛い彼女がいて、健全の男子高校生が我慢できる?
「天音さん!」
僕は、天音さんの肩を掴んだ。天音さんはそれだけでびっくりしている。その直後、ゴンドラが開いた。待ち受けていたのは、天和お姉さんだった。
「おかえりなさい」
今世紀最高の笑顔で出迎えられた。感動しない「おかえり」を言われたのは初めて。
天和お姉さんは、回覧車の中で天音に何やっていたのか、尋問されたけど言うわけがない。もちろん天音さんも言わないだろうな。僕らはその後、目線を合わすなり恥ずかしくなり顔を真っ赤にしていた。その後は、何事もなかった。
あのときのように、最後に天音さんが口づけをし、僕も口づけをした。これが世界の終止符だと知らずに。
翌朝、セットした目覚まし時計で目が覚めた。もう完全にクセになっているスマホを手に取る。朝日の光が反射して、室内が輝いている。寝起きの目には悪い光だ。目をこすって日時を確認した。
『5月1日』
大型連休明けだ。
でもなんだか違う気がする。僕は胸騒ぎがして、急いで下の階に降りた。居間に行くと、直感した。このざわざわしている心が苦しくなった。
朝食を作ってくれる母さんも、僕らを待っている父さんも、邪魔してくる愛姫の姿はない。仏壇に三つの写真が飾られていた。
本来あるべきものの光景。本来の光景であり、これが現実。あぁ、そうか戻ったんだ。本当の世界に。
ほんとに唐突だったな。愛姫にお別れも言えなかった。いや、正確には死に際に言っている。かもしれない。愛姫は今頃、あそこにいるんだろうか。あの地獄で、僕を待っているのだろうか。
僕は和也くんに会いにいった。
僕らは友達でも親友でもない。仲間だ。でも今からは友になろう。
いくつもの並行世界で、和也くんは協力してくれた。ピンチを救ってくれた。そして、そんな関係もあの事件がないと生み出されない。知り合ってもいない。交わることのなかった人間だ。
玄関を出た直後、視線がいったのはお隣のお宅。天和お姉さんはいないだろう。監視役も終わった。今は天界で天使として働いているだろう。
僕の思考通り、お宅は知らない人が住んでいた。三人家族で微笑ましい。楽しそうに笑う声が、僕の胸にちくりと刺さった。
僕は静かにそこをあとにして、和也くんがいる場所へ。この時間帯、学校だな。昼休みに話し掛けてみよう。トイレにでも隠れてもし見つかったら、もうタイムリープできないのだから。
和也くんはやっぱり最初警戒する人だから、好きなものを与えよう。
休み時間になると、和也くんがぶらぶら廊下を歩いていたところをとっ捕まえた。案の定警戒されたけど。やっぱりすぐに心を開いてくれた。今度は友になろう。その少しの一歩に、僕は変な冗談を言った。
「タイムリープて、したことある?」
「は?」
「何度も繰り返して、飽きるけど、近くに友がいるだけで助かるんだ。そうだ。お近づきにこれあげる」
「お近づきて、拉致されたけど」
和也くんに、あるモノを送った。和也くんは変な虫だと思い込んでいる。信用してくれないのは、分かっているけど、それだけは大事にしてほしい。
「和也くんの運命の人だから」
「はぁ!?」
愛姫のシュシュだ。亡くなっても、手放してなかった。ちゃんと部屋で保管していた。それを取って、和也くんに渡した。和也くんは何が分からずあんぐり状態。
「きっとそれを持っていれば、良い事あるよ」
僕はそれだけ言うと立ち去った。それと、友達を選んだほうがいいも付け加えたほうがいいかな。
それ言うと、僕もブーメランに飛んでくるから言わないでおこう。
青々とした青空。澄み切った青空が憎い。風が涼しい。夏風になってきたな。5月の風は涼しくて、でもまだほんのり冬の香りがする。夏になれば、このアスファルトだって熱くなりきっと、今より陽炎を生み出しているんだろう。
僕は絶壁の坂道を登った。歩いてても、きついのに、いくらなんでも自転車も無理だろう。一回馬鹿みたいに挑戦してみたら、滑って転んで坂道をぐるぐる回転したことある。あれは、笑ったな。
そういえば、この坂道で初めて出会ったんだっけ。天音さんに。あのときは、形見を探してたんだっけ。空を見上げた。電柱の上には、それらしきものは引っかかっていない。
天音さんは白のワンピースが似合うと思うけど、ちょうど坂道の上で僕を見下ろす女性も似合っている。細い腰に、長い黒髪、風が吹けばもう少しで見えそう。
僕は彼女を見つけて、ほっとした。両親も妹もいなくなった現実の世界では、たった一人は、耐え切れない。
僕は坂道を登った。頂上になると、風が強くなる。彼女の髪の毛も荒々しくなびいた。天音さんは、僕を待っていたようでニッコリ笑った。
「帰ろう」
「うん」
僕らを指先を重ねて、同じ道を歩んだ。僕は空を見上げた。変わらぬ空。でもその向こうには少しずつ、変わっていく世界もある。
「お姉さん元気かな」
「元気だよ。愛姫も」
愛姫の名前を聞いてびっくりした。
愛姫は地獄ではなく、天和お姉さんと同じく天界に務めている。天使として。
天和お姉さんと天音さんの要求で、愛姫を地獄ではなく天使として、生まれ変わらせてほしいと頼んだところ、あっさりOKしてくれた。
他の神様もルーズなところあるんだな。
でも、愛姫が天使として務めているなんてびっくりだ。良かったよ。
「でも愛姫はドジだからな。やらかしてばっかだろうな」
「そう聞く」
否定しないのか。我ながら想像つく。
僕らを他愛もない話を交わしながら家に帰った。あの家は、もう僕らの家になったから。
「ねぇ」
天音さんがくぃ、と袖を引っ張った。振り向くと彼女の顔は少し真っ赤になっており、目がうるうるしている。どうしたのだろう、と顔を覗くと天音さんはいきなり顔を上げた。至近距離。
「好き」
顔を真っ赤にし、照れ隠しにふっと笑った。見たことないほど幸せな笑み。可愛い。
「僕も好き」
―完―
「まだトイレにいるはず。置いてきた」
「どうして……」
言いかけて、止まった。天音さんは気づいてた。僕が隣にいなかったことを。そして、最後になってそれを叶えるためにやってきたことを。
回覧車にのって、室内は二人きりになった。向かい合って座る距離。窓から差し込む夕日の光が赤く、僕らの影が伸びている。天音さんの肌が艷やかに光っていた。あのときの光景に似ている。
屋上で、タイムリープの犯人を追いかけてついに突き止めたとき。あのときの屋上の朝日は、これに似た艶めかな光だった。
屋上の荒々しい風に、華奢な体は吹き飛ばされそうだった、そんな儚い少女が、こうして目の前にいる。あれから月日が経っているようで、実際は経っていない。何度も失敗し、繰り返し、僕らはそうやってやっと再会した。
天音さんは、絶景を眺めていた。大きな瞳に映っているのは、真っ赤に染まった町並み。静かに口を開いた。
「この世界は、ご両親もいて妹さんもいて、聖人の大事なものが詰まっている。なのに、最後、私を選んで後悔しない?」
「するわけないよ」
天音さんは、ゆっくり顔をこちらに向けた。お人形みたいな表情。微動だにしない。また静かになった。
ゴンドラが周り、いよいよ頂点に向かいそうだ。絶景もより美しく、町並みが小さくなっている。今、他のことなんて考えられない。天音さんは機械のようにゆっくりと、顔を俯いた。
「私を、選んでくれてありがとう。私を見つけてくれてありがとう」
天音さんは、少し寂しそうだった。そんな顔しないでくれ。僕が見たいのは、そんなんじゃない。
僕は頬に手を添えた。柔らかくて、白い肌。吸い込まれそう。天音さんは、びっくりして顔を上げた。大きな瞳がさらに大きくなっている。瞳の中いっぱいに、僕が映っていた。
「こっちこそありがとう。僕を選んでくれて。守ってくれて、恋してくれて」
天音さんは、僕の手をそっと触れた。穏やかな表情だった。足の距離が近い。腿がコツン、と当たる距離。心臓がバクバクいっている。爆発しそう。
ゴンドラはゆっくり回転し、ついに頂点に差し込んだ。夕日もやがて地平線の奥に隠れ、月が登ってくる。まだ頂点のほうでは、メラメラと燃えていた。
茜色の夕日だった。いつも見ている夕日より紅い。空気が静まりかえってて、少し気まずい空気になった。こんなに距離が近いのは、あのとき以来だ。
僕はゆっくり顔を近づけた。そのまま唇を重ねた。柔らかい。甘い。
そっと触れただけなのに、溶接したようにくっつく。このまま――ずっと、深く潜っていきたい。と思ってたけど、天音さんから、息が苦しそうな吐息が漏れた。
少し離れると、天音さんは吸えなかった空気を吸った。荒々しい息が溢れている。唇が離れると恋しい。おしゃぶりがほしい赤ちゃんみたい。顔が熱い。心臓が体が、燃えているように熱い。
天音さんは、顔を背けて腕で顔を隠した。え、そんな嫌だったの。僕もしかして嫌われたの。
「ごめ、ごめんね天音さん!」
こんな必死に言い訳しているのが、痛い。天音さんはずっと顔を背けていた。目だけはじっとこちらをうかがっている。トロンとした目尻で顔は真っ赤だった。
「不意打ち、だめ」
天音さんは、震えながら言った。
待って。この前は天音さんからしてきたじゃん。なのに、僕からしてきたらだめって、それにそんな顔されると二回戦に突入しちゃうし。
こんな密閉のところで、もうピンクの空気になっている。こんな可愛い彼女がいて、健全の男子高校生が我慢できる?
「天音さん!」
僕は、天音さんの肩を掴んだ。天音さんはそれだけでびっくりしている。その直後、ゴンドラが開いた。待ち受けていたのは、天和お姉さんだった。
「おかえりなさい」
今世紀最高の笑顔で出迎えられた。感動しない「おかえり」を言われたのは初めて。
天和お姉さんは、回覧車の中で天音に何やっていたのか、尋問されたけど言うわけがない。もちろん天音さんも言わないだろうな。僕らはその後、目線を合わすなり恥ずかしくなり顔を真っ赤にしていた。その後は、何事もなかった。
あのときのように、最後に天音さんが口づけをし、僕も口づけをした。これが世界の終止符だと知らずに。
翌朝、セットした目覚まし時計で目が覚めた。もう完全にクセになっているスマホを手に取る。朝日の光が反射して、室内が輝いている。寝起きの目には悪い光だ。目をこすって日時を確認した。
『5月1日』
大型連休明けだ。
でもなんだか違う気がする。僕は胸騒ぎがして、急いで下の階に降りた。居間に行くと、直感した。このざわざわしている心が苦しくなった。
朝食を作ってくれる母さんも、僕らを待っている父さんも、邪魔してくる愛姫の姿はない。仏壇に三つの写真が飾られていた。
本来あるべきものの光景。本来の光景であり、これが現実。あぁ、そうか戻ったんだ。本当の世界に。
ほんとに唐突だったな。愛姫にお別れも言えなかった。いや、正確には死に際に言っている。かもしれない。愛姫は今頃、あそこにいるんだろうか。あの地獄で、僕を待っているのだろうか。
僕は和也くんに会いにいった。
僕らは友達でも親友でもない。仲間だ。でも今からは友になろう。
いくつもの並行世界で、和也くんは協力してくれた。ピンチを救ってくれた。そして、そんな関係もあの事件がないと生み出されない。知り合ってもいない。交わることのなかった人間だ。
玄関を出た直後、視線がいったのはお隣のお宅。天和お姉さんはいないだろう。監視役も終わった。今は天界で天使として働いているだろう。
僕の思考通り、お宅は知らない人が住んでいた。三人家族で微笑ましい。楽しそうに笑う声が、僕の胸にちくりと刺さった。
僕は静かにそこをあとにして、和也くんがいる場所へ。この時間帯、学校だな。昼休みに話し掛けてみよう。トイレにでも隠れてもし見つかったら、もうタイムリープできないのだから。
和也くんはやっぱり最初警戒する人だから、好きなものを与えよう。
休み時間になると、和也くんがぶらぶら廊下を歩いていたところをとっ捕まえた。案の定警戒されたけど。やっぱりすぐに心を開いてくれた。今度は友になろう。その少しの一歩に、僕は変な冗談を言った。
「タイムリープて、したことある?」
「は?」
「何度も繰り返して、飽きるけど、近くに友がいるだけで助かるんだ。そうだ。お近づきにこれあげる」
「お近づきて、拉致されたけど」
和也くんに、あるモノを送った。和也くんは変な虫だと思い込んでいる。信用してくれないのは、分かっているけど、それだけは大事にしてほしい。
「和也くんの運命の人だから」
「はぁ!?」
愛姫のシュシュだ。亡くなっても、手放してなかった。ちゃんと部屋で保管していた。それを取って、和也くんに渡した。和也くんは何が分からずあんぐり状態。
「きっとそれを持っていれば、良い事あるよ」
僕はそれだけ言うと立ち去った。それと、友達を選んだほうがいいも付け加えたほうがいいかな。
それ言うと、僕もブーメランに飛んでくるから言わないでおこう。
青々とした青空。澄み切った青空が憎い。風が涼しい。夏風になってきたな。5月の風は涼しくて、でもまだほんのり冬の香りがする。夏になれば、このアスファルトだって熱くなりきっと、今より陽炎を生み出しているんだろう。
僕は絶壁の坂道を登った。歩いてても、きついのに、いくらなんでも自転車も無理だろう。一回馬鹿みたいに挑戦してみたら、滑って転んで坂道をぐるぐる回転したことある。あれは、笑ったな。
そういえば、この坂道で初めて出会ったんだっけ。天音さんに。あのときは、形見を探してたんだっけ。空を見上げた。電柱の上には、それらしきものは引っかかっていない。
天音さんは白のワンピースが似合うと思うけど、ちょうど坂道の上で僕を見下ろす女性も似合っている。細い腰に、長い黒髪、風が吹けばもう少しで見えそう。
僕は彼女を見つけて、ほっとした。両親も妹もいなくなった現実の世界では、たった一人は、耐え切れない。
僕は坂道を登った。頂上になると、風が強くなる。彼女の髪の毛も荒々しくなびいた。天音さんは、僕を待っていたようでニッコリ笑った。
「帰ろう」
「うん」
僕らを指先を重ねて、同じ道を歩んだ。僕は空を見上げた。変わらぬ空。でもその向こうには少しずつ、変わっていく世界もある。
「お姉さん元気かな」
「元気だよ。愛姫も」
愛姫の名前を聞いてびっくりした。
愛姫は地獄ではなく、天和お姉さんと同じく天界に務めている。天使として。
天和お姉さんと天音さんの要求で、愛姫を地獄ではなく天使として、生まれ変わらせてほしいと頼んだところ、あっさりOKしてくれた。
他の神様もルーズなところあるんだな。
でも、愛姫が天使として務めているなんてびっくりだ。良かったよ。
「でも愛姫はドジだからな。やらかしてばっかだろうな」
「そう聞く」
否定しないのか。我ながら想像つく。
僕らを他愛もない話を交わしながら家に帰った。あの家は、もう僕らの家になったから。
「ねぇ」
天音さんがくぃ、と袖を引っ張った。振り向くと彼女の顔は少し真っ赤になっており、目がうるうるしている。どうしたのだろう、と顔を覗くと天音さんはいきなり顔を上げた。至近距離。
「好き」
顔を真っ赤にし、照れ隠しにふっと笑った。見たことないほど幸せな笑み。可愛い。
「僕も好き」
―完―
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