天使が恋を知ったとき

ハコニワ

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二章 白崎聖人の世界 

第27話 堕天

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 炎の中で再会した僕ら。
 そして、姉妹の感動の再会。
 天音さんが目の前にいる、手が届く場所にいる。これだけで感慨深い。

 火元は何だったのか、警察が調査している。これも、神様からの挑戦状なのだろうか。そう考えなくてはならない。この世界はあくまで僕が望む世界だとしても、神様は指先一つで操作しに来るはず。それが、今回。

 でも、神様に感謝したい。天音さんに出会えたんだから。天音さんが僕の手を握った。
「ようやく見つけにきてくれた」
「長くかかったよ」
「知っている」
 天音さんは、全部を見越したように言った。
 握られた手を握り返した。指先が絡みあい、温度と鼓動が伝わってくる。決して嘘ではない本物の。

 天音さんは、ほんとに人間として生まれ変わった。姿形は、前の天音さんだ。特に変わりはない。ほんとに人間になったのか容姿的には見分けつかないが、体温と鼓動は、間違いなく人間だ。

 漆黒の瞳と目が合う。
「何処か、変わったところある?」
 その瞳を見続ければ、吸い込まれていきそう。吸い込まれた先には、宇宙がある。宇宙のような果てしない漆黒。
「体温と鼓動」
 天音さんはコテン、と首をかしげた。
「体温測ったことあった?」
 まずい。夢の中で、なんて言ったら流石に気味悪がれるな。怪我したときに触ったとき、と咄嗟についた。 
「そうだ。これ返すよ」
 僕は腕に巻いていたバンダナを天音さんに返した。天音さんは、バンダナをじっと見つめた。天音さんは、そのバンダナを受け取らなかった。
「もう、必要ないから。もう、誰かの跡もない。それは、聖人が持ってて。大事に持っててありがとう」
 天音さんは、首をさすって優しく言った。
 天音さんはまた、僕の手首にバンダナを巻く。今度はしっかりと結んだ。

 僕らがやっと再会して、天和お姉さんは号泣。僕らの仲を引き裂くかと思いきや、そうでもなく、天音さんのしたいようにやらせてる。

 そんな感動的な再会のときに、あいつが現れた。天音さんたちの敬うべきであり、僕のライバル、神様が。

『これは真なり。運命のように出会えたと。見えない絆でもあるのかのぉ』
 いきなり、天井から声がして和也くんも愛姫もびっくり。関係のない二人にも聞こえているのか。

 声を聞いた瞬間、天音さんと天和お姉さん二人の顔色が真っ青になった。天和お姉さんはすぐに膝をついた。天音さんは、僕の後ろに隠れる。

『白崎聖人少年、天音をとうとう見つけたと。何度も時間飛躍し、辿り着いた結果がこれと……天音も、人間らしくなった。なんて滑稽な。天和よ。何をしていた。ワシはコヤツが天音と巡らないように監視をしろ、と言っておったのに……しかも、この頃の監視の勤めが甘い。役にも立たんな』

 姿を見なくてもわかる。こいつが今、ゴミを見るような眼差しだと。この重い空気、体が軋みそうだ。
 天和お姉さんがビクビク震えている。背中で隠れている天音さんも、耳を抑えて震えている。神様がどんなに偉くて立派なのは知っている。

 でも、この二人をこんなに震えさせて何が神様だ。天和お姉さんを侮辱して、立派なもんか。
「神様、天音さんも天和お姉さんも立派です。いっぱい血を垂らして、挫折を味わって、涙を流して、そんな二人を侮辱しないで頂きたい」  
 二人は目を見開いて、僕を見上げた。分かっているよ。神様にまた、挑発してる。でも抑えきれなかったんだ。二人の怯えている姿、見たくない。

 天井から声がするだけで、一向に顔を出さない。そんな偉い人に、苦労という二文字が分かるわけがない。天和お姉さんが天音の居所を知っていれば、僕を撹乱させた。天和お姉さんに何も伝えないで送った神様が悪いんじゃん。

『少年は、ソレさえも守るのか』 

 嘲笑った声だ。
 いつか言ってた、天使は神様の所有物。それだけで、それ以外はない。天使も生きている。体温と鼓動はないけど、それでも、喋ることだって動くことだって出来る。決して、物なんかじゃない。

 ソレ、呼ばわりする神様に怒りを覚えた。天音さんがそれに気づいて、服にしがみついた。「これ以上喧嘩はだめ」と言っている。頭に血が登ってて冷静な判断が掴めなかった。神様にまた、果たし所を送りつけると神様はやけになって、もっと複雑な世界に送りつける。

 そうなれば、また天音さんを探すことも困難になる。そうならないために、もう喧嘩は売らないでと、天音さんが言った。

『天和よ、いや144番目の天使よ、神の命令に背いた罰により、堕天』

 突然、お姉さんが叫びだした。断末魔を切ったような甲高い声。普段は閉じてて目に見られない白い翼が、ゴキゴキとあらぬ方向に行き、もがれていく。

 翼の羽が雪のように舞った。断末魔の叫び声が、大空に響き渡る。お姉さんは、地べたを這いずり回り苦しんでいる。その痛みを一番に分かっている天音さんがお姉さんを庇うようにして、前にたった。
「やめて。天使にとって、翼は命。心臓なの」

『人間になった貴様に、何ができる。無力で非力で何もできない貴様に、主の前で歯向かう気か!?』

「私はもう人間。もうあなたの所有物でも何でもない。人間だからて、甘くみないで」
 天音さんはお姉さんに抱きつくと、這いずり回り苦しんでいた天和お姉さんが、静かになった。

 すぅすぅと寝息をたてている。一体何をしたのか。人間になった天音さんには、天使としての力はない。それなのに、お姉さんを落ち着かせた。もげた羽がしゅん、と地べたに落ちた。

 一体何がどうなったのか人間の僕には分からない。そもそも、天音さんも人間なのに。愛姫たちも何がどうなったのか、そもそも一体全体がどうなっているのか分かっていない様子。

 寝息をたてる天和お姉さんを膝枕して、もげた翼を、優しく撫でた。
「姉さん、もう大丈夫だよ」
 翼を優しく撫でた天音さんは、耳元に言い聞かせた。

『何をした! 貴様は人間だろう!? まさか、天使の力を所持したまま転生したと!?』

 神様の声がわなわな震えている。
 神様の怒りを同調するかのように、大地が震えて、森の中にいた烏たちがバタバタと羽ばたいた。

 それで天音さんは凛としていた。漆黒の瞳がギラリと光っていた。
「そんなの、持っていない。ただ、暗示しただけ」
 大地がさらに揺れている。照明がバチバチと火花を散ってぶつん、と落ちた。日本中、世界中が暗黒の世界に包まれた。月の光だけが妖しく光っている。

 照明が落ちただけじゃない。病院の前に大きな竜巻が発生した。竜巻が起きる現象はなかった。空は分厚くドス黒い色。風は冷たく、体ごと外に吹き飛ばされそうな勢いの風。曇天の空から地上のほうに大きな渦が巻いている。まるで、世界の終わりを見ているみたいだ。終焉が近くにある。これが、神を怒らせた結末か。

「お兄ちゃん! これ何!?」
 ベットの脚にしがみついて愛姫が叫んだ。強風により、重たいベットでも窓際に近づいてきている。窓の外に吸い込まれそうだ。愛姫の小さい体じゃ、簡単に吹き飛ばされる。
「愛姫! 捕まれ!」
 僕も柱にしがみついて、愛姫に手を伸ばした。
 
 途端、窓ガラスが全部割れ、さらに風の力が強まった。愛姫の体がふわりと浮き、外に投げ出される前に、僕は掴んだ。でもこの強さじゃ、引き上げれない。和也くんも協力して、愛姫を引き上げた。

 でも、天和お姉さんと天音さんたちが危ない。天和お姉さんの体が浮き、吸い込まれていく。天音さんが天和お姉さんの体をつかむけど、風の力に敵わなくて、窓の外に投げ出された。
「天音さん!」
 僕は二人のあとを追うようにして、外に身を投げた。二人は曇天の雲に吸い込まれて、姿はない。息ができない。体が千切れそうな強い風。天音さんたちを追っても、合流できるかどうか分からない。

 体がぐるんぐるんと、回って意識が飛びそうだ。息もできないし、苦しい。砂が顔に当たって、野球ボールを当たっているみたいだ。

 目の前に突然家具が降ってきた。避けるまでもなく、あ、と思った瞬間に顔面に直撃。あぁ――ここまでか――。

 僕は意識を失った。体がどこに向かっていくのか、自分自身でも分からない。

 家具を顔面に直撃して、死亡とか、ひどい死に方だ。また、4月28日に戻るのか。せっかく天音さんと出会えたのに。こんなところで死んでたまるか。やっと繋がった手を、僕が放すわけない。

 僕は遠のいた意識を覚醒させた。はっと目覚めると、目いっぱいに天音さんと天和お姉さんの顔が。
 僕は跳ね起きた。絶世なる美女が目と鼻の先にあったら、そりゃ意識も思考もはっきりする。
「やっと起きましたか」
「鼻、大丈夫?」
 僕は鼻に手を当てると、じんと痛みがかけめぐった。刺されたときより痛い。鼻曲がっているかも。みると、鼻血が出ていた。真っ赤な血がほとばしる。
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