天使が恋を知ったとき

ハコニワ

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二章 白崎聖人の世界 

第19話 夢から

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 これは夢だ。そう思っていても、夢から覚めたくなかった。二人きりでいることが、何よりこんなに幸せなんて。砂糖みたいに甘い空気。溶けていく時間。
 ロッカーの中が熱い。熱くて咽そう。けど、お互い回した腕は離さなかった。


§


 セットした目覚まし時計で目が覚めた。なんだか、心地いい夢を見てたような。異常にケタマしく鳴る目覚まし時計をすぐさま止めた。上体を起こす。ずっと寝ていたからなのか、体が重い。
 すると、気配を感じた。室内に誰かがいる。振り向くと天和お姉さんが椅子に座っていた。勉強机の椅子に。もはやあそこが定位置みたい。

「やっと起きましたか」
 呆れた感じで言った。
 僕は感心したよ。僕が何らかの理由で戻ると天和お姉さんがいる。必ず白いパンティを見せている。あきもせずに、僕の寝起きに必ずいるとは。寝ているときにヨダレ垂れてたら恥ずかしいな。

 そんなことつゆ知らず、天和お姉さんは、足を組んだ。相変わらず、分かっているのかわかっていないのか、僕にみせつけてくる。
「どうでしたか? 心地いい夢を見たでしょう?」
「夢……?」
 あれは、夢だったのか。天音さんと再会して、ゲームセンターで遊んで、そしてお互い抱き合って、あれが夢だったなんて。まだ、手のひらに温もりがある。

 ロッカーの息苦しさや暑さが今でも思い返せる。この温度がまだ胸に残っている。現実的に言えば、確かにあれは夢だ。天音さんがいるわけないし、5月1日に僕が呑気に学校にいるわけない。全部否定したくない。確かにまだ、手の中に温もりがある。
 天音さんが言ってくれた言葉も覚えている。夢の中だというのに、妙に現実味のような言葉だった。

「あの夢は、わたくしがみせました。その人の安心する夢をみせるのも、天使の力。あなたにとって、心地いい夢を見たでしょう?」 
 自慢げに笑ったお姉さん。
 天音の夢を見たことは知らない様子。僕が見た夢の中に干渉はできない。僕にとって、安心する人物は、天音さんだった。 

 天音さんと過ごした放課後が、一番安心していたのかもしれない。それにしても、天和お姉さんが僕に〝心地いい夢〟を見せてくれるなんて、まさか、僕のことを心配してくれてるのか。
 と、思いきやただの気まぐれと察した。お姉さんが僕を心配するはずないよな。だって、見てたはずなのに助けなかったのだから。
「ところで、どうするんです? また戻りましたよ?」
 日時を確認すれば、4月28日。寝ているときに死んだのか、もしくは、僕が強く戻りたい、と願ったからなのかすぐに戻った。さて、問題なのはここからだ。

 前回と同じように、5月1日のために仲間を集め下準備する。これが単純でいって、簡単じゃない。まず、愛姫を仲間にするのは辞めとこう。ほんとに。

 あれが繰り返されると思ったら、僕が死ぬと同じくらい絶対に阻止しないと。さて、難しいのが和也くんだ。和也くんを仲間に引き入れたのは、ほんの偶然かもしれない。あれは、掃除用具に入っていた僕を、最初に見つけたのが、和也くんだった。あれが他の人だったらバット。 

 危険を犯しても、仲間にひきつける。和也くんは重要だ。制服に着替え、朝食を食べて、朝っぱから学校をサボった。前回のように、また学校に忍びこむ。

 まだ朝早いのに、全部の窓が光っている。こりゃ、教師も大変だな。ほんとにあいつら、ここでおとなしくしているのか、甚だ疑問だ。

 テニス部のフェンスを登り、中に侵入。杜撰なところがあって、ほんとに良かった。学校に侵入し、早速例のトイレ用具室に入った。今更ながら、躊躇なく自分から危険な場所にいることに気づいた。

 死ぬのは怖い。刺されると凄い痛いし、それで死ぬのはゴメンだ。それでも躊躇なく危険なことしているな。これも、多分夢のせいだと思う。

 何かを抱えてても、天音さんがいる。一人じゃない。僕のことを理解してくれてる天音さんがいる。この世界でタイムリープを知っているお姉さんがいる。僕は抱えることはない。
 それだけで、体が軽くなる。
 なんだって、できる。そんな気がする。

 鐘がなりそれと同時にして、彼らがやってきた。また煙草を吸っている。未成年なのに。これも罪に囚われるのだろうか。高校生にしては、べビースモーカーじゃないか。箱まるごとこの時間で吸い終わった。

 和也くんはどこにいる。片目をギリギリ覗く隙間から覗いた。彼は、彼らと離れた場所に立っていた。監視役みたいな立ち位置だな。ここから声は届くだろうか。届かずとも、物音たてば必ず誰かがやってくる。

 それが敵か味方か、に限られる。よし、一か八か内側からノックをした。彼らは誰かがいると判断して、煙草を吸うのをやめた。異常に空気がひんやり。冷たい空気だ。なんとも既視感ある光景。

 ギイと重たい扉が開いた。外から覗いてきたのは、和也くんだった。深淵を覗くように、恐る恐る不気味な表情で。真っ暗な狭いところでいたせいで、日焼けした肌が黒くみえる。

 和也くんは僕を見ると、少しびっくりしていた。化物でも見るように固まっていた。しばらくして、静かに戸を閉めた。和也くんは、何もいないと言ってくれた。やっぱりどのルートでも優しい人なんだな。でも、だからって愛姫は渡さないぞ。

 彼らが出ていき、和也くんが一人になったのを見計らって、僕は話しかけた。
「和也くん!」
 最初はびっくりされて、何度も無視されたけど、ほっておけない性格なのか構ってくれた。 
「なんで俺の名前知っている。それに、誰だお前は、どうしてここにいる?」 
 質問ばかりだな。そりゃそうだ。奴らもいない、僕は中から出た。和也くんは不審者みたいな眼差しを向けて来る。最初はそうだったから、もうこの際どうでもいい。

 直球に仲間になってくれ、とお願いした。当然気味悪がって遠ざかれた。まぁ、これでうまくいくとは思わなかったし、放課後を待とう。その放課後。

「性懲りもなく現れやがって、ストーカーか!」
 と和也くんに警戒された。帰り道。和也くんが一人になったのを見計らって。あれから僕はここで和也くんが通るのを待っていた。確かにストーカーかも。
 ストーカーじゃなくて、仲間なんだけどね。僕は包み隠さず、和也くんに全てを言った。タイムリープを繰り返して、5月1日に死ぬのを防ぐこと。タイムリープで和也くんも仲間だったこと、死ぬ確率が大きい朝霧を守ること。

 和也くんは最初、半信半疑だった。でも信じてくれるしかない。これが、本当のことだから。和也くんはしぶしぶ諦めたように、僕を信じてくれた。

 前の世界と同じように、奴らの行動をラインで報告することを約束してくれた。ちなみに、作戦会議は、僕の家ではやらない。ラインをせっかく交換したんだし、それでやることに。家にいたら、愛姫と接触するからな。

 愛姫の運命の人との出会いを兄ちゃんが阻止した。悪く思うなよ。和也くんを半ば強制的に協力者として引き入れたのを見て、天和お姉さんが感心したように「精が出ますねぇ」と言った。

 5月1日にむけて、僕らは準備をした。強姦罪の奴らを抑えるのが和也くんと僕で、朝霧の自さつを止めるのが天和お姉さん。今回は手伝ってくれるようだ。

 家族と夕食を食べているときも、家に帰ったあともずっと、和也くんとラインでずっとやり取りをしていた。

 4月30日。明日に作戦決行を待ち構えたその日。ラインでずっと作戦についてやり取りしていた。仲間に引き入れてから、三日も経つと、流石に警戒心がなくなり、今や友情関係だ。スマホに夢中になっているとき、影が忍び寄ってきた。
 スマホの液晶画面に人影が映り、気配にやっと気づく。
「うわっ! なんだ……愛姫か」
 振り向くと、愛姫がぶっきらぼうな面で立っていた。僕のスマホをじっと見下ろしている。
「どうした?」
「どうした? じゃないよお兄! さっきからずっとずっとスマホで、愛姫に構ってくれない! 彼女できたの? 愛姫より可愛い女できたの!?」
 夜中なのに、ぎゃんぎゃん喚いた。子供みたいに。実際子供なんだけども。確かにこの3日、愛姫に構ってない。でもこれは、全て理由があるんだ。事情は言えないけど。

 握っていたスマホを愛姫に奪われた。猫のように反射神経だったから、最初奪われたことに気が付かなかった。
 愛姫は僕のスマホを奪うと、夫の浮気を疑うような眼差しで、ラインのやり取りしている相手を探る。

 一人めは幼馴染の天和お姉さんで、二人めは和也くん。和也くんのアイコンは飼っている猫だ。

 愛姫は暫く、黙ってスマホを見下ろしてた。僕はそのスキを狙って、スマホを奪い返した。愛姫は全身プルプルしている。さらに癇癪したのだろうか。
「……お兄、なんで黙ってたの!?」
 そう言った愛姫は、乙女の顔していた。
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