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二章 白崎聖人の世界
第16話 作戦決行
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5月1日
この日がやってきた。この日も授業そっちのけで昼間から、準備していた。愛姫も授業そっちのけで参加したけど、愛姫は来年受験生だ。
授業には嫌でも参加してもらう。強制的に学校に行かせた。
和也くんとSNSを交換して、ラインをしている。今奴らがどんな状況か、どこにいるかを知らせてくれる。
僕は今夜、空き巣に入られる家に向かった。家主はいない。いつまでも仲良しな老夫婦。旅行中だ。
そんなのは知っている。さて、その老夫婦のお宅に空き巣が入るのを防ぐために動いているけど、まだピースが足りない。
何かが足りないきがする。一応公園に監視カメラを置いた。
すると、ポケットに入れてたスマホがなった。和也くんからかな。スマホを取って、確認すると違った。悠介からラインが届けられていた。こんなときに何のようだ。
【今日も学校休みか? ほんとに見舞い来なくても平気か? 可愛い彼女連れてきてやるからよ!】
明かくて陽気な悠介なりの励ましのメッセージだった。僕が学校を休んでるから、悠介は心配している。サボっているてことは口が裂けても言えないな。
悠介にはこれ以上心配されないように、僕も明るめにメッセージを返した。
【大丈夫だよ。悠介の彼女は見たいけど、風邪が写るから、今度ね】
送信、と。これでよし。
送信ボタンを押したあと、ふと気づいたことがある。これはタイムリープ。僕が望む世界であっても、僕が前の世界で体験した5月1日と変わらないはず。
5月1日のこの時間帯、悠介からこんなメッセージは届かなかった。理由は簡単だ。
彼らはもう、道化師じゃなくなったから。天音さんによって、人もコントロールしていた世界じゃない。ならば、僕らがやっていることは必要ないんじゃないのか。
5月1日に空き巣に入る。誰か一人が犠牲に遭う。これは何度やっても必ずだった。世界の絶対的ルール。5月1日、どうしてこの日に彼らの抑制していた感情が爆発されたのか、ずっと謎だった。
急いで和也くんに連絡した。犯人グループに何かおかしな点はないか、挙動不審なことはないか、和也くんは今、授業中で出られなかった。
そういえば、和也くんと彼らは同じクラスじゃない。行動を見張るにも、限界がある。ならば、天使の天和お姉さんなら見れる範囲が大きいはず。
今彼女はいない。僕の監視役と言ってもずっとそばにはいなかったときがあった。彼女は今、和也くんと同じ学校にいる。
天使なのに、羽もなくなって人間に擬態するしかなくなったお姉さんは、人間の記憶をいじって、その学校の優秀生徒として中に潜んでいる。
お姉さんとは連絡とりあっていない。近くにいたし、必要ないかと。仇になったな。
この前、彼らの家を探索した時、この公園の近くじゃなかった。ただ一人除いて。高身長のナイフ男の家がここから、約二百キロ範囲内にいる。
とりわけ近い人間がそいつ。
二百キロも離れた場所で、しかも、そこに誰が住んでいるのか、知る由もない。けど、そこが老夫婦でこの日は誰もいない、て予め知ってたら、知ってたから空き巣に入った。
彼らは明確にこの家を狙った。それが分かった。まだまだ疑問が湧くばかりだ。すると、スマホがまた鳴った。和也くんからだ。
【授業後、あいつら興奮してた。新任の教師があいつらを叱ったて噂。その教師、お前ん家の近くらしいぞ】
そういえば、老夫婦の息子さんが教師になったて近所で噂していた。そうか。分かった。あいつらは、叱られた腹いせに先生の実家を襲ったんだ。
空き巣だと分かってても、先生の嫌がることをしたかった。
興奮してたから、あいつら、やる気満々だったんだな。理由が分かった。あとは、夜を待つだけだ。
日が暮れ始め、辺りが真っ赤な果実のように染まった。建物は茜色に染まり、黒い影は遠くまで伸びていく。街頭がパチパチとつき始めた。きっと、もっと暗くなるのは予想より速い。
僕は公園で老夫婦の家を監視していた。来たのは配達か郵便だけ。まだ奴らは現れない。
「ねぇねぇまだなの?」
愛姫が欠伸をかいた。
公園で待ち伏せしているのは、僕だけじゃない。何故か愛姫もいる。確かに昨日は協力してくれる流れだったけど、いざ現場の前だと愛姫は危険すぎる。
「眠いなら帰っていいんだぞ」
「やだ! いる!」
愛姫は子供みたちにムスッとした表情で、大仏みたいにそこを動かない。こうなったら、いくら説得しても動かないんだよな。
やれやれとため息ついた。
愛姫は協力するよりも、和也くん狙いだ。さっきから「和也くんは?」と待ち焦がれている。狙いの和也くんはまだ、学校だ。
ここは危険すぎるし、愛姫はそろそろ薬を飲まないと。さっきから元気そうに笑っているけど、兄ちゃんの目は誤魔化せない。
さっきから、苦しそうに息をしている。走ったわけでもないのに、汗が尋常じゃなく出てる。顔が少し青白い。
「昼の薬飲んだか?」
「飲んだよ」
「夕食後の薬は?」
「ご飯食べてないんだから、飲んでないし!」
愛姫は苛ついた態度に豹変。
持病を持っている愛姫は、いつも欠かさず朝、昼、夕食後、寝る前と四回薬を飲まないといけない。たとえ、夕食を食べていなくても毎日の習慣で体内が薬が欲しいと訴えている。
愛姫は学校を終え、そのままこちらに向かった。薬は家に置いてある。僕は家に帰って薬を飲んでこい、と言った。でも愛姫は家に帰れと解釈し、さらに怒った。
面倒くさいなぁ。でも、怒られてもなんぼだ。愛姫がまた、この世からいなくなるのは嫌だ。しつこく薬を飲めと強要した。
愛姫は知らんぷりしてたが、ついに根を曲げ、しぶしぶ帰っていった。よし。これで愛姫だけは安全だな。
図ったようにして、和也くんからメッセージが届いてきた。奴らが学校を出たと。作戦決行だ。奴らが来るまでに僕は老夫婦の家の前で待機。
さっきからすごい緊張している。全身が震えてる。そりゃそうだ。思い返せば、奴らに殺された回数が多い。事故も多いけど。殺された現場に再び足を踏み入れるのは、怖かった。空気が異常にひんやりしてて、本能に「行きたくない」とサインを送っている。
何度も大丈夫だ、と自分を鼓舞しながら時間が過ぎ去っていく。やがて、奴らがもうそこまで現れた。奴らはやっぱりあのかっこうをしていた。あのフードは、自前なのかお揃いの黒のフードをかぶっている。和也くんが誰なのかも認識できない。
一番注意するべきナイフ男が誰なのか、曖昧だった。何度も自分を鼓舞しながら、緊張を解けてきた。やる。やってやる。僕はできる。
スマホのバイブ音をオフにしていたせいで、和也くんからのメッセージに気づかなかった。彼らが、全員ナイフを持っていることを僕は後に知ることになる。
人気のいなくなった場所。街頭はあるけど、明かりが足りない深い闇。その闇を見ていると吸い込まれそうだ。遠くから、彼らがやってくるのが分かった。公園に設置した防犯カメラのギリギリライン。
映っているなら大丈夫だ。
「君たち、叱られた腹いせに先生の実家を狙うなんて、卑怯だよ」
奴らの足取りがピタリと止まった。
遠くからでも分かる彼らの気配は、殺気みたいな冷たいものが流れてた。殺人衝動、みたいだな。
「叱られたからって、こんなことはいけない」
僕は話を続けた。遠くからキラリと光るものを見えた。月明かりが照らしたものは、それが鋭利な刃物だと分かった瞬間、それは近づいてきていた。
刃物を握って向かってきた。
やはり、何度言っても無理か。僕が避ける前に、和也くんが阻止してくれた。和也くんは後ろからその人物を羽交い締め。みんなお揃いのフードを被っているせいで、誰なのか分からなかったけど、和也くんだね。
「ありがと、和也くん」
「逃げろ! こいつら、全員ナイフ持ってる!」
え。
背中に鋭い痛みが走った。横腹が猛烈に痛い。恐る恐る下を覗いた。赤い血がほとばしる。足元にも赤黒い血が滴り落ちていた。
なんだこれ。
一体どうなって。
恐る恐る振り向くと、背後から別の少年がいた。目と鼻の先。ナイフが刺していた。
視界が横転した。天と地が逆だ。喉の奥から温かいものが吐き出しそう。刺された、また。くそ。人をサンドバッグに何度も刺しやがって。
横腹を刺されたのに、腹の底から自分じゃない唸り声を上げる。刺された箇所から全身に痛みがじわじわ広がっていく。自分で手首を斬ったときより、数倍痛い。
熱い。目頭も熱くなっている。
視界は涙いっぱいで、今どうなっているか分からない。ただ、和也くんが必死に止めている声が聞こえる。
この日がやってきた。この日も授業そっちのけで昼間から、準備していた。愛姫も授業そっちのけで参加したけど、愛姫は来年受験生だ。
授業には嫌でも参加してもらう。強制的に学校に行かせた。
和也くんとSNSを交換して、ラインをしている。今奴らがどんな状況か、どこにいるかを知らせてくれる。
僕は今夜、空き巣に入られる家に向かった。家主はいない。いつまでも仲良しな老夫婦。旅行中だ。
そんなのは知っている。さて、その老夫婦のお宅に空き巣が入るのを防ぐために動いているけど、まだピースが足りない。
何かが足りないきがする。一応公園に監視カメラを置いた。
すると、ポケットに入れてたスマホがなった。和也くんからかな。スマホを取って、確認すると違った。悠介からラインが届けられていた。こんなときに何のようだ。
【今日も学校休みか? ほんとに見舞い来なくても平気か? 可愛い彼女連れてきてやるからよ!】
明かくて陽気な悠介なりの励ましのメッセージだった。僕が学校を休んでるから、悠介は心配している。サボっているてことは口が裂けても言えないな。
悠介にはこれ以上心配されないように、僕も明るめにメッセージを返した。
【大丈夫だよ。悠介の彼女は見たいけど、風邪が写るから、今度ね】
送信、と。これでよし。
送信ボタンを押したあと、ふと気づいたことがある。これはタイムリープ。僕が望む世界であっても、僕が前の世界で体験した5月1日と変わらないはず。
5月1日のこの時間帯、悠介からこんなメッセージは届かなかった。理由は簡単だ。
彼らはもう、道化師じゃなくなったから。天音さんによって、人もコントロールしていた世界じゃない。ならば、僕らがやっていることは必要ないんじゃないのか。
5月1日に空き巣に入る。誰か一人が犠牲に遭う。これは何度やっても必ずだった。世界の絶対的ルール。5月1日、どうしてこの日に彼らの抑制していた感情が爆発されたのか、ずっと謎だった。
急いで和也くんに連絡した。犯人グループに何かおかしな点はないか、挙動不審なことはないか、和也くんは今、授業中で出られなかった。
そういえば、和也くんと彼らは同じクラスじゃない。行動を見張るにも、限界がある。ならば、天使の天和お姉さんなら見れる範囲が大きいはず。
今彼女はいない。僕の監視役と言ってもずっとそばにはいなかったときがあった。彼女は今、和也くんと同じ学校にいる。
天使なのに、羽もなくなって人間に擬態するしかなくなったお姉さんは、人間の記憶をいじって、その学校の優秀生徒として中に潜んでいる。
お姉さんとは連絡とりあっていない。近くにいたし、必要ないかと。仇になったな。
この前、彼らの家を探索した時、この公園の近くじゃなかった。ただ一人除いて。高身長のナイフ男の家がここから、約二百キロ範囲内にいる。
とりわけ近い人間がそいつ。
二百キロも離れた場所で、しかも、そこに誰が住んでいるのか、知る由もない。けど、そこが老夫婦でこの日は誰もいない、て予め知ってたら、知ってたから空き巣に入った。
彼らは明確にこの家を狙った。それが分かった。まだまだ疑問が湧くばかりだ。すると、スマホがまた鳴った。和也くんからだ。
【授業後、あいつら興奮してた。新任の教師があいつらを叱ったて噂。その教師、お前ん家の近くらしいぞ】
そういえば、老夫婦の息子さんが教師になったて近所で噂していた。そうか。分かった。あいつらは、叱られた腹いせに先生の実家を襲ったんだ。
空き巣だと分かってても、先生の嫌がることをしたかった。
興奮してたから、あいつら、やる気満々だったんだな。理由が分かった。あとは、夜を待つだけだ。
日が暮れ始め、辺りが真っ赤な果実のように染まった。建物は茜色に染まり、黒い影は遠くまで伸びていく。街頭がパチパチとつき始めた。きっと、もっと暗くなるのは予想より速い。
僕は公園で老夫婦の家を監視していた。来たのは配達か郵便だけ。まだ奴らは現れない。
「ねぇねぇまだなの?」
愛姫が欠伸をかいた。
公園で待ち伏せしているのは、僕だけじゃない。何故か愛姫もいる。確かに昨日は協力してくれる流れだったけど、いざ現場の前だと愛姫は危険すぎる。
「眠いなら帰っていいんだぞ」
「やだ! いる!」
愛姫は子供みたちにムスッとした表情で、大仏みたいにそこを動かない。こうなったら、いくら説得しても動かないんだよな。
やれやれとため息ついた。
愛姫は協力するよりも、和也くん狙いだ。さっきから「和也くんは?」と待ち焦がれている。狙いの和也くんはまだ、学校だ。
ここは危険すぎるし、愛姫はそろそろ薬を飲まないと。さっきから元気そうに笑っているけど、兄ちゃんの目は誤魔化せない。
さっきから、苦しそうに息をしている。走ったわけでもないのに、汗が尋常じゃなく出てる。顔が少し青白い。
「昼の薬飲んだか?」
「飲んだよ」
「夕食後の薬は?」
「ご飯食べてないんだから、飲んでないし!」
愛姫は苛ついた態度に豹変。
持病を持っている愛姫は、いつも欠かさず朝、昼、夕食後、寝る前と四回薬を飲まないといけない。たとえ、夕食を食べていなくても毎日の習慣で体内が薬が欲しいと訴えている。
愛姫は学校を終え、そのままこちらに向かった。薬は家に置いてある。僕は家に帰って薬を飲んでこい、と言った。でも愛姫は家に帰れと解釈し、さらに怒った。
面倒くさいなぁ。でも、怒られてもなんぼだ。愛姫がまた、この世からいなくなるのは嫌だ。しつこく薬を飲めと強要した。
愛姫は知らんぷりしてたが、ついに根を曲げ、しぶしぶ帰っていった。よし。これで愛姫だけは安全だな。
図ったようにして、和也くんからメッセージが届いてきた。奴らが学校を出たと。作戦決行だ。奴らが来るまでに僕は老夫婦の家の前で待機。
さっきからすごい緊張している。全身が震えてる。そりゃそうだ。思い返せば、奴らに殺された回数が多い。事故も多いけど。殺された現場に再び足を踏み入れるのは、怖かった。空気が異常にひんやりしてて、本能に「行きたくない」とサインを送っている。
何度も大丈夫だ、と自分を鼓舞しながら時間が過ぎ去っていく。やがて、奴らがもうそこまで現れた。奴らはやっぱりあのかっこうをしていた。あのフードは、自前なのかお揃いの黒のフードをかぶっている。和也くんが誰なのかも認識できない。
一番注意するべきナイフ男が誰なのか、曖昧だった。何度も自分を鼓舞しながら、緊張を解けてきた。やる。やってやる。僕はできる。
スマホのバイブ音をオフにしていたせいで、和也くんからのメッセージに気づかなかった。彼らが、全員ナイフを持っていることを僕は後に知ることになる。
人気のいなくなった場所。街頭はあるけど、明かりが足りない深い闇。その闇を見ていると吸い込まれそうだ。遠くから、彼らがやってくるのが分かった。公園に設置した防犯カメラのギリギリライン。
映っているなら大丈夫だ。
「君たち、叱られた腹いせに先生の実家を狙うなんて、卑怯だよ」
奴らの足取りがピタリと止まった。
遠くからでも分かる彼らの気配は、殺気みたいな冷たいものが流れてた。殺人衝動、みたいだな。
「叱られたからって、こんなことはいけない」
僕は話を続けた。遠くからキラリと光るものを見えた。月明かりが照らしたものは、それが鋭利な刃物だと分かった瞬間、それは近づいてきていた。
刃物を握って向かってきた。
やはり、何度言っても無理か。僕が避ける前に、和也くんが阻止してくれた。和也くんは後ろからその人物を羽交い締め。みんなお揃いのフードを被っているせいで、誰なのか分からなかったけど、和也くんだね。
「ありがと、和也くん」
「逃げろ! こいつら、全員ナイフ持ってる!」
え。
背中に鋭い痛みが走った。横腹が猛烈に痛い。恐る恐る下を覗いた。赤い血がほとばしる。足元にも赤黒い血が滴り落ちていた。
なんだこれ。
一体どうなって。
恐る恐る振り向くと、背後から別の少年がいた。目と鼻の先。ナイフが刺していた。
視界が横転した。天と地が逆だ。喉の奥から温かいものが吐き出しそう。刺された、また。くそ。人をサンドバッグに何度も刺しやがって。
横腹を刺されたのに、腹の底から自分じゃない唸り声を上げる。刺された箇所から全身に痛みがじわじわ広がっていく。自分で手首を斬ったときより、数倍痛い。
熱い。目頭も熱くなっている。
視界は涙いっぱいで、今どうなっているか分からない。ただ、和也くんが必死に止めている声が聞こえる。
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